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なぜ丸山忠久は唐揚げではなくヒレカツを頼むのか?【叡王戦24棋士 白鳥士郎 特別インタビュー vol.03】

 6月23日に開幕した第4期叡王戦(主催:ドワンゴ)も予選の全日程を終え、本戦トーナメントを戦う全24名の棋士が出揃った。

 類まれな能力を持つ彼らも棋士である以前にひとりの人間であることは間違いない。盤上で棋士として、盤外で人として彼らは何を想うのか?

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 ニコニコでは、本戦トーナメント開幕までの期間、ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』作者である白鳥士郎氏による本戦出場棋士へのインタビュー記事を掲載。

 「あなたはなぜ……?」 白鳥氏は彼らに問いかけた。

■前のインタビュー記事
なぜ増田康宏は中学生棋士になれなかったのか?【vol.02】


叡王戦24棋士 白鳥士郎特別インタビュー

『なぜ丸山忠久は唐揚げではなくヒレカツを頼むのか?』

 2012年8月6日。第25期竜王戦決勝トーナメント。
 その日の夕食注文がネット上で発表されると……将棋ファンに衝撃が走った。

 丸山――「みろく庵」の若鶏唐揚げ定食(唐揚げ3つ増量)

 増量! そういうのがあったのか!?
 もともと大食漢として知られる丸山忠久九段ではあったが、『増量』というシステムの目新しさもあって、この注文は大きな注目を集めた。
 唐揚げ定食に入っている唐揚げは、もともと3つ。そこに3つ増量すれば、唐揚げの数は倍。このインパクトは尋常ではない。
 将棋会館でも「唐揚げ3個増量ってなに?」と騒がれたという。
 観戦記者として盤側からこの対局を見守っていた相崎修司氏に、当時の様子を尋ねた。

──唐揚げ3個増量という注文を見たとき、どう思われましたか?

相崎氏:
 6年前のことなので記憶は定かではないのですが『丸山九段ならあり得る』くらいに思っていたはずですね。前年の竜王戦七番勝負では朝食にふぐちりを注文したという話がありましたので。ただ、中継室に行って『こんな注文がありましたけど、前例ってありましたか?』と聞いたような……。

──関係者の反応はどうだったでしょう?

相崎氏:
 こちらも記憶になくて、すみません。ただその対局解説をお願いした長岡裕也五段は、驚きつつ感心していた気がします。


 ファンだけではなくプロ棋士にとっても衝撃的だったこの注文は、丸山との対局で同じものを注文した橋本崇載八段を筆頭に、棋士の食事のバリエーションを広げる革新的な一手となった。
 佐々木勇気五段(当時)が力うどんに餅を追加した「餅の重ね打ち」は、その究極といえるかもしれない。
 漫画『将棋めし』の登場などもあり、棋士の食事がメディアに大きく取り上げられるようになると、『聖地』みろく庵を巡礼する将棋ファンも丸山の注文にあやかって唐揚げを増量するようになる。
 いつしかこの若鶏唐揚げ定食(唐揚げ3つ増量)は『丸山定食』と呼ばれるようになり……現在の将棋ブームを支える、一本の大きな柱となったのだ。

 他にも丸山は冷やし中華にチャーシューを増量する『チャーシュー新手』を披露。これが後に発生する冷やし中華大ブームの発火点ともなった。
 藤井聡太四段(当時)も冷やし中華大盛りにチャーシュー2枚を追加する丸山新手を採用するなど若手にも広がりを見せる。
 本家丸山の注文はチャーシュー追加の枚数も3→5→6と試行錯誤が繰り返され、遂には佐藤康光会長までもが参戦。冷やし中華にチャーシューではなく餅を追加するという奇手を繰り出すものの、将棋と同じくあまりに独創的なその康光流に、追随者は現れなかった……。

 このように食に関する丸山の大胆な一手は、常に将棋界に衝撃を与え、数々のフォロワーを生み出してきた。

 だが2014年を最後に、丸山は己の名を冠した『丸山定食』を捨てる。
 唐揚げ(3個増量)から、ヒレカツ定食へと完全移行するのだ。
 いや、移行というよりも『戻った』と言うべきか。ヒレカツ定食となめこ汁のセットは、かつて丸山が最も愛した夕食だったのだから……。

『序盤は村山に聞け』とまで称される研究家・村山慈明七段は語る。

村山七段:
 すごい食にうるさい先輩棋士がいまして。その先輩が長年考えて、集大成はヒレカツ定食だって言ったんですね。栄養もあるし、順位戦の夜に食べるのはいいって言ったんですよ。そこに若手が3人くらいいたんですよ。そしたらその翌週の順位戦で、全員がヒレカツ定食頼んでました。
(朝日新聞社がYouTubeにアップした動画『【第74期将棋名人戦七番勝負・第5局】鈴木八段・村山七段に聞く棋界よもやま話』より)

 しかしヒレカツ→うな重→唐揚げ→ヒレカツと、丸山の注文は幾たびかの変遷を経ている。
 この変化は一体、何なのだろうか?

 なぜ今、ヒレカツなのか?
 どうしてあの時、丸山は唐揚げを増量していたのか? そして、どうしてあれだけ採用していた『丸山定食』を捨てたのか……?

