『アリスのマジカルハッピーワールド』制作秘話をボカロP 夏山よつぎが語る「大阪へ旅行した時に見た景色から着想を得た」【はじめて聴く人のためのインタビュー】
様々なボカロPの人気曲をプレイリスト化し、それを元にお話を聴く本企画シリーズ。
今回のインタビューに登場してくれたのは、現在シーンでも頭角を表し始めたボカロPの一人でもある、夏山よつぎさん!
ボカコレ2024冬にて「ころしちゃった!」がTOP10入りを果たして以降、その注目度もぐんぐん上昇中!
洒脱なブラスサウンドをはじめとして、その引き出しの広さも大きな魅力となるボカロPの一人でもある。
ボカロシーンを牽引する新たな実力派クリエイターとして話題を集めるよつぎさんの、ボカロルーツから楽曲裏話、最近お気に入りのコンテンツまで。
多彩な話題が集まった本インタビューを、ぜひプレイリスト曲と共にチェックしてみては。
取材・文/曽我美なつめ
■意外なチョイス!?初めてお迎えしたボカロは〇〇〇
──現在ネット上にある、よつぎさんの初投稿作は2020年の曲かと思うのですが…。
夏山よつぎ:
ボカロPデビュー自体は実は2018年頃なんです。初期の曲は何曲か消してしまってるので、今聴ける一番古い曲は2020年3月投稿の「幻の絵本」ですね。2018年の初投稿時はまだ別名義で、その半年後ぐらいに今の夏山よつぎ名義になった形です。
──遡ると、そもそもボカロとの出会いは何だったんでしょう。
夏山よつぎ:
僕の通ってた中学校で、給食の時間に校内放送で生徒からのリクエスト曲を流してたんですけど、そこで聴いたれるりりさんの「脳漿炸裂ガール」が最初の出会いでした。それまでは音楽って流れてきたものを受動的に聴いてたんですが、この曲は初めて聴いた時に衝撃を受けて。その後すぐネットカルチャーに詳しい友達に「これなんて曲?」って訊いて、教えてもらった曲名を家に帰ってすぐPCで調べました。そしたら、ボカロ曲自体もわんさか出てきて…そこからすっかりボカロ漬けに、って感じです。
──自分から能動的に音楽を聴く体験もそこが入口だった、と。曲を作ろうとしたきっかかけは何だったんですか?
夏山よつぎ:
よく中学の頃って中二病というか、自分でオリジナル曲の歌詞を書いてみたりするじゃないですか(笑)。自分も例に漏れずその道を通ったんですけど、当時はまだ実際に曲を作る手段もスキルもなくて。それがボカロを知ったことで、「どうやらこの曲たちは誰かが一人で、全部パソコンで作ってるらしい」と。じゃあ自分もできるんじゃないかと思って、誕生日プレゼントでボカロを買ってもらい、親のPCを借りて曲を作り始めた感じでした。
──ちなみに、最初にお迎えしたボカロは誰でしたか。
夏山よつぎ:
今だとややマイナーかもですが、VOCALOID Fukaseです。当時ボカロはまだオタク趣味の印象も強かったので、少し親に言い出し辛くて。ただ当時SEKAI NO OWARIも結構聴いていて、その時期にちょうどタイミングよく深瀬さんのボカロが発売になるらしい、と。なので「深瀬くんのボカロが出るんだけど、それが欲しくて…」というアプローチで買ってもらいました(笑)。
ボカロで音楽を聴く楽しさに目覚めて、世の中に自分が知らない曲が山ほどあると気づいてからは、ラジオとかで結構いろんな音楽を聴くようになりましたね。SEKAI NO OWARIや、あとはゲスの極み乙女。も当時よく聴いてましたよ。
──その一方で、作曲自体も最初は挑戦ハードルが高かったのではないですか?
夏山よつぎ:
作曲をやろうと思った時、やっぱり楽器が1個ぐらい弾けた方がいいな、と思って。当時家の押入れに親がまったく使っていないギターがあったので、それを独学で練習したのも作曲ルーツのひとつです。高校からは吹奏楽部に入って、そこでいろんな曲を演奏する中で楽曲の構成なんかを学びましたね。
──その頃同時並行でボカロP活動を始めて、その後1度活動を休止されていますよね。
夏山よつぎ:
2019年春から大学受験のために1度活動休止期間を挟んで、受験後に活動を再開して今に至ります。ただ実は、活動休止中も作曲自体はやめられなくて…(笑)。iPhoneの作曲アプリを使ったり、思い付いたネタやフレーズをメモ帳に書き留めて「大学受験終わったらすぐ作るぞ!」って。受験を終えて大学合格の一報が来た瞬間、PC開いて溜めていたネタを元に曲を作り始めてました(笑)。
■楽曲のサウンドにおける“夏山よつぎ”らしさとは?
