なぜハリーポッターシリーズの映画化は成功したのか?「ナルニア」「ライラ」「ダレン・シャン」…頓挫したファンタジー映画との違い
ファンタジー映画を求めるのは、同時多発テロ事件がきっかけ?
松崎:
でも当時、ファンタジーの大作ものを作るとなると、当たらないと言われていたんです。ところがアメリカ同時多発テロ事件がきっかけで、現実はあまりにも生生しいので、人々は空想に近いものを見るようになったんじゃないかなと、言われています。
そこからいろいろな映画会社が味をしめて、たくさんファンタジー映画が作られるようになったんです。めちゃくちゃたくさんあるので紹介しますね。
まず兆しとなったのが2006年にフランスでリュック・ベッソンが監督し作られた『アーサーとミニモイの不思議な国』。これはもともとリュック・ベッソンが自分で書いた絵本を自分で映画化したものです。本国ではヒットした映画です。
こういうのも、ハリー・ポッターのヒットがなければ作られなかったんじゃないかなと思います。
松崎:
そして2005年に作られた『ナルニア国物語』。68億円稼いでいて、一応ヒットしたんですが、この映画は2007年に第二章が作られ、2010年に第三章が作られているのですが、これは未完のまま……。
スタッフ:
ほら頓挫した!
松崎:
しかも途中までディズニーが制作に参加していたんですが、「もういいや」って降りちゃったんです。同じく2007年に『ライラの冒険 黄金の羅針盤』。ニコール・キッドマンとかダニエル・クレイグなどのスターが出た映画なのに、一作目で終わっちゃいました。
そういうものが他にもあって、2008年の『スパイダーウィックの謎』、2009年の『ダレン・シャン 〜若きバンパイアと奇怪なサーカス〜』。
梨衣名:
この原作、大好き!
松崎:
でも残念ながら一作目で終わってしまいました。
迷走が続く「ファンタジー映画」は今後どうなる?
松崎:
このころから何が起こったのかと言うと、今までは子供が読むような名作文学が多かったんだけど、もう少し対象年齢が上がって、ヤングアダルト文学を映画化しようとなったんです。その先駆けだったのが、『トワイライト 初恋』です。
スタッフ:
これはヒットしましたね。最初に『ハリー・ポッター』を見た人が大人になってきているってことでしょう。
松崎:
そう、最初は10歳のころにファンタジーを見ていた子供たちが、年齢を重ねて18歳くらいになって、その子たちに合わせた作品が出てくるようになったという流れです。たとえば『ハンガー・ゲーム』などが作られていきます。その中で2007年に、ディズニーが『魔法にかけられて』を作ります。
梨衣名:
これ大好き!
松崎:
魔法の世界はディズニーのお得意なものだったのに、「アニメの世界の人たちを現実に連れてきちゃいました」というものをやった。これは世の中にファンタジーものが溢れているからだと思うんです。もう一本、『パンズ・ラビリンス』という作品があります。
スタッフ:
これは名作。
松崎:
今だから言えるネタバレですが、少女が妖精とかいろいろなものを見るんです。なぜ見るかと言うと、どうやら彼女の周りでは戦争が起こっているニオイがする。お父さんが軍人だったりとか。つまり彼女は、つらい時代を「つらい」と思わないために妄想しているんじゃないかと。
僕はこの映画のラストを見たときに、「お前たちが見ている数々のファンタジーものはでたらめだ」と言っているように見えたんです。こういうものが出てきたり、頓挫して続編が作れないものも出てきた、だんだんみんなが飽きてきてしまった。
最終的には『ジョン・カーター』みたいな戦前の原作のものに手を出したり、『オズの魔法使い』の続編を作ろうとしたり、『ジャックと天空の巨人』で童話をアクション化しようとしたり。
立川:
アクション!? 迷走してますね(笑)。
松崎:
だから後出しジャンケンのように出したものは、ほぼほぼ当たってないです。逆に言うと、ハリー・ポッターがいかに凄かったかということですよね。
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