『君の名は。』のヒットで映画業界にはどんな影響があったの? 「東宝」「KADOKAWA」「松竹」のエラい人達にヒットの裏側を聞いてみた
「アニメのすべてがここにある。」というメッセージのもと始まった世界最大級のアニメ祭典「AnimeJapan」。国内外を代表するアニメ関連企業・団体が多数出展し、アニメ作品展示・グッズ販売、ステージやイベントなどのイベントが盛大に行われました。
3月24日(土)の「AnimeJapan」の情報発信を行うニコニコ生放送「AnimeJapan放送局ブース」では、「アニメと映画 配給会社からの視点」と題して東宝株式会社の古澤佳寛さん、株式会社KADOKAWAの工藤大丈さん、松竹株式会社の飯塚寿雄さんが登壇しました。
アニメーション評論家の藤津亮太さんのMCのもと、『君の名は。』のヒットが業界に与えた影響や、劇場公開アニメの舞台裏についてトークセッションを行いました。
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映画館・テレビ・ブルーレイ。どの画面で最初に視聴者に届けるか
藤津:
企画があるときに「これはテレビ向き、これは映画向き」みたいな判断ってあるのですか? 映画をやるにしてもテレビで助走をつけた方がいいものや、これは映画として作った方がいいものがあると思うんですけど。
例えば飯塚さんは松竹さんで関わったものに『聲の形』があって、いろんな選択肢があり得た気もするのですけど、配給する側としてはどういう風にご覧になった企画でしたか?
(画像は、映画『聲の形』公式サイトより)
飯塚:
あの企画に関しては京都アニメーション様が企画されたのですけど、僕らもあの漫画を読んだ時に、テレビより120分の中であの少年少女たちの話をやった方がいいのじゃないかなって感じがしました。当然それによって多少オミット(省略)されてしまうエピソードが出てくるのですけど。
でも、あの話はオミットしても、あの作品のテーマだったりドラマは作ることができるのじゃないかなと思ったので、だからおっしゃる通りテレビと劇場どっちが向いているかは、内容とかにいろいろ関係しますけどね。
藤津:
工藤さんはいろんな選択肢があり得ると思うのですけど、会社としてそこら辺はどういう塩梅で決めていくのですか?
工藤:
私は出版事業会社の、いち映像部門ですので、本が売れるかどうかというのも重要な尺度になっています。TVアニメだと1クールか2クールで6ヶ月くらい、プレパブリシティも含めますと9ヶ月から1年くらいの展開期間になります。そこも加味しながら、あとは先ほど飯塚さんからもお話は出ましたけれども中身ですね。
強い企画であるか、劇場映画作品でいきなり仕掛けるものは強いクリエイティブであるとか、スタジオであるとかが前提になってくるかなという風に思っていますね。どちらかというとリスクを取らない形でTVアニメにしてプレマーケティングをしてから劇場にかけるというのが私たちの仕事のメインという風にはなっていますね。
藤津:
ありがとうございます。古澤さんはテレビ向け、映画向けの企画には何か基準がありますか?
古澤:
映画にするっていうのは例えば90分から2時間くらいの尺でお客さんの心を打つような……いわゆる脚本を作ったりとか一本で成立するものをちゃんと作り込むとういうのが企画上どうしても重要になってきます。
それにちゃんと対応できる物語かどうかっていうのが企画のポイントだと思います。毎週、お客さんに見てもらうことによって楽しんでもらえる企画なのであればテレビのシリーズであるとか、例えば配信のシリーズでやるっていう考え方だと思うのですけども、そこは元々の原作を使わせていただくのであれば、どっちに当てはまるかということによって選んでいます。
藤津:
劇場でかかるアニメーションが増えている理由のひとつに、広い意味でテレビがファーストウィンドウじゃなくなってくる時代が少しずつきているという僕の予想ですね。テレビは日本で最強のメディアで、多くの人に届けるには一番いいメディアなのは間違いがないと思います。
では、「そこに一発目でアニメを置くことがいいことなのか」という疑問がアニメ業界で少しずつ起きているのかな、というのが僕の取材した印象です。特にイベント上映系というかオーディエンス作品なんかは逆に映画館でファーストウィンドウを選択する作品も増えているわけですよね。
そのあたりをちょっと伺いたいなと思ったのですけれど、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』はそういうポジションの作品になると思うのですけれど、そのあたり飯塚さんはどうお考えですか?
