『シン・ゴジラ』成功要因は“役者に演技をさせなかったこと”アニメ・特撮研究家が大ヒットの理由を読み解く
『シン・ゴジラ』の作り方って、他に応用できるんですか?
岡田:
『シン・ゴジラ』の豪華本を見ていると、やっぱり庵野監督はプリビズ通りに割とこだわりがちで、樋口真嗣の方が、現場に合わせてっていうふうな感じに見えますよね。
氷川:
そこはね、いろんな経緯があって、どういう話をすると正確に伝わるかわかんないですけど、一時期は庵野さんが全部プリビズで押さえちゃって、そのコンテ通りに樋口さんが撮るというプランもあったんですよね。
でもいろんな紆余曲折があって、庵野さんも現場でいろいろ指導しながら、樋口さんは樋口さんで役者を高めたり、足りてないところを足していったりしていって、最終的に料理が出来上がっているんで。
岡田:
ただ基本的には、ヒッチコック的っていうのかな、いわゆる監督の元イメージというか、コンテ、プリビズそういうふうなもの通りに作りたいっていうのって、実社会でなかったわけじゃないですか。ない訳じゃないですよね、これまでも。
氷川:
黒沢さんなんか、そういうのを作っていたと思うんですけどね、ただそれも厳密なコンテという、やっぱり現場を作って、役者を入れて、そこで撮っていくってことでは、黒沢さんはマルチカメラですからね。
氷川:
ということは現場で起こる面白さっていうのを、どこで何がどういうタイミングで、どの角度で起きるかわからないからっていうんで、マルチカメラで撮ってるわけですよね。それはその通りなんですけどね。
岡田:
だから、黒沢さんにしてもヒッチコックにしても、もともと実写の人が、その頃アニメないですから、いわゆるコンテ的にイメージを作ってというのに、近づいていったとすると、庵野監督の撮り方はアニメ畑の人間が実写を撮る時には、こういう撮り方だっていうのに近づいていったというふうに考えればいいですか?
氷川:
そうですね。アプローチが両方あって、たぶんね、良いとこ取りしているのが、『シン・ゴジラ』の成功要因なんですよね。
岡田:
それって、押井守さんがやろうとしていたこととスゴイ似てるわけですよね。
氷川:
似てますけどね。押井守監督は、21世紀早々くらいかな、2001年とか99年くらいに、『すべての映画はアニメになる』という著書を書いているくらい、デジタルの時代になったら、デジタルってお皿の上で、どの具材を乗せるかって全部等価になるから、CGでもあれば、場合によっては絵なんかもあるしね。
役者もいて、いろんな世界観みたいなある実景みたいなやつがあって、全部それをどう乗せるかって、シェフの胸先三寸だって、その考え方そのものがアニメだっていうようなことを仰ってたんですよね。
岡田:
なるほどな。
氷川:
あとはあれですよ。アニメの作り方って基本的にSFと同じなんで、世界観を作って、それに対してルールを決めて、分解していって。
岡田:
庵野君がやった『シン・ゴジラ』の作り方って、他に応用できるんですか?
氷川:
プリビズをやれば、成功するってことじゃないですからね。今言ったみたいなことを、どのさじ加減でどこでどうやるかっていう、今ちょっと説明が漏れました。
CGになる部分に関しては、スタジオカラーの中にCG監督を置いて、プリビズで一回完成形みたいなのを作っちゃうんです、プリビズとしての。それを白組に降ろして、「これの通りにお願いします。」と言って、本番のCGを作るっていうやり方なんですよね。
これそのものが、システムだから、真似できると思うんですけど、じゃ何故スタジオカラーの傍におかなければいけなかったか、その時どういうふうなことを言ったかっていうのは、これは監督によるので、それを真似したからと言ってその通りになるとも限らないし、それと完成形のCGに関しても、最終的には、尾上さんと樋口さんと庵野さんと3人監督がいたんですけど、途中からもう庵野さんだけがCGを見るというふうに、時間がなかったらしいんですよ。
氷川:
決めた時に庵野さんが、それこそ、『王立宇宙軍』で、世界一のエフェクターに見えたああいう審美眼で、「このCGはここがね、たとえば煙が高く上がりすぎている、それはなぜならば、物理的にこんなに高く上がるわけないから抑えて」とか、だからちょっと盛っちゃったりしているところがあったらしいんですよね。
プリビズから、そういうところは、ちゃんと押さえてるし、「風向きがあるから、前のカットこうだった、次のカット、こっち側に煙が出ているわけないから、こっち向きにしろ」とか、そういう修正をかけていって、全部リアリズム方向で、理詰めで直していったんですよ。ものの大きさ、さっきいった破片のサイズとかね、あるいは最初に機銃で撃つところとかも、バズルがバババッて出る時も4コマ目と6コマ目を抜いてとかいって、コマ単位で見る人だから。
岡田:
そこらへんは、宮崎駿的ですよね。
氷川:
それは作監臭を入れているのと同じなんですよね。作画監督臭。