「かつてNHKの司会の席を芸人が奪ったように、これからの文壇はお笑いが席巻する」――ビートたけしが文芸の未来を語る
小説を書くとき俯瞰をしている自分はいるのか?
中井:
小説を書いている時は、自分自身とそれを俯瞰しているもう1人の自分みたいに、自分の中に何人かいるわけですか?
たけし:
俺なんかは、映画の脚本で主人公を決めて、この辺で見てこう動かそうとか、こんな事件あった方が良いなって感じで作るから、わりかし意識してなくても、そんな感じで書いてる。
中井:
やっぱり、もう1人いる。
又吉:
そうですね。僕はたぶん、たけしさんみたいに俯瞰で捉え切れていなくて、主人公の視点から見て相手が本当はどう考えてるか分からないという。でも、主人公から見たら恐らくこう考えているんだろうというので、登場人物を動かすことしか出来てないんですけどね。
中井:
もっと等身大というか、自分の範囲で考える。自分の分身ですか?
又吉:
自分の分身というか、自分とも半身以上は離してるつもりなんですけど。
中井:
他の登場人物たちはどうですか? 小説になった時に、どのくらい自分の要素が入ってるなって、客観的に思いますか?
又吉:
小説の中で2人の登場人物がしゃべる時というのはどっちの味方もしないので。どっちもある意味、自分かも知れないですけれど、どっちも自分じゃないというか。
ふたりが描く物語のリアルさ
中井:
『劇場』は下北沢が舞台でかなりリアルに描かれていますが、たけしさんのもリアルですよね。具体的な場所の話が出てくるとか。どっちもリアルで。
たけし:
うんうん。
又吉:
例えば、『アナログ』に出てくるレストランのコンセプトって、たけしさんは何か以前から考えてたりするんですか?
中井:
ピアノってお店が舞台になっていますよね。音楽もキーワードの1つに。
たけし:
チラッと入るんだよね、自分の経験って。
中井:
それは絶対入りますよね。
たけし:
ラスベガスに行った時に、エルトン・ジョンがレッド・ピアノというのをやっていたのね。それを見に行って、ああ、ピアノっていいなと。
それで、店の名前をピアノとつけようと。どうしてつけたのかというと、エルトン・ジョンのレッド・ピアノからつけた。別にピアノがあるわけじゃないって、ストーリーを作っちゃうんだけどね。わりかし好きなの。
結末を考えてから書き出す?
中井:
小説を書く時は結末まで考えてから書きだす人ですか? それとも、書いている間に結末が変わってくる人ですか?
たけし:
俺は映画と同じで、四コマ漫画で起承転結でね。
中井&又吉:
へえ。
たけし:
出会いがあって転換して最後の結論。で。これをジャンジャン大きくしていく。
起承の起は出会い。で、夜飲み行った。付き合うことが始まった。で、急にどうなった、最後はどう、って。
中井:
それはもう、事前に決めてる?
たけし:
決めてる。で、映画になると、その四コマを映像で覚えていて、この映像に持っていきたいというか、最後にこの絵で終わりたいって。
中井:
その絵は、はっきりしているんだ。
たけし:
オープニングの映像はこの絵だ、とか。海とか。
中井:
小説の場合も、まったく一緒ですか? 絵をイメージして書く?
たけし:
小説は、登場人物だけ決めておいて、こんなことがあって、知り合って、こんな事件があって、最後これで終わりっていう四つにしておいて、それに枝葉付けて増やしていく。
中井:
途中で迷ったり、結末を変えたりということはない?
たけし:
あるある。今回は。
中井:
今回、変えました?
たけし:
まあ、しゃべると語弊があるけど。
中井:
ああ。あんまりね、まだ本が発売されたばかりだし。
たけし:
最初は映画用に考えていたんだよね。
中井&又吉:
あ、そうなんですか。
たけし:
俺の映画は暴力映画ばっかりだっていうんで、腹が立って。
中井:
そんなことないですよね。
たけし:
たけしは、女と男の話を撮れないなんて言っているヤロウがいやがって。腹が立つから撮ってやるって。
中井:
じゃあそれが、小説の『アナログ』という形になってるということなんですね。又吉さんは、最初から最後まで事前に考えてる?
又吉:
今のところは2つしか小説を書いてないですけど、人物の関係性から考えていくので、最後までは考えていないですね。なんとなくこういう話になるだろうとは思うんですけど、書いていくうちに、誰かが言った言葉とかを自分なりに解釈していって、これはどういうつもりで言ったのかな? みたいなのを、後半に活かしたりするようにしています。
中井:
絵があるのはすごく分かるんですけど、絵が浮かんでいるわけじゃないということですよね? 最後の絵はこれにしようって。
又吉:
最後はこれというのは、思い浮かんでいたことはないですね。
中井:
そういう場合、すごく止め時が難しくないですか?
又吉:
書いていて不安になるときはありましたね。最後は大丈夫かな? みたいな。ちゃんと着地するのかなというのは思いますね。
なぜ、今『アナログ』を書いたのか
中井:
今日はこれを聞きたいなと又吉さんが思っていたことって何かありますか?
又吉:
たけしさん、いろんな映画を撮られてるじゃないですか。それでこのタイミングで小説をもう一度書こうと思ったときに、なぜ、まず『アナログ』を書こうと思ったのか?