飯塚:
ガンダムに関しては、バンダイさんとかが配信とブルーレイの発売と劇場公開を同時にやるという『機動戦士ガンダムUC』でやったシステムを使いました。いわゆるファーストウィンドウとして、この3メディアで一気にやるっていう新しいプロジェクトだったと思うのですけれど。
今の藤津さんのご質問に関して、別に工藤さんに振るわけじゃないのですけれども(笑)、実はこれは出版社さんの考えが関係していると思っています。つまり、原作本に関して言うと本が動くかどうかってたぶん配信よりも、もしかしたら映画よりもテレビ放映が一番本が動くんじゃないかなと思うのですが、出版社さん的にはいかがでしょうか?
藤津:
僕も取材の中で、「やっぱり原作は売れるけど、ディスクは若干苦戦した」みたいな話は聞くので、本に対してはテレビの効果はすごく強く出るのかな、という印象は言ったことがあります。
工藤:
テレビで公共の電波に乗せることが、やはり原作というか本の販売に対して非常に効果があるのは、社会的な効果だとは思うのですけれども。一方で配信であるとか、あと劇場であるとかウィンドウの多様化にも対応していかなければいけない。
だんだん変わってきているところはあるのかなって思っています。TVアニメでも、海外での見られ方も増えてきていますし、劇場作品ももっと海外を意識するなど私も同意するところは大いにあります。
もちろん、日本国内の出版もそうですけれども、KADOKAWAは海外でも出版活動していきたい企業でもありますので、色々と知見を得ながら徐々に対応していきたい、と思いながら日々仕事はしていますね。
藤津:
古澤さん、例えば東宝さんだと『攻殻機動隊 ARISE』がイベント上映式のタイトルだったと思うのですけれども映画館でアニメをファーストウィンドウにするメリットはどこにあるとお考えですか?
(画像はAmazonより)
古澤:
東宝は基本的には映画会社でありつつ、ビデオメーカーのポジショニングが大きいので、とにかくテレビに関してはまず自分たちでお金を払って、いわゆる提供費といわれる電波料を払ってオンエアーするわけで、最初に見てもらうことに対しては、むしろ宣伝という考え方で1円もお金が入ってこない。
それに対して、ビデオを買っていただいたり商品を買っていただいたりということで、初めて経済的にプラスになっていきます。テレビでのインカムが少なくなってきている現場が、国内では大きいのです。
そう考えるとファーストウィンドウで直にお金を払ってもらえる映画館で見てもらって、その場でDVDやブルーレイを買ってもらえるという一番熱量が高いタイミングでそれをやれるっていうのは非常に効率的だったと思います。
それは映画会社としては当然興行収入を一番大事に考えなくてはいけなくて、ビデオを同時に売るということはそれに対してはネガティブということもあり得るのじゃないかな、ということで上映館数がそんなに多くない公開でしか同時発売は許されなかったりとか、そういう制限があるのですけれども。
そういう小規模の公開で、なおさらコアなお客さんが来ていただけるような作品だと効率的にビジネスが回っていくのかなとは思っています。
「ブルーレイが出る」という告知が出た瞬間に上映を辞める映画館も
藤津:
小規模ってどれくらいなのですか? 数年前は2週間上映っていうのがイベント上映の目安だと聞いていたのですけれど、東宝さんは今の話だと、どれぐらいが小規模ということなのですか?
古澤:
うちは社内のルールでいうと30館までが小規模になっていて、それを超えると中規模。中規模はだいたい150館まで。それ以上になると大規模公開というイメージを持っていますね。
藤津:
30館で、ある程度短い期間でやるのが、一応オーディエンス作品の位置付けという感じですか?
古澤:
そうですね。 30館で昔はプリントの時代だったら、一番初めに作るコストが数百万かかるので、今ってすごくコストが安くなっているから30館でもコピーすればいいだけでうまくいくのですけれども。デジタルになったことで、こういう小規模公開でビジネスが成立するようになったのだなと思います。
藤津:
ありがとうございます。 飯塚さんの方いかがですか?
