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美術教育を受けていないアーティスト達の展覧会『アール・ブリュット展』から9人の作家を紹介。世界で評価される作品の背景と制作方法とは

クヌギの落ち葉を折って作られた動物たち

撮影者:高石巧

ダースレイダー:
 この作品、なんと素材が枯れ葉なんですね。これだけ見せられても、えっ?って思うんですが、素材を知るとビックリなんですよ!

小林:
 これはビックリしますね。

ダースレイダー:
 かわいいサイズ感なのに、緻密凄くちゃんと作られてて。落ちた葉っぱが、これになっちゃうなんて。ワクワクしますよ。

小林:
 作者の渡邊義紘さんは、自宅でこういった作品を作っているんですけど、素材になるクヌギの葉が落ちる、1年の間の数週間しか創作出来ないんです。

ダースレイダー:
 枯れ葉が落ちた時に、わ~って素材を集めに行くと。クヌギの葉っぱのサイズ感や色にピンときたっていうことなんですかね。

小林: 
 そうですね。落ち葉の葉脈とか葉柄を、動物の模様や尻尾、鼻などに生かしながら、数センチの小さな動物たちを作っています。

ダースレイダー:
 これは手で折っていくんですか?

小林:
 そうです、しかも15分位で一体作っちゃうんです。本人は作る時に、は~って息を吐きながら、ちょっと息で湿らせながら折って作っていくんですよ。

ダースレイダー:
 なるほど、凄いですね……。

小林:
 2018年、パリで「アール・ブリュット ジャポネⅡ」という展覧会を開催したんですけど、そこでパリの人たちがとても驚いていました。

ダースレイダー:
 普通の人は、ただ歩いてバリバリ踏んじゃったり、なんだったらホウキで掃いたり片付けたりしているものが、最初から宝物に見えていたということですよね。

小林:
 日常の中を、そういう視点で見ると楽しいですよね。世界が広がるというか。それこそ、落ちている葉っぱは、掃いて捨てる物とか思っていると、ガラッと固定概念が崩されていく感じがします。

不規則に織られた毛糸には「これは作品である! 」というパワーがある

ダースレイダー:
 これも凄いですよ。規則性がないし、むにゅっとして大きさの共通点も無いから、何だ?と思うけど、「これは作品である! 」っていうパワーは、めちゃめちゃあるんですよね。

小林:
 そうですね。「何なんだろう」って考えさせられるけど、その問いの答えがずっと見つからない、みたいな。

ダースレイダー:
 でも明らかに何かのイメージなんですよね。ただの毛糸玉が、作者の手にかかると、これになっちゃうんですね。

小林:
 作者のカズ・スズキさんは、火曜日から土曜日に工房でこの作品を織り、日曜日と月曜日は完全にオフで過ごすそうです。創作はマイペースに行う為、1年間で完成する作品は多くて3本です。

ダースレイダー:
 3本。これが1年間で3本できるわけですね。

小林: 
 制作は通常の織り機が使用されています。何ヶ月もかけて幾つものコブが重なった立体的なオブジェになっていくようで。で、完成のタイミングは自分で決めるか、物理的に織り機に入らなくなった時だそうです。

ダースレイダー:
 なるほど、いいですね。物理的に織り機に入らなくなったところで終わりみたいな。なるほどなあ。
 本人が気持ちいいところで、踏んだり巻いたりをしていって作っていくってことですよね。これとか、頭の方にドーンって塊があって、獅子舞みたいですね。

 適当にやったっていう感じじゃない。ちゃんと、「こうなるべくして作った」っていう完成品だと思います。

一番カッコいいやつは見せてくれない、アルミタイのロボット

撮影者:大西暢夫

ダースレイダー:
 トランスフォーマーみたいなロボットがたくさんいます。これはね、めちゃくちゃ格好良いですよ。

小林:
 作者の勝部翔太さんは、100円ショップとかで売られている、お菓子の口を塞ぐアルミタイを使って、こういう小さな戦士を作っています。

ダースレイダー:
 小さな戦士がね、一個一個、全部チョー格好いいですよ。

小林:
 一個、3cmくらいなんですが、全部形が違うんですよ。

ダースレイダー:
 ロボットになることで、アルミタイの元々の色に意味が生まれている感じがします。「ロボットにするためにこんな色してたのね」ってくらいの必然性があるんですよね。

