『ダイダイダイダイダイキライ』制作秘話を雨良が語る「バックコーラスをSNSで募集していた」【はじめて聴く人のためのインタビュー】
人気ボカロPの曲をプレイリスト化し、そこから本人へ様々な話を伺うインタビューシリーズ。今回は今まさに、シーン最先端でホットな話題も満載のボカロP・雨良さんが登場!
YouTubeでは4000万回再生越えを記録し、まさに「2025年を代表する1曲」となった「ダイダイダイダイダイキライ」。ボカコレ2025秋への投稿から、時間差で海外圏へも人気がじわじわ拡大する「ジィガ」。そして直近の無色透名祭3では、“貫通”も話題となった「ユニークエンド」など。
その作風の多彩さはボカロP活動以前から続く、彼の職業作家としての一面も大きく影響しているようだ。
そんな雨良さんのルーツや最近気になる音楽、そして“仕事で音楽を作る”ことに関するエピソードなど。インタビューでは様々な角度から、その人となりを紐解く話が盛りだくさんとなった。ぜひ楽曲とあわせて、最後まで本記事を楽しんで欲しい。
取材・文/曽我美なつめ

■ 職業作家とボカロP、「職人」と「表現者」の使い分け
──雨良さんは元々、幼い頃はクラシックピアノを習われてたんですよね。
雨良:
そうですね。なので逆に中学生ぐらいまで、実はちゃんとポップスを聴いたことがなくて。小学校の卒業文集でみんなが好きな曲を書く欄に、僕だけショパンって書いたんですよ。周囲の子はGReeeeNの「キセキ」とかHilcrhymeとか書いてるのに(笑)。中学に上がった頃ようやくいろんな音楽を聴くようになって、その中でボカロとも出会いました。一応ルーツになるのはsupercellさんかな。ピアノがメインの曲も多かったので、そこで影響されて少しずつ聴くようになった形です。
──ちなみに、ピアノを習い始めたきっかけは覚えてます?
雨良:
近所の仲のいい女の子がやってたからですね(笑)。よく一緒に遊ぶ子だったんですが、その子が家庭教師みたいに自宅に訪問してくれる先生に習ってて。親に「やってみる?」って聞かれて「うん、やる」って何も知らない4歳の僕が首を縦に振って始めたんです。両親も音楽をやっていたとかはなく、普通の会社員でした。
──その後、高校からはバンドにも興味を持ち始めたと伺っています。
雨良:
高校に入学して軽音部に入って、そこでバンドを始めました。最初は当然コピーバンドで、RADWIMPSとかONE OK ROCKとか王道なバンドの曲をいろいろやって。高校3年に上がった頃にオリジナルバンドでも活動しようと思い、それがきっかけで作曲を始めたんです。なので当時はDTMも使わずに、バンドメンバーと一緒にスタジオ入って「どうしようか」「こうしようか」とアナログに曲作りをしてました。
その後高校卒業時に進路を考えた際、シンプルに「働きたくないな」とも思って(笑)……。バンドで本格的に活動しつつ地元福岡の音楽系の専門学校を選んだんです。そこで何を学ぼうか考えた時、「ピアノは小さい頃からやってるしな」と思って、バンドの制作に生かすための作曲を習おう、と。作曲コースで商業作家のカリキュラムを受けたら、バンド活動と並行しつつも先にそっちでちょっといい感じに芽が出まして。当時20~21歳ぐらいの頃ですね。ただその頃、同時にバンドが解散してしまったのもあり、結果そこから完全に一旦作曲の方に振り切って今、という感じです。
──ボカロのルーツについてももう少し訊かせて下さい。最初に曲を聴き始めた入口がPSP、という話も拝見しましたが。
雨良:
そうなんです(笑)。家のPCが当時まだスペックもあまり良くなくて、近所で唯一Wifiが飛んでいる電気屋さんにPSPを持ってってネットを楽しんでました。家にノートパソコンが来てからは、PCを電子ピアノの上に置いて、当時流行ってた曲のコード進行を片っ端から調べて全部メモして、「コード進行頻出ランキング」的なものを作ったりして。数百曲~千曲弱ぐらい聴く中で、当然好きなジャンルや聴く曲も偏って来るんですけど、その中にボカロやアニソンが結構多かったんです。その流れで自然とボカロを聴くようになりましたね。
具体的な曲だと、ryo(supercell)さんの「ワールドイズマイン」や「メルト」、それこそ「君の知らない物語」も当時聴いてたかな。あとはiroha(sasaki)さんの「炉心融解」とか。それと今思い出したんですけど、当時の僕、音ゲーが結構好きで。『Project DIVA』をめちゃくちゃやってたのもきっかけのひとつかもしれません。「Tell Your World」とか、あとはゲームのテーマソングだった「積乱雲グラフィティ」、「ODDS&ENDS」も好きで、直近のDJ出演でも流したりしたんですけど。今思うと、やっぱりryo(supercell)さんの影響はかなり大きいですね。
──そこから、ボカロは今までずっと聴き続けてたんですか?
