HUNTER×HUNTER「ハンター試験編」の名シーンをふり返り。美食ハンター「二次試験、私のメニューは スシよ!!」
文字だけのページになったときのワクワク感
岡田:
次の第4クエストのトリックタワーというのは、高い塔の中に入って、72時間だか以内に降りろというクエストなんだ。ダンジョンを工夫だけで次々クリアしていくやつで、実はバトルがほとんどないんだよね。
8話もあるんだけども、最初はダンジョンの中にどうやって入るかだけで1話終ってしまって、次の話ではこれから5対5の戦いが始まると、『ドラゴンボール』や『魁!!男塾』だったら5対5の戦いっていったら、絶対バトルシーンなんだけども、戦いが始まったら、1番最初にこちら側から出ていくのが、例のトンパ(笑)。
向こうから殺人鬼が出てきて、さあどうなるかっていったら、トンパがいきなり土下座して、「参った!」って言って、5対5で戦うんだから、とりあえず3回勝てばいいだろうということで、いきなり降伏(笑)。レオリオがトンパの首絞めて、「お前何考えてるんだ! 勝つ気ねえんだろう!」って言ったら、「勝つ気なんてねえよ。決まってんじゃん。俺はこういうのが楽しくて趣味で参加しているだけであって、俺別にハンターになんかなる気ねえぜ」というのを語る。まさかのトンパ語り。
レオリオ語りは2ページないくらいなんだよ。これまで自分のことを語るので1番長いのが、クラピカの2ページ語り×2回というのがあったんだけど、トンパ単独で3ページに渡って、己の心情を語るっていうね(笑)。僕が1番好きな「多数決の罠」の回は、「多数決でやってはいけないこと、それは何か。相談と挙手である」っていうのを、延々トンパの独り言と心理描写で、相談と挙手をなぜやってはいけいのかという論理を4段構成で描いてる。ど真ん中にトンパの顔を置いて、こういう風に描く、このコマ割りの面白さっていうのかな(笑)。
いいよね、『HUNTER×HUNTER』ってこういう文字だけのページになったときのワクワクドキドキ感。どういう風に絵を入れていくか。この目線とかを入れることによって、キャラクターの考えがわかりつつ、何を言っているのかを、小学校の子供にもわかるようにゆっくり論理を展開する。
トリックタワーの最終問題が、「3人しか通れなくて早い道と、5人が通れる長い道がある。さあどっちをとるか」2択に見せていて、またゴンがとんちを使って第3の方法を見せるという、さっき言ったアンチテーゼ、ジンテーゼ型の回答でクリア。第5クエストがゼビル島でお互いに持っているネームプレートを奪い合うという形なんだけども、やっとここでいわゆるジョーカーとして出てくるヒソカのネームプレートをゴンが奪わなきゃいけない。
これはゴンが奪った瞬間なんだけども、胸のプレートが奪われたことを左手で確認して「何だ?」って見たときのこの嬉しそうな顔。プレートを奪われたことが悔しいんではなくて、プレートを奪う位成長してくれたことが嬉しくて、でも嬉しいんだけどもそれは全く愛ではないわけだよね。「美味しそうに実って」みたいなワクワク感。この一連のやりとりで、初めてゴンとヒソカが直接対戦みたいなことをやるんだよ。
最終試験は、「少年ジャンプの中で人気漫画になる」のと同じ
岡田:
『HUNTER×HUNTER』っていうのはこういうジョーカーというか無限の力を持っているような謎のキャラクター、それはあるときはクラピカ、あるときはキルア、あるときはヒソカなんだけど。ヒソカだけは今に至るまで、全力の力を出さないんだよね。
ゴンは可能性だけ、主人公だから出されていて、本当の本気というのが、いつまでも見えない。そのもっとも初期の対戦カードが、未だに直接対決していないというのが『HUNTER×HUNTER』の懐の深さだと思うんだ。
最終試験はお互いに戦って、「参った」と言った方が負け。「参った」と言わない限り、戦いが続く。ゴンはハンゾーという忍者キャラと戦わされるんだよね。ハンゾーがあまりに強くて、絶対勝てないはずなんだけど、ゴンの真っ直ぐな目を見て、ハンゾーが、「気に入ってしまったんだあいつが」と言う。
そのときの、このキルアの目、いわゆるこれって嫉妬なんだよね、つまりすべての能力を持っていて、お兄ちゃんから闇人形と言われてて、「お前は欲望を持たない」「違う。俺はゴンの友達になりたいんだ」と言ってたはずなのに。
こんな顔は何か、これが単純な嫉妬だったらいいんだけど、キルア自身がゴンを贔屓する理由もこの人と全く同じなんだ。つまり、ハンター試験で、最後に出される印象値というのが、「少年ジャンプの中で人気漫画になるためには」という設問と、全く同じ「好かれる」というのはどういうことか、影響力がある人っていうのは、無視されない人っていうのはどういうものなのかというのをクライマックスの試験に持ってくる。ジャンプ漫画の構造自体をクエストの中に入れ込んだ作り方がすごく面白かったです。