話題の記事

“童貞いじり”が社会問題に?アメリカの「非リア充」が起こす社会への報復「インセル革命」とは

 アメリカでは、“非モテ層”によるインセル革命を掲げた犯罪が、社会問題化しているという記事が話題になりました。

 これを受けて、7月2日の『小飼弾のニコ論壇時評』にて、小飼弾氏山路達也氏のふたりが、この「リア充爆発しろ」が起きてしまうアメリカ社会の病理と処方箋について考察しました。

左から小飼弾氏山路達也氏

─関連記事─

はあちゅうさんの“ #MeToo 騒動”はいったい何だったの? 世界的なセクハラ告発から見る「ハラスメントが持つ構造」を解説してみた

かつて“童貞”とは妻に捧げるものだった――童貞はいつから恥ずかしいものになったの? 社会学者・澁谷知美先生に聞いてみた

ハリウッドが「同性愛」を認めるまでの歴史を5分で解説してみた――『ムーンライト』が『ラ・ラ・ランド』を押しのけてアカデミー賞を獲った理由


アメリカで社会問題化する「リア充爆発しろ!」

山路:
 最近、アメリカで「非モテの過激派か!?」みたいな殺人事件が増えているという記事がありました。最近、起こった事件では、非モテと言われていた加害者が、銃乱射で人を殺したという事件。そこで犯人が使っていた言葉というのが、「インセル革命」という言い方をしてたという。このインボランタリー・セルベイト(Involuntary celibate)っていうんですか?

小飼:
 Celibateというのは要するに、禁欲を強いられている人々。

山路:
 それをこの人は、非自発的禁欲、「インセル」と呼んでいるんですよね。

小飼:
 そう。禁欲を強いられている。またそういう便利な言葉が見つかってしまったなという。

山路:
 要は、「異性から相手にされずに、非常に惨めな思いをしているから、リア充爆発しろ」ということですよね。

小飼:
 そうです。これは確かにリア充側のすでに相手がいる人たちというのもマナーとして、インセルの人たちをインセルであるが故に見下さない。「童貞(笑)」とかいうやつはもうマナー違反で、しょっぴくまではいかないけれども、パーティーとかでは、「もう出て行け」というのに十分な理由になると思います。

山路:
 なるほど、そういう童貞いじりをするようなヤツは、みたいな。

小飼:
 運がいい人たちのマナーというのは、運がそこまでよくなかった人たちを、「ああ不運なヤツらだ。バーカ」みたいな見下し方をしないというのは出来ることでしょう? アメリカは、そういうことに関しては、マナーとしてすら理解されていない国なんです。

山路:
 それはいやですね。

 コメントで、「日本は二次元があってよかった」と。確かにちょっとこれに繋がる所がある。

小飼:
 そこに関しては、日本のほうが良いマナーが成立してますね。でも、その一方でアメリカは、日本と違って、自分の運が良かったことに声をあげて喜んでも祝福してくれる国でもあります。だから、そこは痛し痒しなんですよね。

山路:
 なるほど(笑)。

人の幸福を分かち合うのか? 出る杭を打つのか?

小飼:
 日本のように、運がいい人が幸運を隠さないとヤバいという国は、こういう犯行というのは少なくはなりますけれども、人前で喜びにくいというところはある。

山路:
 欧米での、こういう過激な事件で思ったのが、欧米って結構カップル文化だったりするじゃないですか?

小飼:
 はい。ただ欧米といっても、大陸欧州と英米だとかなり違う。

山路:
 アングロサクソン【※】とそれ以外のヨーロッパの文化が違う。

※アングロサクソン
英国民、また、英国系の人を指す言葉。

小飼:
 はい。

山路:
 とりあえずは英米としておきましょうか。それこそオーストラリアにしばらくいたことがあるんですけど、その時、ちょっと、いいレストランに行くのは、カップル前提だったりするじゃないですか? イベントがあったりすると、恋人を連れて行くみたいな。だから、そういった相手がいなかったら相当暮らしにくいなと思ったんですよね。

小飼:
 確かにいい歳した大人にはパートナーがいて当然だっていうのは、英米圏はかなり強いですね。

山路:
 日本にも童貞いじりみたいなのはありますけど、まだ独り身であっても、ひとりでに飯を食っててもいいし。例えば、高級寿司店にひとりで行って、カウンターで寿司を食っているなんて別に普通だったりしますよね。

小飼:
 そう。日本は、既婚者なのにそれぞれ別の飲み会に行っても、何がおかしいの? という感じですよね。

山路:
 だから、こういう圧力は、インセルと言い出すような人をより追い詰めていくのかなという感じはしたんですけどね。

小飼:
 単なる不運なのに、低能だと罵られる。あるいは、そう罵るに等しい扱いを受けるところはあるかもしれないですね。

山路:
 これって、特に男が多分抑圧されていると、より過激なこういう暴力犯罪に繋がって行くんじゃないかという気もするんですけれどもね。

小飼:
 人である前に猿だし、猿である前に、獣、哺乳類だし。哺乳類のオスというのは、あぶれると子供をイジメはじめるんだよね。

山路:
 人間社会でもすごく見られる光景ですね。本当に生物的な本能に従って、動いていて、まさにそれが見えているところなんですね。

小飼:
 でも便利な言葉ができちゃった。インセルですか。

山路:
 インセル革命。これ日本でも増えてくるんですかね?

