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【猪瀬直樹×東浩紀×夏野剛】トランプが勝ったので言いたいこと言ってみた 「アメリカ人は自分を承認してくれる強い父を求めていた」

人間はマッチョが好きな生き物

東:
 戦争はよくわかりません。起こる可能性も高くなって来てると思いますが、他方いまのグローバル経済下では20世紀前半までのような国民国家間の戦争はそうそう起こらないようにも思う。前者の質問に関して言うと、結局人間っていうのは動物なわけで、強い筋肉質のマッチョな男が若い女をウハウハ言わせているというのが好きなんですよ。ほんと、うんざりするけど、驚くべきことにそうなんですよ。僕はむろんそんな価値観は屑だと思いますよ。でもそれが現実なわけ。この問題を直視してないのがリベラルの問題だと思う。いまそれがそのままストレートに政治に反映され始めてる。それが問題ですよね。

猪瀬:
 今いろいろ複雑になってるからね。トランプがわかりやすい明快な言い方をするってことだよね。それはマッチョだって東は言ったけど、それはそうかもしれないが。わかりやすい明確な言い方をしているように見えて実は本当よくわからないんだけどね。

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東:
 言い方だけじゃないと思いますよ。スーパーモデルの奥さんもらうとか、生き方全部がそうでしょう。金持ちで、身長が高くて、若い女を手に入れてっていう。

夏野:
 4回結婚してるぜみたいな。

東:
 今なんでマッチョなリーダーがうけてるかっていうと、SNSの問題もあると思います。行動の前にワンクッション置いて、「こいつマッチョだからかっこいい」と思っても、「いやいや政治ってそういうもんじゃないよね」っていうのが昔はあった。ところが今は本能がバッとソーシャルにつながってしまう。

猪瀬:
 ストイックかどうかなんだよ。つまり私はここに集中してますよっていう、そういうストイシズムが女の魅力なのよ。リーダーっていうのはどこかでストイックな影がないとダメなんで。

夏野:
 ただ一種プーチンにしてもトランプにしても、既成概念による抑えっていうのがない。これはジョブスと似てるなと思ってて。ジョブスがあんなに崇拝されるのも同じで、いろんなことに悩みながら抑えながら生きてる俺たちに対してもう吹っ切れてる。

猪瀬:
 メディアっていうのも1つの情報の階層なんだよね。だから朝日新聞に書いてあるから正しいとかニューヨーク・タイムズに書いてあるから正しいとかっていう序列があって、そういう中で自分の考える幅を広くしなくて済んできたわけよね。それが既成のメディアがどんどん崩れていく中で、自分で全部判断するって難しいから。

東:
 そういうマッチョな男がモテるっていう、すごい原初的なところに僕たちの世界は戻りつつある。民主主義は、最終的に政策論じゃなくてそうなっちゃったってことですね。

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もしかしたら面白いことが起こるかも

夏野:
 でもトランプになって知識階層はみんな悲観的になってるんだけど、もしかしたら面白いことも起こるかもしれないし悪いことも起こるかもしれない。

東:
 面白いって言ったらすでに大変面白いことになってますよ(笑)。

猪瀬:
 これは石川啄木が言ってたんだけどね、面白いことないかって言い始めたら不吉な状況なんだけど。

夏野:
 それになっちゃったんだな。で、今は面白い。

猪瀬:
 実際クリントンじゃ面白くないんだよ。

東:
 今日はすごく面白い1日ですよ。そもそもクリントンが勝ってたら俺なんてここ呼ばれない。

夏野:
 っていうかこの番組が成立しないよ。だって企画がさ、夕方の5時とかから始まってるんだよ。

猪瀬:
 不吉を求めてるっていうところが、三島由紀夫もそういうこと言ってたわけでね。そういうものの中に何かがあると。それは動乱の予兆みたいなものだけど、逆に平和は息苦しいっていう言い方があるわけで。

政治学者は今回の米大統領選は語れない

東:
 一番最初に言ったけど、今回は当然政治中の政治の話だし、たしかにこれによって政治が動くんだけど、本質は政治じゃないような気がするのよね。

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猪瀬:
 さっきから言ってるじゃん、祝祭空間だって。

東:
 そうそう。だから本質は文学とかに近い。そこが本当に厄介なところですよ。実際に起きてるのは政治なのに。

猪瀬:
 東や俺がここで今分析してるのはそういう話じゃん。

夏野:
 政治というのはやっぱり社会の鏡なんだよ。

東:
 逆に政治学者は語れないかもしれない、今回の問題は。

夏野:
 テクニックの話になっちゃう。

東:
 学者が語れない状態が起きちゃった。

猪瀬:
 だからこういう面子でやってるわけで。

夏野:
 なんか政治学者っていなくなったね。いわゆる権威的な人はいないじゃん。

猪瀬:
 東大法学部の教授みたいな?

夏野:
 よくいましたよね、政治学者って。

東:
 そういう人たちは今回は難しいでしょうね。それは間違いないでしょう。

夏野:
 政治学者っていなくなったね。呼ばれなくなった。

猪瀬:
 啓蒙主義じゃないのよ、世の中は。

コンプレックスを処理しないことで勝利したトランプ

東:
 最後に言っておくと、多数派のコンプレックスをどう処理するかっていうのが、これから政治技術としてすごい重要だと思うんですよね。

夏野:
 重要になるね。

東:
 それをちゃんと認識しないと。

夏野:
 しかしトランプは敢えて処理しないことで成功した。

東:
 トランプという政治家にとってはそれでよかったわけだけど。

夏野:
 政策実行にあたってはそうはいかないね。ということで、この番組の終わりは、津田くんに対してエールを送る。

猪瀬:
 鳥越俊太郎で挫折して、またクリントンで挫折して。

夏野:
 頑張って津田くん、ということでこの番組を締めたいと思います。どうもありがとうございました。津田っちがんばってー。

東:
 津田、がんばれよー。俺は今日、頑張った。トランプ支持二人の前で頑張った、俺は!

猪瀬:
 はい。さようなら。

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