 将棋界最大の謎を、本人に尋ねた。

──さっそくですが、丸山先生は昨年の叡王戦本戦で、注文していたヒレカツが届かないというアクシデントに見舞われました。あの時の心境から教えていただけますか?

丸山九段:
 うぅーん……まあ、困ったなとは思いましたけど。ははは!

──ヒレカツは非常に採用率が高いメニューですよね。それはなぜでしょう?

丸山九段:
 カツは切れないんです。

──切れない?

丸山九段:
 栄養が長持ちするんです。

──栄養がなくなってしまうと、どうなるのでしょう?

丸山九段:
 終盤で、頭が真っ白になってしまいます。そうやって負けたこともあるので……『わー! 頭真っ白ー!』って。

 受験生が頭真っ白になるのとかも、きっと朝食をしっかり取ってないからそうなるんだと思います(笑)。

──なるほど、そういう感覚ですか……しかし今回のインタビューは受験生にも有用ですね! 朝はしっかり食べないと、受験の勝負所で考えられなくなってしまうと。

丸山九段:
 ええ。

──それを予防するために、こまめにカロリーメイトを食べたりされるのですか?

丸山九段:
 ただ、カロリーメイトを食べてもすぐに効いてくれるわけじゃないので……。

──切れる前に補給する、早め早めの対処が重要なのですね。丸山先生はカロリーメイトをブロック、ドリンク、ゼリーで使い分けておられるそうですが、それぞれどういう場合に有用なのでしょうか?

丸山九段:
 ブロックタイプは長持ちします。消化に時間がかかるので、長く効いてくれます。

──切れないわけですね。ドリンクはいかがでしょう?

丸山九段:
 ドリンクは即効性がありますね。飲んだらすぐ効いてくれるので。

──なるほど! それで勝負所になると丸山先生の横にカロリーメイトの缶がズラッと並んでいる光景が出現するのですね! ブロックタイプの注文だと思ったらドリンクだったので用意がなく、将棋連盟の職員さんが慌てて買い出しに行ったというエピソードがありますが……この基準を知っていれば、今後はそういうこともなくなるでしょう。

丸山九段:
 そんなこと、あったんですか?(笑)

──新発売のゼリータイプはいかがでしょう?

丸山九段:
 ゼリーは冷やすことができますよね。だから暑いときに……。

──温度! 新しい概念ですが……今年は暑い日も続きましたし、これからすごく活躍しそうです!

丸山九段:
 ははは!

──温度といえば、丸山先生は冷えピタ定跡を編み出したことでも知られます。しかもそれを、後頭部に貼っておられた。あれはどういうお考えで、あそこに貼ったのですか?

丸山九段:
 うーん……あれは試行錯誤の結果というか。色々やってみて、あそこが一番効いたので。

──もしかして、ご自宅で研究してから投入されたのですか!?

丸山九段:
 いや、あの日の早い時間からもう、頭のいろんな場所に貼ってて……正面とかは試した後だったんです。

──なるほど! 中継されたのが終盤だったので、我々は頭の後ろに貼ってるところしか見てなかったわけですね! 丸山先生はそれまで、おでこに貼ったり横に貼ったり、様々な部位で試していたと。

丸山九段:
 いや、横にはさすがに貼ってないかと(笑)。

ふじもと ヒレカツ定食

──丸山先生のお食事の傾向を拝見していると、カツならロースよりヒレ、中華だと麻婆豆腐がお好きなようで。麻婆豆腐というのは、辛いのが好きなんですか?

丸山九段:
 そういうわけでも……そこは単に好きだったという感じです。

──お魚はサバが多いですよね? しかも魚は昼に採用率が高い。この理由は何なのですか?

丸山九段:
 夜、お肉が食べたいので。そうすると昼は魚かな、と。

──肉、肉、の連投は丸山先生をもってしても味が悪いということなんですかね?

丸山九段:
 いや、味……が悪いってわけじゃないんですけど。やっぱりもう、油が多くて……っていう場合も……。

──もたれる。

丸山九段:
 常にってわけじゃないですけど、たまにあります。

──うどんよりソバって感じなんですけど、こちらは?

丸山九段:
 どぉー……ですかね。自分で一人で食べる時は、うどんが多いんですけど。

──そうだったんですか!?

丸山九段:
 ええ。

──丸山先生語録の中に『対局中の食事は仕事と思っています』というのがあるのですが……。

丸山九段:
 そうですね。やっぱ、切れない。持続力が……保つものを選ぶようにしてます。

──なるほど……となると、その面でソバの方が優れていると?

丸山九段:
 ソバ……うーん…………それは、ちょっと研究していないというか(笑)。

──ソバ茶もよく飲まれるじゃないですか。あれはどういう……?

丸山九段:
 水だと。

──はい。

丸山九段:
 トイレに行きたいときに我慢できないんですよ。

──???

丸山九段:
 それで水以外の、お茶とかコーヒーとか、ソバ茶とか……要するに早くトイレに行きたくなるものは、早くトイレに行く分、我慢できるんですよ。

──ああー!! なるほどなるほど!!!

