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『ストII』『キンハ』の音楽を手掛けた下村陽子が作曲家になった理由「サウンドクリエイターですって言ってみたかった」

本当は車のディーラーになるはずだった?

大森:
 そして、音大に行かれて。短大ですから2年間?

下村:
 そうですね。音楽短大って言えれば一番簡単なんですけど、なぜか音楽大学短期大学部という名前だったんですよ。なので、短期大学部ということで、2年間。

大森:
 で、普通女性って、短大とかに出ると、割とすぐに就職して、OLさんなんかになったりするんですけど、そこで、どういうスタンスで臨まれたんですか?

下村:
 私、やっぱり進学したかったんですよね。2年ではとてもとてもと思っていたので。もちろん、編入の道もあるので、そこから音楽学部の3年に編入するつもりだったんですけど。

 これ、私、ドラマみたいなんですけど、腱鞘炎になってしまって。

大森:
 痛いんですよね。痛いのと、本当に思ったように指が動かない。僕もこの前なったので。

下村:
 そうなんですよ。基礎練習みたいなもので、“ドレミファソラシド”の音階を弾くんですけど、今度は、“ドシラソファミレド”って下がってくるときに、親指を手にくぐらせなければいけないんですけど、それが被らないんですよね。ばね指って言うんですけれど。

大森:
 本当に自分の意志ではできなくて、ピンと跳ねちゃったりするんですよね。

下村:
 病院に通って、痛み止めの注射を打って、でも、痛みが引いてもコントロールができないのは変わらないので、結局、基礎練習の点数もボロボロですし、「これは編入も厳しいかな」と。ちょっと練習した程度で腱鞘炎にかかってしまうんじゃ、この先ちょっと辛いかな、という。もともと手もそんなに大きくないけれども、自分が弾きたい曲は、手が大きい人向けの曲ばかりだったので。

大森:
 和音が広がった感じの。

下村:
 そうなんですよ。どう考えても子供じゃん、みたいなぐらい手が開かないし、小さいので。好きで続けたいけれども、正直、この先どんなに頑張っても、先が知れているというか。

大森:
 ピアニストとしては、厳しいかなと。

下村:
 そうですね。いくら練習しても、上手い子が同じだけ練習したら、その人にはかなわない。

大森:
 同じような思いをしたことあります。

木本:
 やっぱり通る道ですか。

大森:
 僕は1か月練習した曲を、初見でパッと僕より上手く弾くやつがいたら「これはないでしょ?」という。「僕はここで頑張る人生じゃないな」と思いますよね。

下村:
 本当にそうです。だから私、「自分が弾けないんだったら、誰かに弾いてもらおう」と(笑)。そんな感じですよね。

大森:
 そう思って、どうされたんですか?

下村:
 それで、周りはどんどん就職。私は編入するつもりだったんで、なかなか就職に気が行かなかったんですけど、やっぱりどこか就職しなきゃって、とりあえず受けようって、いろいろ企業説明会に行ったりして。

 それで、最初は車のディーラーに(笑)。

大森:
 車のディーラーの内定をもらったと。

下村:
 最初の内定はそうなんですよ。

大森:
 そうすると、『ストリートファイターII』の曲は、生まれなかった。

『ストリートファイター2』
(画像はAmazonより)

下村:
 車屋さんに就職して、車を運転したかったんですけど、自分でもそんなにお金ないし、とても車を買ってもらえなかったので、「ディーラーに就職したら車好きなだけ乗れるよ」とそそのかされて(笑)。

木本:
 (笑)

下村:
 ディーラーをまんまと受けたら、家に帰ったら母が、「なんであんたは音大まで行って車屋さんなの?」と愕然としていて。 思いますよね。別にうちは、そんな特別に裕福な家庭でもないので、一生懸命両親が働いて。

大森:
 お母さんは発表会にドレスまで作ってあげたのに(笑)。ディーラーなんだという、ちょっとがっかり感があったんですかね。

下村:
 そういうのもあって、ちょっと音楽の仕事を探そうかなと。けど、演奏家じゃない限り、やっぱりできることって先生になるとか、それこそ本当に音楽にかかわっていればいいので、楽譜出版社とかの事務とか、そういうことでも道があるのなら、どこでも音楽にかかわれたらいいな、ぐらいのつもりで仕事を探していたら、音楽の教室の先生になれるということで。

 これで親も一安心……と思いきや、就職指導課というところがあったんですけど、そこの貼り紙を見ていたら、ゲーム会社から3つぐらい求人が来ていて。

入社試験の当日に作ったデモテープでカプコンに入社

大森:
 どういう求人だったんですか?

下村:
 「サウンドクリエイター」の募集ですね。「横文字キター!」とか思って(笑)。なんかわからないけどすごい人そう。「お仕事は何をされてますか?」と聞かれたときに「サウンドクリエイターですって言ってみたい」みたいな(笑)。それでカプコンの入社試験を受けました。

 ただ、大学の先生には「ピアノ科から行くのは難しいよ」と結構止められて。けど、他にも内定あるし「ダメ元で受けてみよう」と受けたら、まさかの採用。

大森:
 サウンドクリエイターの募集だから、作曲した作品を聞かせたりとか。

下村:
 デモテープの提出とかあって、カセットテープにおさめたものを提出しました。当時の録音方法だと、周りの雑音なども拾ってしまうので大変でしたね。そのテープを、入社試験の朝に作って……。(笑)。

大森:
 その日の朝に(笑)? まさか、即興ですか?

下村:
 さすがに即興ではないですけど、授業などでちょこちょこと作っていたものを。

 ただ、ここで問題が発生して。録音を終え、「できた!」となった時に、家の前で道路工事がちょうど始まってしまって(笑)。テープの最後の方に「ドガガガガ」という工事の音と、それに気づいた私の「あっ」という声が入ってしまって(笑)。

一同:
 (笑)

下村:
 「これ大丈夫かな」って(笑)。それに、別にそんなに凝った曲でもなかったし、他に受けてた人も30人くらいいたので……なんだったんでしょうね、奇跡ですかね。

大森:
 どこに引っかかったかは、自分ではわからないんですよね。

下村:
 そうなんですよね。今も“下村節【※】”と呼ばれたりするのですが、それが何なのか私が教えてもらいたいくらいで(笑)。

※下村節
楽曲ファンなどに呼ばれる、下村さんが作る曲群の通称。

大森:
 多分、周りが聞くと「イタい」となる部分も、ある意味、人と違うものがあったから、そこにすごいセンスがあったのではないですかね。最後の「ドガガガガ、あっ」も。

下村:
 (笑)

大森:
 実際、それで合格されたんですもんね。

下村:
 そうなんです。本当に不思議ですよね。

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