【コミケ特集】年間5000サークルと接する同人書店の統括が語る、同人市場の最前線「今人気の作品は”AKB48″の楽しみ方に似ている」
二次創作から評論本まで様々な同人誌が集まる、日本最大級の同人イベント「コミックマーケット」。2017年12月29日~31日には第93回となる「コミックマーケット93(C93)」が開催される。『FGO』『けもフレ』『アズールレーン』など、今年話題になった作品の同人誌を会場で購入予定の方も多いのではないだろうか。
かつては『けいおん!』『まどマギ』『艦これ』『ガルパン』など、その時々の覇権ジャンルがコミケ会場のブースを埋め尽くしていたが、COMIC ZIN 同人統括責任者の金田明洋氏によると「最近の同人は覇権ジャンルが存在しない」のだという。
覇権ジャンルが存在しないとはいったいどういうことなのか? 「いま同人界で起こっている現象はAKB48と似ている」「オタクの趣味嗜好は、ユーザー側も作り手側も細分化が徹底的に進んでいる」と語る金田氏に、同人誌からオンリーイベントまで、今年1年の同人界の動きや出来事などを聞いてみた。
【C93総力特集】コスプレ・同人・企業ブース――コミケの魅力を生放送とレポート記事でお届けします【2017冬コミ】※随時更新
2017年の「覇権ジャンル」とは?
――2017年は流行語大賞にもなった『けものフレンズ』(通称:けもフレ)、今年夏頃からググッと来てTwitterを席巻していた『Fate/Grand Order』(通称:FGO)、中国から来た艦隊擬人化ゲーム『アズールレーン』(通称:アズレン)、といった新しい流れ(FGOのリリースは2015年7月)が話題になりました。でも従来からの人気作品である『艦隊これくしょん』(通称:艦これ)、『ラブライブ!』、『東方project』(通称:東方)、『刀剣乱舞』なども相変わらず強いじゃないですか。今年の二次創作分野で、「覇権を取ったジャンル」は何になるんでしょうか。
COMIC ZIN同人統括責任者 金田明洋 氏(以下、金田):
まあ、どうしても1つ上げろということなら『FGO』になるんでしょうけども、ただ、それが覇権なのかと言われるとそれは違うかなあという印象ですね。
画像は公式サイトより
――完全に覇権はFGOなんじゃないかと思っていました。
金田:
少し前でいう”覇権”は本当に、オタクなら誰もが認めるような覇権だったわけですよ。それを考えると「今年はFGOが覇権」とは一概に言えないんじゃないかと……。そもそもFGOも『月姫』Fateシリーズと続いてきたTYPE-MOON作品の流れにあるもので、完全なオリジナル作品として現れたものではないというところが重要だと思います。Fateシリーズはいくつも出ていますけど、FGOが今人気になっていることはFateシリーズの今までの積み重ねの影響下にあるものなので、そう考えるとオリジナル作品でいうと『けもフレ』が新興勢力として現れた衝撃以外は今年はないですね。要するに、「覇権がない」というのが今年の答えなんじゃないですかね。それも今年に限らず、ここ数年そんな状態が続いている印象です。
画像は公式サイトより引用
――「覇権がない」時代ですか……。
金田:
どれかひとつが覇権、という感じではなくて、みんなで複数の作品を担当しているような印象です。今後も当分はそういう感じになると思います。その典型的な出来事が、何年もジャンルの勢力図が変わってないまま来ているんですよね。日々店頭に立っていると何年も何年も、ずっと同じジャンルの棚をショップに作っているわけなんですよ。『艦これ』の棚があり、『ラブライブ!』の棚があって『ガルパン』の棚がある、という状態を何年も続けていると、少し違和感を感じるんです。別におかしいこともないんですけど、これまでの僕たちの2000年代前半ぐらいの感覚からすると、”ジャンルは次々と塗り替えられていくもの“という印象があるんですけど、今は全然変わらないんです。
――オタクの動きが、長く1つのジャンルにとどまる、要は長く一つの作品を愛する傾向になっているということでしょうか。
金田:
これだけジャンルが動かないという事は、もちろん既存の人気コンテンツに魅力があり、なおかつ「同人誌にもしやすいものだった」ということもあるんだと思いますが、単純に「もっと動きがあってもいいのでは?」と思いますね。だって、新しい作品は毎年山のように出ているわけですから。
もしかしたらみんな、大きなジャンルのビッグウェーブに一回乗ってしまって、そのジャンルの巨大さ故に降りるに降りられない。ここから乗り換えるためには、それぐらいに巨大なジャンルを探さなければならない。たまに他のジャンルをつまみ食いしたりはするけど、それがムーブメントにならなければまた元のジャンルに戻ってきて、ということが何年も続いている印象です。
――2010年代は勢力図があまり変わらないんですね。今のオタクってみんな何かしら”幹”になるジャンルを持っていて、そこに属しながらも他の作品をつまみ食いしたりするみたいな、そういう風な楽しみ方をしている印象があります。
金田:
ちょっといやらしい言い方になりますけど、もしかしたらマーケットがあるかないかでも決まるんじゃないかなと。ジャンルの中には需要があって、誰が出してもそこそこ売れるジャンルがあり、同人誌というものは「ものすごく売れるトップサークル」と「最初から赤字だと決まっているサークル」と二極化が完全に分かれています。でも、別に売れなくても同人誌って書いていいはずなんですよね。そしてほとんどの場合は売れていない、赤字な人たちが多いわけです。そして、同人はそういう人たちがいて成り立っている業界なんです。
金田:
でも同人誌が可能性を秘めていて面白いところは、同人誌を作っている人たちは、“売れなくてもいい”と思って作っている人たちがたくさんいるんですよね。私たちが得意としている「評論ジャンル」は特にそうで、”作りたい”という思いが先になってきていて”稼ぎたい”という思いは二の次。そしてその”稼ぐ”という観点からはとても作られないような、いわゆる”利益度外視で作った本”が生まれるんですよ。
同人界はそうした熱量のある人たちのおかげで成り立っている業界なんですけど、みんなそういう犠牲を払わなくなってきたのかもしれないですね。だから、僕は二次創作のジャンルが停滞気味なのかなと思っています。自分が面白いと思ったら、誰も注目していない作品のパロディの本などをもっと出せばいいじゃないですか。でも同人作家さんの中には書こうと思った作品の本をギリギリでやめて、需要があるであろうジャンルの本を書いちゃう、みたいなことも起こっているのではないかなと。