丸山九段:
 我慢ギリギリになる前に刺激が来るから保つんですけど、水で我慢できなくなった時は本当にヤバいんですよ! ホントにホントにピンチなんですよ!

──もう時間が無いタイミングでドカンと来てしまうから!

丸山九段:
 だからそのピンチが来ないように、終盤になったら早くトイレに行きたくなるものに切り替えるのが大事かなと思っています。

──普通、コーヒーなどは利尿作用があって避けようと思うものですが……丸山先生はその利尿作用を逆に利用しているわけですね!

丸山九段:
 早期レーダーが働くので(笑)。

──レーダー(笑)。なるほど……それは新発見ですね!

──やはり栄養素を考えて食べておられるんですか?

丸山九段:
 栄養素……これがどうだからって考えてるわけじゃなくて、まあ経験からという感じですね。

──実戦派なんですね丸山先生は。

丸山九段:
 ははははは!

──『これだけの量のプロテインを摂取しないと!』と思って食べているわけじゃないと。

丸山九段:
 試合の時は、タンパク質系のものを……長く効かせるために取っておきたいという感じですね。

──納豆がお好きというのは、やはりタンパク質が豊富だし、粘りも利きそうだしということなんでしょうか?

丸山九段:
 いや、納豆は個人的に好きというだけで……(笑)。

──師匠の佐瀬先生も納豆がお好きだったそうですね。納豆と銭湯が、佐瀬先生と丸山先生が共通してお好きなものだとうかがっておりますが……その銭湯によく丸山先生を誘ったのが豊川先生でした。豊川先生は筋トレにも丸山先生を誘って、両方とも続いたのは丸山先生だけだったと語っておられます。

丸山九段:
 筋トレは……やっぱり将棋は頭使うので、運動を何かしらやってた方が。やってないと腰が痛くなったりするんで。

──我々は丸山先生というと『筋トレ』とすぐ思ってしまうんですが、他のスポーツをやってらしたりは……?

丸山九段:
 子供の頃にスイミングスクールに行ったりとかはありましたけど、それは習い事みたいな感じで。特にこれ、というのはないですね。

──筋トレというのは淡々とやり続けないといけない『自分との戦い』というイメージがあります。そういうストイックな部分が丸山先生に合っていたんでしょうか?

丸山九段:
 筋トレは自分のペースでできますからね。疲れ時はダラダラやればいいので(笑)。

──ダラダラ(笑)。

丸山九段:
 元気な時は力込めたり。結構みんな、気合い入りすぎて続かなかったりする人が多いんですよね。『何ヶ月後に何キロ上げるぞ!』みたいに、目標がすごくて、キツくなってやめちゃう人が多いんですけど……。

 やっぱ疲れたときはダラダラで、自分のペースでやるというのが続けるコツで。そういうところが自分に合ってたんでしょうねぇ。

──成果を求めてはいけないということなんでしょうか?

丸山九段:
 うーん……自然と上がってくるっていうか。やってると、調子のいい時にグォォって上がって……自然にやってれば上がってくるんで。自分のペースを守る方が、気が楽ということですね。

──運動による効能というのは、将棋にはどんなことがありますでしょうか?

丸山九段:
 運動してないと、食べられなくなりますね。

 ウェイトトレーニングとか、やってない期間が続くと……急に食欲が落ちます。

──筋量が落ちるからですかね?

丸山九段:
 それは……わかんないですけど。やってると食べられるんですけど、やってないと食べられなくなります。

──では、対局過多になって忙しい場合、食が細くなってると『おやおや丸山先生、これは筋トレ不足だな』という推測が成り立つわけですね。

丸山九段:
 まあまあ、違う場合もあるかもしれませんけどね。おやつの食べ過ぎとか(笑)。

──ははははは!

丸山九段:
 こっそり別の部屋でおやつ食べてたんだな、とか(爆笑)。

──丸山先生といえば、食事に関する数々の新定跡を編み出され、それに若手が追随するという状況が続いています。

丸山九段:
 いやぁ、それは(笑)。

──丸山先生が編み出された定跡を他の棋士が採用しているのをご覧になった時、どんなことを思われますか?

丸山九段:
 それは特にアレなんですけど(笑)。

 ……ただ、おやつとか栄養素とか、そういうのを意識する若手が増えたなってのは思います。

 何も持って来ない人が、若手の中では少なくなってきた印象ですね。昔はあまり、そういう(栄養補給という)理由で持って来る人はいなかったので……。

──そこは、丸山先生が切り開いたということで。

丸山九段:
 切り開いたわけじゃないですけど(笑)。

 でも……栄養切れで勝てることは少なくなったかなと。ははははは!

──あはははは! じゃあ、持って来てない人を見たら『よーし今日は長引かせてやるぞ』と(笑)。

丸山九段:
 長引かせるわけじゃないですけど(笑)。

 ただ……(観戦記や中継で)『ここで○○はこの変化を見落としていた』とかもっともらしいことが書いてあるんですけど、私は『まぁこの時間帯だったら多分、栄養が切れてるんだろうな』と思ったことは何度かありますね。

──なぁるほど! 丸山先生だけが持っていた勝負術があったんですね!?