たけし:
あまりにもギャング映画ばかりやりすぎたんで、まず「男と女が出てきて恋愛感情を持つ」という作品を書こうと思った。まあ、よくあるタイプの話だけれども、それしか考えなかったね。
あとは、この先、自分自身にどういうキャラクターが出てくるのかと一時期すごい悩んだのよ。落語とか漫才、芝居や映画監督とかなら出せるんだけど、自分のやってきた仕事以外に何かないかなと思っちゃって。新しいキャラクターはできないのかな、やっぱり経験していないものはね。
いずれ映画化できるだろうというか、それを前提に書いたんだけど。なにか、いろいろなものに手を出す割にはダメなんだよね。
又吉:
いや、そんなこと(笑)。
たけし:
絵を描いてもダメだし(笑)。
中井:
絵は……すごいじゃないですか? 映画も絵も。
たけし:
いや、俺は十種競技だったら優勝すると思っているけど。
中井:
十種ね。
たけし:
武井壮みたいなもんで、100メートル走だけとか、やり投げだけやっても上の方に入ってこないんだよね。でも、総合的に見る十種競技だったら俺はいいところにいるかもしれない。
中井:
じゃあオールラウンダーだということですか?
たけし:
だから芸能と括れば、わりかしいいところにいるけど、漫才とか、いろいろなことを言われちゃうとダメ(笑)。
中井:
と、自分では思ってるんですか?
たけし:
うん。芸能ではオリンピック候補になれると思うけど、単発の競技ではとても入らない。15位がいいところだろうと。
中井:
へえ、意外。
後輩の面倒見がいいたけしのエピソード
又吉:
たけしさん、僕らからしたら大先輩なんですけど、すごく不思議な方だなと思うところがあって。初めてご一緒させてもらったとき、収録が終わったあと、相方と一緒にたけしさんの後ろを楽屋までずっとついていったんですよ。
又吉:
もしかしたら何か声かけていただけるかなと思って。そうしたら、たけしさんが「お兄ちゃんたち、コントとかネタとかやってんの?」みたいなことを言われて。「あ、やらせていただいてます」と答えたら「じゃあ今度何か、もしあれだったら持ってきてよ」みたいに言ってもらえたんですよ。
すごい嬉しくて、すぐ準備して、ほとんど無理やりですけどDVDを送りつけて。で、たまたまその1週間後ぐらいですかね。収録でご一緒したときに「たけしさん、すみません。DVDを勝手に送らせていただいたんですけど届きましたか?」と聞こうと思ったら、「1本目のネタは……」と、もう見てくださってたんですよ。
中井:
へえ。
たけし:
俺は、意外に見るのよ。お笑いのビデオ。
中井:
そうなんですね。
たけし:
見ておいて、早く潰すやつは潰さないと(笑)。
中井:
早く芽を摘んでおこうと(笑)。
たけし:
俺はお笑いが好きだから、面白いと思った人がいたら、たまにやる特番で「たけしの選んだお笑い芸人」なんていって番組に出したりするし。
中井:
でも、それはかなり嬉しいですよね。その時はお礼を言って?
又吉:
もちろんです。
たけし:
又吉が芥川賞を取ってくれて嬉しかったのは、俺はずっと小説家とかそういうエライ人の足をひっぱろうと思っていたから、裾野を広げてくれたことだね。下手をすると又吉君は、萩本欽一とかあの辺のクーデター的な存在に近いぜ?
バラエティー番組の司会は、みんなNHKのおさがりみたいな笑いも知らない人がやっていた。それを萩本欽一さんが司会をやって引きずり降ろしたでしょ? その後は、紳助だ、さんまだ、俺だと行って、メインの司会を全部お笑いにしちゃったんだから。
中井:
そうですね。
これからの文壇はお笑いが席巻する
たけし:
俺は、これからの文壇というのは、お笑いが席捲すると思っている。
中井:
おお、その旗手が又吉さんだと。
たけし:
そうだよ。そんで、1番儲かるのはだいたい2番手だから、どうにかついて行って(笑)。
一同:
(笑)
中井:
どうですか? この巨匠が2番手につきたいと言っていますが。
又吉:
いえ、僕より先に本をいっぱい出されてますから。
中井:
そうですよ。
たけし:
それが、なんの反応もないんだよ!
中井:
その反応が欲しいというのが、今回の……。
たけし:
いいよ、お笑いにとっては。だって芥川賞だよ?
中井:
そうですよね。
たけし:
お笑い界から文豪が出るというのは大変なもので、又吉作品の頭の方をちょっと読んで、「うわ、俺はこれ書けない」とショックを受けた。で、これは自分も書けると思ったらいけないと思った。
こういう表現が俺もできるなんてやると真似になるから、出来ないものは出来ないとして、自分なりの書き方で書かなきゃなと。変な意味だけど、自分が上手く文学的な表現を出来ないことを又吉が教えてくれた。ありがたい。
じゃあ俺は違う方法で、もっと単刀直入に漫才とか落語表現でがんがん行こうかなと思った。余分なものを切り捨てるというか、きれいな装飾が出来ないんだったら、シンプルに行こうかと。
最後に、今日の感想を
中井:
終わりの時間がやってきたということで今日の感想を。
又吉:
こんなにゆっくりお話できることはめったにないので、すごく楽しかったです。
たけし:
いや、よかったなと思うよ。
中井:
これだけお話を聴いた方が、実際にたけしさんの書いた『アナログ』を読んで、どう受け取るのか楽しみですね。
たけし:
皆さん、ぜひ『アナログ』を買ってください。ゲラを見た人が、癌が治ったりですね。
一同:
(笑)
たけし:
家出をしていた女房が帰ってきた。子供が東大に受かった。あと飲み屋が勘定を間違えたというね。いいことづくめ!
中井:
個人の感想です(笑)。
たけし:
トイレの尿切れが早くなる。下痢がなくなった。いろいろありますんで。
中井:
というわけで、今日はお時間を頂いて、たけしさんと又吉さんにお越しいただきました。本当にありがとうございました。
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