新卒一括採用制度って意味あるの? 日本企業の人材育成力の低さに小飼弾が苦言
人材が育たない責任は誰にある?
山路:
旭化成の社長でしたっけ? 「最近40代の人材が育っておらんのが問題だ」とのことですけど、あなたたちが雇わなかったからだろう? と(笑)。自分達が将来的なことも考えず、採用を絞ったくせに、人が足らなくなったら政府に圧力をかけて「働き方改革」とやらをさせようとする。
小飼:
その通りです。
山路:
でも、営利企業なら採用を止めたら、人材が育たないということは、何年か前にわかるわけじゃないですか? なぜ、そこで日本の企業の場合、後のために今はちょっと苦しくても人材を採るとか、あるいはもっとIT投資をここでして合理化をするとか、前倒しで出来なかったのかなと思うんですが。
小飼:
いい経営者を選んでこなかったというのか、要は、世間知らずな人たちがトップになっちゃったと。
山路:
欧米型の企業で、よくプロの経営者という言い方をするじゃないですか、プロ経営者のマーケットみたいなものがあって、それをスカウトしたりして。
小飼:
あれはあれで問題があるんです。プロ経営者同士が、一種の見えないカルテルみたいになってしまって価格を釣り上げた結果が今だという見方もできるわけですよ。
山路:
日本の場合は、逆にあまり優秀な経営者が育たないというデメリットがあるわけですよね?
小飼:
でも「優秀」「優秀でない」というのは、場所によっても違うんですよ。人は、いい魚にはなれないでしょう? 魚として人を見た場合は、どうしようもないですよね。
山路:
泳ぎも遅いし。
小飼:
だから、本当に良い社員が良い主任になれるとは限らないですし、良い主任が良い課長になれるとも限らないです。同じように、良い部長が良い専務になれるとも限らないですし、良い専務が良い社長になれるとも限らないわけです。
山路:
業種によって社長の適、不適もあるでしょうし。
小飼:
そうなんですよ。だから、一兵卒から育てていくというのが、実は間違ったメンタリティでもあるんですよ。役職によって、期待されている機能も、責任の取り方も全然違う。別の生き物なんですよ。
山路:
経営者は、社員とは違う役割を期待されている生き物だと。
小飼:
そう。
“良い経営者”とは何か?
山路:
でも、これは裁量労働制の良し悪しというよりは、それこそ会社にとって、きちんといい経営者にするにはどうしたらいいかという問題になってきそうな気もするんですけど。
小飼:
結局そこなんですよ。これに関して、いろいろな会社の中で、いろいろな福利厚生をやったりもしていたじゃないですか? 例えば、ある会社であれば、どこかに別荘を持っていてみたいな。
山路:
ああ、そうですね。保養所というか。
小飼:
けれども、その会社の業績が良い時は保養所も作れたりするけど、業績が悪い時にはそうはいかない。それぞれの企業の事情に合わせて、福利厚生を任せていると、どんどん労働者は奴隷化していくわけです。だから、非営利組織である政府が、「お前それはアカン」と言わないといけない。
山路:
つまり営利企業は利益を出すこと、ビジネスをするということに集中させて、社員の生活や福利厚生は政府の社会保障で面倒を見るべきだということですか?
小飼:
ちょっと違います。「外部不経済」という言葉があります。例えば我々は、光合成は植物にやってもらっているんですけれども、植物に労賃を払っているかと言えば、全然払ってないですよね(笑)。だからこういった類のモノを外部不経済と言うんです。
山路:
取引ではなくて、本当に勝手に持ってきてしまう、対等の商取引じゃないみたいな。
小飼:
はい。でも、そういったものも必要で、今だと政府が引き取っているというよりも、政府に押し付けているわけです。それが、どんな政府でも大きくなっていく一番の理由なんです。
山路:
なるほど、失業対策とか。だけど、例えば今回の福利厚生みたいなことでいうなら、どう考えればいいんですか? 会社があまりにも福利厚生を充実させると、負担になりますよね。例えば、終身雇用を維持するのは、企業にとってものすごく負担になっていたりする。
小飼:
米国ではそういうふうに言われて、何で米国の自動車産業が日本にやられたかといった時に、一番議論になったのは、要は労働組合が強すぎたいうことだったんですけれども、今はだいぶ緩くなりました。日本の企業自体も、ホンダにトヨタに日産にと、米国に工場を作ったわけですけども、労働法規の緩い州に作ったわけですよね。
山路:
ああ、そうですか。結局、タックスヘイブンじゃないですけども、労働法規の緩いところに集中してということなんですか?
小飼:
まあ、そういうことですね。放っておくとそうなる。だからそれを放置しないのが政府の役割。そうやって考えると基本的に政府というのは、非営利事業というよりは、反営利事業なんですよね。でも、そういった綱引きがあるからこそ、うまく世の中が回っているということもあるわけですよ。もし世の中が100%公務員だったら、誰も生産的な仕事はしないだろう。ソ連はそれで潰れたようなものですよ。
山路:
今でも、それで困っている国がありますね。
小飼:
逆に政府が何もしてくれなかったら、インフラもないだろうし。今、アメリカがそうなりつつありますよね。
繰り返し言いますけれども、政府というのは反営利でいいんですよ。むしろ政府が反営利である方が、企業としても戦い甲斐があるんです。だから米国政府というのは、特に消費者保護、利用者保護を謳っている役所というのは非営利、反営利色が強いですよね?
山路:
ああ。
小飼:
本当にSEC(Securities and Exchange Commission)とかおっかないですよ。
山路:
証券取引を監視するところでしたっけ。
小飼:
そうです、投資家を保護する役所ですね。環境を保護するEPO(Environment Partnership Office)もすごく怖かったわけですよね。
山路:
ああ(笑)。何兆円とかいう。日本だったらなあなあにしそうな感じがあるのに、1円たりとも見逃さなさそうな感じがありますもんね。
小飼:
政府は、「企業が営利に儲けるのは結構だけれども、外道なことをしてるとパクるぞ!」でいいんですよ。
山路:
ある意味、日本の役所は反営利に徹しきれてないところがあるのかもしれない。
市場のことは市場に任せておけばよい
山路:
弾さん的にはそれは間違いだったと思いますか?
小飼:
間違いというよりは、むしろ、そのお陰で経済が本来期待されている仕事をできなくなってしまった。
山路:
言ってみたら、会社みたいなものは、もっと自由にさせておけばよくて。
小飼:
そう。会社が自由になるためには、その自由に対して笛を吹く人がいなければならないの。
山路:
ちょっとイメージ的にわかるような気がします。
小飼:
レフリーが買収されたりしたら、ゲームがつまんなくなるじゃないですか? ゲームに勝ちたいだけの人というのは、自分に有利なようにルールを持っていきたいですから。あまり面白さを考えないんですよ。だけど、そうやって勝つ人が決まってしまう、出来レースになってしまったら、そんなゲームは馬鹿馬鹿しくて、誰もやらなくなってしまいますよね。
山路:
レフリーは、ゲームとして楽しめるような、良い采配をしなければいけないわけですね。
小飼:
1番重要なことは、フェアであることなんですけれども、ここ25年くらい全世界で起こったことは、政府が、企業セクターに媚薬を嗅がされっぱなしだったんです。
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