「ガチ勢はニコ動に上げるな」と言われたことも――踊り手姉妹ATYがそれでも貫き続けた、自分たちの「踊ってみた」
MMDと『脱獄』がターニングポイント
――1人で踊るソロ、2人でのATY、複数人でのコラボやSLHファミリーなど、構成や人数は活動によって様々ですが、意識して見せ方を変えているところはありますか?
明香里:
大人数の時は自分を出すところと引くところのバランスを重視しています。……って言っても、すごく意識しているというわけじゃなく、なんとなく無意識的にやっている感じですけどね。ソロの場合はステージや画面を1人で埋めなくてはいけないので、まず「どうすれば飽きずに見せられるか」を考えます。
全体を通して、「飽きずに楽しんでもらいたい」という思いが強いんです。表現力で見せることやいろいろなジャンルのダンスに手を出すこと、出す動画ごとに違った雰囲気を出して流れを作ることも、そんな思いからやっていることなんですよね。
夕香里:
それに、そうやって流れを作っているうちに、自分達自身でも「そろそろ、これやっとく?」みたいな感じで先が見えてくることもあって。
――その流れが、さらにATYの幅を広げてくれることもありそうですね。
明香里:
まさに去年(2016年)がそうでした。去年初めてMMD(MikuMikuDance)をやらせていただいたんですが、それはその前にたくさん出していたスロージャズ系の動画を見た方がATYの表現力を求めてくださった結果、得られたものだったんです。
あとは、松岡充さんのバックダンサーとしてやった『脱獄』ですね。去年経験したこの2つは、ATYにとって大きなターニングポイントになったと思います。
夕香里:
『脱獄』も「ATYの表現力が欲しい」と言っていただけて実現したステージで、何度も何度も打ち合わせをして作りました。これは本当に幅を広げるきっかけになりましたね。
明香里:
私自身はスロージャズみたいな表現色の強いものをやりたいけど、でも「そういうものは見ていても一般的につまらないんだろうな」と思っていたんです。だけどそこを評価していただけたことで、よりそっちのジャンルにも自分達を広げていきたいと思えるようになった。
それで生まれたのが、『嗤うマネキン』という曲です。これは一般受けとかそういうことは一切考えず、本当に好きなように作りました。
夕香里:
自分たちのやりたいジャンルを、自分たちのやりたい空気感で出した曲ですね。踊り終わったら毎回「病んでないですよ!」って言わなくちゃいけない雰囲気になっちゃうんですけど(笑)。
明香里:
こういう重たいのは年1回だけって決めていたんですよ。こんなの何個もやっていてもみんなつまらないだろうなと思っていたから、「年1回、周年動画としてしかやらない」と決めていたんですけど、ありがたいことに「こんな雰囲気の作品をもっと見たいです」という声をたくさんいただけて。評価していただけたことで、「これがATYのカラーって思ってもらえるなら、思い切ってやっちゃえ!」って気持ちになってきました(笑)。
自分達自身の過去と向き合って振り付けた『心做し』
――『嗤うマネキン』や『脱獄』の他にも、印象に残っているステージや動画はありますか?
明香里:
3周年動画として出した『心做し』ですね。『心做し』は自分達自身に過去あった出来事を歌詞と照らし合わせながら振り付けていったんで結構キツかった曲でもあるんですけど、そんな『心做し』が上がった時に、それまで自分の好きなスロージャズっていうジャンルで1位を取れたことがなかったので、何も考えずに「自分の好きなジャンルで1位を取れたら最高なんだろうな」って内容のツイートをしたんです。そうしたら、それを見たみんなが「頑張って!」とものすごく拡散してくれて。そこからはもう、リロードするたびに信じられないくらい再生回数が上がっていって、それを自宅で号泣しながら見ていました(笑)。
夕香里:
私たち別々の家に住んでるんですけど、私もまったく同じことをやっていました(笑)。
明香里:
曲もすごく良い曲だからね。
夕香里:
私、まじ娘ちゃんが大好きなんですけど、音源を使わせていただいたのはこの時が初めてで。実は初めてまじ娘ちゃんの音源を聴いたのも『心做し』で、聴いてすぐ「これは!」と思って明香里さんに伝えたんですよね。
『心做し』は自分たちの過去や経験が盛り込まれた振付なので、いまだに踊る時はすごく感情が入ります。だけど、何回やってもあの曲はいい。何回踊っても背筋が伸びるというか、毎回「よしやるぞ」と思える曲です。
――つらかった時の事を盛り込んだ曲にも関わらず、そこまで昇華できるというのは凄いことだと思います。
明香里:
私、自分のモットーとして「良い事も悪いことも、全部良い経験」と思っているんですよね。悪い事も、自分で良くしていけばいいんです。『ナンセンス文学』も実は最近あったキツいことを表現しているんですけど、でも既に今の段階で、「その時あった悪いことは『ナンセンス文学』が生まれたから良かった」って思えてる(笑)。
夕香里:
嬉しいことも嫌なことも全部振付にのせて、お互い上手く昇華できているのかなと思います。
姉妹なので「1言ったら10わかる」
――初投稿から4年が経ちましたが、体感としては速かったですか?
夕香里:
ありがたいことにどの年もすごく濃い内容で過ごせているんですが、4年間の後半は特に速く感じましたね。去年もMMDや超パーティーでいろいろとやらせてもらったし、初めての事もたくさん経験できた。ひとつが終わればすぐに次、終わったらまた次、という感じだったので、その分時間が経つのも早く感じたのかな。
超パーティーは、今年で3回目の出演なんですけど、大体いつもこの時期からいろいろと動き始めるじゃないですか? だから夏から年末にかけては、今年もきっと速く感じるんだろうなって思っています。
――超パーティーには、毎回新たな振付で臨まれているんですか?
