「同人文化に寛容だからね」日本の漫画カルチャーが世界トップクラスで発展している3つの理由
漫画文化発展の理由②「二次創作に寛容な法律」
岡田:
トーレン・スミスの「著作権親告罪説」というので、アメリカでは例えばスヌーピーとか普通にあるキャラクターを描いたら、FBIがそのまま飛んでくるという。
極端なことをいえば、日本みたいに著作権者が訴えるのではなくて、市民の誰かが言った瞬間に逮捕されることはなくても、犯罪であって、いけないことだと。
なので何か描く時にはオリジナルを描かなければいけない。同人誌という文化がアメリカで根付きにくいのは、どうやってもこれが背景に。
みなもと:
二次創作だというわけでしょ。だけどそれは、とあるおとっつぁんが子供を喜ばせてあげようと思って、家の壁にディズニーキャラクターを描いて訴えられたというので、問題になった事件があったわね。
でも、あれが問題になったということと、おとっつぁんがそれを別にやったということは、それが許された時代はその前にあったはずなんだ。だからそれも、最近になってからのことであって、もっと基本的なものとは言えないと思うな、俺は。
岡田:
一応そのトーレン・スミスが言うには、だからフランスを見てみろと。パロディー法という法律がある。パロディーが国家として容認されている。だからフランスやベルギーでは、バンド・デシネというコミックが盛んである。
つまり、何かあったら、まずパロディーを描くとかコピーするということを認めた上での創作があるから、日本は豊かであってアメリカはなかなかいけないんだ。
みなもと:
だからそれも俺はイヤなんだ。
岡田:
アハハ(笑)。
みなもと:
だから許されるパロディーは描いてもいいよと言われた時点で、そんなもの描くかい! と思わなきゃいけないんです。
岡田:
アハハ(笑)。
みなもと:
だから俺が『ホモホモ7』を描いたのは、漫画の描き方の本が出て、この画にはこういう背景を描きなさいというのを読んだ時に、「バカか貴様ら」と。
岡田:
反骨魂ですね(笑)。
みなもと:
どんな画にどんな背景がこようが、2人が喋っている時に、同じタッチで会話しなきゃならない、そんなことをてめえらに言われる筋合いねえと、漫画家が自分で考えてやっているのはいいけれど、「こう描きなさい」とは。バカか!
漫画文化発展の理由③「日本だけ? 子どもにお小遣いを与える文化」
岡田:
では、3つ目ですね。このどんどん否定されているところに言うのは嫌なんですけど、「岡田斗司夫のおこづかい文化」説。
みなもと:
おお、それは知らない。
岡田:
つまりアジア圏、特に日本だけが子供にお小遣いを与える文化なんですよ。ヨーロッパとかアメリカでは、基本的に子供が自分の好きなもの、漫画とかそういうものを買う時に、親に頼んで、親が買い与える。つまり親が許可したものが、与えられるようになる。
みなもと:
戦前のお金持ちはそうだがな。
岡田:
ところが日本においては、親が子供に「お金」=「決定権」を与える。これはなぜヨーロッパの人が子供にお小遣いを与えないのかというと、お金というのはパワーであって、武器である。子供に武器を与えるバカはいないよ。
1ドルとか10ドルって、大人が使っても子供が使っても同じ価値なんだから、そんな危険なものを子供に与えるなんて、ちょっと日本人はおかしいんじゃないのかっていう発想になる。
みなもと:
だけどおばちゃんが、「これをあんた買っちゃいけないよ」とかね、そういうコミュニケーションがあるからね、日本はね。
岡田:
で、自分の仮説として思ったのが、フランスの婚姻制度で、結局事実婚が認められるようになって、フランスは年金をもらったおじいちゃんおばあちゃんが、子供にお小遣いをあげるようになった。
20年位前から実はフランスもお小遣い文化に突入すると! そして面白いことに、フランスでは日本のアニメブームが起こると。
みなもと:
面白いな。
岡田:
つまり、子供に意思決定権が与えられた国のみが、コミック漫画というのが広がるんじゃないのかと。
みなもと:
それはありうる。それはありうる。
岡田:
やったー!(笑)。さっきのみなもと先生の「そんなもん誰が背景を決めるのか」というのと同じように、俺の仮説に文句言わせねえというのが正しいのですが、なんとなく心細い……(笑)。
みなもと:
まあ戦前は親が与えていたから、漫画はお上品なものばっかりだったから、それはある程度は認める。
岡田:
はい(笑)。みなもと先生の考えでは、まず紙が安かったから。
みなもと:
はい。それは松本零士先生も仰ってます。日本は紙の文化で、漫画がここまで発達した! という言葉は聞いたことがあります。
岡田:
印刷が優秀で安かったっていうのもありますか?
みなもと:
印刷がどこまで優秀かはわからない。もちろん、浮世絵の版画のように、世界に類のない細かさがある。特に春画なんてえげつないほど細かいじゃないですか。
いわゆる大衆向けになった時に、日本のがそんなにずば抜けて良かったかというと、そんなことは決してない。それこそ駄菓子屋でも売っているようなやつ、戦前からのものも少しは買ったりしたけども、外国のに比べて、あれはない。
今のその絵本の文化が、やっぱりフランスやヨーロッパ、アメリカは大したことがないけれど、ヨーロッパ系の絵本なんかが日本語版が出ると、やっぱり印刷、色が沈むんだ。濁るんだ。
やっぱりイエナ(ドイツの地名)かどこかに行って原書を買って読まなくても、そっちの方が色がきれいなんだ。それを言うと、日本の印刷、カラー技術は世界一だとか言って威張るんだけど、それはやればできるということで、最近はもう……。
岡田:
先生、話がどんどんズレつつあります。
みなもと:
ごめんな。
岡田:
はい(笑)。つまり、日本の印刷技術が高い低いというよりは、この値段でこんなに大量に印刷できるのが、割と日本の特殊性だという。
みなもと:
だから紙が安いと言ってるんだ。
岡田:
ということは印刷も割と安い。
みなもと:
安くさせられてるわね。
岡田:
安くさせられて、割りと優秀なものを、刷らせられている。
みなもと:
そうそう、職人が偉いのがいっぱい、スゲエのがいっぱいいましたから、今はもうコンピューター時代に入ってから、そういうことがなったけど、昔はホントに勘で、バケツで絵具を混ぜ合わせて、この色をすぱっと出してみたいなことをね。
そんなのを昔見たことがあるけども、それは恐ろしい、そんな人はもういないと思う。
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