なぜ増田康宏は中学生棋士になれなかったのか?【叡王戦24棋士 白鳥士郎 特別インタビュー vol.02】
6月23日に開幕した第4期叡王戦(主催:ドワンゴ)も予選の全日程を終え、本戦トーナメントを戦う全24名の棋士が出揃った。
類まれな能力を持つ彼らも棋士である以前にひとりの人間であることは間違いない。盤上で棋士として、盤外で人として彼らは何を想うのか?
ニコニコでは、本戦トーナメント開幕までの期間、ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』作者である白鳥士郎氏による本戦出場棋士へのインタビュー記事を掲載。
「あなたはなぜ……?」 白鳥氏は彼らに問いかけた。
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・なぜ藤井聡太はフィクションを超えたのか?【vol.01】
叡王戦24棋士 白鳥士郎 特別インタビュー
『なぜ増田康宏は中学生棋士になれなかったのか?』
増田康宏六段。20歳。
かつて彼は『史上5人目の中学生棋士』になる可能性を秘めた少年だった。
野澤亘伸さんの力作『師弟』(光文社)には、羽生善治竜王が増田を評したこんな言葉が掲載されている。
「藤井君がいなかったら、彼がその立場だったと思います」
しかし増田は中学生棋士になるチャンスを逃し、『史上5人目の中学生棋士』になったのは、藤井聡太だった。
『りゅうおうのおしごと!』の構想を固めている頃、私はずっと、増田の奨励会での成績をチェックしていた。
増田が中学生棋士になるかならないかで……史上5人目の中学生棋士が生まれるか生まれないかで、主人公の設定が変わるからだ。
結果的に増田は中学生棋士にはなれず、主人公の設定は史上『4人目』の中学生棋士となった。
当時の奨励会を見渡しても、増田の他に、中学生棋士になる可能性のある少年はしばらく現れないように思われたからだ(藤井が三段に上がったのは、1巻出版の1ヵ月後のことだった)。
こうして設定は固まったものの、私の中には大きな疑問が残った。
それは──
──今までの増田先生のインタビューというと、どれも将棋界に衝撃を与えてきたわけですよ。『矢倉は終わった』とか。
増田六段:
はい。
──でも西尾先生が、増田先生に研究会で矢倉を使われてびっくりして『終わってなかったか』とツイートしたり。あれってどういうことなんです? 局面によっては矢倉はまだ使えるということなんですか?
増田六段:
矢倉ですか? ん、まあ……そうですねぇ。あれって矢倉の出だしなんですけど、今はもう矢倉じゃなくなってるんです。
──矢倉だけど、矢倉じゃなかった……?
増田六段:
髙見さんがやるような、金が行くような感じで。
──千田先生が将棋世界の記事で解説してたようなやつとか?
増田六段:
昔の矢倉と違うじゃないですか。あれはアリだなと。
──なるほどー。増田先生、新しいご著書(『増田康宏の新・将棋観 堅さからバランスへ』マイナビ出版)を出版なさるじゃないですか。
増田六段:
はい。
──将棋ファンは、どんな本になるかもう興味津々ですよ。今度は『穴熊は死んだ』くらい言うんじゃないかって……。
増田六段:
いや、いや。まあまあ。
──それはさすがに言い過ぎですか。
増田六段:
割とでも、穴熊は終わった的な感じのことは書いたかもしれません。相居飛車とかでは。角道止める振り飛車なら、穴熊は全然アリですね。
──角を持たれた状態の振り飛車では……。
増田六段:
角持たれてたら穴熊終わってますね。
──それは増田先生が一貫しておっしゃってることですよね。
増田六段:
角が盤上にある振り飛車だと、穴熊は相当に固いですね。まだまだ難しいです。
──升田幸三先生の棋譜を並べておられて、真部先生の『升田将棋の世界』も読んでおられたと。ソフトの将棋観をいち早く取り入れていた増田先生ですが、升田将棋のどこに惹かれたんです?
増田六段:
新しい感じの将棋でしたよね。
──当時としては?
増田六段:
当時としては。そんな感じだったので、並べてましたね。
──最初に興味を持たれたきっかけは?
増田六段:
ああ……たまたま升田先生の将棋ファイルみたいなのを持ってて、それをパラパラと見てたら『面白いな』と思って、ですね。
──お好きな映画が『マネーボール』だと。それに、今年の将棋年鑑でも映画『コンカッション』が良かったと言っておられますよね。どちらもスポーツの世界が題材で、隠されていた真実に光を当てる……みたいな話だと思うんですけど。そういう部分にカタルシスを感じるのですか?
