“知らない”ということを恥じるべきーー「バイキング」での“DOMMUNE批判”を改めてぶった斬る。坂上忍が“みのもんた顔”になっているとの指摘も【久田将義×吉田豪×春日太一】
「卓球さんに常識を説いてもしょうがないんですよ」
春日:
やっぱり瀧さんはいいですね。
吉田:
電気グルーヴというか石野卓球さんも、本来であったら地上波でも成功するくらいの腕があったんですよ。実際にそういう道にもいきかけていたんですよね。バラエティのスキルも相当あって司会とかもやっていたんだけれども、あるところで完全にやめたんです。
春日:
『ドグラ・マグラ』【※】でしたっけ?
※ドグラ・マグラ
小説家・夢野久作の代表作。
吉田:
「モグラネグラ」です(笑)。
春日:
面白かった(笑)。「ごきげろよう」というコーナーをやっていたんです。サイコロトークで「子供の頃にあった嫌な話」とかそういう嫌な話を語るトーク番組があったりとか。僕らみたいなモテないやつらが、すげえ楽しい! と思える感じ。
久田:
「有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER(以下、サンドリ)」みたいな感じなんですか。
春日:
近いです。
吉田:
そういう腕があった人で、でもあえてそっちをやめた人なんです。
久田:
かっこいいんだな。
春日:
「タモリの音楽は世界だ」に出ても徹底してタモリさんをおちょくるとか、そういうことを演る人たちだったから裏切らない。瀧さんがだんだんメジャーになっていったから、ラジオでもリスナーとか僕らがおちょくっていたんですよ。瀧さんがそういう雰囲気があるのは気づいていたんでしょうね。
いずれ「平成教育委員会」とかに出て、ヒデちゃんの隣とかに座って俺たちのことなんか忘れちゃうんだろうなっていう手紙とかが当時来ていたんですよ。そういうおちょくり方をしていたんですけれども、本当にそうなっていったからちょっと驚きながらも。
春日:
だから俺は高校時代の電気ファンの俺にもう一回戻ろうという気になりましたね。ラジオ復帰してほしいですね。
吉田:
復帰はして欲しいけれど、ちょっと難しいと思いますよ。特にテレビとかは相当厳しいはずで。音楽の復帰が一番簡単なんですけれども、ラジオはどこまで大丈夫なのか。スポンサーがほとんどついてないTBSラジオなら、まだ可能性はあるのかどうか。
春日:
また昔みたいに深夜ラジオにきてほしい。だってオールナイトの時とか、卓球さんですけれど本番中にオナニーしに行ってましたもんね。
久田:
マジですか⁉ すっげえ。
春日:
よく考えたらそういう人たちだったので何も驚かないんですよ。
吉田:
そんな卓球さんに常識を説いてもしょうがないんですよ。
春日:
バカじゃないのって(笑)。オールナイトニッポンでオナニーした人だから(笑)。Twitterでブサイクいじりをやっていますけれど、オールナイトのノリそのままなんですよ。
吉田:
ずっとブスをいじりつづけている。
春日:
だから何も変わっていないです。俺は懐メロを聞いてる感じがします。
吉田:
これだけブスいじりが厳しい時代にまだ頑張っているっていうね。
春日:
美空ひばりが年に一度出てくるとか、テレ東で細川たかしを見るとか、ああいう雰囲気に近いといえば近いかもしれませんけれども。卓球さんやってるな……俺ももうちょっと頑張らないとな、みたいな。
吉田:
確かに頑張ってるな感はありますよ。これだけ厳しい時代で頑張っているんですよ。
久田:
セクハラとかうるさいから。
春日:
しばらくブサイクいじりをやっていて、そいつのアカウントの写真を自分のアカウントの写真にしたりとか。
吉田:
わけのわからない絡み方をしているやつの顔写真を探してきて(笑)。あの無邪気な邪気はさすがですよ。アイコンもそれに変えたりして(笑)。
春日:
ずっとそれ見てます。でもこれが当時のオールナイトのノリなんですよ。叩けるやつは誰だろうと片っ端から叩くっていうのは当時の卓球さんのノリで、瀧さんはどっちかって言うとボーッとしている感じではあったんですけれど。
吉田:
瀧さんはいい人感があるというか、懐の大きさがあるんですよね。ボクが初めて瀧さんにインタビューをしたときに印象的だったのは、「吉田くんは僕よりも卓球のほうが好きだと思ってた」って言われたことで。確かに影響を受けたのは卓球さんの方なんですけど、瀧さん的な存在への憧れもあるんですよ。
春日:
僕も瀧さんラブラブで行ったら、「たまむすび」で一緒に写真を撮ったときだってジョジョ立ちのポーズでやってくれましたから。すごいそれだけで嬉しかったですね。俺は普通のレスラーのしょうもないポーズで撮りましたけれど(笑)。緊張しすぎちゃって、俺もジョジョをやればよかったって思いました。もう別格ですね。
久田:
勉強になります。全然違う文化なので。
春日:
団塊の世代にとっての石原裕次郎ぐらいのすごさなので。
吉田:
そこまでじゃないと思いますけど! まあ一部の人にとってはね(笑)。
春日:
そうです。僕らの世代はサブカルに目覚めさせてくれたり、梶原一騎【※】とかそういうのを啓蒙してくれたり、そういうのがありましたから。
※梶原一騎
漫画原作者であり小説家、映画プロデューサー。代表作は『巨人の星』『あしたのジョー』『タイガーマスク』など。
久田:
町山【※】さんはちょっと年上ですかね。
※町山
映画評論家の町山智浩氏のこと。
春日:
町山さんを知る前に電気を知っているんです。町山さんは『映画秘宝』で知っているから。それまで宝島でみうらじゅんにいじられていた側じゃないですか。
吉田:
ボクはそっちの世代ですが春日さんはちょっと下なので。
春日:
アラフォーくらいが電気のオールナイト直撃。春風亭一之輔さんとも盛り上がりましたけれども、アラフォーのちょっと変な人はみんなだいたい電気。当時電気を知っているかどうかっていうのがひとつの通行手形みたいになっていましたもんね。電気を知っているやつだったら話せるやつだみたいなそんな感じでしたね。
久田:
すごい面白いですね。
50年前からワイドショーの図式は変わらない
吉田:
ワイドショーの是非の話なのに普通にピエール瀧の話になりそうです(笑)。
春日:
ワイドショーなんて最初から非ですよ。このあいだ見た映画に『経営学入門より ネオン太平記』という50年前の今村昌平の作品があるんですけど、小沢昭一が大阪にキャバレーの第二号店を作るという話で、その場所が文教地区だったんです。それですごいPTAから叩かれるんですね。それがワイドショーに取り上げられて討論会をやろうみたいなことになっていく……というものだったんですけれど。
PTA軍団がいて、小沢昭一がいて、まさに「バイキング」みたいにひな壇に常識屋がいてバンバン小沢昭一が叩かれていたんです。「これは何ざますか!」と。それを小沢昭一が「ふざけるな、こういうのは男たちには大事なんだ」という描写をやっていたんです。
これが50年前です。要はそういう感じで50年前からワイドショーって変わらないですよね。
久田:
図式は変わらないですね。
春日
つまらない社会常識の代弁者としているんですよ。
吉田:
でも昭和のワイドショーが完全にどうかしていたというのも事実で、キャスティングがやっぱり異常だったんですよね。サラ金の帝王の杉山治夫【※1】さんっていたじゃないですか。杉山治夫対ミッキー安川【※2】が札束をバラ撒きながらバトルをしてジャッジが梶原一騎とか(笑)。
アントニオ猪木が脱税騒動を起こしたときの新間寿の独演会1時間生放送で、「女性の方は耳を塞いで下さい。アントニオ猪木のPKO、パンパン、コイコイ、オーマンチョやろう」って言い出したりとか、そういうのが昔は普通にやっていたので。
※1杉山治夫
元消費者金融経営者、元実業家。
※2ミッキー安川
タレントでありラジオパーソナリティ。上述の杉山春夫氏とワイドショーで論争を幾度も繰り広げた。
春日:
その映画でもワイドショーの司会になるやつが出てきて、野坂昭如ですかね。「君はどうなの? キャバレーはいかがわしいと思うの?」とかそんな感じでいきましたよ。
吉田:
昭和のワイドショーが持つ、モラルのなさゆえの面白さはちょっとありましたね。今はワイドショーがモラルの側にいきすぎちゃっているのが気持ち悪い。昔はアンモラルでいかがわしいものだったんですよ。
春日:
あれを見て主婦が毒されるんですよ。うちの母親なんかも「ピエール瀧って……」とか言ってくるんですよ。俺の横でそれを言うかって、40にもなって親子喧嘩ですよ(笑)。
吉田:
ワイドショーがモラルの側に立たなきゃいけなくなっちゃったことで、テレビを情報源にしていない層とのズレが出てきている気はしますね。
春日:
坂上忍が最近テレビで人気が出たのって、本来モラルじゃない側だったから人気が出たわけですもんね。
久田:
はじめはブス叩きで出てきましたもんね。
吉田:
完全に電気グルーヴの側ですよね。
春日:
有吉弘行さんがすごいと思うのは、やっぱりあれだけ売れても未だにどんな番組でもブレないところ。坂上忍とかはすぐにブレていますけれど。
吉田:
ラジオを持っているのが大きいですね。
久田:
坂上忍さんは本当にみのもんたさんみたいに、目が八の字になって。あんなに人は変わるんだなって思いましたね。
吉田:
(コメントを読む)「松本人志もその顔になってきた」って。
久田:
松本さんもな……。その顔になっちゃったな。好きだったのに残念です。
▼記事化の箇所は43:30から視聴できます▼
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