──曲を作る際、どんな所からアイデアを得る事が多いんでしょう。
夏山よつぎ:
僕は元々、SNSや誰かとの会話の中で自分と違う価値観に出会った時に、それを紐解いたり分析するのが好きで。例えばXで他人の投稿を見た時に「ちょっとモヤッとするな」って思う時とかあるじゃないですか。そこで何がモヤッとするのか、それは“嫌な気持ち”なのか、他の物事に置き換えたらどう感じるか、とか。そういう思考分析の過程をメモに残して、曲を作る時はそのストックから「この曲に合いそうなアイデアはあるかな」ってネタを探して着想を得ることも多いです。
──かなり自己分析的な思考パターンをお持ちなんですね。そうなると曲制作の際はサウンドが先行して、詞の内容がそこに紐づく形ですか?
夏山よつぎ:
同時進行で進むことが多いかもしれません。オケがワンフレーズできて、そこに合いそうな歌詞を書いて、そこからまた派生させて次のパートを作る、みたいな。ワンコーラス分ぐらいは同時並行で進めますね。オケは最初にコードとメロディだけ出して、そこからまずリズムとベースを固めます。やっぱりそこが曲の根幹なので、土台作りをした後に他の上物を乗せていってます。
──そんな制作の中で、特にこだわっている部分はどこですか。
夏山よつぎ:
やっぱり歌詞ですね。内容もですが、言葉選びは特にこだわっていて。例えば単にメロディの数と同じ言葉数を入れるだけじゃなく、メロディの音階の上下やリズムにも留意して言葉を当てはめるというか。
同じ「はし」って言葉でも、「橋」「箸」「端」だと全部イントネーションが違うじゃないですか。そういう点も気を配って、意味合いがちゃんと噛み合う言葉のチョイスを気にかけています。それを突き詰めていくと、たまに“正解の語彙”が生まれる時があって。このメロディにはこの歌詞しかない!っていう。そこまでやって初めて説得力のある歌詞が生まれると思いますし、そうやって上手くハマった瞬間はものすごく気持ちいいですよ。
──加えて、オケ面のこだわりですといかがでしょう。
夏山よつぎ:
自分にしかできない個性、みたいな部分は曲を作り始めた時からずっと探ってました。当初はNeruさんみたいなボカロックが好きで、そういった系統の曲にも憧れたんですが、自分の個性を出すことにかなり苦労して。
その中で自分にしかないものって何かを考えた時に、吹奏楽の経験って貴重じゃないかと気づいたんです。そこでブラスセクションやホーン・ストリングスサウンドを取り入れ始めたら、実際にいろんな所から評価頂けるようになった実感があって。そんな経験から、管弦楽器のサウンドは自分のアイデンティティとして特に大事にしています。
──その中で、よつぎさんご自身が一番楽しい作曲作業はどの部分になりますか。
夏山よつぎ:
曲が形になっていく過程が一番好きです。自分の中にあったバラバラのパーツがどんどん組み合わさって、ひとつの作品になっていくっていう。プラモデルを組み上げる感覚に近いかもしれません。頭が出来て腕が出来てパーツ同士を組み合わせて、どんどん完成が見えてくるのって楽しいじゃないですか。しかもその曲には自分の好きな要素しか入ってないですし。その瞬間が一番楽しいですね。
ただ、曲作りはプラモデルみたいに組立説明書がないので…。パーツの組み合わせが上手くいかない時もやっぱりたまにあって。そういうしっくりこないなって日が2~3日続くと、PCの前に座るのがちょっと憂鬱になる時もありますね(笑)。
■「ころしちゃった!」人気は嬉しい誤算でもあった
──ここからはプレイリストについて伺います。直近ではやはり「ころしちゃった!」の躍進も、よつぎさんの名前が広がる大きなきっかけだったかと。
夏山よつぎ:
当然いい曲が作れた実感はありましたが、実は自分的には少し「やりすぎたかな」「クセが強すぎたかな」と思ってたんです。これですが逆にストレートにメッセージ性が伝わって、それが功を奏したのかな、という体感でした。当初作った時は、自分の作品でも10曲目に辿り着くような、知る人ぞ知るような曲になると思ってたんです。なのでボカコレの結果は、ある意味嬉しい誤算でしたね。
──ちなみに、このリストで敢えて一番のお気に入りを挙げるならどれですか?