雨良:
いや、バンドにのめり込んでた時期は一旦離れてました。その後専門学校に入ってから、作曲の勉強の一環でいろんなジャンルの音楽を聴かないといけなくて、その時に改めてボカロ曲を聴いて「面白いな」と思ったんです。ちょうど18、9歳の頃にフューチャーベースにハマってて、*Lunaさんの「Heal Me」を聴いて「ボカロにもフューチャーベースの曲があるんだ!」って思ったのをよく覚えてますね。
──なるほど。その後ボカロPとしてのデビューが2019年なので……。
雨良:
専門学校に3年通って、その卒業直前の2月が確か初投稿なんです。ちょうどその頃、続けてたバンドも解散してしまって。ボカロPあるあるだと思うんですが、バンドが解散して自分一人でじゃあ何やろうかな、と考えた時に「自分じゃ歌えないからボカロに歌ってもらおう」となったパターンですね。
──そこから、お仕事とボカロ曲の制作もずっと両立しているんですよね。
雨良:
そうですね。ある種仕事では出し切れない自分のやりたい事をボカロ曲で発散させている感じです。商業作家は依頼があった上でそこに沿って楽曲を作るので、当然100%こちらの自我・エゴは出せないというか。元々バンドもやっていたし、どうしても自分のアーティストの一面がうずうずすることもあるんです。そこで上手い具合に自分の好きな事をやれる場所として“ボカロP・雨良”がある、というか。
──「表現者」と「職人」は全然違いますもんね。
雨良:
全然違いますね。使う脳みそが違うので。ある種、人格が二つあるようなイメージなんですよ。そこの切り替えがずっと課題というか、悩みでもあるんですけど。当然お仕事の制作は、自分が本当にやりたいジャンルではない時もあって。ただそれはネガティブな意味でなく、なんというか……“勉強”も含めてやってる感覚ですね。商業の中で培った要素やインプットを「今回の仕事には使えないけど、ボカロ曲で取り入れたら面白そうだな」と転用することもよくありますよ。
僕自身が飽き性で興味がどんどん移り変わるので、本当にいろんなジャンルの曲を作りたくなっちゃって。でもその引き出しの多さや、逆にこれという固定ジャンルがないのが自分の武器だと思ってます。特定のジャンルやアーティストでなく、“音楽そのもの”が好きなので。
──加えて、雨良さんはとにかく制作の“手が早い”という強みも各所で伺っています。1曲の制作所要時間は大体どれぐらいですか?
雨良:
直近でマジカルミライ公募作として投稿した「天上天下唯我独Song」は、楽曲単体で全部含めて3日かな。クリプトン組6人のボーカル制作に少し時間を取ったんですけど、ソロボーカルなら下手すると1日で作れる時もありますね。
──作詞や作曲のメロ・オケ作り、ボーカルの打ち込みや編曲も含めてですか?めちゃくちゃ早くないですか?
雨良:
そうですね(笑)。ただ、最初のアイデアのフックが掴めない時はもうずっと出来ないというか。そういう意味では、そこまでの「作業をせずに考える時間」の方が長いかもしれません。
──そのフックは何になる事が多いですか?詞が先行なのか、音が先行なのか。
雨良:
曲によるんですよね。作る時は大きくわけて歌詞・メロディー・オケの3つで考えてて、それぞれのゼロイチが思いついた時にできる、授かりものというか。なのでここから作る、みたいなのは逆にないですね。
──例えば、「メロディーはできたけど歌詞が全然思いつかない」、みたいな事は……。
雨良:
あー、それはないかもしれないです。どれかひとつが出来たら他の部分は頭の中で鳴ってたりするので。どこかのゼロイチが掴めたら、他も芋づる式に出てきますね。それでいくと、僕は結構オケ先行で進めがちかもしれません。インストを先に作るというか。何もない所から考えるのは大変ですけど、あの……“音”ってカッコイイので(笑)。自分のモチベーションを上げるために先にかっこいいトラックを作って、そこに何を乗せようか考えてると上手くいくことが多いかもしれませんね。
■ 「ダイダイダイダイダイキライ」一大バズの理由は○○と○○?