丸山九段:
 持ってたわけじゃないんですけど(笑)。

──『切れてるだろこいつ』と。『ガス欠だな?』みたいな。

丸山九段:
 後で振り返ってみて、相手に突然ミスが出たところでは……そういうのもあっただろうなと。

 でもそれを狙って長引かせたとか、そういうのはないです(笑)。

──ちょっと話は違うかもしれないんですけど、観戦記者の大川慎太郎さんの記事で『月』の話があったじゃないですか。描こうと思ってなかった月の話をされても……みたいな。

丸山九段:
 はい。

──観戦記などに対して、思われることはありますか? 対局の後で、対局者以外から聞いた読み筋で話を進められたり、それこそ今ならコンピューターが弾き出した読み筋が正解とされたりすることに対して……。

丸山九段:
 うーん……思うところ、っていうか。観戦記とかで、まあ、自分じゃない人の読み筋とかで…………対局者とその読み筋がクロスしてればいいんですけど、全然クロスしてないのは、別に研究発表会じゃないんで。それは違うんじゃないかなと思うことはありますね。

 『この局面の最善手を求めよ』みたいなものだったらいいんですけど。対局についての記事なら、対局者の読み筋とか、考え方とかがあって。対局者の全く思いもよらないような構想とか読み筋とかがあることを書いても、しょうがないんじゃないかなと。まるでそれは別の試合のもので……。

──なるほど。なるほど。

丸山九段:
 『誰かがこう言ってました。どうですか?』『ああ、私もそれは思ってたんです』みたいに繋がるならわかるんですけど、根本から違っているのは、観戦記じゃなくて研究発表会だと……そういうふうに思ってしまうんですけどね。

──叡王戦だと、対局者の上にソフトの評価値が表示されて、ソフトの読み筋を見ながら解説が行われたりします。それについてはどうお考えでしょうか?

丸山九段:
 あれはでも、見てる方にとってわかりやすくていいんじゃないですかね?

 やっぱり将棋は、見てる方にとってわかりづらいというのが、最大のネックじゃないですか。わからないというのが。

 ボクシングでも野球でも、いいパンチや好プレーというのは何となくわかるんですけど、将棋だと全くわからない。

 それが評価値で出てきて、いい手かどうかわかるというのは、見ている方にとっては、いいことだと思いますけどねぇ。

──コンピューターと、いい形での付き合い方がある。それを突き詰めて行けばいいと。

丸山九段:
 そうですね。見ている人にとって非常にわかりやすくなったというのが、すごくいいことだったと思います。

──タイトル戦などでは、その土地のおやつなどが提供されます。丸山先生は、1日目に食べたものを2日目にさらに増量されるようなイメージがあるのですが……あれは美味しかったからですか?

丸山九段:
 美味しかったというのもありますし、栄養の保ち方とかを見て『ああ、これなら保つな』というのもありますね。

──二日制の対局で、2日目に丸山先生のところに前日のおやつが10個くらいドーンと積んであると我々ファンは興奮するんですが、あれはやはり、ちょっと1日目の量だと足りないということなんですね?

丸山九段:
 そうですね。ちょっと……これは途中で栄養切れるな、という時もありますね。

──先生は、朝昼晩だとどこを重視しておられるんですか?

丸山九段:
 やはり、わりと終盤の方の……夜、ですね。

──叡王戦の番勝負となると、たとえば5時間の対局だと夜は軽食となってしまいます。そういうのはいかがですか? どう対処を……。

丸山九段:
 うーん……軽食だと、やっぱり…………痩せてる人が有利だなぁと。ははははは!

──ははははは!

丸山九段:
 いや、私はけっこう食事とかの制度を見て『これはこういう体型の人が有利だな』と思ったりするんで。

──思うんですか!?

丸山九段:
 思いますねぇ。

──そこは深く掘っておうかがいしたいです!

丸山九段:
 やっぱり、食事なしとかだと痩せてる人が有利だと思いますね。

──では、叡王戦の予選のように1日2局・持ち時間1時間だと、これは痩せてる人が有利ということでしょうか?

丸山九段:
 1時間だと関係無いんじゃないですかね? 食べなくてもいいわけで。もう少し長くなって、食事がないというのだと……。

──筋肉が付いてる人が不利?

丸山九段:
 いや、そこまでは(笑)。

──とはいえ、動かなくても消費するカロリーというのはあるわけで、それは人それぞれなわけですからね。では丸山先生に合っている棋戦というと、やはり持ち時間が長い上にガッツリ休憩もある竜王戦や順位戦などが……。

丸山九段:
 もしくは、全く休憩が絡まないもので、栄養不足にならないくらい短い棋戦が……。

──NHK杯とかですかね?

丸山九段:
 短いのは、それはそれで大変ですけど。

──タイトル戦をお寺とかでやると『精進料理しか出ません』みたいなのもあるじゃないですか。あれはやはり『困ったな』となるんですか?

丸山九段:
 いや、精進料理は……多分、量的には食べられないほど出たんです。普通の人だと逆に『食べらんない!』みたいなのがあるくらい、出していただいたんで……。

──弁当固定のところはどうです? 二人前にしたりして調節するんですか?

丸山九段:
 いや……まあ自分が『これで大丈夫』と思える内容なら、大丈夫だと思います。

──ハンバーグ追加とかありましたよね?