夏山よつぎ:
「さよなら、ネバーランド」は個人的にかなりお気に入りの曲です。先ほどお話した歌詞の視点でも、この曲は最初から最後まで過不足なく言いたい事を言いきれた実感があって、今でも出来に満足してますね。
この曲を作ってた当時、すごく病んでたというか、自分の将来にあまり期待が持てなかった時期で。自分の人生において一般的に幸福とされるものを幸せだと思えなくて、自分は人間として欠陥があるのかな、みたいに考える事も多くて。もし生まれ変わるなら自分以外になりたいというか、かなり自己肯定感が低い中で作った曲ではあったんですけど。
──ありがとうございます。重ねて、今回のリストでボカロ初心者の背中をもう一歩押す曲として、オススメするならどの曲でしょう。
夏山よつぎ:
自分的に面白いな、と思うのは「デウスのテロリズム」でしょうか。この曲はイラストレーターのアルセチカさんが、ご自身の実家から小学生の時に書いた小説を見つけてきた事が発端だったんです。「この小説に主題歌があったらめちゃくちゃアがるんじゃないか」ってノリで言ってたら、藍瀬まなみさんも「じゃあ動画作るわ」って乗ってきてくださって(笑)。そうやって友達とわちゃわちゃ作ったのも楽しかったですね。
──確かに、この曲は普段のよつぎさん単独で作られる曲とはテイストがかなり異なりますよね。
夏山よつぎ:
自分一人ではなかなか作らない世界観というか。そういう意味でも元ネタがある所から作ること自体がかなり新鮮で、いつもと違う楽しさがありました。普段イラストで活躍してるアルセチカさんの、ちょっと違う一面が見られる曲としてもぜひ聴いて欲しいです。
──そういった思い出深いエピソードがある曲など、他にもあればぜひ伺いたいです。
夏山よつぎ:
この中だと「アリスのマジカルハッピーワールド」ですね。この曲は、大阪へ旅行した時に見た景色から着想を得たんです。旅行に行った時、知らない街の路地をウロウロするのが結構好きで。大阪旅行中にとある小路を通りがかった時、レトロゲーム屋さんみたいなお店を見つけたんですよ。寂れた人通りのない道に、そのゲームセンターだけがポツンとあって。誰もいない場所で、レトロゲームのやたらポップで軽快な音楽だけがずっと流れてるっていう。その景色のちぐはぐさ、ギャップがすごく印象的で、そこから着想を得てあの曲のイントロが生まれた形ですね。
■ボカロPのみならずバンド・ネコロジックの活動も
──先ほどルーツでも少しお話がありましたが、最近ですとどんな音楽を聴いていますか。
夏山よつぎ:
実は、ボカロ曲は最近敢えてあまり聴いてないんです。どうしても同じ畑の音楽一辺倒になると、似たテイストの曲が飽和しちゃうというか。でも最近は同世代で活躍するボカロPも多いので、彼らの活動からは刺激をもらってますね。特にど~ぱみんやGlueとは年齢も近いので、ライバルでもあり友達でもあるというか、一緒に切磋琢磨してきた存在という感じです。
音楽に関してはその代わり、最近ゲームのサウンドトラックを聴くのがお気に入りで。直近だと、任天堂のゲーム音楽が聴ける「Nintendo Music」っていうアプリがリリースされたじゃないですか。あれいいですよね、よく使ってます。
──どんなゲームの曲を聴いているんですか?
夏山よつぎ:
一番好きなのは「スーパーマリオオデッセイ」の表題曲「Jump Up, Super Star!」ですね。それこそブラスサウンドがいっぱい盛り込まれてる点もお気に入りの1曲です。ゲームソフト自体はやったことないんですけど。
──元々、ゲーム自体はよくプレイされるんです?
夏山よつぎ:
ゲームも普段はあまりやらないんですが…最近唯一、「学園アイドルマスター」(学マス)はよくやってますね。あれも曲が良くてやり始めたクチです。どうしても興味のあるものが、全部音楽に結びついていきますね。
学マスの推しは…全員好きですけど、強いて言えば藤田ことねちゃん。かわいいのはもちろんですが、ストーリーを読むと意外と努力家というか。可愛い上にさらに努力してるっていうギャップにグッときましたね。
──よつぎさんの意外な一面も垣間見えた気がします、ありがとうございました。最後に、今後やってみたいことや挑戦したい事などあれば教えてください。
夏山よつぎ:
ボカロPとしての活動もですが、実は今年10月からネコロジックというバンドでも活動し始めていて。メンバーは大学の軽音サークルの友人で、自分がボーカル担当なんですが、そういう人間ならではの表現もボカロと同時に模索したい気持ちはありますね。人間とボカロ、それぞれに違った良さのある曲を今後いろいろ作ってみたいです。
■Information
夏山よつぎ プレイリスト 詳細はこちら
「The VOCALOID Collection」 公式サイト
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