増田六段:
そうですね。マネーボールは本当に面白いです。
──あれは面白いですよね。それまでのメジャーリーグの常識を疑って、確率を見ていけば『こいつは使える』……
増田六段:
こいつは使えない、みたいな。
──見えてくるわけですよね。
増田六段:
そうなんですよ。
──それは将棋の戦法でも、そういうことがあったりするわけですか?
増田六段:
将棋界って、昔の固定観念みたいなのが多いんですよ。それは『いらないな』って感じで。マネーボールとか本当にそんな感じだったので、それは読んでて感動しましたね。
──え? 本を読まれたんですか?
増田六段:
本が面白いです。映画は……だいぶ脚色されてるんで。本のが面白いです。
──本はけっこう読まれるんですか?
増田六段:
本は読みます。それこそマネーボールとか、司馬遼太郎さんとか。電車で移動してる時とかに。
──今年に入って増田先生は、竜王戦でも本戦でかなり勝ち上がられましたし、棋王戦でも中村太地王座に勝っておられたり、タイトル保持者に勝って上に行かれることが増えてきましたよね。でもそれ以前は、失礼な言い方になってしまうんですが『ここで負けちゃうの!?』っていうところで転ぶことが多かったような……。
増田六段:
いやー……あれは…………そうですね。早指しがあんまり得意じゃなくて。
そこなんですよね。早指し棋戦で負けちゃうことが多かったですよね……。
──持ち時間3時間の新人王戦を連覇しておられるのに、同じ若手棋戦の加古川青流戦は比較して結果を残せていない。あれは持ち時間が1時間だからですか?
増田六段:
ってかあれ、決勝で稲葉聡さん(稲葉陽八段のお兄さん)に負けてからちょっと……。
──アマチュアが苦手になったとか? 加古川青流戦では、遠藤正樹さんにも……。
増田六段:
あれはそうです。あれがあってトラウマになりました。
──メンタル的な部分が作用したわけですか?
増田六段:
あとは単純に、持ち時間の短い将棋に弱かったっていうのがありました。
今年はかなりそこが改善されています。
──そうですよね。叡王戦の予選がまさに持ち時間1時間の将棋なわけで。
増田六段:
時間の使い方と、あと中終盤の力がついてきたということだと思います。
──増田先生は、ご自身の足りない部分と長けている部分を分析して、足りない部分を伸ばそうとトレーニングすることはありますか?
増田六段:
それはあります。
──早指しが苦手だったとして、なら他の棋士よりも長けている部分はどこでしょう?
増田六段:
やっぱり……中終盤じゃないですかね。
──他の棋士で、そこが強いのってどなただと思います?
増田六段:
中終盤ですか? 藤井さん(藤井聡太七段)じゃないですかね。
──増田先生は、過去のインタビューで藤井先生を自分よりも格上だと語っておられましたけど、そう認めるまでに葛藤はなかったんですか? 初めて平手で負けた年下なわけですよね?
増田六段:
朝日杯で藤井さん優勝したんですけど、その将棋が素晴らしかったんで。特に準々決勝で名人(佐藤天彦名人)に勝った将棋。あれは本当に、正直、すごいなと……素直に感動したんで。
──完封でしたよね。
増田六段:
完封でした。あの将棋を見て、正直『格上だな』と感じました。だから葛藤とかはなかったです。
──それまでは、まだ『戦える』と。
増田六段:
そうですね。あの将棋を見るまではそういう感じだったんですけど。
──追いかける対象ではない、と。
増田六段:
そうです。あの将棋を見るまでは。
──でもその後、増田先生は竜王戦で藤井先生に勝ってるわけじゃないですか。
増田六段:
いやぁ、あれは多分……藤井さんが油断したと思いますね。その6日前にAbemaTVトーナメントがあって、あれでコテンパンにやられたんですけど、あれが多分……油断を引き起こしたんじゃないかなと。
──では藤井先生も、まだメンタル面では油断などする弱さがあると……。
増田六段:
いや、ぼくに対して4連勝くらいしてたんで。『まぁ多分勝てるだろ』みたいな気持ちがあったんでしょう。
──竜王戦では『ん? 今日は何かおかしいな?』みたいな感じ、ありました?