夕香里:
1回目はSLHとのコラボだったんですけど、2回目の去年はほぼ作りましたね。
――1曲の振付って、どれくらい時間がかかるものなんでしょうか。
明香里:
最速だと45分くらいかな。「できる!」と思ったときに一気にやると結構早く作れるんです。平均的な感じで言うと、1日2、3時間考えて、できなかったら次の日に回して……みたいな感じで作っています。
――集中型なんですね。そうやってできた振付のフリ入れを夕香里さんはどれくらいで?
明香里:
それがめちゃくちゃ早いんですよ。1曲に対して1、2時間くらい。
夕香里:
もともと覚えるのも得意だし、明香里さんの振付で踊り慣れているのもあると思うんですけどね。なんとなくフリが入りやすい体質なんです(笑)。あと、やっぱり姉妹なので「1言ったら10わかる」みたいな感覚はお互いあると思います。他人同士だと伝えるのが難しいことでも、「こういうことを言っているんだな」となんとなくわかるというか。そこは姉妹の良いところですね。
阿吽の呼吸のATY、プライベートは別行動
――阿吽の呼吸で作品を作られている印象なのですが、ダンス以外でも普段から一緒に行動されているんですか?
明香里&夕香里:
しないですね。
一同:
(笑)
明香里:
上京してから5年くらいは一緒に住んでいたんですけど、そのうち後半はATYの活動をしていたから、仕事でも家でもずっと一緒なんですよ。しかも家に帰ってもふたりきりだから、家で振付していると「 今ちょっとできたからやってみよう」みたいな感じになってしまう。
夕香里:
仕事で何か揉めたりした時も、それを家まで持ち帰ってきて、気付いたら私情の喧嘩になっているようなことも多々あったり。また姉妹だから、言わなくてもいいことまで言っちゃうんですよね。
明香里:
切っても切れないからこそ、言っちゃうんですよ。
夕香里:
だから別々に暮らしはじめてからの方が、関係は良くなりました。
明香里:
一緒に遊びに行ったりはしないですけどね(笑)。
――ちなみにおふたりは趣味ってありますか?
夕香里:
私、最近セルフネイルにはまってます。自分でいろいろデザインしたりして、もう1年くらいやっているのかな? あとは料理くらいですね。仕事帰りにスーパーに寄って、飲みながら作ってます。キッチンドランカーなので(笑)。
――衝撃の告白(笑)。 でもかっこよく踊っている時とは、また違う一面って感じで良いですね。
明香里:
私達、ふたりともめちゃくちゃ酒飲みなんですよ(笑)。
――そんな明香里さんのご趣味は?
明香里:
アニメとドラマですね。そんなに詳しくはないんですけど、良い曲があったら踊りたいなと思って見始めたんです。まだ全部は見られていないんですけど、今期は『賭ケグルイ』とかを見ています。
その場にいるお客さんやスタッフ、演者全員の心を動かすくらいの気持ちで踊りたい
――活動を始めた頃に比べて、現在はイベントや発表の場が増えてくるなど、ATYを取り巻く状況もシーンも変わってきたと思うのですが。
明香里:
シーンの変化で言うと、昔よりもダンスのスキルを見てもらえるようになったなと思いますね。前は正直、「はいはい、ガチ勢ね」みたいな感じのコメントもあったりしたんですよ。「ニコ動に上げんなよ」とか。
――それって結構ダメージ受けません?
明香里:
いや〜、でも「そうだよね、ごめんね」って言いながら上げていましたね(笑)。 だけど最近は拒否されずちゃんと見てもらえるようになってきた気がしています。
明香里:
最近の「踊ってみた」の踊り手さん、結構ガツガツ踊る人が増えましたよね。
――それはネガティブな意見を耳にしつつも、自分たちのスタイルを貫いてきたATYさんのような方々の存在あってのことだと思いますよ。現在は活動を始めた頃よりも知名度が上がった分、影響を与える範囲も広くなってきていると思うのですが、ご自身では現状をどう捉えていますか?
夕香里:
とてもありがたい事なんですけど、まだそこまでピンと来てないんですよね。
明香里:
意識もそこまで変わらないし……。あっ、でも最近は振付でキャッチーなものを取り入れようとはしているかも。結構ダンスダンスしているフリでも、どこかにキャッチーな部分を入れるとか。そういう意識の仕方はしていますね。
――コラボも以前に比べてかなり増えましたよね。
夕香里:
去年の超パから一気に増えましたね!
――今年は3回目の出演となりますが、どんなステージになりそうですか?
明香里:
演目名は言えないんですが、自分たちの思い入れのある曲で、しかも自分たちが本当に見せたい、やりたいと思っていた表現を集約した曲を、超パという大きなステージで見せられる予定なので、とても楽しみにしています。
夕香里:
その場にいるお客さんやスタッフ、演者全員の心を動かすくらいの気持ちで踊りたいですね。大勢の人の心を動かすことができたら、そんなステージが作れたらいいなと思っています。
歌ってみた・踊ってみた・ボカロなど、ニコニコのライブイベントが詰まった「ニコニコ超パーティー」、2017年11月3日(金・祝)に開催されます。ATYのお二人が披露するという「本当に見せたい、やりたいと思っていた表現を集約した曲」とは!? 是非、体感していただきたい!
▼チケット購入はこちら
http://choparty.jp/ticket/
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