大ヒット映画『ラ・ラ・ランド』は、どうして評価が分かれるの? 理由を3つ考えた
アカデミー賞6部門を受賞し、話題を席巻しているミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』だが、反対意見も多く、ネット上では賛否両論が巻き起こっている。
3月15日配信の『ニコ論壇時評』では、現役の漫画家・山田玲司氏が大ヒット映画『ラ・ラ・ランド』はなぜ評価が別れるのかについて考察。「アメリカ文学のマナーを完全に消しているんだよ。」と持論をたっぷりと語った。
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評価が分かれる理由1――徹底されたノイズカット――
山田:
この映画の強みでもあるんだけど、どういう部分が強いかって言うと、もう徹底して、ノイズカットしているの。ノイズカットと分断。
『ラ・ラ・ランド』は特に、「わー。この展開かあ。この後こういうシーンなんだろうなあ、見たくねえなあ」と思うこと、ないんだよ。バーン、と変わっちゃうわけ。
「あ、季節過ぎちゃった」みたいな(笑)。それから、「わ~そうか~。黒人出てくるんだ、こういう問題にいくのかな」と思ったら、別にそういうのも、サーッっといったり。売れりゃいいのか? 売れなきゃいいのか? ホントのアートって何かな? といって、「ここでめんどうくさい話くるかな?」と思ったら、キレイにスルーみたいな。イヤなものはカットで。
乙君:
なるほど。キラキラしたまんまなんだ。
山田:
キラキラなんです。ものすごくイヤなものは、完全に要りません、ていう、ノイズカットが起こっているっていう。
乙君:
つまりこれは、コメントにもありますけれど、チューニングということですかね。
山田:
まさにその通りです。あらゆる社会問題というのがあるじゃん。これは、よくテーマになってくるわけだよ。で、この作品が特に典型的なんだけど、同じミュージカル映画で『【※】ヘアスプレー』ってあるよね。これ、太った女の子が、「ミュージカルが大好き、音楽が大好き、踊るの大好き、サイコー!」みたいな感じで踊って、彼氏をゲットするぜ! みたいな。
※ヘアスプレー
2007年制作のアメリカ映画。1988年のジョン・ウォーターズ監督のオリジナル同名映画を元にした2002年のミュージカル劇の映画化。
山田:
それでやっていくうちにテレビ番組にも出て、みたいな感じでいくんだけど。「そんなことやっちゃダメ!」みたいな、すごく保守的な、50年代、60年代の囃子で。でも、この話で出てくるのは、主に、公民権運動なんだよね。人種差別の話なんだよ。
だから、「ブラックミュージック最高!」って白人の女の子が言うと、何言っているの? と言われちゃう。で、ブラックチャンネルという、黒人だけが出ているチャンネルがあるんだけど。「それってサイコー!」って主人公の白人の女の子が言うんだけど、それは逆マイノリティになっちゃうんだよね。
でも、彼女は「カンケーない、どっちもサイコーじゃない!」って言う。でも、それは彼女が、ものすごく太って言っているから、可愛いんだよ。それも、またひとつカブっていて。スタイルがいい、美しい女の子だけが、女の子として魅力的なわけじゃないわ、ってのが入っているわけだよ。
乙君:
のっかっていますね!
山田:
のっかっている。あらゆる問題について、葛藤があり、行動があり、前向きな解釈、そして未来を見せていく。これね、ブロードウェイで見た時は、もうとにかくチケット取れなくて大変な騒ぎだった。で、これともう一個、あとでまた話しますけどね。もう一個典型的なパターンで言いますと、みんな大好き『【※】glee』ですね。
※glee
20世紀フォックステレビジョンで制作されフォックス放送で放送された米国のテレビドラマシリーズ。2009年5月19日から2015年3月20日にかけて全121話が放送された。
『glee』のすごさって。まさにスクールカーストなのね。で、スクールカーストの頂点にいるチアリーダー、フットボールのスターからマイノリティ、人種問題、障がい者の人も出てくるのね。
山田:
いろいろな人たちがいて、その下の方にいる人達ほど、ものすごく悲惨な差別を受けているんだけど、負けないっていう。そして、歌うことによって解放される。歌うことによって理解し合える、協調しあえる、そして未来を開いていくっていう話で。これはもう、言ってみれば『【※】ズートピア』です。多様性最高。で、これ面白いのが、2009年スタート。これ、オバマ政権スタート時なんです。
※ズートピア
2016年のアメリカ合衆国のコメディ・アドベンチャー映画。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオにより3Dコンピュータアニメーション方式で製作され、2016年2月7日に初公開された。
乙君:
来た!
山田:
これ、怖い話ですね~。
乙君:
怖いんですか? どういうことですか?
山田:
はい。『glee』は多様性最高。『ラ・ラ・ランド』はノイズカットです。要らないものは要らないんです。移民は出ていってください! 白人のためのアメリカに戻りましょう! という分断の時代と、ちょっとカブっているというところで、ゾクッと怖い感じが入って来るわけですよ。
乙君:
それは意識していなくても。
山田:
出ちゃっているんです。
乙君:
表層に出てしまっているのが……。
山田:
そうなんだよ。トランプのアメリカファースト。で、これ描いているのは、白人ファーストだった時代の、オマージュ。
乙君:
ああ、あのころの名画たち。
山田:
名画、バンド。だから、【※】フレッド・アステアとかが活躍していた時は、黒人が主人公ではないわけだよ。だから、他、あらゆるマイノリティが、背景にされてしまう時代みたいなもののオマージュ。ちょっと怖いですね~。
※フレッド・アステア
アメリカ合衆国ネブラスカ州オマハ生まれの俳優、ダンサー、歌手。 舞台から映画界へ転じ、1930年代から1950年代にかけてハリウッドのミュージカル映画全盛期を担った。
乙君:
そう言われるとなんか、そんな気がしてきましたね。
山田:
で、皆さんこれ、一番に日本でピンと来る感じは、どういうことかというと、FacebookとかTwitterとかで、ミュートとかしていくと、結局、その人にとっての世界になるわけだよ、情報が。
乙君:
そうですね。自分が欲しい情報しか入って来ない。
山田:
自分の見たい世界だけが見える。まさにこれ今回エヴァで言おうとしている、「それが君の望んだ世界なのかい?」
一同:
(笑)
山田:
選択してしまった、ここにいるということ。そして他を見ないということ、社会問題から離れるということ。世間のこととか、政治のこととか、世の中で困っている人のこととか、どうでもよくね? だからこのとき言っている夢というものが、個人の欲望に見えるから、それに気づいている人は、引っ掛かるんだよ。
乙君:
なるほど。その夢って、ただのエゴじゃないかと。
山田:
そういうことです。『glee』が多様性を言っていることで、意識高い系だとすると、残念ながら『ラ・ラ・ランド』は、意識低い系に見えてしまうわけですよ。言いませんよ、意識低い系とは。
乙君:
言った。言った(笑)。
一同:
(笑)
山田:
そう見えてしまうというノイズです、これが。
乙君:
あ、見えてしまうだけね。
山田:
そうなんですよ。なぜかというと、トランプっぽいんですよ、これ実を言うと。だから、これで違和感ある人は、『glee』見ていなかったら、是非見て欲しいという話です。