──今回のリストからは、まずやはり「ダイダイダイダイダイキライ」のお話を伺いたくて。この曲がここまで大きく広がることは予想してましたか?
雨良:
予想はまったくできなかったです(笑)。でもこの曲は、事前に「ちゃんと売り出そう」というプロモーション計画も立てていて。曲自体も、実は投稿の1年前ぐらいにはすでに出来てたんです。なのでもちろんバズを狙ってはいましたけど、予想の数十倍、数百倍広がってくれたんで、それはやっぱり嬉しかったですね。
──バズを狙うために、具体的にはどういう仕掛けを施したんです?
雨良:
トレンドに沿ったMVは絶対作りたかったんです。狙ったな、と思われること自体は別にいいんですけど、あまりにも狙いすぎて作品自体が変な方向に行くのは避けたくて。そのバランス感のちょうどいい所で、MVを暗闇まよいさんにお願いした経緯がありました。シンプルに作風も元々好きでしたし、描くキャラクターの等身具合やタッチが曲との相性も良さそうだったので。
あと曲に関しては、実はバックコーラスをSNSで募集してたんです。曲名は出さずに去年の12月頃Xで募集してて、結果的に40~50人ぐらいの方が協力してくださって。別にやましい気持ちとかはなく、シンプルに「ココを大勢で歌ったらかっこいいな」と思ったんです。結果的に参加して頂いた方が拡散源になって下さったのも、変な話バズに繋がった一因かもしれません。
──そういった手法を取ったのも、この曲が初めてですよね?
雨良:
そうですね。昔、ニコニコで歌い手さんのリレーや合唱動画の文化が流行ってた時があったじゃないですか。あれ、ちょっといいなって思ってて。その真似ができないかな、と思ったことが、このコーラス募集の発端でしたね。
──重ねてリストの中で特に思い入れのある曲や、自分のターニングポイントになった曲などはありますか。
雨良:
思い入れのベクトルがそれぞれ違うので悩ましいですが、強いて言えば「なりきれない」でしょうか。僕が元々バンド出身なので、それまではバンドサウンドを主軸に曲を作ってたんですが、「バンドサウンドじゃなくてもやれるかも」と殻を破れたというか。それまではDTMでも人間が演奏可能な範囲で打ち込みをしないといけない、と思い込んでたんですが、エレクトロだと演奏不可能なことも全然やってるな、と思って。それ以降かなりEDMな作風に切り替えたんですが、自分の作品に対する認識のスイッチャー的な、固定概念を取っ払ってくれた曲でもありますね。
──重ねて、さらにもう一歩ボカロをディープに聴いて欲しい方にオススメするならどの曲でしょう。
雨良:
入口として聴きやすいのは「アリフレーション」かな。それこそ「ダイダイダイダイダイキライ」で僕を知ってくれた方も多いと思うんですが、「この2曲作ってる人一緒なの?全然作風違うやん」って言われることも結構多くて。でも、それがボカロの良さだと思うんです。一口にボカロというジャンルの中にも、音楽のジャンル自体はいろんなものを取り入れてるじゃないですか。この2曲が、僕の中での二極化の象徴という感じもあって。平成の頃の往年のボカロっぽさも感じつつ、最近のボカロ曲ってこんな感じなんだ、を知ってもらう意味でも「アリフレーション」はいいと思いますね。
──先ほど雨良さんは「特定の音楽ジャンルより音楽そのものが好き」というお話もありましたが、その点でもボカロの土壌・文化はとても居心地の良いものなんだろうな、と思います。
雨良:
そうですね、何やってもいいと思ってるんで(笑)。それこそ最近だと、「ジィガ」は民族楽器まで持ち出してますしね。これもひとつ転換点になった曲かもしれません。「ダイダイダイダイダイキライ」のヒット以降、ボカロ曲を作る際に「大衆向けの要素を何か入れた方がいいかな」って結構思い悩んだ時期があって。僕の中でも無意識に基準が上がって、「ダイダイダイダイダイキライ」超えを自分の中で勝手に目指してたんです。でも一周回って振り切ったというか、「やっぱり好きな事やろう」という所に立ち返れたのが、この「ジィガ」だと思います。なのでそれが、今までやったことのない曲の要素にもいろいろ映されましたね。鏡音リン・レンを使ったり、民族楽器を取り入れてみたり、歌詞にはアラビア語まで使ってますから。
──あとは今回のリスト外の曲ですが、直近の「無色透名祭」で“貫通”が話題になった「ユニークエンド」のお話も個人的に少し伺いたくて。あれはずばり、リスナーさんに「見つけてもらいに行った」曲でしたか。
雨良:
そうですね。あれはいわば“僕の現在地”を知りたくて出した曲でした。「ダイダイダイダイダイキライ」があれだけ広まったのは嬉しかったんですけど、曲の作者=雨良がちゃんと皆に結びついてるのか、とずっと思ってて。曲だけが独り歩きして広まってる状態だと、僕自身は認識してたんです。でも「ユニークエンド」のおかげで、「あ、「ダイダイダイダイダイキライ」だけじゃないのか、俺」って改めてちゃんと思えて。あの曲は正直バズとは程遠い造りですけど、それでもどれだけの人が“雨良”を見てくれるんだろう、と思って作った曲でした。あとは先述の「アリフレーション」のセルフアンサー的な位置づけもあるというか。あの曲が自分を持ち上げてくれたもののひとつなので、曲へのお礼のような気持ちも込めて書いた曲でしたね。
■ “音楽そのもの”が好きだからこそ、音楽をマルチに楽しみたい
──ここからは少し、雨良さんのパーソナルな部分もお話を訊けたらと。ボカロ以外の音楽ですと、幼少期以降はどんなものがルーツになるんです?