丸山九段:
 ありましたねぇ。

──記者さんが頼んでいたのがちょうどあったので、それを融通して……。

丸山九段:
 いやぁ、あれは知らなくて。ハンバーグ追加と言ったら……こう、その、新しいのを焼いていただいて、それが来るのかと思っていて。いやいやそんな、人のものをもらおうとか、そんなことは(笑)。

──もう一枚、焼いてもらって。

丸山九段:
 焼いてもらうというか、たくさん用意してあるものだと勝手に思っていて(笑)。

──丸山先生は『追加』という形で量を調節していらっしゃる印象ですが、サイズを変えるというのは考えたりされないのですか?『大きくしてくれ!』みたいな。

丸山九段:
 大きく……でも九州でラーメンが大きくてビックリしたことはありましたね。チャーシューとか、でっかいのがいっぱいで……。

──テンションが上がる感じですか?

丸山九段:
 いやいやいやいや(笑)。

──食べたいものを注文しているというよりも、やっぱり仕事だからと割り切って注文しておられるんですか?

丸山九段:
 一番食べたいものが野菜の時もあるわけですよ。

──ああー……。

丸山九段:
 対局の時に『じゃあ野菜炒めだけ!』とかだと、さすがに伸びちゃうんで……普段は自分の身体に聞いて、食べたいものを食べますけど、対局の時はそうはいかないですよね。

──なるほど。

丸山九段:
 まあ、野菜炒めを追加するかもしれませんけど。ははははは!

──あははははは!

──タイトル戦だと、やはり初めての場所が多いと思います。そういう場所で注文すると……たとえば、おやつが想像していたものと違うのが出てきたりしませんか?

丸山九段:
 ありますね。でも、おやつならそんなに影響はないかなと。

 食事だと影響はあります。思ったよりも少なかった時とか。

──そういう時はどうするんですか?

丸山九段:
 追加ですね。

──あ、なら食事の後に、対局中に何か持って来てもらって……。

丸山九段:
 いや、私ってけっこう食べるのが早いんで。だからもう休憩中にパッとお願いして。

──あ! 休憩中にもう?

丸山九段:
 ちょっと食べてみて『少ないな』と思ったら。ふふ。

──(ニコ生将棋スタッフを見て)これは対応が求められますねぇ。

ニコ生将棋スタッフ:
 知恵を絞ります。

──竜王戦でパイナップルのおやつ……『パイパイナッポーアッポーパイ』でしたか? あれは警戒なさいませんでしたか?

丸山九段:
 いや……特に深い考えはなく注文しました。

──そういうものにも、恐れずに行かれると?

丸山九段:
 恐れるっていうか……何も考えてないんです(笑)。

──何か、選ばれる上での基準というのはあるのですか?

丸山九段:
 うーん……おやつの重要度は、食事に比べると低いですね。

──やはり食事。ちょっとメニュー表を……。

丸山九段:
 あるんですか(笑)。

──(食事注文用のメニュー表を見ながら)天ぷら系とか、いかがです?

丸山九段:
 天ぷら……は、むしろ即効性ですね。私の経験だと。

──持続力ではないと。

丸山九段:
 こう、できるだけ消化に時間がかかるような……お腹の中でグツグツとやるようなものが、切れないんです。

──うなぎはいかがです? 一時期は連採しておられましたが。

丸山九段:
 うなぎもけっこう効いたんですけど……ヒレカツと比べると、負けるかなと。

──それでヒレカツ定跡が生まれたわけですか。

丸山九段:
 ヒレカツの方が、やっぱ1~2時間は長く保つ感じですね。

──カツ丼とかには行かなかったですか?

丸山九段:
 油が少ない方が、持続力があるかなと思いまして。

──なるほど。肉の質にも違いがあると。

丸山九段:
 栄養学的には間違っているかもしれませんよ? ただ、私の経験として……。

──それをおうかがいしたいんです!!! 机上の理論ではなく、勝負の世界でどういう経験が生まれてきたのかを…………イカとかはどうです?

丸山九段:
 イカも食べたときありますね。でも昼ですね。夜だとちょっと心細い。

──そして辿り着いたところが、ヒレカツだった。

丸山九段:
 そうですね。良質のタンパク質に……。

──丸山定跡だと、唐揚げ増量が我々ファンの中で最も衝撃的でした。唐揚げはどうなんですか?

丸山九段:
 唐揚げもいいんですけど……。

──はい。

丸山九段:
 けっこう、ムラがあるんですよね。

──えっ!? 唐揚げにムラがあるんですか?

丸山九段:
 唐揚げの、こう、お肉たっぷりの時と……。

──あっ!!!

丸山九段:
 皮と骨が多いなぁ、みたいな。

 そこまで極端ではなくとも、とにかくムラが出るんですよ。ヒレカツはムラがないんですよ。

──ああー……なるほどなるほど!

丸山九段:
 ヒレカツで『今日はこんな油たっぷりだったよー』みたいなこと、ないでしょ? ははは(笑)。

──ないですないです!

丸山九段:
 ヒレカツだと『今日は骨が多かったよー』なんてことは……。

──ないです!