増田六段:
確かにちょっと『あれ? おかしいな?』みたいな感じはありましたね。
増田は油断と言うが、あの将棋ではまさに藤井を『完封』していた。増田が藤井の将棋を見て『格上』と感じたように、私も増田の将棋を見て、改めてその才能に驚愕した。
棋士の中で増田の評価は昔から非常に高い。増田にも中学生棋士になるチャンスはあった。
だが、藤井は1期で三段リーグを抜け、増田は5期かかった。
三段リーグ1期目の成績は、藤井が13勝5敗。増田は12勝6敗。
わずか1勝の差だ。
三段リーグで星1つの差は天と地ほどの差があるとはいわれるが……しかし、藤井と増田の間には、少なくとも三段になった直後において、実力的には差がなかったのではないかと思える。
ここで私は、以前より抱いていた疑問を増田にぶつけてみた。
『なぜ増田康宏は中学生棋士になれなかったか?』である。
──増田先生って、年下に負けたことがなくて反則もしたことがなくて、成長スピードもすごく早かったわけじゃないですか。壁に当たったことってあるんですか?
増田六段:
三段リーグ時代じゃないですか?
──ご自身で思っておられたよりも長くかかったと?
増田六段:
いやー………………最初の4期は本当に…………かなり壁でしたね……。
──思ったよりも勝ち星が伸びなかった?
増田六段:
全部勝ち越してはいたんですけど。
──そうでしたよね。
増田六段:
でも4期目とか、最初に2勝6敗してしまって……。
──その時は、我々将棋ファンも『えっ!?』って思ってました。5連敗とかあって……。
増田六段:
そうなんですよ。その時は、かなり……三段になった頃と比べて、自分が弱くなってるんじゃないかという気がして…………かなり落ち込んでましたね。
──初めての挫折?
増田六段:
そうですね……。
──原因はどこにあったんでしょう?
増田六段:
けっこう精神的なものですね。割と。あそこらへんは本当に、メンタル面が弱くて。昇段かかった一局とかになると酷い将棋を指してたんで。精神的なものが大きかったですね。
──それは、そこまで壁にぶつからずに来たから?
増田六段:
も、あるかもしれないですね。
──立ち直るきっかけは、どういうことだったんですか?
増田六段:
それは…………いろいろですかね。5期目、プロに上がった時は、同期の子たちが三段にあがってきてて。話せる人が増えて。
──やっぱり、そこですか。増田先生が初めて三段リーグに上がった時は、一人だけ明らかに異質だったというか。
増田六段:
いやぁ1期目は本当に……すごかったですよ。
増田は、2012年の2月19日に開かれた例会で三段となった。14歳。
そして斎藤慎太郎三段や八代弥三段(共に当時18歳)と入れ替わるように三段リーグへと参戦した。
ちょうど、中学3年生に進級するのと同時に、三段リーグに入ったのだ。
中学生棋士になれるチャンスは2回。
なお、初参戦となった第51回三段リーグの開幕時平均年齢は22歳だった。
──言ってみれば、鉄火場に子供が一人だけ来てるわけですもんね。
増田六段:
そうです。特に以前は、開幕とか最終局とか、三段だけで奨励会が開かれてたんで。
──その2局は、関西も関東も三段はみんな東京の将棋会館に集められてたんですよね。
増田六段:
話せる人、いないですよ。
──関東でやってるのにアウェー。
増田六段:
そうですね。そんな感じで……。
──それは……やはりキツいものですか? 我々凡人のイメージでは、天才というのは孤独なものだと。孤独に慣れているものだと。そうじゃないんですね。
増田六段:
いやー……キツいですね。
──何かされるわけではないんですよね?
増田六段:
それはないです(笑)。ただ……独りだと、どうしても厳しいですね。あの頃、中学生だったんで。
──それで高校生になって比較的すぐに四段になれた。そこはやっぱり、仲の良い三段が現れて、話せるようになって、リラックスできるようになったから?
増田六段:
あと、あの時はニーヨン(将棋倶楽部24)をすごくやってましたね。あとウォーズ(将棋ウォーズ)とか。
──ネット将棋を取り入れた。つまり、早く指す将棋を?
増田六段:
早指しをすごくやってました。(昇段した)5期目って、途中まで4勝5敗だったんですよ。そこから9連勝したんですけど、9連勝してた時はずっと早指しやってました。
──そこがネックだったんですか? 早指しが……。
増田六段:
師匠が一番嫌う勉強法なんですよ。早指しって。だからやってなかったんですけど。でもそれをやるようになって、かなり感覚が戻ったなって感じがありました。
やってからは秒読みになっても落ち着いて指せるようになりました。やはり、慣れてるんで。それまでは、秒読みになって、上手く指せなくて……ってことは多かったです。
──それまでの勉強方法は、棋譜並べとか?
