なぜ北野武は映画にNGテイクを使うのか――『アウトレイジ 最終章』から読み解く“映画と漫才”の共通点
北野武さんが監督・主演を務めるバイオレンスアクションシリーズの最新作『アウトレイジ 最終章』が公開2週目で興行収入10億円を突破し、話題となっています。
これを受け今回の『WOWOWぷらすと』ではミュージシャンのピエール中野さん、映画ジャーナリストの宇野維正さん、タレントの笹木香利さんが『アウトレイジ』シリーズからわかる「監督・北野武論」について語りました。
―関連記事―
『アウトレイジ』三部作で「ヤクザ映画」を復活させた北野武――評論家が語る、最終章で見せた「ビヨンドからの“引き算”の進化」とは
―人気記事―
いかりや長介がテレビで見せなかった姿をドリフのメンバーが振り返る「舞台が火事になったとき長さんが一番慌ててたんだよな」
初監督作品から覗かせていた映画監督としての片鱗
宇野:
僕、ぷらすとで一回『北野武とその映画』というテーマで北野監督について話をしたんですよね。
笹木:
私も北野映画が初めてだったので、それを参考にして宇野さんのオススメ三部作の『その男、凶暴につき』、『3-4×10月』、『アウトレイジ ビヨンド』と『アウトレイジ』シリーズ三作を観てテンションが上がっている状態できました。
ピエール中野:
フレッシュな状態ですね。宇野さんはどうしてその三作を選んだんですか。
宇野:
『ソナチネ』はたけしさんの評価を確立したし、「キタノブルー」も確立したし、基本的に観ておきましょうねというところで外した。それ以外で観るとしたら、リアルタイムで衝撃的だったのが『その男、凶暴につき』と『3-4×10月』だったんですよね。ただ初期だけがいいんじゃなくて、2010年代に入ってからのタイミングは『アウトレイジ ビヨンド』は相当すごい。
ピエール中野:
『アウトレイジ ビヨンド』の評価は高いということなんですね。
宇野:
そうですね。北野監督の変化と言うか、すごく簡単に言うと上手くなってきている過程が楽しめる。
ピエール中野:
僕、北野監督の映画はすごく好きなんですけれど全然話す機会がなくて。一番好きなのは『キッズ・リターン』。全体的に北野映画は暴力をテーマにしていると感じるのですが、その中の才能の残酷さという暴力で自分と重なるところがあった。そういうのを観て勉強になるわけですよ。
ピエール中野:
実社会において人の足を引っ張るダメな先輩って居るよな、とか。自分が目指すべき立ち位置はこういうものなのかなとか。そういうのを北野映画で学ぶことが多くて、それは『アウトレイジ』シリーズでも思います。
スタッフ:
僕は『その男、凶暴につき』。当時観たのは大学生だった。
宇野:
僕も大学生だった。
スタッフ:
ビートたけしさんが初めて映画を撮ったっていう感じでみんな観に行ったんです。当然観る前から芸人のたけしさんがシリアスなものを撮ったという情報は入っていたんだけど、「こんなにカラッカラに乾いた映画なのか!」という衝撃は今でも覚えてますね。「とんでもないものを観たな」という印象を受けました。
西田敏行のアドリブから見える北野監督の変化
ピエール中野:
北野監督は撮り方もすごく特殊な撮り方をしているじゃないですか、ほとんど一発撮り。何回もやり直さないしリハーサルもしないし、指示も全然出さない。好きにしてくださいみたいな。大杉漣さんが『アウトレイジ 最終章』に出演したときにどうしたらいいのかわからないって、貧血で倒れるっていうのがあったくらいです(笑)。
スタッフ:
ぷらすとにもよくお越しくださる春日太一さんが、たけしさんにインタビューをしていましたが「結局一発撮りというのは、漫才でもそうだろう」と。「何回もやったら面白くないんだ」「スタッフも役者も、テンションが一番高いのがそれなんだ」と仰っていました。
ピエール中野:
数々の現場を経験している役者さんたちが「こんな現場は知らない」と口を揃えて言っていて、とにかく現場が終わるのが早い。
一発撮りだから緊張感もすごいし、自分より先輩の俳優が緊張しているから、より緊張するし、撮っている人たちがベテランだし、北野組自体がベテランだから緊張感がすごいという話をしていましたね。
