いよいよ公開『デッドプール2』下世話、ゴシップetc…評論家も大興奮な作品の魅力についてコメント「DCディスと風刺を容赦なくぶっ込んでくる」
アクションコメディ映画『デッドプール2』が6月1日から全国公開されます。人体実験で驚異的な治癒能力と不死の肉体を得たヒーローが活躍する姿を描いた前作は、世界的に大ヒットしました。
映画解説者の中井圭さん、タレントの三原勇希さん、放送作家の鈴木裕史さんが出演する映画情報番組「シネマのミカタ」では本作品をピックアップ。中井さんは本作品について「ある程度映画を見ている人の方がこの映画は笑える」と話し、出演者の過去作品やパロディ等、本作品を楽しむ要素を解説しました。
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二大ライアンの“じゃないほう”。ライアン・レイノルズが『デッドプール』で成功するまで
中井:
前作は世界的な大ヒットを記録しましたけれども、マーベルのヒーローのひとりなんですけれども「デッドプール」というキャラがおりまして、それをライアン・レイノルズという俳優が演じている。それの2作目ということなんですが、この話を語るにおいてはそもそもライアン・レイノルズの話を語らないと映画のよさがわからないなと思うんです。
ライアン・レイノルズさんはカナダ人の俳優でして。ライアンでカナダ人といえば、もうひとりいますけれども。
三原:
ライアン・ゴズリング?
中井:
ライアン・ゴズリングもカナダ人なんですけれども、いわゆる“二大ライアン”としてカナダでは非常に有名でして、どちらも当初はすごくセクシーなスターだったわけですよ。
どっちもブレイクしていくぞと思われていたんですけれども、ライアン・ゴズリングのほうはその後『ラ・ラ・ランド』や『ドライヴ』とかでいい作品があって、映画監督とかもやったりして世界的大ブレイクを果たしていくわけです。
ライアン・レイノルズさんのほうはどうなっていったかと言うと、非常に悲しいお話がありまして。まず『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』という映画の中で、デッドプールというキャラクターがいるんですけれども演じているわけですよ。まぁそれがわけがわからない。
口が閉ざされていて、ハゲで、なんかよくわからない改造をされたみたいな。キャラがよく立っていない、よくわからない、でも不死身のキャラクターみたいな。そういうキャラを演じているわけですよ。
それでやっているんですけれど、誰がやっているのかわからない、そもそもこんなんじゃないのにというコレジャナイ感がある。その後にライアン・レイノルズは同じアメコミのDCの『グリーン・ランタン』のヒーローをやるわけですよ。
三原:
見ました!
中井:
『グリーン・ランタン』は黒歴史のようになっています。スーパーマンとかバットマンとかの仲間なんですけれど、大コケして……。もうひどい目に遭うわけですよ。ライアン・レイノルズはものすごくこの“グリーン・ランタン問題”でディスられるわけですね。
ライアン・ゴズリングがブレイクしていく一方で、ライアン・レイノルズはどんどん微妙な感じで落ちていって、ライアン格差がすごい中、ライアン・レイノルズさんは懲りずに「もう一回俺はデッドプールやるわ」って言って自分でお金を出しつつ『デッドプール』に挑むわけですよ。
それで『デッドプール』をやりたいようにやって、成功するわけです。
三原:
じゃあ口の悪いギャグセンス抜群みたいな感じのキャラは自分で?
中井:
そうそう!
今作はDCディスと現代風刺を容赦なくぶっ込んでくる
中井:
もともとアメコミにおけるデッドプールというキャラクターは規格外のキャラクターでして……。
鈴木:
異色だよね?
中井:
コミックの中でも読者に語りかけてくる。
三原:
そうでしたね。ああいうのって何て言うんでしたっけ?