増田六段:
棋譜並べとかですね。あと、詰将棋とか。
──足りないものがあっては、壁は越えられないということでしょうか。
増田六段:
あと、三段リーグって持ち時間が短いんですよ。絶対に1分将棋になるんで。そこが強くないと上がれないなって感じでしたね。
──上がってしまってからは、めちゃめちゃ勝てたわけじゃないですか。いきなり勝率7割超えで。
増田六段:
ぶっちゃけ、楽ではありましたね。昇段のプレッシャーとか、なかったですし。
初参戦となった第51回三段リーグで、増田は12勝6敗の成績を残す。
昇級ラインが13勝5敗だったことを考えれば、あと一歩という成績だ。我々ファンも「次は順位も上がるし、こりゃ中学生棋士誕生だな!」と見ていた。
しかし中学生棋士ラストチャンスとなる次の三段リーグで増田は10勝8敗と後退。しかも途中、4連敗が含まれていた。
5連敗を喫した4度目の三段リーグですら、最終的には11勝7敗。
増田にとって三段リーグ最悪の成績が、10勝8敗。中3の後期。
やはりそれは、世間の期待の大きさがプレッシャーとして重くのしかかっていたのだろうか?
だが本人の口から語られた理由は、全く別のものだった。
──我々ファンは、無責任に『中学生棋士』を期待してしまっていたんですが……やはりそういう期待がかかっているというプレッシャーもありましたか?
増田六段:
あー……いや、どうなんですかね? あんま特別プレッシャーになったって感じでもないかもしれませんね。
上がれなかったのは……ぶっちゃけ、学校が大きかったんじゃないかと思いますね。
──なるほど。それは髙見叡王を見てても思いますね。学校を卒業したら将棋に割ける時間が増えて、いきなり強くなる人とか……。
増田六段:
いやそうじゃなくて。
──そうじゃなくて?
増田六段:
中三の時のクラスがあんまよくなかったんですよ。
──おっおお!? く、クラスの話になるんですか!?
増田六段:
クラスの話です。
ぼくがいたクラスが、あんま仲のいい人がいなかったんです。
──はぁー……。
増田六段:
で、2クラス先には。
──はあ。
増田六段:
仲いい人しかいないクラスがあるんですよ!
──ああー……それ?
増田六段:
それですね。
──じゃあ、仲のいいクラスに入ってたら……。
増田六段:
上がってたと思います。
──それは…………でも、それはあるかもしれませんね。平日は学校で話す人がいなくて、休日は三段リーグで話す人がいない……。
増田六段:
そうなんですよ。精神的な面って大きいんですよね。学校って結構、気分転換になるんで。そこでいいクラスに入れるか入れないかって、デカいですよ。
──我々ファンって、棋士が常にハイパフォーマンスかつハイテンションで戦ってると思ってるわけですよ。棋士の体調とかわかんないんで。だから負けたら『勉強不足なんだろうな』とか勝手に思って。けど、戦ってる当事者からすれば、日常的なことに影響を受けるのは当然ですよね。
増田六段:
特にぼくたちの学年は治安が良い方ではないって言われてて。で、その中で微妙なクラスで、しかも2つ先には仲いい人しかいないクラスがあって。
──あっち入ってりゃな……って毎日思いながら。
増田六段:
はー……って感じですよ。
──高校は?
増田六段:
高校は通信制でした。
中学生棋士になれなかったのは、中学のクラスが影響している──
将棋ファンにとっては驚きの結論だろう。しかし私は増田の話を聞きながら、一つの作品を思い出していた。
『3月のライオン』
将棋界を題材にした名作である。映画化・アニメ化の際には将棋連盟が全面的に協力し、プロ棋士・女流棋士にも愛読者は多い。
この作品の主人公であるプロ棋士・桐山零(史上5人目の中学生棋士という設定)は高校生ではあるものの、学校やクラスに馴染めず、その孤独が勝負に大きく影響する。
そして同時に、そんな学校で手を差し伸べてくれる人々に桐山は救われ、棋士として大きく成長していく──
増田の話を聞くうちに、私は自分が中学生だった頃のことを思い出していた。
中学生にとっては、学校とクラスは世界のほぼ全てを意味する。
仲のいい友達と同じクラスになれるかは大問題、好きな子の隣の席になれるかは死活問題である。
大人だって、職場の環境次第では本当に死んでしまうことだってある。
中学生にとって、学校やクラスでのことが、他のことにも影響しないと考えるほうが不自然だ。
だからこそ増田は、藤井の『心の強さ』を評価する。
──メンタルの強さって、他の棋士から感じる時ってありますか?