小林:
 彼も海外の展覧会に出展したことがあるんですけど、出展をお願いした時に、普通のアーティストだったら、一番いいやつとか、出来の良いものを出展しようと思うじゃないですか。でも彼は、「“二軍選手”だけなら出展していいよ」って。一番いいやつは手元に置きたいからそれは出さない。っていう発想なんです。

ダースレイダー:
 手放したくないんだ。
 人の為にやってるんじゃなくて、「俺を盛り上げる戦士たちだぜ」っていうのが基本線なんですね。「人が見たいって言うなら見せるけど……」みたいな。じゃあ、これよりもっと凄い、格好いいやつがいるんですね。

小林:
 多分、凄い緻密で凄い格好いいやつがあるんですよ。その一軍はですね、タッパーの中に入っているんです。

ダースレイダー:
 二軍は海外に展示されて、一軍は自宅のタッパーの中にいる。いいなー!!

阿山隆之「木片に絵」

撮影者:高石巧

ダースレイダー:
 これは木片ですね。これがね、また一個一個凄いんですよ。

小林:
 作者は阿山隆之さん、20代半ばから本格的な作品の制作を始めました。木に描くようになったのは描いた線や色が失敗しても削って再利用できるという利便性と、阿山さんが通う施設では木工品の制作を行っており、自然と木材が集まっている環境があったからだそうです。

ダースレイダー:
 素材が周りに溢れていたわけですね。

小林:
 制作方法は最初にペンでモチーフの輪郭を描いて、線の内側に色鉛筆で丁寧に色を塗り込んでいきます。写真などを見ながら描いたり、幼い頃に読んだ絵本で印象に残っている物語を思い出して描くそうです。

ダースレイダー:
 なるほど、絵本の印象。ずっと心の中にあるんですね、そのイメージが。

小林:
 150色もの色鉛筆を使い分けて描くという作品は、色にもこだわりがあるようです。

ダースレイダー:
 この牛の絵とか、本当に綺麗なんですよ。ちょっとしたグラデーションになってるんですけど、とても素敵。木の上に描いているからサイズもバラバラで、それがまたいいんですよね。その中にぐっと収めている。

小林:
 このバレリーナも素敵ですよね。木に対して描かれているモチーフのバランスもいいです。

ダースレイダー:
 木材とか、木の切れ端とかっていうのは、いらないものだと思いきや、こうやってキャンバスになっちゃうんですね。

小林:
 これだけ木に色が乗るんだってことが驚きますよね。

ダースレイダー:
 しかも色鉛筆でしょ。選び方として木に描くものとして色鉛筆っていう選択はあんまりしないと思うんですけど、でもこうしてみると色鉛筆が一番いいんですよね。柔らかさというか、ぺたっとしてないですからね。とても綺麗です。


お知らせ

アール・ブリュット2020特別展  
「満天の星に、創造の原石たちも輝く カワル ガワル ヒロガル セカイ」

・なかのZERO西館 美術ギャラリー1
4月4日(土)~同月14日(火) 

・八丈町役場 八丈町民ギャラリー
4月24日(金)~5月5日(火・祝) 

・福生市プチギャラリー 第2展示室
5月14日(木)~5月24日(日)(休館日を除く) 

・すみだリバーサイドホール ギャラリー
5月31日(日)~6月13日(土)

・武蔵野市立吉祥寺美術館 企画展示室
6月27日(土)~7月7日(火)

東京都渋谷公園通りギャラリー
7月24日(金・祝)~9月13日(日)まで(休館日を除く)

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、日程は変更となる場合があります。
詳しくは公式ホームページでご確認ください。

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