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功を奏した軌道修正 深浦康市九段ー行方尚史八段:第3期 叡王戦本戦観戦記

 「叡王戦」の本戦トーナメントが2017年11月25日より開幕。3期目となる今回から新たにタイトル戦へと昇格し、ますます注目が集まっています。

 ニコニコでは、佐藤天彦 第2期叡王と段位別予選を勝ち抜いた15名による本戦トーナメントの様子を、生放送および観戦記を通じてお届けします。

画像は 叡王戦 公式サイト より

 ベスト4への一番乗りを懸けた戦いはA級棋士同士の対戦になった。深浦と行方、40代半ばで、粘り、ねじり合いでの強さが両者のキーワードとして浮かんでくる。対戦成績は行方13勝、深浦12勝と拮抗している。熱戦が予想されるには、十分な要素が揃っている。 本局は1月8日、成人の日に行われた。対局前にふたりに話を聞いてみた。

 「19歳でプロになり、成人の日は地元で式に出席したのですが、非常に誇らしい気持ちでした。プロ棋士として1年目で、記念すべき年でした。ということで20歳のときは気分よく、式に出たのが思い出です」(深浦)

深浦康市九段

 「成人の日の思い出ですか。ちょうどプロになった頃で、成人式には出てないですね。地元(青森)で出席するという選択肢もあったのですが、東京で過ごした思いしかないです」(行方)

行方尚史八段

 対局が開始され、深浦がスッと初手▲2六歩と指す。行方はやや気合のこもった手つきで△8四歩と応じた。

烈火のごとく攻める

第1図

 迎えた△5三銀右(第1図)の局面。深浦は扇子を小さく開閉させ、視線を3筋から4筋方面に飛ばす。一方の行方は低い姿勢で、着手を待つ。表情は「さあ来い」といっているようで、厳しくなってきている。
 押し出すように▲4五歩を深浦が着手する。いよいよ開戦だ。本局の下地になっているのは、昨年11月に指されたA級順位戦の▲豊島将之八段-△深浦康市九段戦。本局の深浦は当時と逆を持って指している。その順位戦では▲9六歩△1四歩と端の突き合いが入っていた。本局は端歩は突かれていない。

第2図

 深浦が仕掛けて猛攻が開始された。第2図は▲4四角成に△同金と応じた局面。
 本譜は△4四同金に▲3三銀と打ち込み、バリバリと攻めたが、局後に調べられたのは▲2四歩△同歩に▲6五桂と活用する順。以下△4七歩成▲同金△4五金▲2三歩(▲4五同銀は△5五角)△同金に▲2五歩の継ぎ歩攻め。「先手の攻めが急所にきて、手になっている」と行方。深浦は「△1四歩と突いていない形なので、狭いほうに追うんでした」と話した。

軌道修正

第3図

 深浦が△8六歩に手抜きで、▲3三歩(第3図)と垂らした局面。ここで夕食休憩に入った。あとで話を聞けば本局の帰趨を決める重要な場面だった。
 当初、行方は△9五桂と打つ組み立てで、指し手を進めていたという。以下▲8六歩△8七銀▲同金△同桂成に▲6九玉(変化図)と逃げられると、後手にしっくりくる手がないのだ。休憩時間も使って考えたという行方。本譜は「軌道修正」という単語を何度か口にした。

変化図

 対局が再開され、行方は△4七歩成と成り捨てる。▲同金と取らせて、△6四角と攻防に据えた。
 険しい顔をして盤上をにらんでいた行方が、「う~ん。そっか」と口にして着手したのが、第4図の△4一玉。深浦が「しびれました」と話した一着で、玉を戦場から遠ざけ、冷静な手だった。

第4図

 先手は▲3四銀成△同金に▲6五銀と角に狙いをつけたが、駒を蓄え我慢していた行方の猛ラッシュが始まった。

指がしなる一着

第5図

 第5図の△4五金が気持ちのよい活用で、行方の駒音がひときわ大きく、手つきは自信に満ち溢れていた。▲同歩は△2八角成と飛車を取る。▲同金には△3七角の王手飛車。感想戦後、行方は勝ちになったと思った局面に挙げている。
 △4五金に深浦は明らかにため息が多くなり、手にしていた白扇がぼとりと畳に転がる。「そうか~。あっ~」とつぶやきが続く。
 ▲6四銀と角を取る深浦の手は力がなかった。△3六金▲7八金に△3七角で王手飛車が掛かった。あとは華麗な行方の収束を見ることとなった。

投了図

 △4八角成(投了図)にしばしあって、深浦が投了を告げる。▲4八同飛に△3七桂から先手玉は即詰みだ。
「本局はちょっと攻め方に問題があったかもしれません」と一局を振り返る深浦。
 深浦の猛攻を凌ぎ、見事なカウンターを決めた行方がベスト4進出を決めた。
「うん。この調子で頑張れればね」と感想戦後に、はにかみながら行方は語った。

(観戦記者:滝澤修司)


■第3期 叡王戦本戦観戦記
桂跳ねの舞台裏 丸山忠久九段ー藤井猛九段

貴族と貴公子の戦い 佐藤天彦叡王ー金井恒太六段

画像は 叡王戦 公式サイト より

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