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麻雀漫画『哲也』創作秘話。浦沢直樹の助言に背中を押された新人時代を作者が語る

『哲也』が出来上がるまでの行程を公開

司会者:
 そうやってやっていく中で夢とか目標とかはあったんですか。

星野:
 そうですね……。いや、本当に面白い漫画を描ければそれで十分です。

司会者:
 そんなに欲がない感じで漫画を描き始め、高尚な志だけで。

星野:
 いや、それはお金では買えないので、一番難しいんだと思います。たぶん未だに難しいです。

司会者:
 豪邸を建てたいとか豪遊をしたいっていうのはなかったんですね。

星野:
 うーん、豪邸は建てたい(笑)。

司会者:
 (笑)。

都丸:
 いや、もう建てられたんじゃないですか? 豪邸を(笑)。お家がもう建ってるじゃないですか(笑)。

星野:
 いやいや(笑)、もうちょっとこうガーンと。

都丸:
 二軒目ですか(笑)?

星野:
 いやいや(笑)。

司会者:
 タウンみたいな。

星野:
 タウン? タウンですか(笑)?

司会者:
 なるかもしれないということですね(笑)。

星野:
 いやいや、面白い漫画が描ければそれでいいです。

司会者:
 そしてその漫画ですが、『哲也』には原作というのがあるわけですよね。どんなふうにして描いているのですか。

星野:
 はい。原作者のさいふうめいさんが書いて頂いた原作が文章で来るので、僕が漫画用にコマを割ってセリフを当てはめてそれで絵にしていくという作業ですね。

司会者:
 今、後ろに出ましたね。

文章で書かれた原作。

司会者:
 こんな感じで送られてくるわけですか。

星野:
 これは本当に僕の家にあった……。

都丸:
 当時のですよね? リアル原作ですよね。

星野:
 はい。当時の。ちょっと僕の手書きのメモ書きがしてあったり、いろんなページにもっといっぱいしてあったりしたんですけども。

司会者:
 これはまずは都丸さんのところに、さいふうめい先生から送られてくるのですか。

都丸:
 我々は星野さんとも打ち合わせもしますし、さいふうめいさんとも別にやってまして、それはそれで原作としてどういうストーリーにしましょうか。阿佐田哲也さんっていう方が書かれたベースになる本当の小説がありますので、それを漫画にどういうふうにリライトしていくのか、これをやるんですね。それで出来たものがこの原作になります。

司会者:
 ベースの小説があって、そしてさいふうめい先生の原作があっての漫画ということで、他の一般的な漫画よりもだいぶ工程がありますよね。

都丸:
 そうですね。ただ原作付きの漫画を自分は相当担当しているんですけれども、そんなに珍しいことではなくて我々としては原作の打ち合わせと漫画の星野さんとの打ち合わせと週二回打ち合わせがあるという意味では、編集サイドはちょっとバタバタするんですけれども、作り方としては非常にオーソドックスなやり方になります。

司会者:
 今、文字が絵になりましたが、この先ほどの文字をこうやって絵にしていくわけですね。

先ほどの文章を絵で描いたもの。

星野:
 そうですね。

都丸:
 この原作っていうのは、さっきちらっと漫画で出ていましたけれども、女性の記者がいて女性の記者が本当に麻雀の素人なんですよ。にもかかわらず、この麻雀の勝負の場になんにも分からずに入ってきちゃって、哲也がペースを乱されるというところなんですね。

 なのでここで「初心者だったのか」って書いてあるんですけれど、哲也が珍しく最後のところで困っちゃった顔になってるっていう。

司会者:
 「困った。気になって勝負に集中できない」っていうのが真ん中にありましたね。

都丸:
 ここね、「あなた」「え?」って言われたときの哲也の顔っていうのは珍しいですよね。表情としては。

星野:
 そうですね。かなりコメディよりに僕がしちゃったので、今見るとだいぶアレですね。ちょっと描き直したいです(笑)。

司会者:
 そんなところもあったりするんですね。本を見ながら描いたりしましたか。

星野:
 僕はそうですね。

 僕も結構やっぱりこういう手を作ってるときはこういう捨て牌になるよとか河(ホウ)って言うんですけれど、ここがこうなりがちですみたいな、本とかは見ながらやっていたりはしました。専門書はちょっとあります。

司会者:
 専門書も見ながらのこの作画というところなんですが、このあたりも編集の都丸さんとお話をされながら作っていくんでしょうか。

都丸:
 そうですね。これはあの原作の流れがあるんですけれども、それをネームにするときに絵コンテにするときに星野さんが順番を入れ替えているんですね。

 順番を入れ替えて、この哲也がいわゆる振り込みをやっちゃうんですけれど、満貫を。これ原作よりあげてるんですよね、振り込む役をね。そういう語りとか星野さんが構成を替えて、この漫画としての演出を派手にしてるという感じになっています。

星野:
 あとは順番を入れ替えた理由のひとつは、ページを読者がめくりたくなるように左ページの一番最後のコマに、めくりたくなるコマを入れてめくって右ページの一コマ目に答えがバンって出るリズムを作りたいので、そのためにちょっと順番を入れ替えてたりします。

司会者:
 今、これで見るとどちらのページにあるのかが分からないんですが、右、左。漫画①に戻りますか。

都丸:
 これあれですよね。こっちが左ですよね。漫画④が右になっていて。漫画①が左。

司会者:
 漫画①がこれが左?

