「漫画連載は最初の3話で決まる」──絶対に続きが読みたくなる“序盤3話のメソッド”を現役漫画家が語る
「漫画連載は最初の3話で決まる」
ニコニコ生放送「山田玲司のヤングサンデー」にて、漫画家・山田玲司氏は、続きが読みたくなる連載漫画に込められた「序盤3話のメソッド」について言及。
新規連載において、1話でつかんだと思いきや、2話3話で力を抜いて失敗してしまうパターンが非常に多いと語り、漫画連載における「3話でつかむ」ことの重要性について解説しました。
※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。
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Cバージン第13巻『絶対に続きが読みたくなる序盤3話のメソッド!〜「怪獣8号」と「海月姫」から学ぶ連載漫画のイチバン大事なトコ』
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■連載漫画の第1話で必要なことは主人公の紹介とドキドキ感
山田:
漫画連載の第1話で何をするかというと、まず主人公を紹介する必要があります。主人公を「こんなやつです!」と紹介して「こんなやつが大変なことになりました」と見せて、読者に「それから、どうなっちゃうの?」と思わせるのが第1話。
そして2話目。それまでぼんやりと生きてきた主人公が「どうする俺!」、「どうする私!」と思うような選択を迫られるところに、次の爆発を仕掛けるんです。第1話の流れを大きく裏切る何かが入ると、2話目で読者の心をガっとつかむことができます。
その後の3話目で「こんなやつに、こんなことが起こった」となって、読者が注目するじゃないですか。そこで、一番気持ちいい話をマックスでぶちこむ! もうあとはないと思ってください。この連載、3話で終わると思うくらい。
久世:
言葉にすると確かに、と思うところはありますけれど、具体的には想像がつかなくて難しいですよね。
山田:
「こんなやつが大変なことになりました」の非常にわかりやすい例としては、この画像のようなシーンのことなんです。この絵が一発でつかんでると思いませんか?
奥野:
確かに!
山田:
まず第1話の作りかたのポイントを紹介していきますね。絶対に外せないのが主人公の紹介。そして、ドキドキ感がなければいけません。
たとえば「なんとなく朝起きて、なんとなく今日は会社に行きたくないな」というところから始まる。すると、読者は「あっ、大体こういうやつなんだ」とわかりますが、そこに何かが起こりそうな雰囲気がなければ次を読みたいと思いません。
テーマパークのホラーアトラクションでは、ホラーっぽい音楽が流れてますよね。それで雰囲気が盛り上がるうえに、建物もそういう造形をしてるじゃないですか。
つまり、待ってるあいだに期待感が高まるわけですが、連載漫画の第1話はそれに非常に近い。もしも『インディ・ジョーンズ』という漫画を描く場合は、頭の中でそのテーマソングが鳴ってなければダメなんですよ。
後は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の時計から始まる「つかみ」ですね。つまり、この作品は「時間が関係する物語ですよ」ということを説明できているんです。
文字による説明はいらなくて、ルック、音楽が流れているか、雰囲気がどんな感じか、といったことが重要です。
その一方で「どんな人が何をするのか? 何が起こるのか?」ということが、第1話でわかっていないとダメなんですよ。
例えば、「SAVE THE CATの法則」と呼ばれる描写は便利な技法です。1話目で主人公が「猫を助けるか? 助けないか?」で、どんなキャラクターなのかがエピソードとして、すぐにわかります。
すごい怖そうな見た目をしていても、猫を助けるシーンが入るだけで「この人、じつはいい人なんだな」と。あるいは、優しそうな外見でも、猫を蹴り飛ばしていたら「じつは悪いやつなんだな」ということを感じ取れますよね。
1話目で登場するキャラクターが「過去にこういうことがあって、今こういう人になっているんですよ」という「昔と今の時間軸」が出ていると、よりキャラクターのことがわかりやすくなります。