丸山九段:
 骨が太かったり皮ばかりだったり、とにかく唐揚げは素材にムラが出てしまうんです。

──それに比べて、そもそもヒレカツは均等になるように肉をカットしているでしょうし、肉質的にも脂肪分がカットされている部分ですものね。そうかー! そうですよ! そうだったのか!!!

丸山九段:
 はい。

──いやぁ、科学的ですねぇ! 

丸山九段:
 いやいや(笑)。

──では先生が今、新たに試してみようと考えておられる新メニューなんかはありますか? あ、軍事機密だったらアレですけど……。(メニューを見てもらいつつ)

丸山九段:
 うーん…………ヒレカツを超えられたものは、ないですね。

──ヒレカツ、最上。

丸山九段:
 長年の経験上、これを超えたものはない、という。

──持ち時間3時間の叡王戦本戦にも、ヒレカツがベストだろうと?

丸山九段:
 どうなんですかねぇ? 3時間だと、もしかしたら眠くなっちゃうかもしれませんけど。

 眠くなった時にちょうど終盤が来ちゃうかもしれなくて……それは、やってみないとちょっとわからないところではあります。

──やはり重さがあると、眠くなってしまうというリスクもあるわけですね。

丸山九段:
 20~30分、眠くなるということが……叡王戦は休憩、何分でしたっけ?

ニコ生将棋スタッフ:
 本戦は40分ですね。

丸山九段:
 休憩時間が短いほうが、眠くなることは多いですよね。

──先生はやはり、早く食べて、少し休んでと……。

丸山九段:
 そうですね。少し寝ることができれば、という感じですが。

──そこのバランスもあるんですね。戦っている時に『あ、この人ちょっと眠くなってるな』と思うこととかはあるんですか?

丸山九段:
 それは相手が思ってるんじゃないですかね(笑)。

──あはははは!

丸山九段:
 食べ過ぎて眠くなってるだろ、とか! はははははははは!(爆笑)。

──でも我々は、そうやってガッツリ食べた丸山先生がどんな将棋を見せてくれるかワクワクしてるんですよ! 冷やし中華に追加するチャーシューの枚数なども、試行錯誤の末に編み出されたのでしょうか?

丸山九段:
 やっぱり『これじゃ足りないかな』と思って。あとはでも『これ以上あると厳しいな』というラインもあります。お腹が厳しいんじゃなくて、脂肪が厳しい(笑)。

──ギトギトしてきて(笑)。

丸山九段:
 そうですね。そのへんはバランスですね。

──やはりバランスなのですね。

──今までのお話をまとめますと……夕食は、なるべく持続力のあるものを選ぶ。メニューにない場合は、カロリーメイトなど補助食品で補う。カロリーメイトも使い分けていて、ブロックタイプは持続力、ドリンクは即効性、ゼリーは温度調節も可能と。

丸山九段:
 ただ……ゼリーは、タンパク質も多いんですよね。

──ほう!?

丸山九段:
 現物があるとよくわかるんですけど(笑)。

 確か、タンパク質が10グラム近く入っている【※】と思うんです。あの全体量でそれは、プロテイン並ですよね。

※タンパク質が10グラム近く入っている
調べたところ、カロリーメイトゼリータイプには215グラム中8.2グラムのタンパク質が含まれていた。
これは他のゼリータイプ食品の、プロテインを売りにしているものよりも多い。
普通ならば見逃してしまうような成分表示もしっかりと確認する。その探求力が、丸山の研究を支えているのである。

──ということは、腹持ちも……。

丸山九段:
 いいんじゃないですかね。

──ではゼリーの登場により、新たな丸山定跡が……。

丸山九段:
 それはまだ、わからないですけど(笑)。

──カロリーメイトのCMにご出演なさって、周囲の反応はいかがでしたか?

丸山九段:
 やっぱり多くの方にご覧頂いて、いろいろ言っていただくことが増えましたね。

──ではこのあたりで、将棋のことも……。

丸山九段:
 はい。

──丸山先生は角換わりのスペシャリストでいらっしゃいます。一方、羽生先生のようにたくさんの戦法を指しこなされる棋士の方もいらっしゃるわけで……その違いは、どういったところから生まれるのでしょうか?

丸山九段:
 私の場合は、角換わりが好きだったので。

──角換わりのどういったところがお好きだったのでしょう?

丸山九段:
 角換わりは、わりと自分の手持ちのカードが見えづらかったんですよ。

 見えづら『かった』、というのは、AIが登場する以前ということなんですが。

 要するに、自分の研究していることや、自分の狙ってる手が、非常にわかりづらい戦型だったので。

 『これはここで出そう』『これはあそこで出そう』とか、そういうふうにカードを切れるのは、いいかなと思っていたんですけど。

──なるほど……。

丸山九段:
 今は(ソフトで検討すれば)見られちゃいますからね(笑)。

──ただ、AIの登場によって角換わりが大流行しています。藤井聡太先生も矢倉党から角換わり党になられたりと……そのあたりはどう捉えておられますか?

