動画作りは歯磨きと同じ? 日本一TRPG動画を投稿している“日本語読めない卓”の中の人に“爆速投稿”の理由を聞いてみた
「ニコニコ動画においてもっともTRPG動画を投稿しているのは誰か?」
普段からTRPG動画を見ている方やTRPG動画投稿者であれば、恐らくあるひとり投稿者の名前が自然と頭に思い浮かぶだろう。
※「TRPG」「TRPG」「trpg」タグのついた動画を対象にデータを抽出。8月4日時点のもの。
日本語読めない卓のニコライ・ボルコフ(@nikoraiTRPG)──2015年11月より約5年半に渡り、ほぼ週5ペースでTRPG動画を作り続けている“爆速系”動画投稿者である。
上記の表を見ればひと目でわかるように、ニコライ氏の投稿ペースはTRPG動画というジャンルにおいて群を抜いている。そして、そのペースを5年半以上継続。TRPG以外の動画を含めると、氏がこの5年半で投稿した動画は1700に及ぶ。
TRPGを遊び、その模様を文字に起こし、キャラクターや背景を設定しつつ編集していく。動画の時間や演出しだいだが、動画を作るうえでの労力は決して少なくないTRPG動画。全体で見ても、週に1本のペースで投稿されれば早い部類に入る。
しかし、ニコライ氏はその何倍ものペースで動画を作り出す。そして、そのペースを5年半以上に渡って継続している。
いったい何者でどんな生活をしているんだ???
この疑問に迫るべく、ニコニコニュースオリジナル編集部では、ニコライ氏にインタビューを実施。
「なぜここまで早いペースで投稿し続けられているのか」。ニコライ氏の“爆速投稿”生活についてお聞きした。
また、筆者自身、ニコライ氏の動画を何周もするくらい日本語読めない卓のファンであるため、取材が進むにつれ、TRPGや動画作りを始めたきっかけ、近年のTRPG動画投稿者同士の交流などマニアックな話題にも話が進んでいった。日本語読めない卓のファンは後半パートも楽しみにしてほしい。
取材・文/竹中プレジデント
動画作りは歯磨きと同じ
──TRPG動画を中心に動画投稿されているニコライさんですが、なぜこんなハイペースで投稿し続けられているのでしょうか?
週に1本投稿でも早い部類に入るのに単純計算で週5投稿ペース、しかも普通に仕事をしながら。同じTRPG動画投稿者の方々もニコライさんの投稿ペースはヤバいとよく口にしています。
ニコライ:
もともと家にひとりでいるときは、テレビをずーっと眺めているくらいで何もやることがなかった人間なんです。
それが動画投稿をするようになって、ぼーっとしていた時間に動画を作るようになった。家にいる暇なときにとりあえず動画を作っている感じです。
──家にいるときはとりあえず動画を作る、ですか。
ニコライ:
はい。動画を作らないのは、誰かと夜遅くまで遊んでいたり飲み会があったり、もしくは体調を崩しているときくらいです。
なので、投稿動画の日付を見ていくと、当時のスケジュールがなんとなくわかるんです。この日は飲み会だったなあとかこの日はだれだれと遊んだなとか。場合によっては、飲み会が終わってからでも、体調を崩しているときでも、動画を作るときは作るので一概には言えないところがあるのですが。
──おお……動画を作るってけっこうエネルギーの必要な作業だと思うんです。そこまで投稿し続けられる原動力とは?
ニコライ:
とくに理由はなくて、純粋に習慣化してしまっているのが大きいです。歯を磨く、日記を書くことと同じ感覚なんですよね。動画を作ることが。
──習慣ですか。とはいえ、何年も続けているということは、何かしら楽しかったりおもしろかったりする部分があったり?
ニコライ:
動画を作っているときは“無”ですね。もちろん多くの方にご覧いただけること、コメントをいただけることはうれしいのですが、それと動画作りの原動力は繋がっていない感じはあります。毎日歯を磨くときに、楽しいや辛いと思いながらは磨かないじゃないですか。
──たしかに……。ちなみに1本の動画を作るのにどのくらいの時間がかかっているんでしょう。
ニコライ:
動画を投稿し始めたころは、ひとつの動画を作るのに5、6時間かかっていましたが、作り続けるうちに慣れてきたのもあって、今では1時間半から2時間くらいです。動画の長さにもよるのですが。
──不思議に思っていたんですが、そんなに短時間でTRPG動画って作れるものなんですか?