例えば、『ONE PIECE』はそれを時系列で描いているんです。子ども時代から始まり、悪魔の実を食べて、シャンクスに助けられて、麦わら帽子をもらったというエピソードを経ている。
そして、「何もできなかった俺」「海賊船に乗せてもらえなかった俺」という圧がかかっているところ、1話の最後にシャンクスの腕を奪った近海の主をゴムゴムのピストルで倒す。こういう「圧からの解放」が1話で入っていると得です。
そのうえで、1話目から読者に「謎と期待」を両方とも感じてもらうことができれば、その後、読者の「心をつかむ」可能性が高くなります。「謎と期待」について、わかりやすく説明すると「あいつ誰!? なんなの、なんでなんで?」という気持ちにさせるような描写のことです。
何かすごいことをやりそうだけど誰だかわからないような謎の登場人物に加えて、「あの登場人物は本当は強いんじゃないか?」や「あの二人は、くっつくんじゃないか?」といった期待、「謎と期待」の二つの要素が含まれていること。次を想像せずにいられなくなるような仕掛けができるかどうかが重要なんです。
それでは、1話目をどう描いたらいいのかということを簡単にまとめると、まず「つかみ」と世界観を見せるということを先ほど言いましたよね。作品をアトラクションとテーマ音楽で考えるということです。
それらを伝えながら、同時にキャラクターの紹介をエピソードで見せることが大切なんですよ。説明ではなく、出来事が実際に起きていないとダメなんです。だから、第1話では、セリフや解説は極端に少なくしなければいけません。
モノローグでもいいので、いきなり始まるように描かなければいけない。また、日常を描くうえで、主人公が持つ不満、夢、欲望をしっかりと描くだけで、主人公が活き活きと動き出します。
さらに、もっとも大切な部分は、主人公が抱えている問題なんですよ。たとえば、モテない、金がない、嫌な先輩がいる、ヤンキーに絡まれて「金を持ってこい」と言われている、もしくは隕石が地球に向かっていることに気付いたとか。
なんでもいいので、主人公が抱えている問題が提示されると、読者は気になりますよね。とにかく、主人公の人間性がわかる描写が重要なんです。
また「あのころは夢があったが、今はバイトも行きたくない。何もない、何なんだ俺は」というように、「昔と今」を対比させる描写も必要です。そして、主人公が「何かと出会い追い込まれる」という描写も多いですよね。
■第2話で大事なのは「朝チュン」と「次の爆発」
山田:
2話目の基本は「朝チュン」です。第1話で起こったことがどういうことか、まとめるところから2話目が始まります。
なぜかといえば新連載では、第1話を見たことがない人もいるかもしれないので、2話目からも入れるようにしておくんです。それだけでなく、1話を読んだ人に対してもダイジェストで1話の内容を紹介する。
たとえば、第1話で夜に大騒ぎするような騒動が起こった場合には、2話目は翌朝から始まりますよね。スズメが「チュンチュン」と鳴いている朝、横に誰かが寝ていて「誰なんだお前?」というところから「そういえば昨日は……」と展開していく……。
久世:
よくある、よくある。
山田:
だから、第2話の冒頭に話の整理をするんですよ。そして、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、ドクが「デロリアン」を作ってしまったように日常ではなくなっていく……第1話とは違う物語が始まってしまうことが描かれていきます。
そこで、とくに大切なことが先ほど話した「次の爆発」です。日常が動き出さないことになっていまうので、「朝チュン」で第1話の整理が済んだら、すぐに「次の爆発」へ行くことが2話目の基本です。
もしかしたら「次の爆発」が連載でもっとも重要かもしれません。これがなければフワっとしてしまうので、キャラクターに魅力があっても、「つかみ」に時間がかかってしまうことがあります。
その漫画のアイデアのポイントがそこに入っていれば、より一層よくなります。たとえば、クモに噛まれて「スパイダーマン」になるときに、初めてキャラクターとしての「スパイダーマン」が見える。そのアイデアが「次の爆発」なんですよね。そして「どうする私!」という状況になるんですよ。
奥野:
主人公がその展開による現実を受け止められなくて「どうしよう」という葛藤が生まれるところで……。
山田:
そうです。「今まではこうだった。これからもこうだと思っていたら、そうもいかないことになってしまいました」という状況で、主人公が選択を迫られます。
ここまでの話をまとめると、第1話の整理をして「朝チュン」を迎えて、何が起きたかを理解した後に、主人公が「どうする私?」という状況に陥ります。そして「動き出す日常」があって、これは出会ったり、失ったり、何かを得たり、RPGでは人から頼まれるというパターンもあります。
奥野:
いわゆるミッションですよね。
山田:
そうです。読者は基本的に何かが起こってほしいんですよ。「今日も明日も同じかよ俺は!」と思っているから、少なくとも漫画の中でくらいは何か変わったことが起こってほしいと思って、何かが変わったキャラクターにライド(乗っかる)するんです。
読者が登場人物に乗っかれば、まるで自分のことのように次が気になり、読んでいくことにつながるので、次から次へと謎が現れ、選択を迫られることが2話目では重要になります。
■第3話こそ本気で「エンタメ度MAX」で描く
山田:
2話目の爆発で読者の心をつかんだとしても、3話目で満足させないといけないんですよ。「まだ謎が謎を引く、以後は次号で」となると読者は「あっ、いいです」となってしまうんです。
次の展開が気になっているときに、望んでいる答えもほしいけど、裏切りもほしいというのが読者です。つまり、予選は終わって本戦に入るので、完全に次の連載、次の回がないと思って、漫画家生命を終わらせるつもりの「エンタメ度MAX」で描くことが大事なんですよ。
だけど、リアリティラインを越えてしまうと、どれだけ快楽的なことをやったとしても「漫画だもんなあ……」と思われてしまいます。漫画を漫画と思われないようにするために、リアリティラインを越えないことが非常に重要です。
そして、読者が「こう来たか!」と思うような裏切りも快楽のひとつなので、出来る人は3話目でなくとも序盤に裏切りを見せるようにしていますね。
つまり、一言でポイントを言えば「圧からの快」ということになります。「圧がかかって、圧がかかって、覚醒して、みんな死んじゃえどーん」みたいなのはよく見ると思います。一番気持ちいいものを3話でぶつけてくださいというわけです。
その後、第3話が終わると「壁と目的」がわかるようになります。主人公にとっての壁は何か、はっきりとわかるんです。めちゃくちゃ強い敵がいる、ライバルがいるなど「この漫画にはこういう障害がありますよ」ということを3話目で見せなければいけません。
これが明らかであれば、何を読むのかが読者にとってもハッキリします。たとえば『宇宙戦艦ヤマト』だと「人類滅亡まで後1年」とハッキリしてるんですよ。
3話目の基本は、2話目で出た「どうする」への答えを出すということです。2話目でブレるのですが、3話目で起きた出来事によって主人公が決心します。
だから、第3話という「本戦1回目のエピソードで発見と決意まで」物語が進んだ後に「大きな圧がかかって、大きな開放」をサービスマックスで見せてくださいということです。そして「可能な限り、一番気持ちいい話」をぶつけます。
これで多くの作品がヒットしています。どうして、この話をここまでベタに言うのかといえば、俺はこんな漫画を描きたいわけじゃないんだよ!
奥野:
ええっ!?!?
山田:
こんなメソッドに頼るような漫画なんて、つまらないから読みたくねえ! 本当に描きたいものは、こんなにメソッドだらけの作品じゃないんだよ。だけど、プロとして食っていくために、まずこれを成功させて「ほら見ろ、俺は売れる漫画家だぞ」と証明しちゃえば、ほかのことができるんです。
だから俺は『Bバージン』からの『ストリッパー』を描いたんです。つまらないプライドで「メソッドなんか頼らないぜ」と言わないで、1回エンタメに振り切った作品を描いてみて、読者に「お金出してでも読ませてください」と言わせたらいい。
そしたら未来が開けるんです。つまり、3話目の決意は漫画家の人生でもあるので、恥をかいても「エンタメやれるんだぜ!」という意志を見せられるかどうかが重要なんですよ。
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