飯塚:
うちは35館までで4週間っていうのが、いわゆるイベント上映のMAX値なのでまさに『機動戦士ガンダムUC』のエピソード7をやっています。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』も、そんな感じでやっていますけども、それがひとつのMAXかなと。
中規模って大体100館以下なので100館以上になると、“大きな規模”と我々アニメチームは呼んでいますけれども。あと、普通の映画とイベント上映の差はなんだっていう話はお客さんからも言われるのですけれども、これは本当に業界のルールみたいなもので……。
一応なんとなく映画業界って映画を公開してからブルーレイを出すまでの期間が暗黙の了解で半年?
古澤:
そうですね。6ヶ月ぐらいが目安ですね。
飯塚:
6ヶ月空けないといけないのを2、3ヶ月とかで配信を詰めたものを映画ではなくイベント上映会をしているというのが認識であります。
藤津:
そのへんの距離感というか規模感みたいなのがポイントなのですね。
古澤:
劇場サイドもブルーレイが出るという告知が出た瞬間に上映を辞めるチェーンとかもあるので、そういうことを考えると非常にデリケートですよね。劇場はそれでお客さんが減ると思っているので。
藤津:
例えば映画の企画が来た時にどれぐらいの館数でやるかという読み方みたいなものはどう決めているのかなと。どれぐらいの館数がたった時にいい数字になるか、みたいなパターンはあるのですかね? 例えば工藤さんなんかはやれるならできるだけ大きくやってほしいっていう的なポジションに(笑)。
工藤:
そんなことはないです(笑)。
藤津:
そんなことはないですか(笑)? 正しい規模感が大事ってことですか? 企画に対して館数ってどうやって決めるのですか?
工藤:
そこは本当にシミュレーションしながら決めていきますね。映像そのもののコストとプリント&アドバタイジングの費用とを決めまして、それと公開館数っていう話しでしか数字をはじけないので……。
私たちKADOKAWAはそんなに映画館を持っていないので、先ほどの小規模・中規模みたいな話がありましたけども東名阪3館で2週間、みたいなものか20館ぐらいから始めて30館繋いでやるのか、みたいなものとか。
70館ぐらいから始めて100、120館みたいな。やっぱりアニメですと、それぐらいかそれ以上のアニメーションを僕達でやろうとするのであれば、こちらにお座りのお二方にですね、お力添えをいただくしかないという感じになるかと思います(笑)。
具体的には配給をお手伝いしていただきたいです。「委員会に入って……」ということをご相談にお伺いするという感じになると思いますね。
藤津:
KADOKAWAが作るアニメ映画は規模感としては、これぐらいがちょうどいいっていう目安みたいなものは決めていたりはするのですか? 要はコアなファンとか意識されていたりするとは思うのですけど。
工藤:
昨年ぐらいからレーベルというかブランドを立ち上げはじめてはいるのですけど。古くは『涼宮ハルヒシリーズ』ですとか『STEINS;GATE』や『ストライクウィッチーズ』を劇場でやってきたこともありましたが、ちょっと谷間と言うか……。
昨年ぐらいから劇場公開を増やし始めているような状況で3年ぐらいですね。私が赴任して5年経ちますので、行ったところでノウハウを溜めながらサイズの大きいものをやっていきたい、というステップになっていますね。
藤津:
ありがとうございます。古澤さんの方は館数をどういう基準で決められる感じなのですか? 先ほど3パターンぐらいあるというお話でしたけど。
古澤:
館数ですか? まず、大規模な公開だと最低限興行収入で10億から15億ぐらいいかせることがこの企画でできるのかどうかがベースにはなってきますね。
もちろん、かける制作費によるところはあるのですけれど、300館クラスで開けるとローカルと言われる7大都市以外のところでも相当お客さんが入っていただかないと難しいので、そうなると普段アニメを見ない人がどれだけこのアニメの映画を見てくれるのかという戦いになってきます。
それができないのであれば、どれだけ減らしていくかという考え方で……。深夜でお客さんがついたものって例えば5億円くらいでひとつの厚い壁があって、この5億を超えるかどうかで100館、150館ぐらいまで開けるか。
150館クラスで10億円を超えていける作品は本当に力があるタイトルなので、むしろもっと開けても良かったのでは、という考え方にはなっていきますね。