HUNTER×HUNTER「ハンター試験編」の名シーンをふり返り。美食ハンター「二次試験、私のメニューは スシよ!!」
手で握れるようなサイズで新鮮な魚といったら……
岡田:
このヌメール湿原をサトツさんについていくというのが終わったら、第3クエストなんだよね。
ブラハとメンチが出てくる美食ハンターの話なんだけども、これは与えられたミッションをクリアする。例えばメンチだったら握り寿司を作れと言われる。全員握り寿司が何なのか聞いたこともないんだよね。日本出身のハンゾーというやつだけが、「スシ」を知っていて、にやにやしている。皆があいつは知ってるというやつで、なんかね……コメディだけでこのシリーズ描き切ってるんだよ。
さっきも言ったようにハンター試験でヌメール湿原でわりと殺伐とした話をしたので、その次は人が死ななくて笑っちゃうような話ばっかり。特に「スシ」を出すと言われたら、このときに考えたのが、「サイズを考えて見ろ……手で握れるようなサイズで新鮮な魚といったら……」と考えて、ダメと言われて、次はゴンが同じようなものを考えたら、それもレベルが同じで、ガーンとなっていて「心中察するぞゴン」と、落ち込んでいるゴンを慰める。こういうコミカルな流れを作るんだ。
僕が面白かったのはこの美食ハンターの後、飛行船でネテロ会長が、「お前たち、ちょっと遊ばんか」とゴンとキルアに言うんだよね。「このボールをお前たちが向こうに着くまでに取れたら、お前らはハンター試験無条件で合格じゃ」ということで、ここでようやっとそれまで謎だったキルアが一所懸命取ろうとするんだけど、取れない。キルアは早々に諦めてしまうんだけども、ゴンは諦めない。
キルアは「これ以上ムキになったら殺しちゃうかもしれないな」ということを言いながら、やっぱり心の中でムシャクシャする部分が晴れなくて、ドンと当たって文句言っただけの人を殺しちゃうんだよね。
『HUNTER×HUNTER』の中では、人情キャラでゴンのことが大好きで、妹のことが大好きでいいやつみたいに見せてるんだけども、本質は自分の中のムシャクシャを解消する為に気に食わないやつを殺しちゃうようなキャラクターなんだよね。
「悪人」なんだよね。悪人をいつの間にか僕らは、たぶん『HUNTER×HUNTER』のキャラクター投票をやるとキルアが1位になるくらいのいいものキャラみたいに、いつの間にか捉えてるんだよ。あまりにも妹好き好き言ってるから、ついつい許しちゃう。そこらへんが『HUNTER×HUNTER』の面白いところでもあり、恐ろしいところ。
話は飛行船のシーンに戻るんだけど、そこでキルアが肢曲(しきょく)という足運びを見せるんだ。ネテロ会長からボールを奪うときに、足運びに緩急をつけるだけで、分身の術みたいに見えるんだけど、これもなんか新しい。
分身の術というのは漫画の中では素早く動くとかさ、念の力みたいなのがあるんだけども、足運びだけで、見ている人間の心のリズムを狂わせて、どこを歩いているのかわからなくさせる暗殺術だよね。
それを見せて、「恐ろしい子供だ」とネテロ会長に言わせて、ゴンが後で「あれどうやるの? 教えて」っていうと、「お前は知らなくてもいいし、知ってはならない」と言う。戦闘の技を極めたネテロ会長が、本来尊敬するはずの戦闘の技なのに、なんでゴンに知ってはならないと言ったのかというと、それは暗殺術であって、それが行き着く先っていうのは、こういう世界だ。
つまりキルアが本質的に持っている、「邪魔な者、腹が立つ者は殺してもいい世界」だということをネテロ会長がわかっているから、このキルアが人を殺すシーンがあるんだ。漫画を読んでいるとワクワク感とかキャラクターの魅力にひっぱられるときがあるんだけど、そういう道徳的な伏線をきちんと張っているところが、『HUNTER×HUNTER』の少年漫画としてのうまいところだと思う。