雨良:
それこそオリジナルでやってたバンドは、ポストロック・マスロックというジャンルで。the cabsとか、あとはアメリカのバンド・CHONの「Splash」っていう曲も好きだったんですよ。変拍子ゴリゴリマシマシの曲、みたいな(笑)。あとはポエトリーのある曲なんかも当時から好きで。
──the cabsなんかは特に、直近も雨良さん的にはかなりアツいですよね、きっと(笑)。
雨良:
復活、めちゃくちゃアツいですね(笑)!ただ最近の福岡公演は抽選で落ちちゃって行けなかったんですよ、残念なことに……。the cabsもですけど、それこそ昔は福岡のバンドシーンでマスロックがかなり熱い時期もあって。その中から比較的ポップめな、神はサイコロを振らないとかユアネスが一歩飛びぬけてメジャーに行ったな、という認識なんです。その辺りの福岡発のバンドに、僕もやっぱりかなり感化されましたね。
──直近ですと、どんな音楽を聴いてますか。
雨良:
いくつか挙げるなら、まずは玉置浩二さん。最近改めて楽曲を聴いて、「メロディーがめちゃくちゃいいな」と改めてその良さに立ち返ったりしましたね。2つ目はちょっと友達贔屓な所もあるんですけど(笑)、福岡にクレナズムというバンドがいまして。友人であることを抜きにしても本当に大好きなバンドで、1分超のイントロがある曲を作ったりする、いい意味で時代に逆らってるシューゲイザー系のバンドです。
それとKroi。この前も「THE FIRST TAKE」に出たり、今度武道館も決まったので、知ってる人も多いと思うんですけど。バンドサウンドとファンクな雰囲気が合わさった感じや、ラップの言い回しもすごいカッコイイですよね。あとは海外のだいぶインディーな方なんですけど、Beabadoobee(ビーバドゥビー)。アルバムをイチから最後までノンシャッフルで全部聴くぐらい大好きです。
──メジャーからインディーまで、本当にお詳しいですよね。リスナーさんの興味も広がると思います。重ねて、ボカロに関してはいかがでしょう。最近気になる方やお好きな曲などあれば。
雨良:
higmaさんの曲、全部好きなんですよね。「echo」はもう言わずもがななんですけど、僕は「スカイライン」も好きだな。あと、最近DJで絶対流すのはひらぎさん。ボカコレルーキーで優勝した「マリオネットダンサー」も人気ですけど、「天国」もいいんですよ。今の時代だからこそ、コテコテのバラードが僕すごい好きなんです。
近しいムードの曲だと、rinriさんの「待ってて、彼岸で」もめちゃめちゃ良くて。あと、一貫して近年ずっと好きなのは椎乃味醂さん。つい先日出た2枚のアルバムももう本当にかっこよくて……毎日聴いてます(笑)。
──ジャンルの多彩さからも、“音楽そのもの”への愛がとてもよく伝わりました。最後に、今後の活動の抱負を伺ってもよろしいですか。
雨良:
僕個人としては、いい意味でカテゴライズされない人間になりたくて。それこそ雨良=ボカロP、ではない部分も今後もっとやっていきたいというか。
──それは例えば、外部への楽曲提供とか?
雨良:
それもですし、最近実はちょこちょこセルフカバーも始めてて。一アーティストとして、自分でも歌うしボカロ曲も作るし楽曲提供もするし、好きな事をいろいろ幅広くやっていけたら。マルチに“音楽そのもの”を楽しみたいですね。
■Information
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