なぜ『シン・ゴジラ』は女子たちをヒートアップさせたのか? 「内閣の周辺、顔面偏差値が高すぎ!」胸キュンポイントを赤裸々トーク
矢口蘭堂がいる「内閣官房」ってこういうところ
金田:
そして、私たちが気になっている内閣官房。これ、内閣法に基づいて内閣に設置されています。矢口蘭堂がいる内閣官房、これは総理大臣を直接サポートするための組織。そして、すべての省庁よりも上に位置しております。ここに数百名いる人たちはほとんどが各省庁から出向してきた人たちです。だから各省庁とのレクができるわけですよね。
両角:
皆さん専門知識を持っているんですよね?
金田:
そう、専門知識を持っているし、その人たちが省庁のことを教えてくれるし、省庁に戻って連絡をとってくれる、っていうわけ。そして作品中にもありましたけど、内閣官房の一部は総理官邸におかれています。
はい、そしてこれ、「内閣官房長官は、総理の女房役と呼ばれ、総理がどの国務大臣よりも先に任命」します。まぁ、懐刀っていうのかな。
で、内閣官房副長官は3名。これはどこの3名かということは決まっていて、衆議院参議院から各1名、これが政務担当、もう一人は事務方、キャリア官僚、これは事務次官経験者。
さらに、総理大臣、国務大臣や内閣官房トップあたりは「認証職」が多くて、これは特別な職です。どう特別なのかっていうと、天皇の任命が必要なんですね。だから、矢口を副長官にするって決めた後、天皇が書面でそれを「ファイナルフュージョン承認!」っていうのをする名誉な職なんですよ(笑)。
内閣官房副長官の待遇は副大臣と同等。若手政治家の登竜門ポストで、この後要職を歴任することが多いんですね。だから「矢口、全然はぐれ者じゃねえじゃん!」って思うわけですよ。
で、内閣総理大臣補佐官。これも内閣官房内におかれてて定員は5名以内。この人達の中で、国家安全保障に関する重要政策の担当者が指定されています。これが赤坂さんですね。エリートです、はい。
内閣官房と内閣府は違う
金田:
ちなみに、内閣府って言葉も今回作品中にもよく出てくるんだけど、「内閣府」と「内閣官房」ってかなり違ったもので、「内閣府」は内閣設置法に基づいて内閣に設置されるんだけど、やや小さい案件を担当するんですね。各省庁の連絡調整とかいろいろやるんですけど、他の省庁が担当してないニッチな部分をやるところなんですよ。で、さらに特命担当大臣っていうのが毎回、組閣の目玉として出てきたりするんですね、少子化担当とか、そういう元々は設置されてない大臣が内閣府の中に置かれるんですね。だから、内閣官房と内閣府っていうのは別ものなんです。
両角:
なんでもやる課みたいな。
金田:
そうそう。で、今回はみんなの好きな重要人物を分けてみました。
作品中に出てくる政党ってどの党?
金田:
今回はみんな一緒に働いてるんで、同じ立場の人たちに見えるんですが、国会議員のほうが制約が多いはず。この作品内では、上の人が5人くらい死んじゃった程度のことで、わりと若手が生き生きといろんなことができるようになってますよね。でも私は「なんか人材少なっ!」みたいな感じがしています。保守第一党という記述で「あ、あの党だな」ていうのが分かるんだけども、「あの党にしては人材薄くない?」みたいな気持ちにしかならないんですよね。私はちょっとそこが不満点なんです。
たとえば日本のとある大政党だと、総理経験者の人ってずーっと権力持ち続けているわけですよ。たとえば「オリンピックのことだったらMさんに聞かないとなんともできないよ~」みたいな状況があるはずなんです。そういう人たちが超いっぱいいるはずなんですよね。なのにその影がまったく見えないなって。だから、もしかしてあの党ではないんじゃないかっていう気もしてますね。ま、それによって公務員っぽさが出るっていう面もあるんだけれどもね。
両角:
ま、そのあたりは他を描くために抜いたのかもしれませんね。
金田:
そうそうそう、めんどくさいしっていうことなんでしょうけれどもね。なんか、党内調整とかしないんだよな。まぁ、描きはじめたら2時間じゃ足りないし、それを描きたかったわけじゃないだろうしね。ただ私はこれ、もしも、書きたくてもかけなかったからではなく、物語内整合的に世界観を考えた場合には、ここでモデルとなっているのは、今の例の党ではないなって思うわけです。
両角:
3.11の時の与党ではないかって声もありますね。
金田:
あ、それだったらまだ分かりますね。
西森:
キャラクターからしても、今のあの党にいる人たちとは性格的に違う感じですよね。
金田:
合議で議決するみたいなイメージ、今のあの党って感じではないかなぁ。
両角:
あの描き方だといろいろ想像しやすい感じには作られてる感じではありますよね。
ひらりさ:
矢口蘭堂に関しては、苗字が「小泉」のあの二世議員ではないかっていう声もけっこうあります。
金田:
矢口さんは、はぐれ者とか言ってますけど、超エリートコースを歩んでいるため、赤坂さんが「出世するためには何でも使っていく、そんなところが俺は好きなんだ」みたいなことが言ってましたね。そういうところは確かにあるかもしれないですね。
西森:
本人の演技だとそういう人には感じられないんだけど、他の人が矢口について語る場面で「あ、矢口ってそんなところがある人なんだ」って思いました。
両角:
成りあがってきた人かと思ったら二世だったっていう、そういう人物造形も面白いですよね。
彼女がフィクションっぽいのはなぜ?
