『進撃の巨人』が父で『鬼滅の刃』が母? 読者が言ってほしい“魂の叫び”を主人公がストレートに発する超ヒット漫画の共通点
諫山創氏による漫画『進撃の巨人』は、『別冊少年マガジン』で連載され、テレビアニメ化や劇場映画化も果たした大人気作品。2022年1月からは『TVアニメ「進撃の巨人」The Final Season』の放送も始まり、クライマックスに向けて、益々盛り上がりを見せています。
ニコニコ生放送「山田玲司のヤングサンデー」にて、漫画家・山田玲司氏は、諫山創氏によって描かれた巨人や登場人物にどのような意味が込められていたのかについて解説。
さらに、吾峠呼世晴氏による漫画『鬼滅の刃』と正反対の要素や、共通している部分に関しても言及しました。
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第216回 「進撃の巨人」徹底解説wall.1〜胸を打つ“新現実主義世代のロックンロール”
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■現代日本をダークファンタジーの世界観で描く『進撃の巨人』
山田:
『進撃の巨人』は、まず謎の巨人が侵略してきて人間が食べられてしまうところが特徴的ですよね。そして、電気と魔法がない世界という点も大きなポイントだと言えます。「ここがいいな」とすごく思います。
『進撃の巨人』より前の世代はデジタルが偉いと思っているので、やたらと電脳的なものをやりたがっていました。それに対して、諫山さんの世代からは、デジタルなものがダサいという認識があるのかもしれません。
たとえば『鬼滅の刃』もクラシック(古典的な)ですよね。世代が進むにつれてどんどんクラシックなものになっていく流れが『進撃の巨人』あたりから始まっていったと思います。
後は「魔法一発」、「気合一発」みたいなものに対する冷ややかな目線があって、非常にクールです。登場人物が巨人化してしまうという1個のウソをのぞけば、残りは整合性を持たせるために細かい設定が作り込んであります。
実際にあるとするならばという領域まで徹底的にリアリティを作ったうえで、ウソを排除しています。
そして、私は『進撃の巨人』を、象徴主義の作品だと思います。作中に登場するものすべてに意味があって何かを象徴しているという点においての象徴主義なんですよ。
つまり、物語の中で裏側にいくつもの意味があって、非常に奥行きがある。ものが1個登場するだけで、その意味を考えさせられる仕組みになっているんです。
奥野:
もはや、ミステリーのやり方ですよね。
山田:
そうです。これはもう完全にミステリーです。設定を細かく作りこんでいって、隠す場所と見せる角度を演出していく……。
奥野:
演出力がすごいなと思います。
山田:
でも、もともとは演出力がなかったらしいです。有名な話ですが、最初に巨人が顔を出すシーンはカメラワークが違っていたので、描き直したそうですよ。人生をかけた見開きだからと。
そこも巨人が出てくるときに、一番びっくりするような演出とカメラワークをこだわって描いているのがすごいなと。
そして『進撃の巨人』が何を象徴しているのかといえば、明らかに現代日本を指しています。
つまり、これは現代日本論なので、『進撃の巨人』は現代日本をダークファンタジーとして描いているということになります。諫山さんが物心ついてからの日本について、辛辣にえぐってきますよね。
ただ、いまの日本の固有名詞を使って、何党がどうとか、政治家の誰々、どこどこの企業と言ってしまうと、コンプライアンス的に問題があって使えません。だからファンタジーにして、象徴したものをそれぞれ描いていくので非常に面白いのですが、そのぶんだけ辛辣でもあります。
日本人とは何か、戦後日本とは何か、といった難しい話をダークファンタジーの中でやっているのが『進撃の巨人』だと私は思いますね。そして、そう読むとおもしろいんです。
■本音を伝える諫山氏のロックンロール精神
山田:
現代日本論に加えて、『進撃の巨人』は本音絶叫ものでもあります。諫山創の魂の叫びが描かれているうえに、いまの若者全体の叫びにシンクロしているので、ここがみんなの心を鷲づかみにしたんだろうなと。「これを言ってほしかったんだ」ということを遠慮なくガンガン言っていきますから。
久世:
しかも、その内容は現実主義ですよね。
山田:
それにエモくないんです。だから、この後にデビューする3歳年下の吾峠呼世晴さんは『鬼滅の刃』で、エモく情緒的で母性的にいきますが、『進撃の巨人』は父性的な魂の叫び、本音を絶叫する漫画です。
さらに『進撃の巨人』が最初に描かれたのは、諫山さんが19歳のころですからね。はっきりと本人が言っていましたが、19歳の男子からすれば世の中の人々が恋愛などに浮かれているのがバカに見えると。
つまり、「ちょっと待てよ。現実に何が起きているのか考えろよ。愛だの恋だのばっかじゃねえだろう」という主張です。社会派で孤独な男の魂の叫びを容赦なくやる……。大人になったら遠慮するような部分がないんですよ。
だから、絵柄が荒れているのも、ギターエフェクターのディストーションでフェンダー直結なんですよ(笑)。
奥野:
それをディストーションと呼ぶなら、そうなんでしょうね(笑)。
山田:
ディストーションがかかっていて、それがこの作品のよさであり、パワフルな若者のロックンロールそのものなんです。
そして、ロックンロールといえば、ムーンライダーズの「DON’T TRUST OVER THIRTY(ドント・トラスト・オーバー・サーティーン)」じゃないですか。タイトルの意味は「30歳以上は信じるな」。「ジジイを殺せ」ってやつですよ。
諫山さんには基本的には怒りがあって、序盤に登場する3人のキャラクターに象徴されています。
奥野:
この3人の物語といっても過言ではないですよね。
山田:
3人とも悲しみは抱えていて、そこにエレンの場合は怒りが行動原理になっています。エレンは常に怒っている。
アルミンは様々なことに恐れや不安を抱き、泣き虫なんだけども克服しようと思ってがんばっていく。
諫山さん自身が語るところによれば、彼の感情はアルミンに一番近かったそうです。ただ、物語が進むにつれて、自分の中にエレンがいたことに気付いたともインタビューの中で言ってますよね。泣きながらがんばる男アルミンというのは、当時の諫山さんの気持ちだったのではないかと思います。
最後にミカサの静かなる決意です。この人は悟っていて、決意した女なので非常に強いんです。
■『進撃の巨人』は父性、『鬼滅の刃』は母性がこもった作品
山田:
『進撃の巨人』のエレンに比べて、吾峠呼さんが描いた『鬼滅の刃』の炭治郎は、母性が入っているから優しいんです。そして炭治郎たちは、いがみ合っていません。
炭治郎は疑うこともあまりなく、ひどいこともほとんど言わないので、そこは吾峠呼さんの母性に由来しています。しかし、魂の叫びを発するという点でふたりは共通しています。
そんなふたつの作品がヒットした理由としては、ふたりの主人公が本音をとにかくストレートに発するので、読者が言ってほしいことを口にしていたからなんです。
奥野:
時代の代弁者というか……。
山田:
『進撃の巨人』には父性がこもっていて「現実でなんとかしなければいけないんだよ」ということを言ってくる。そして『鬼滅の刃』には母性がこもっているので、許しがあって受け入れてくれるわけですよ。
つまり、いまの中学生がこれらの作品を読んだときには、お父さんとお母さんを見ているのと同じことになるんです。
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