ニコライ:
僕の場合、演出や編集を入れずに、セッション中の会話をほぼそのまま動画にしているんです。
ですから、作業としてはTRPGを遊んだ時の録音データの文字を書き起こすくらいで済みます。この作業量でしたら、ほぼ毎日投稿できる方も多いんじゃないかなって思います。
日記帳をつける感覚で動画を作ろうと思った
──ひとつの動画を1時間半から2時間で作れるといってもニコライさんって1日に何本も動画を投稿することがあるじゃないですか。1日の最大投稿本数って何本なんですか?
ニコライ:
7本だったかなと。
──1日で7本!? どんな1日を過ごせば動画を7本作れるのか気になります。
ニコライ:
2018年の8月11日なんですが、その日は早起きして体調もよかくて、1日なんの予定もなかった日でした。それに加えて、動画1本ごとの時間も短いシリーズだった要素が重なった結果だと思います。
──なるほど。2015年に投稿スタートしたときから動画投稿ペースじたい早かったですが、なにか狙いや意図はあったんですか? 「たくさん投稿してやるぜー」みたいな。
ニコライ:
なかったですね。動画投稿じたい「セッションの記録をかたちに残したい」と思って始めたんです。TRPGを遊んで、動画にして。それをくり返していただけです。
──「セッションの記録をかたちに残そう」というのは?
ニコライ:
もともと友人グループで遊ぶネタのひとつとしてTRPGがあったんです。最初のうちは遊ぶメンバーが4、5人だったので、遊んだ内容は全員が知っている状態でした。
でもそこから友人グループの中でTRPGに興味を持ってくれる人が増えていって。そうなると、遊ぶメンツも日によって変わる。おもしろいセッションがあったとしても口頭で伝えるしかない。
伝えようとしても時間が経つと自然に記憶は薄れてしまう。なので、記録に残そうと。日記帳をつける感覚に近い感じで動画を作ろうと思ったんです。
ニコライさん(日本語読めない卓)の投稿動画一覧はこちら
──なるほど。動画にすることで、参加していないメンバーもそのセッションの内容を知ることができますもんね。
ニコライ:
それもありますね。 動画を作る前は、TRPGを初めて遊ぶメンバーにはおすすめのTRPG動画のURLを送っていたんですが、自分の作った動画なら友人たちが遊んでいる内容がわかるので、参考になりやすいかなとも。
日記や身内への共有として。そういう意味での動画投稿だったので、どんどん投稿していかないと動画化したいセッションのストックが溜まってしまうんですよね。
──ニコライさんってどのくらいのペースでTRPGを遊んでいるんですか?
ニコライ:
いまはオンラインで遊ぶので実際に集まるわけではないのですが、だいたい週に1、2回集まって遊ぶペースです。1回集まると2、3セッションくらい遊ぶことが多いですね。
遊びだしたころは、それに加えて、誰からの家に泊まったときに「やることないしTRPGでもする?」みたいな感じで突発的に遊ぶことも多かったです。
──毎週それだけ遊んでいると、すべてのセッションを動画化するのは恐らく物理的に不可能じゃないですか。動画にするうえでの条件みたいなものってあるんでしょうか。
ニコライ:
録音データが必要なので、僕が参加しているセッションが大前提で、純粋にやっていて楽しかったものを動画にしている感じはあります。
現在、動画にしているシリーズが241(取材時点で)で、ざっくりとした体感で動画化率は50%くらいなんですよ。ですから録音をはじめてから500セッションくらいはしてはしている計算になります。
──実際に数値で表すと、めちゃくちゃ遊んでますね……。
ニコライ:
遊ぶペースじたいは高くないと思うんですが、何年も遊んでいるので数もそれなり積み重なってきてはいます。
ただ、ずっと遊んでいると、セッションをするためのシナリオがなくなってしまうこともあって。
──と言いますと?