ひらりさ:
この映画って「人間が描けていない」みたいな批判もよく聞きますけど、そういえば、自分の事情がからんで何かを犠牲にしている人って、カヨコ・アン・パタースンしかいないんですよね。だから、わたしはむしろ、彼女だけフィクションぽく見えてしまうのかなって思いました。
金田:
カヨコって造形がフィクションぽいっていうのもあるんでしょうけど。でも私の場合は、他のところでもわりとフィクション度高いと思ったので、そこまでは浮いて見えなかったな。というか、たぶんリンゴをかじらなかったとかそういうのもあって、ポイントが逆に高いっていうのかな(笑)
両角:
今回はリンゴかじってなかったですよね(笑)
西森:
何、それ分かんない(笑)
両角:
長谷川博己さんと石原さとみさんが出ている他の作品でそういうシーンがあったんですよ。まぁ、カヨコさんがちょっと異質なのは、単にアメリカからきた人っていうのも大きいかなぁとも。
今回の映画には◯◯な人がまったく描かれていない
両角:
ところで、彼らは憲法に縛られていて、政党にはそんなに縛られているわけじゃないけど、どうにかして状況を変えたいみたいなところってありましたよね。たとえば『踊る大捜査線』で、青島さんが室井さんに「現場を変えるにはあなたが偉くなってくれないと」って、警察内部と闘うみたいなことを言うシーンがあったように。そういう内側との格闘も公務員ものの面白いところだと思うんですよ。
西森:
自分の出世欲で上に上がろうっていうのではなく、この状況をどうにかしたいという想いだけで上を目指すっていう点では、矢口も室井さんと同じ気持ちなのかなと思いましたね。
ひらりさ:
なんか一貫して現場にいる感じでしたよね。会議室も現場だし、第一線も現場だし、全部が地続きみたいな感じ。
両角:
なんか、ゴジラと戦うというひとつの目的のために現場が一束になっていくっていう感じでした。
金田:
政治家が決めたことを、実際に戦う自衛隊の人たちが「机上の空論だ」「俺達はそうは思わない」とか不満を言ったりしていると、なんとなくそれっぽくなるっていうのもあるんでしょうけど、今回の映画には不満を言う人たちがまったくいないっていう、なんか理想的な状況っていうのが描かれてましたね。
平泉成さん演じる里見農林水産大臣(後の総理)の例のシーンについて
両角:
今回、いろんなキャラクターが描かれていましたが、「公人とはこういう人だ」というイメージが作られがちなところを外して見せてもらった感じがするんですよね。里見さんも含めけっこう食えない人物だったり。それぞれのキャラクターに意外性があった。
金田:
のちに総理大臣になるあの人、やりたくないし死んでないのに五階級特進みたいな里見さんね。かつ、責任とってやめたのも「総理の描いた絵さ」みたいなあの人ね(笑)。
ひらりさ:
そういえば、最初の方の会議で「里見農林水産大臣は外遊中のため欠席」っていうあのテロップがめちゃくちゃ伏線になってるんですよね。
西森:
そう、なんかフワッとしてる人でしたよね。ラーメンがのびちゃうなんてぼやいてたり(笑)。
ひらりさ:
大河内総理は「総理」って呼ばれてるけど、なんとなく里見さんは個人って感じでしたね。
両角:
ゴジラを力技で倒すなんてことをしている裏で、里見さんが動いてたっていうのもなかなかですよね。
金田:
ああ、フランスの人にずっと頭下げててね……。
西森:
「あの人ああ見えて外交みたいなことができる人だ」とかって言われてましたよね。
金田:
私、カヨコと外国人の人が「日本にもこんな狡猾で政治的なことができるのか」って言ってたけど、24時間待って下さい的なことくらい普通言うじゃんって思った。
西森:
あ、でもあれって、データを出して海外に分析してもらったり、そういうことも意味してたんじゃないですかね。