中井:
「第四の壁」【※1】って言うんですけれど。「第四の壁」を越えてくるんですね。そういうちょっとメタ的なキャラなんですよ。だからこの映画でもメタ的なものがバンバン入ってくるわけですよ。通常のマーベル・シネマティック・ユニバース【※2】中で、『アイアンマン』しかり『スパイダーマン』しかり、あんまりそういうことをやらないじゃないですか?
※1第四の壁
フィクションである演劇内の世界と観客のいる現実世界との境界を表す概念。 観客は、観客席からこの第四の壁を通して演じられる世界を見ることになる。
※2マーベル・シネマティック・ユニバース
マーベル・スタジオが製作するスーパーヒーロー映画作品が共有する架空の世界、および作品群の総称。
だけどこの人だけは、いろんなことを超越してくるわけですね。だからライアン・レイノルズの歴史をなんとなく把握しておかないと、この映画の魅力っていうのがよくわからないんです。
鈴木:
DC出身だしな。
中井:
そう。だから「暗いからお前はDC出身だろ?」と言われるわけですよ。
鈴木:
「マーベルじゃないだろう」って(笑)。
中井:
現実世界におけるDCの映画のユニバースとマーベルのシネマティック・ユニバースと比べたときに、マーベル作品はポップで明るいけれど、DC作品は暗いっていうのでヒットしていないよねっていうことで……。
鈴木:
それをいじってる(笑)!
中井:
それをマーベル世界の中でディスってくる。そういう扱いをしてくる。
三原:
すごいな。
中井:
すごく俗っぽいキャラクターなんですね。かつ描写としてはもう本当にグロいことも平気でやってくる。ヒーロー映画だから本当は無茶苦茶にできないじゃないですか。だけどかなり残酷描写を入れてくる。『デッドプール』ではそういうタブーがないんですよ。
鈴木:
異色だからな(笑)。
中井:
そうなんですよ。そういうことをやりまくって1作目が大ヒットしたんですね。下品・下劣なキャラクターなんですけれども。2作目もそれでやってきたんですが、2作目はどんなことをするかって言うと、デッドプールには彼女がいるんですよ。もともとデッドプールは人間の傭兵なんだけれど、人体実験をされて不死身になったキャラクター。
その代わり体が醜くなっちゃって、だからあの服装をしているんですけれども、中身は変わらないからひょうきんなままなんですね。彼女がいるんですけれども、2作目でその彼女から「いい人になろうよ」ということを言われたりするわけですね。
もともと傭兵ですから別にいいも悪いもないんですけれども、ちょっといいことをやろうとするわけですよ。超能力を持ったミュータントの少年がいて、その少年を守ろうとするわけです。一方、未来からケーブルというキャラクターがやって来て、未来のためにその少年を殺そうとする『ターミネーター』的な構図なわけですね。
鈴木:
なるほど。元を断たなきゃということで未来からやって来るわけだな。
中井:
デッドプールはその子を守ろうとするんだけれど、ケーブルがめちゃめちゃ強い。大変なので、これはチームを組もうということで、今回はひとりじゃなく仲間を募って、共に戦うぞっていう話なんですよ。
要は『X-Men』なんです。でも『X-Men』ってメンじゃないですか。でも女性もいるでしょう? 「差別だ!」みたいなことになるわけですよ(笑)。
鈴木:
(笑)
中井:
だから「俺はXメンじゃなくてXフォースだ!」っていう(笑)。
鈴木:
なるほど、メンじゃないぞと(笑)。
中井:
ポリコレ【※】感も混ぜてくる現代批評的な形でいろいろ言ってきたりとかですね。
※ポリコレ
ポリティカル・コレクトネス。「政治的に正しい言葉遣い」とも呼ばれる、政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語のこと。
鈴木:
いい人になろうとしているわけだな。
中井:
主要キャラクターのひとりにタクシー運転手の男の子がいるんですけれども、その子はインド系なんですね。そのインド系もいじったりするわけ。「ポリコレだ!」みたいな。
鈴木:
民族差別だと(笑)。
中井:
そう。いろんなネタを容赦なくぶっこんでくる。