丸山九段:
 角換わりは、やっぱり見えづらかったんです。研究しづらい戦型だったんですよ。それが……すごく見えるようになったので。それでみんな猛烈に研究して、という感じじゃないですかね。

──では、丸山先生の研究が丸裸に……。

丸山九段:
 研究がっていうより、もうぜんぶ見られちゃってるようなものです(笑)。

 まあ、だから昔とは違っている状況ですね。

──一手損角換わりなどはいかがでしょう? 厳しい状況と言われていますが……。

丸山九段:
 一手損角換わりは……まあ、ちょっとずつ変化させながらやってますけどね。

 コンピューターで勉強してきたとしても、一手違えば、違うわけじゃないですか。こちらが一手、相手の研究からズラしてやれば、わからない局面になるので。

 まあ家に帰って調べれば、わかっちゃうんでしょうけど(笑)。

 でもその場ではわからない。一手、ズラしたことで、相手の研究が使えなくなることはあると思うので。

──わかるものですか? 相手がどのあたりまで研究してきているかは?

丸山九段:
 どのあたりっていうか……若手はぜんぶ研究してきてるので。ははははは!

──はははははは!

──丸山先生は名人を取られた頃のインタビューで、

『世の中、才能とか努力が大事だと思っている人は多いと思いますが、それは人間が持っている多くの力の中のごく一部だと思います。そういうものにこだわらないで、自分自身が本来持っている性質を伸ばして行くことが大切なのではないかと思います。そして、自分自身を信じるということはすごく大事なことだと思います』

 ……と語っておられました。

丸山九段:
 はい。

──私なんかだと、『自分自身が本来持っている性質』というのは、それがつまり才能なのかな、と思ってしまうのですが、その二つはどう違うのでしょう?

丸山九段:
 ……才能、だと、能力というのですかね。

 ライオンだったら(ライオンが爪で引っ掻くポーズを取りながら)爪とか、噛みつきとか。ちょっと表現は悪いかもしれませんけど、それが才能。

 でも『性質』だと、それに性格も加味される。ライオンでも『オレは噛みつくのイヤだよー!』みたいなのもいるかもしれないじゃないですか(笑)。

──なるほど! いるかもしれないですね。心優しいライオン(笑)。

丸山九段:
 それだったら、狩りに行けとか言われても、イヤなわけじゃないですか。そういう、本来の自分が持っている……自然にできることが大切なんじゃないですかね。

 能力があっても、性質に合っていなかったら、無理が出てきてしまう。だからそういう、無理なくできる部分が大事なんじゃないかな、と。

──勝負の世界、特に将棋だとルールが厳格に定まっていますよね? そういった世界で自分の性質を伸ばしていくというのは、非常に難しいことではないですか?

丸山九段:
 そうですね。相手もあったり、それは難しいところもあると思いますね。

──その中で、丸山先生が伸ばしていこうと思っておられるところとは、どういう部分なんですかね?

丸山九段:
 伸ばしていこうというか……角換わりは好きなので、不利になってもやってますね(笑)。

 不利だからと、戦型を変えるという道もありますけど。あんまり好きじゃない戦型やっても、それを伸ばすのって大変ですし(笑)。

──逆に、丸山先生は将棋における才能とか努力ってどんなものだと思われますか?

丸山九段:
 才能だと、局面の認知の早さとかでしょうか。渡辺明棋王は、子供の頃から桁外れに早かったです。そういうものを感じましたね。

 渡辺さんがすごく若い頃だったですけど……他のプロも早いんですが、やはり桁外れに早いなというのを感じました。私は。

──渡辺棋王と数々の名勝負を繰り広げてこられた丸山先生のお言葉には、説得力がありますね。努力のほうはいかがでしょう?

丸山九段:
 菅井竜也さんとか、永瀬拓也さんとか。1日にどれだけ将棋を指すんだ、と思いますね。すごく将棋の勉強をしていると思います。努力、すごいなと思いますね。

──勉強を続けることが、努力でしょうか?

丸山九段:
 勉強量とか。やってるうちに質とかもブレイクするというか、上がってくるんで。長時間の勉強を長い間続けるというのも、すごいことだと思いますね。

──丸山先生は、羽生世代の先生方の中では奨励会に入られるのが少し遅かった印象があります。ただ、そこから名人になられた。ご自身に才能があるとは思われませんか?

丸山九段:
 才能……とかは、感じたことはないですね。

 ただ、一番伸びる時期にたくさん勉強をしたというのはあります。タイミングがよかったかな、と。

 勉強すれば勉強するだけ効果が上がるときに勉強したというのが。若い頃にブヮァァァ! って勉強すると、それだけすごく効果が上がりますからね。

──では、今はどのようなことを意識して勉強しておられますか?

丸山九段:
 今は逆に、勉強量じゃ補えないところを何とかしていかなきゃいけないなって。

 年を重ねると、勉強したら強くなるっていうわけでもなくなりますから。新しいことを憶えたら、そのぶんだけ古いことを忘れちゃったり。そこは若い人のようにはいかないっていうのはあるんで。その部分をどうするか、という感じですね。

──やはりそこは、経験などを活かす感じでしょうか?