ニコライ:
公式シナリオやネットで入手できるシナリオの数には限りがあるので、毎週遊んでいると尽きてしまう。そうなると、TRPGを遊ぶために自分たちでシナリオを作らざるを得なくなったり。
──自給自足しないと遊べない。
ニコライ:
そうなります。シナリオがないとTRPGが遊べない。じゃあ自分たちでシナリオを書こうと。
(画像は「誤読忍道帖」より)
──それだけ数多くのセッションを遊んで、たくさんの動画を作ってきたわけですが、動画投稿をするうえで「ここだけは大事にしている」ポイントがあったら教えてください。
ニコライ:
ありがたいことに多くの方に見ていただけているんですが、動画のためにセッションはしたくなくて。あくまで友人同士のセッションで楽しかったものを記録として動画を残すスタンスは変えたくないと思っています。
ですから、身内じゃないと伝わらないような会話やネタもそのまま残して動画にしています。視聴者に伝わらないからという理由でカットはしない。そこは意識している部分ではありますね。
知識ゼロで始めたTRPGはボードゲームのように遊んでいた
──2015年からTRPG動画の投稿を始めたニコライさんですが、TRPGじたいはいつころから遊ぶようになったのか、TRPGの世界に足を踏み入れたきっかけについて教えてください。
ニコライ:
実際にTRPGを初めてプレイしたのは2012年くらいです。
その数年前に、友人から「TRPGを遊んでみない?」と誘われたことがあって。そのときは結局流れてしまったんですが、数年後、別の友人とクトゥルフ神話のことを話しているときに「そういえばTRPGにクトゥルフというジャンルがあったなあ」と、誘われたときのことを思い出したんです。
僕自身、クトゥルフ神話が好きだったこともあり、ルルブ(ルールブック)を買って、友人を誘って遊んでみたのが初めてのTRPGでした。その誘ったメンバーがいまもいっしょに遊んでいる日本語読めない卓のメンバーでもあります。
──もともとクトゥルフ神話を知っていて、そこからのTRPGだったんですね。クトゥルフ神話じたいはいつころ知ったんですか?
ニコライ:
『デジモン』や『ウルトラマンティガ』など、クトゥルフがモチーフになっているものが登場する作品を見て、存在じたいは小さいころからなんとなく知っていました。
それらが気になって、高校くらいのときに「ラヴクラフト全集」を買ったのが、クトゥルフ神話への入り口だったと思います。
──読んでみた感想ってどうでした?
ニコライ:
おもしろかったです。ただ、読んだことがある人ならわかると思うんですが、和訳に癖があって、読み進めるのに苦労した記憶があります。
──ふむふむ。そんな好きだったクトゥルフ神話のTRPGで、最初に遊んだときのことって覚えてらっしゃいますか?
ニコライ:
初めて遊んだのは、買ったルルブに載っていた「ストラフトン山の火」というシナリオでした。
当時、僕含めて全員がTRPGの知識ゼロで始めたこともあって、ボードゲームと同じような感覚で遊んでいましたね。ロールプレイの概念も知らず、淡々と「つぎ、こういう行動をします」と宣言して進行していく感じの。
戦闘の難易度が高くて、途中でたくさんの敵との戦闘がある場面では、全滅しては少し前に戻って死と再生をくり返していました。ゲームだからセーブ&ロードはいけるだろうと。
──いわゆる一般的なTRPGの遊びかたとは異なるスタイルですね。
ニコライ:
TRPGというものがなんなのかわからないまま、手元にあるルルブだけでとりあえずやってみる。そんな状態でした。
僕がGM(ゲームキーパー)をやったんですが、分厚いルルブの情報を全部頭に入れるのは難しくて、セッションしながら都度都度ルルブを見て進めていく感じでした。
──何がきっかけで、TRPGの遊びかたを知ったんでしょう。
ニコライ:
その後もクトゥルフ神話のシナリオを何回か遊んでいったんですが、いまいちピンときてなかったんですよね。そんなとき、ニコニコ動画で検索してみたらTRPG動画が出てきて。
──おっ、そこで動画が出てくるんですね。どの動画をご覧になったんです?
ニコライ:
BGBさんの「本当にあったSAN値が下がるクトゥルフTRPG」やファミキチさんの「慧音「フリーダムってレベルじゃねぇぞ!」」あたりを見ました。それらの動画を見て「なるほど。TRPGはこう遊ぶのか」と気づいた感じです。