増田六段:
藤井さんは一番強いんじゃないですか?
──メンタルまで?
増田六段:
メンタルまで。いやー……なかなか、あれで動じないってのは、すごいですよ。あんだけ騒ぎになって動じないってのは。すごいですよ。
将棋の強さよりも、あの動じなさに驚きますね。
すごく騒がれてたんで……あれは普通、プレッシャーになると思いますけどね。
──今年は早指しが強くなったとのことですが、ネット将棋は最近も続けているんですか?
増田六段:
たまに、ですね。
──では、人間ではなくソフトと対戦を?
増田六段:
ソフトと指すことはないです。ソフトの将棋を見て、中終盤の感覚を取り入れようとしてます。あとは自分の将棋を振り返ることが多いです。
──なるほど。じゃあ、そのソフトの感覚を一番上手く取り入れている棋士は誰だと感じておられますか?
増田六段:
んー………………。
──豊島先生とか?
増田六段:
藤井さんじゃないですか?
──そこでも藤井先生が。
増田六段:
そうですね。藤井さんは強いですね。
──アナログっていうか、詰将棋がクローズアップされるじゃないですか。藤井先生って。
増田六段:
あれは関係ないですよ。
──じゃあ、ソフトを上手く使ってると?
増田六段:
いや。多分、将棋に関するセンスがすごくいいんですよ。だから詰将棋も解けるんですよ。詰将棋が解けるから将棋が強いんじゃなくて、感覚が良すぎるから詰将棋も解けるんですよ。解けちゃうんですよ。
──ソフトの感覚もセンスがいいから上手く取り込める。センスがいいから詰将棋も解けちゃう。
増田六段:
詰将棋、意味はないけど、解けちゃう。
──次、当たったらどうです?
増田六段:
順位戦で当たるんですよね……どうしましょうかね?
──あと、叡王戦の本戦でも当たる可能性が。
増田六段:
初戦で当たったら萎えますね、ホント……。
──そこまでですか!? 直近で勝ってるのに。
増田六段:
当たりたくはないですよ。
──でも本戦は持ち時間が3時間になりますし。挑戦者決定戦は3番勝負ですし。
増田六段:
いや3番勝負は逆に厳しいです。一発のがいいです……藤井さん、番勝負でも相当強いと思いますよ? 2局勝つのは相当難しいです。
──すぐ修正してくるってことですか?
増田六段:
んー……やっぱまぁ、普通に強いですよね。
──割と戦法は固定されてると思うんですけど。
増田六段:
固定されてますけど、使ってる作戦は本当に優秀なんで。
──そこもセンスの良さなんですか? いい戦法を見抜くセンス……。
増田六段:
それは思いますね。あんまり分が悪くなる戦法を取らないですね。
──増田先生は、将棋における努力の割合って、どれくらいだと思います?
増田六段:
努力ですか? …………4割くらいじゃないですかね?
──けっこう大きいですね。
増田六段:
そ、そうですか?
──努力しないと将棋に影響するって感じたこと、あります?
増田六段:
プロになった2年目とか、正直……ひどい将棋を指してたんで。勝率よりも、内容がひどかったです。前の年にけっこう勝てちゃったんで、気が抜けてましたね。
インタビュー中、増田は対局の時と同じように背筋をピンと伸ばし、私の質問に対して丁寧に答えてくれた。
そこに、勝ちまくっている若手の驕りはない。
増田康宏は、中学生棋士にはなれなかった。
中学生棋士になっていたら、増田の人生は変わっていたかもしれない。それを「もったいない」と感じる人もいるだろう。話を聞くまで、私もそう感じていた。
しかし中学生時代に壁にぶつかっていたからこそ、今の増田がある。
今の増田は、自分の足りないものを認識し、そこを補うために何をすればいいのかを、自分で考えることができる。
今の増田は、勝負将棋でも震えない心の強さがある。
そして何より……追いかけるべきライバルがいる。自分より若いライバルが。
今の増田は、孤独ではない。
だから今の増田康宏に、死角はない。
ニコニコニュースオリジナルでは、第4期叡王戦本戦トーナメント開幕まで、本戦出場棋士(全24名)へのインタビュー記事を毎日掲載。
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