丸山九段:
 ある程度の年数までは、経験が通用するんです。でも自分の経験がまるで通用しないくらい様変わりしちゃうと……。

 そうやってだんだん経験が活きなくなって、若い人に追随するようになってくると……大変になってくるんだろうなと思うんですけど。

──現在はやはり、大変革期……。

丸山九段:
 ですね。そのあたりどう対応していくかが、課題というか。

──食事の面でも、意識高いやつらが出てきて……。

丸山九段:
 はははははは! まあまあ、そうですね。結果的には(笑)。

──おやつ持って来てやがるな、と(笑)。

丸山九段:
 そういう若い人が増えましたね。

──研究の面では、羽生先生のおっしゃる『高速道路理論』というのがありました。

丸山九段:
 昔だったら、苦労して苦労して、積み上げてきたものが……今はもう、標準装備なわけです。そこがスタートなので。

──昨年の叡王戦で、髙見先生は丸山先生に勝って『パァァって視界が開けた』と仰っておられました。丸山先生は今回の叡王戦で、髙見先生にリベンジしたいとか、どの先生と当たりたいとかは、ございますか?

丸山九段:
 いやぁ、そういうのは……目の前の対局に集中するだけですね。あまり先のことは考えないタイプなので。

──丸山先生は、最近新たに出てきた食材とかで、面白いなと思ったものとかはありますか? 食べ物自体が昔とは変わってきているわけじゃないですか。そういったもので、対局に活かせそうなものとかは……。

丸山九段:
 うーん…………………………パッとは思いつかないですねぇ。

──ではこれまで培った経験で戦うということでしょうか。我々ファンは丸山先生がヒレカツを頼んでおられるのを見たら『おっ! 先生これは本気だな!』と。

丸山九段:
 ははははは! いや、いや。本気だとか本気じゃないとか、そういうわけではないんですけど(笑)。

──そうだ。カレーとかってどうですか? 森内俊之先生は『カレーはどこで食べても美味しいから安心して頼める』という理由で、勝負所でカレーを投入されますが。

丸山九段:
 カレーは…………私、好きなんですよぉ。

──カレー、お好きなんですね。

丸山九段:
 研究会とかで『昨日もカレーだったんで』って言う人、いるんですけど…………私なら昨日がカレーでも一昨日がカレーでも、別に……ははは!

──昨日食べたから、それがどうした! と(笑)。

丸山九段:
 一ヵ月くらいなら、それもわかるんですけど。一週間なら別に(笑)。

──ただ、対局ではそこまで採用率がいいわけでもありませんが……。

丸山九段:
 やはり栄養のことを考えてしまうと。ただ、カレーって食欲がなくても美味しく食べられるじゃないですか。『カレーが食べたくないよ』という状態になったら、それは相当、具合が悪いというか。

──本当にカレーがお好きなんですね。一番好きくらいですか?

丸山九段:
 一番かは……ただ、1日3食カレーでも構わないです。ははははは!

──森内先生ばかりがカレーをクローズアップされますが、丸山先生も負けてませんね! お好きなカレーの種類とか、あるんですか?

丸山九段:
 カレーであれば何でも。

──いやこれはまた、懐の深いところを見せられてしまいましたね……。

 でも本当に、受験生の人たちには……朝を抜かないで頑張ってもらいたいです。

──そうですね! 叡王戦本戦も15時からの対局になりますが、朝食がまず大切だと。

丸山九段:
 朝はそうですね!

──朝から戦いは始まってるんだと! ……そうだ、冷たいものと温かいものだったら、どっちが勝負に適してますか?

丸山九段:
 そこはあんまり関係がないとは思いますけど……冷たいものって、比較的、軽いものが多いんです。メニューを見るとわかるんですけど。

──ああ! 確かにそうですね。天ぷらくらいしか組み合わせられませんしね。

丸山九段:
 昔は天ざるにもう一品とか頼んだこともありましたけど。

──丸山先生って、食べ物を残すことってあるんですか?

丸山九段:
 ほとんどないですけど……棋士になってから、1回か2回くらいありましたねぇ……。

──約30年間で1回か2回というのは、少ないですね。

丸山九段:
 本当に体調が悪いときですよ。40度くらい熱があって……もう無理だ、と……。

──普通は食べることすら諦めますよ!!!! でも食べるんですね。仕事だから。

丸山九段:
 そう……ですね。でも私、38度くらいなら普通に食べられるんですよ。

──普通に! 戦えもしますか?

丸山九段:
 まあ『ヒレカツがちょっと美味しくないな』くらいは思っちゃうかもしれないですけど(笑)。

──では丸山先生が食事を残したときは、もう相当に体調が悪いという分析が成り立つわけですね。『こりゃ40度くらいあるんじゃねえかな?』と。

丸山九段:
 その前に食べ過ぎてた可能性もありますけど(爆笑)。

──ははははははははは!!!!!

 

 いかがだっただろうか?
 これまで丸山に対して『ミステリアス』『あまり喋らない』というイメージを抱いていた将棋ファンも多かったと思う。私もその一人だった。
 しかし今回、直接その人柄に接してみると……本当に優しくて、よく笑い、何よりファンに将棋をもっともっと楽しんでもらいたいというサービス精神に溢れた人物だということがわかった。
 今後はぜひ、形勢判断の要素に食事を加えてみていただきたい。
 将棋観戦がさらに楽しく、豊かになるはずだから。


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