笹木:
しびれそうですね(笑)。
スタッフ:
今回の『アウトレイジ 最終章』は西田敏行さんと塩見三省さんの芝居がすごいじゃないですか。よく観ると西田さんが車の中でセリフを噛んでるシーンがあるんですよ。ああいうところが、すごくキュンとくると言うか、リアリティがあると言うか。
笹木:
映画のシリーズの年代とともに、実物の俳優さんたちも動いていっている姿がちょうどリンクしているから、すごく気持ちが動きました。塩見さんを『アウトレイジ ビヨンド』で最初に観たときに「え、誰?」「『あまちゃん』の勉さん、どこに行ったの!?」ってくらい全然一致しなくて(笑)。
ピエール中野:
めちゃめちゃ怖いですよね(笑)。
笹木:
普段のイメージと違うから混乱が多くて(笑)。
ピエール中野:
普段のイメージと違う配役をしたりとか、キャスティングの妙というのも『アウトレイジ』シリーズはありますね。
宇野:
三浦友和さんと加瀬亮さんは最高じゃん! あんな加瀬亮を観たことないし、あんな三浦友和さんを観たことがない。三浦さんってここ数年売れっ子になっていて、「『アウトレイジ』のおかげだ」と本人が言っているんです。単純にたけし映画が好きで好きな作品もあるし嫌いな作品もあるけれど、「とにかく一回出たい」とアプローチして与えられた作品があれだったんです。
あれで「新しい自分をたけしさんが引き出してくれたおかげで、これまでと違ったいろいろな役がくるようになった」と言っていて、ものすごく感謝しているみたいです。でも今回は「え、あの人がこの役を?」っていうのがあまりなかったです。
ピエール中野:
みなさん、順風にハマリ役をやってますね。
スタッフ:
大森南朋さん良かったよね。
ピエール中野:
すごく堂々としていて、やっぱり役者としてすごいんだなというのを感じました。
スタッフ:
優しい感じのやくざがすごく良かった。
ピエール中野:
大友の理解者でありたいという思いが伝わってくる。
スタッフ:
大森さんのたけし映画へのリスペクトもすごい。二人でカチコミに行ってマシンガンをぶっ放したときの、あの切ない表情。あれはいいよね。切ないと言うか、ほぼ無表情。
笹木:
大友にくっついてる絶対的な忠誠を誓っている大型犬みたいでキュンとするポイントがいっぱいありました。
ピエール中野:
好きになっちゃうよね。
スタッフ:
それにしても西田敏行さんは良い芝居してましたよね。
ピエール中野:
アドリブをガンガンやるわけですもんね。ピエール瀧さんが関西弁で返さないといけないので相当困ったらしいです(笑)。
宇野:
でもたけし監督の映画って、基本は言われた通りにやるのがセオリーなのにアドリブが許されている西田さんは、なかなかの聖域だけどね(笑)。
スタッフ:
西田さんの芝居を見て、たけしさんはすごく喜んでいたらしいですよ。
宇野:
だから数少ない本物の俳優に関してはそれを許すというのが、取材での発言を見ていても思います。初期のたけし軍団を中心に作っていった「みんな下手」っていう、あれがたけしさんの一つの味だという意見もありますが、最近は映画としては相当、役者が変質していますね。
最近、黒沢清さんの映画とか観ていても思うんです。監督って若い頃は自分の駒のように役者を使いたがるんだけども、ある程度熟練を重ねていくと、上手い役者の魅力には抗しがたいものがあって、映画としてはいいんだけれども作家という意味ではちょっと変質していますよね。
役者に託す部分が増えた。そこは最近、黒沢清さんだなと感じるな。昔はあんな演技をさせてなかったからね。
笹木:
お互いの信頼というものが生まれたんですかね。
宇野:
たとえば『シン・ゴジラ』で言うと、庵野秀明さんは誰にも演技させてないじゃない。役者の顔を使った紙芝居みたいな映画でしょ。
庵野さんと言うか、脚本の樋口真嗣さんなんですけれど、あれは成功しているからいいとして、たけしさんも上手い役者を泳がすようになったんだと、『アウトレイジ ビヨンド』と今回の『アウトレイジ 最終章』での大きな違いなんじゃないですかね。