映画『孤狼の血』アウトロー刑事を演じる役所広司の演技を評論家らが語る。「『シャブ極道』のキレッキレの役所さんが帰ってきてくれた」
不在時でもそこに残像がある。役所広司が作品に与える影響の大きさ
中井:
役所さんがあれだけの芝居をしているから、周りの役者もみんな引っ張られるように……。今回の作品に出られている役者さんの作品をいろいろ見ているんですけれども、ベストアクトなんじゃないかなっていうくらい引き上げられているなって正直思いました。
と言うのも、どうして「作品力が高いな」という印象を持ったかと言うと、でこぼこしていないなと思ったんですよ。役所さん自身、今回本当に素晴らしい芝居をしていて、ご本人もこの作品を気に入っているんじゃないかと思うんですけれども。そこに対して松坂桃李さんの芝居が。まさにバディじゃないですか。
負けていないと言うか、トーンが違うけれど負けていないし、特に変化していくという意味合いにおいては、一瞬でも上回っているかもしれないと思う時があるじゃないですか。
そう思うと、一本通す軸みたいなものが、役所さんがものすごくいい芝居をしてくれているというのが周りを引き上げているんじゃないのかなと思ったのですが、どうですか。
白石:
おっしゃる通りで、例えがプロ野球の話になってしまうんですけれど(笑)。ダルビッシュ有選手が日本ハムファイターズにいた時に、すごいピッチングをして。自分は先発ピッチャーだから次の日は投げないんだけれど、「次の日にも影響を与えるピッチングを僕はするんだ」って言っていたんですよ。
清水・鈴木:
かっこいい!
白石:
次の日にも残像が残って。そんなピッチャーいるのかな? って思っていたけれど、ダルビッシュ選手はそれをやっていて。役所さんがいない時でもその残像があるからこそ、映画に与えている影響の大きさをすごく感じました。
中井:
不在の時にどうなるのかっていうのはあるじゃないですか。不在の時でも残っているっていう。
白石:
そう。でも映画においては不在なものってすごい重要で、この映画の中にもいくつかあるんですけれど、なかなか計算してできるものではない。役所さんが明確にどこまで計算してたのかと言うと、微妙にわからないんですよね。
でも何か、もう計算してるとしか思えない感じになって(笑)。なかなかそういうことはご本人には聞けないですけれど。
「役所さんとバディを組める30歳前後の役者はそんなに多くない」。“イケメン俳優”の枠を超えていく松坂桃李
中井:
松坂桃李さんは最近、本当にいい芝居をしているなってずっと思っていて。キャスティングはなぜ松坂さんをキャスティングされたんですか。
鈴木:
先に役所さんが決まって?
白石:
もちろんそうですね。どうしようかなと思った時、桃李くんは前作の『彼女がその名を知らない鳥たち』でも仕事をしているんですけれど、実はそれ入る前にはお願いしていたんです。ここ数年、特に今年はそれが出ているんですけれど、彼の役者としての行きたい立ち位置と言うか、どこに行こうとしてるのかがすごいビビッドに響いていたんですよね。
それがやっぱり同年代の中でも今一つ頭が抜けている要因かなと思っていて、それは『彼女がその名を知らない鳥たち』をやってすごいよくわかって、もちろん疎かにしているとかではなくて目の前の芝居を一生懸命やっているんですけれど、何か40代に向けて芝居してない? みたいな(笑)。
中井:
それはめちゃくちゃ感じるんですよ。松坂さんってすごいイケメンじゃないですか。なのでイケメン役をやっても今は全然いけるなってるんだけど、僕が最近思うのはイケメンの向こう側に行こうとしてる感じがしていて。
作品選びでも意識的にそういうものを選んでいるなっていう、この監督と組んだら自分がちょっと変われるんじゃないかとか、自分の今届いていたものの先に行けるんじゃないかみたいなことをご本人がすごく意識しているような気がしたんですよね。現場ではどうでしたか。
白石:
現場でもあまりそういうことを出さないし、あまり台本を読んでるのを見たことがないのですが、常にそういう意識がふわっとあるような感じ。これはもうひとりの白石監督と……。
中井:
白石晃士監督ですね。
白石:
対談した時があって、松坂桃李くんの話が出て本当に同じ印象を持ったんだけど、次の作品、その次の作品で3年後にどういうオファーが来ていたいかみたいなことまで考えているの? みたいに思わせるような意識で今やっているんですよね。
中井:
そういう意味で言うと、作品選定は間違っていなくて。本当にいろいろなことをやっているじゃないですか。そして白石さんに出会って。僕は今後白石組として松坂さんは一緒にやっていったほうがいいんじゃないかと思うんですけれども、やりたいなという感じはありますか。
白石:
全然ありますよ。もちろんそうですし、今回お願いしたのもこのタイミングで役所さんとバディを組める30歳前後の役者は、もうそんなに多くなくて。たぶんここから特別な俳優になっていくと思うんですよね。
それが桃李くんだったら本当にそうなってほしいし、今後の彼の役者人生で並走できるところがあれば、したい気持ちもメッセージとして入れたつもりです。
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