「日本は売国奴で溢れている」対米従属と化した日本の“あるべき国防のかたち”とは【話者:宮台真司】
日本はコスタリカのような路線を歩むべき
宮台:
かくして、外交路線では独自路線を連発、アメリカを不快にさせます。コスタリカは小さい国でもシンボリックなソフトパワーがあるから尚更です。それでもうまくやれるのは、アメリカとの集団的自衛(同盟)関係とは別に、中南米の集団安全保障を背景にするからだし、映画が描いているように、何かあるたびにヨーロッパを歴訪して、国際的支持を取り付けてきたからです。集団安全保障には、体制も思想も違う国が含まれます。
日本はコスタリカのような路線を歩むべきです。なぜなら、敗戦後の日本の出発点に吉田・白洲図式があるからです。それはコスタリカと同じ軽武装・条件付き対米従属を目指してきました。条件付きとは、戦略を駆使して「基地を置きたいなら、日本を守れ」という構えを維持し、「日本を守ってくれるなら基地貸与もするし、足りないなら何でもします」という安倍晋三・日本会議的ケツ舐めにならないようにすることです。
安倍晋三のように、例えば北朝鮮問題で、アメリカが「右」と言えば、「ハイ右」、「左」と言えば「ハイ左」と、国際的に恥を晒すのは最悪です。無論、それ以前に、日本政府は制空権においても、原子力政策においても、通商政策においても、アメリカに主権を奪われています。即ち、矢部宏治の『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』が詳述している「日米地位協定&日米合同委員会」スキームですね。
僕が戦後5人目の、東京大学の社会学博士号を得たのが1989年ですが、その頃から折に触れて、自分が重武装中立論者である事実を述べてきました。短く表現すれば、「主権回復、そのための無条件的対米従属からの離脱、そのための重武装中立化ないし重武装・条件付き対米従属化(ここは幅がある)、そのための憲法改正による国益低下を防ぐためのアジア信頼醸成」という図式。30年経った今も、信念は変わりません。
ここでの重武装の意味は、対地攻撃能力を中心とする反撃能力を持つこと。つまり「やられたらやり返せるぞ」という構えを可能にする手元の(=他国を頼らない)ツールです。核武装はフルボディの戦争を意味しますが、それではない。何か仕掛けられた時に「仕掛けられた分について」仕返しできる能力です。日本の核武装は、他でもないアメリカが支配するIAEA体制が許さないのは自明すぎる話です。
僕がこうしたこと言うのは、いざという時にアメリカを頼らざるを得ないことによって、先ほど申したように諸分野における主権をアメリカに制約されるし、アメリカに見放されることを畏れて、尻尾を振ってアメリカのケツを舐めて、事実上の主権放棄に至る売国奴が溢れているからです。無論、外交の力量があれば、つまりかつての吉田・白州、あるいはコスタリカ並みの戦略性があれば、アメリカとのバーゲニングに持ち込めたのです。
繰り返すと、バーゲニングのポイントは、日本を守らなかった場合にアメリカが巨大な不利益を被るような環境を整えておくことです。冷戦体制下では自動的にそうした環境が与えられることは話しましたね。冷戦がなくなった以上、それと機能的に等価な環境を整える必要があるわけです。アジア集団安全保障体制が構築できればベストですが、それができない以上、中国カードを切れるようにする。田中角栄の戦略ですね。
ただし中国は、①立憲(=法の支配)・②人権(=政治からの自由)・③民主(=政治への自由)という概念になじまない体制ですから、中国カードに正当性を与えるためにも、中国を囲繞するアジア各国との信頼醸成が必要になります。そのような複雑な組み立てを成し遂げて初めて、集団安全保障体制と機能的に等価な環境を築き上げ、アメリカとのバーゲニングに望むことができます。複雑な分、多様なやり方があり得ます。
多様で複雑だとはいえ、方向性は単純です。
(1)無条件でアメリカに従う必要がない環境を整えた上で、(2)アメリカと仲良くやる、というコスタリカ的戦略を抽象次元でコピーするのです。幼稚園児にも分かるように言えば、アメリカが正しい事をやっていたら応援するが、正しくないことやっていたら応援しないよ、ということです。これが「場合によっては」アメリカのために武装警察(=軍)を派遣するコスタリカのやり方なのです。
本記事の続編は後日、公開いたします。
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