小飼:
 逆恨みする人がずっと少ないだけで、そういう状況に置かれている人たちというのは、大体似たような比率だと思いますよ。

山路:
 なるほど。

小飼:
 はい。生物学的に、単なる男女でも、どんなに少なく見積もっても、40人に1人はあぶれるんです。残りの男女が全員カップルになっていても。実際に、これが歳を取っていくにつれて、男の方が死にやすいので、比率は合ってくるんです。今は医療が発達したというのもあって、男女の比率が入れ替わるというのは、40代後半くらいじゃなかったのかな? 要するに、あぶれる人がいなくなるころには、生物学的に親になるのが難しくなっているというね(笑)。

山路:
 なるほどね。コメントで「秋葉原無差別殺傷事件とかインセルじゃね?」まあ、そうですよね。日本でも全然無縁ではないというか。

小飼:
 はい。全世界で起こり得るんですけど、アメリカはありふれていて、全国ニュースにならない(笑)。

山路:
 そうか。アメリカ人というのは、こういう抑圧されている人がいるっていうことを認識してないのかな。

小飼:
 認識されているけれども、やっぱり「逆恨みダメ、絶対」というのは、日本よりも遥かに強くて、逆恨みしたヤツが悪いだろうで終わっちゃう社会なので、あまり自制しないんですよ。「なんでこの人は逆恨みしたんだろう?」と。逆恨みによる犯罪を、どうすれば減らせるのかというふうに、思考回路を持つ人はアメリカには少ない。「犯行に及んだあいつが悪い」で終わっちゃう。

 あるいは、得るだけの元気がないという人ね。さっき言ったように、生物学的にあぶれるのは、あくまでも40人に1人。つがいになっていない人たちというのは、実際はその10倍くらい居るわけですよ。

山路:
 二極化が進むんじゃないかとよく言われていますね。ソーシャルメディアなんかを見ると、言ってみたら、すごくうまくやっている人というのはキラキラして見える。例えば、昔だったらお見合い結婚で相手に少々不満があっても結婚できた。

小飼:
 昔の人が必ずつがいになっていたかと言うと、実はそうでもなかったんですよね。江戸時代では、結構、離婚していたし。

山路:
 かつての高度経済成長期みたいに、お見合いでみんな結婚して、ほぼみんなが結婚してみたいな方が、日本の歴史の中でも特別な時期。

小飼:
 日本の歴史の中でも特別ですね。というのも、独身というのは、まったく珍しいことではないし、ましてや低能とかの扱いを意味するものではないよね。独立して言ったことだけを評価できるようにはなってないので、すでに相手がいる人たちが率先して言っていくべきだと思います。

 僕は妻と2人の娘がいる相手がいる方なんですけれども、その僕が言います。まったく恥じる必要はありません。

結婚制度は相互に信頼“できない”から成立する

山路:
 あと、このインセルの背景にある欧米のカップル文化みたいなところで、個人的に不思議だなと思ったのが、アメリカって、すごく不倫に厳しかったりするじゃないですか?

小飼:
 なんで常にペアで行動するかと言うと、その裏返しでもある。その間は、お互いを監視している状態にあるから、相手を裏切れないでしょう? まさか、2人で行ったパーティー先で、浮気相手と不倫するというわけにはいかないでしょう(笑)。

山路:
 お互いに猜疑(さいぎ)心が高いから、結婚制度によって、強く結びついているという。

小飼:
 僕のとりあえずの結論はそれ。相手の裏切りに対して厳しい社会なので、裏切りにくい行動様式が成立したという。

山路:
 さらに不思議だと思ったのが、よく地位も金もあるみたいなことをいう人がいるじゃないですか? そういう人が、例えばセクハラをしたりとか、あるいは若いお姉ちゃんに手を出したりして、奥さんから裁判を起こされて、すごい賠償金をとられたり。なんでそんなにお金貰って地位もあるのに、結婚するのかな? と。つまり、若い姉ちゃんをとっかえひっかえして遊んだほうが、全然リスク少なくないですか、という人。

小飼:
 これは本当に憶測中の憶測なんだけども、要は、地位を確保したい人たちにとって、必要な名誉なんですよ。

山路:
 結婚するというのが。

小飼:
 そう。だから配偶者もパートナーもいないというのは、半人前だと。

山路:
 おお、厳しい。

小飼:
 それが強いなと思ったのは、なぜ同性愛者がカムアウトするようになったかといったら、同性愛者でも、「同性愛の相手がいます」というアピールをするというのが、すごく大事。アピールできないやつは、半人前だと。

山路:
 LGBTについて、その文脈で考えたことはなかった。

小飼: 
 だから、僕ですら、やかましいわと思います。

山路:
 これは流行りそうですよね。インセルをテーマに新書を書きはじめている人がいるんじゃないかな。とりあえず、欧米の方でも、このインセルというのは、新しい文脈になるかもしれないですよね。

小飼:
 はい。というのも、成人したのに親と一緒に住んでいるというのも、恥ずかしいことだったんですけど、今では不動産の値上がりで一般的になって来ちゃったりしましたし。

山路:
 それこそさっき出たLGBTなんかも認められるというところで、そもそも気づかずに差別していたことというのを、差別だというふうに認識する事例がどんどん増えていっている気がしますけれどもね。

▼下記バナーをクリックで番組ページへ▼

─関連記事─

はあちゅうさんの“ #MeToo 騒動”はいったい何だったの? 世界的なセクハラ告発から見る「ハラスメントが持つ構造」を解説してみた

かつて“童貞”とは妻に捧げるものだった――童貞はいつから恥ずかしいものになったの? 社会学者・澁谷知美先生に聞いてみた

ハリウッドが「同性愛」を認めるまでの歴史を5分で解説してみた――『ムーンライト』が『ラ・ラ・ランド』を押しのけてアカデミー賞を獲った理由

この記事に関するタグ

「生活」の最新記事

新着ニュース一覧

アクセスランキング