Setuo Kano × Daisuke Yokosawa 超個展「無常」
ニコニコ超会議2022で、幕張メッセ・中央ホールに登場する、全長約150mに及ぶ襖絵は、ニコニコ超会議統括プロデューサー・横澤大輔と、絵師・加納節雄のコラボレーションによる、アートの壁にして、今回の最大のフォトスポット。
小難しい芸術ではないとはいえ、全作品が描き下ろしで誰も見たことが無く、その展示方法も含め、前代未聞の展示であることは間違いない。見たことがないものを見てしまうと、人間、理解が追いつかなくて楽しめなくなってしまう可能性もある。それでは、気軽に楽しんで、感じて、面白がってもらいたい、この作品群がもったいない。
そこで、その取っ掛かりに、プロデューサー・横澤大輔と絵師・加納節雄両氏の不思議な出会いから、今回の展示に至る経緯と、この巨大展示の楽しみ方、その先にある未来までを語り合ってもらった。
インタビュー・文/納富廉邦
写真/古谷勝
■奈良の大仏に導かれて出会った江戸の二人
横澤:
最初は、僕の夢から始まったんです。1年前、コロナ禍の中、家に篭って自分と向き合う機会が増えていた時に、夢に奈良の大仏がでてきて『ちょっと来てくれ』と言うんです。意味分かんなかったんですけど、行ってみたんです。そこで奈良の大仏が、疫病の流行をきっかけに、全国から資金を集めて建立されたことなんかも初めて知って、『みんなの力が結集されて一つのことが動いていく』というメッセージをもらえた気になって、帰りに京都に寄ったら、加納さんの展示に出会ったんです。
加納:
150年以上前からある町屋をお借りして、僕が持っていた河鍋暁斎の肉筆画をずらーっと200本くらい、のれんみたいにさげて展示してたところに、横澤大輔がやってきた。
横澤:
暁斎は知らなかったけれど、作品は素晴らしかったし、話しをしたら、生きた江戸みたいな人で、すぐに意気投合しました。それで、『何かやりましょうよ』って言ったんです。
加納:
『じゃ、絵を描くか』と言って。
横澤:
その時はそれで別れたんです。そしたら、今年の3月27日に急に連絡があって。
加納:
約束しちゃったからね。会ったその日から絵を描き始めたんです。襖を四枚一組にしてストーリーを作って、それを四曲の屏風一双に見立てて34組。『出来たよ』って連絡したら、『何が?』って(笑)。
横澤:
見せてもらったら凄くて。加納さんの講釈付きで2、3時間、ずーっと見てましたね。
加納:
凄いって言ってもらったのはいいんだけど、展示する場所がないんですよ。全部並べたら150mですから。
横澤:
で、『あ、ちょうどイベントがあります』って。幕張メッセの中央モールがメチャメチャ広くて、その廊下なんかどうですか?って言ったら、『そこだよ!』って。
加納:
ニコニコ超会議の『好きなことを思いっきり、好きだ、と言える場所』というコンセプトは江戸なんです。日本中から江戸の町人みたいなのがぱーっと集まって、僕の絵の前で、ああだこうだ、色々言って、面白がってくれる。それが文化だよね。
■「余白」の美学で繋がるニコ超と江戸絵画
横澤:
今は、作り手より受け手の方が情報を持ってる時代だから、作り手が情報を入れ過ぎると、押し付けになってしまうんです。そこで、作り込んだ上で引き算して提示すると、その欠落部分に反応して、受け手が自分の考えや情報を想起するんです。そうやって作品は広がっていく。描かないこと、表現しないこと、つまり「余白」をプロデュースするというのが、僕の考え方なんです。
加納:
ある人が家にある円山応挙の風景画を見て、『何で、ここに何も描いていないの?』って聞くのね。それで、『そこが気になるのは、それが応挙が見せたいものだからだよ。応挙は空間を見せたいから絵を描いてるんだよ』と。それが「余白」の美学。
横澤:
今回の展示のテーマ「無常」を、もう一度、日本の文化に取り戻すというのも、余白の美学を取り戻すということに通じますね。
加納:
ひとときとして留まるもの無しという世界。これは、平家物語からずっと続く文化なんです。これが明治になって突然無くなっちゃった。西洋の絵画は瞬間を止めるけど、日本の絵画は流れていく。西洋絵画が入ってきて、流れて過去に留まらない「無常」がなくなっちゃった。それを取り戻したい。
■流れる時の中で、作品は時空を超えていく
横澤:
今回の作品では、同じ流れの中に、一休がいて、武蔵がいて、利休がいて、織部もいます。そして、敢えて「フォトスポット」と言ってますけど、そういう過去も未来も渾然一体となった流れの中に、自分を入れて撮影して、それで作品が完成するという、そういう展示になっています。この作品群を、太陽光の下で、ガラス越しではなく間近に見ることができる機会はそうそう無いですし、そこで写真も撮れるんですよ。そうやって、撮られた作品が、10年後、20年後にまた違う価値が乗ったりするかもしれない。そういう時空を超えた楽しみが、今回の大きな見どころだと思うんです。
加納:
松花堂昭乗はね、右側を空けて描くの。で、尾形光琳は左側を空けるんだけど、光琳が売れ始めた頃、ある武家に昭乗の猫の絵を見せられたの。その空いた右側に、光琳は蝶の絵を勝手に書き加えて、そこに『光琳加筆』って書いた。二つの絵の間には50年以上の開きがあり、それが一つの作品になって、300年以上経って、今は僕が持ってる(笑)。
横澤:
同じようなことを今回の展示は起こせると思うんですよ。そして、時間を超えるなら、空間も越えられるということで、この展示を、まず日本中に持っていきます。それから、世界へ。
加納:
今の時代だから、日本だけじゃ嫌だし、この「無常」の文化を途絶えさせちゃいけないと思うから、ヨーロッパに行く。それも、アートに対して小難しいパリに行きます。それは決まってるんです。
二人の話は続くけれど、後は、幕張メッセに足を運んで、150mの作品で遊んで欲しい。実は、作品が完成した後、加納氏の筆は、早くもパリを見据えた第二章へと動き出し、3組の作品を仕上げてしまった。出来てしまったからには、その作品も今回の展示に加えられ、150mと言っているが、実は162mになっている。
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