星野:
 これだと「あ……」っていうのが。

司会者:
 気になりますよね。確かに。

星野:
 「あ……」って何で言っているのか、それでペラってめくると

都丸:
 漫画②になりますよね。

星野:
 (漫画②を見ながら)これでルールブックを見てたというのも分かりつつ、この子が素人だったっていうのが分かる構成にしてあります。このコマのページの最後も「あなた」って呼びかけられて「え?」で終わってるんで、次の漫画③の左ページになると思うんですけれどここに来ると。

 (漫画③を見ながら)しかもここもまた「親のリーチの」っていうとからのドンと来ると。

都丸:
 (漫画④を見ながら)「ド本命ですよ」って言われて「ロン満貫」。これをめくると、要するに哲也がありえないことをやっているんですよ。素人相手にね。そういう演出ですよね。

星野:
 はい。

司会者:
 漫画にはこういう仕掛けが隠されているんですね。だからどんどん読み進めていきたくなるんですね。そういうのも考えながらの。

星野:
 そこがネームの切るときのすごい楽しいところなので、苦労のしがいがあるというか。それでちゃんとそれが決まったときは編集さんに渡して「どうよ」って言って見せる(笑)。

都丸:
 参りましたって(笑)。

星野:
 ぐうの音が出ないようにしてやると思ってネームを出すんですけれど、たいがい違うところで怒られて。

司会者:
 何かが返ってきたりも?

星野:
 もちろんもちろん。どれだけ厳しかったか(笑)。

都丸:
 (笑)。

都丸編集者も太鼓判「これから先もずっとお仕事を途切れることなく描いていただける方」

司会者:
 そういうやり取りもする中で、やはり才能というのを見出していかれたからこそ続いていき、今もやってらっしゃるわけですよね。

都丸:
 やっぱり星野さんって吸収力がすごいんですよ。ネームの打ち合わせっていうのは我々は意見をたくさん言って、それを星野さんが取捨選択をして作り直す。

 そのうえでGOサインって感じなんですけれど、本当に僕らがいろいろ言ったことに対してのこうやればいいんだっていう方法を学ぶスピードが速くて、特にこの漫画って割とイカサマをやるシーンがあってそのイカサマを解き明かすっていうところがあるんです。

 当時僕は『金田一少年の事件簿』っていう漫画をやっていたりしたもんですから、いわゆるトリックを暴くシーンっていうリズムがありまして、それを哲也でも導入してこういうテンポでコマを割ってこういうふうにやるといいですよってお話をしたことがあるんですね。

 そうすると星野さんは分かりましたって言って、そうするとそれをもう吸収されていてもう次のイカサマ賭博師からちゃんと応用のコマ割りが出来てくるとかですね。そのへんは本当に星野さんのすごいところです。だから今もいろいろお仕事が途切れないっていうのはそういうところで、いわば何でも面白く描けちゃうんですよ。その力ですよね。

司会者:
 打てば響く。

都丸:
 そうなんですよ。

星野:
 怪しい(笑)。

司会者:
 怪しい(笑)?

都丸:
 いや、本当に(笑)。昔は厳しかったんですけどね(笑)。

星野:
 こんな褒められたことはないです(笑)。

司会者:
 編集者と漫画家さんの関係ってすごく不思議な気がするんですけれど、星野先生にとって都丸さんってどんな存在なんですか。

星野:
 いやもう命の恩人で。

都丸:
 全然思ってないでしょ(笑)。1ミリも思ってないでしょう(笑)。

星野:
 いやいや、ほんとほんと。少年漫画でデビューしてしばらくやっていたんですけれど、都丸さんが青年誌のほうに移動になって、そのときに僕も「ちょっとやらない?」って言われて、青年漫画のほうに引っ張り上げてくれたんですよね。

 それでそれがなかったら少年漫画家としてはちょっとどうだったのかなっていう思いもありますし、青年漫画のほうの世界に連れてきていただけたおかげで漫画家としてちょっとまだ描けているのかなっていうところもありますね。

司会者:
 椿山荘のパーティーが運命の出会い?

都丸:
 そうですね(笑)。もう22年前ですかね? それぐらいですよね。

星野:
 そうです、そうです。

司会者:
 では編集の都丸さんにとっての星野先生っていうのはどういう存在ですか?

星野:
 いや、ただの一漫画家。

司会者:
 (笑)。

都丸:
 (笑)。またお仕事したいですよ。

司会者:
 今までそういうのを聞いたことありますか? 

星野:
 ないですないです。絶対良いこと言うにって決まっている(笑)。

都丸:
 (笑)。まあ今はちょっと星野さんはあれなんですよね、講談社から離れられていて、小学館でお仕事が増えているのでぜひ講談社と言いつつも、やっぱり星野さんの魅力って題材を咀嚼しまして、漫画として最良の形でお描きになることが出来るという稀有な、本当に冗談抜きで稀有だなと思っています。

 なので、『江川と西本』みたいなスポーツの漫画もお描きになられていますし、ポアロの舞台を日本に置き換えた漫画もされていたりとか、僕と一緒にやったときは映画の世界を舞台にした漫画をやったんですけれども。

 本当に資料を集めてキャラクターを組み立ててお話を作れるという意味では、これから先もずっとお仕事を途切れることなく描いていただける方かなと思っています。

司会者:
 良い編集さんがいて、良い漫画家さんがいて、私達が漫画を読めるようになるわけなんですね。

星野:
 でしょう(笑)。

都丸:
 いや、それほど褒められた発言ではなかったよね(笑)。

司会者:
 いろいろとお二人が褒めあったところで(笑)。

星野:
 ちょっと気色悪い(笑)。

都丸:
 ちょっと気色悪いですよね(笑)。

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