金田:
あ、まぁ確かにね。でも、ロシアにも中国にもアメリカにも頼れないから、じゃあ原発いっぱいもってるフランスだ! ってフランスに行ったわけだけど、「え、これってそんな狡猾?」って思ったなぁ。だってとんでもない事態なわけだし、そのくらいはするでしょって思った。
両角:
里見さんは、来たものを受け入れるだけという感じの印象の人が、実は裏で国のために動いてて頑張っているっていうところに、私はグッときましたね。
西森:
今までずっと、現実にも、この国は外交として狡猾なことってできないんじゃないかっていうイメージがあったので、それをくつがえして外交ができたんだって思うとぐっときましたね。でも、映像にするとなんかずっとこう頭下げてるシーンになるんだなって(笑)。
金田:
私はね、「え、そこ会話じゃないんだ!?」って思った。
ひらりさ:
でも、あの頭を下げるシーンって、あの一瞬だけで、何が起きているのかが一瞬で伝わるからすごいですよ(笑)。
金田:
うーん……ただ、あそこはやっぱり、国連も「核兵器落としたくて落としたくてたまんねー」みたいな感ではなかったから可能だったっていうのもあるんだろうけれども、「赤坂さんが粘り腰だから」とか「フランスだったらやってくれる」とか、言葉での説明が多くて、そこに畳みかけるように「日本もなかなかやるじゃないか~」みたいになっていって、私はあそこで「あ? あ!?」みたいな気持ちになりましたね。
西森:
私はあそこが一番盛り上がったかも(笑)。
ひらりさ:
私は、あの無人在来線爆弾のせいで、そのあたりへのツッコミができない頭になっちゃってましたよ(笑)。
金田:
あ、私も無人在来線爆弾は大好きですよ。あんなもの出されたらもうね(笑)。
「巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)」って普通の人がいないよね
ひらりさ:
私は、高橋一生さんのインパクトが強すぎて、3回観るまで安田という役名が全然入ってこなかったです(笑)。
両角:
普通のドラマだと、名前を呼びかけたりすることでこの人の役名は何かっていうのを分からせる場面を作ったりするのだけど、今回は時間の関係かそういう前段階を省いて全部字幕にしたというのもありますよね。
ひらりさ:
今回、一番リアルじゃないのは、鈴木とか田中が出てこないってことですよ。
一同:
あ、そうかも!
西森:
そもそも巨災対の人たちって、家にも帰らないし、家族の存在もあまり出てこないしで、日常生活が見えないって言われてましたけど、別に普段から、みんなの考えるような暮らしとかしてないと思うんですよ。それって、自分のような人からしたら、すごく安心することで。特に安田の目の動きとか…。
金田:
え~、私は作品中でそう言われてたからそう思ったけど、そんなに変わった感じでもありませんでしたよ?
西森:
あ、それは金田さんだからですよ、だって金田さんは巨災対にいてもおかしくないと思うもん(笑)。
金田:
私、あそこにいておかしくないのか……。でも、挙動不審な感じのああいう人ってけっこう大勢いるよ?
西森:
だからそれは、金田さんがそういう人がいっぱいいる場所で生きてるからで(笑)。私もどっちかというと、挙動不審なほうですけど。
両角:
金田さん、東大法学部ですよね。あの映画に出てきそうな人たちが、きっと学生の頃から身の周りにいたと思うんですけど……。
西森:
ああいう感じのしゃべり方の人とかね。だからこそ、そのキャラにまどわされないで厳しい目線で観ることができるっていうのもあるのかな、とも思います。
金田:
確かにエリートに対する厳しい目線っていうのは私の出自からきてるんですけれども、逆にオタクっぽい、はぐれモノに対する優しい目線っていうのもその出自からきてるんですよ。