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「座った状態で首吊り」「不摂生な生活の果ての孤独死」――大島てるに「印象深い」と言わしめる物件がどれもエグすぎる【事故物件ラボ】

電通女性社員の自殺マンションが「大島てる」に掲載されている理由

大島:
 クリスマスはイブであれ当日であれ、自殺が多い日と言われています。子供に関しては9月1日。夏休みが終わっちゃったら学校がはじまって嫌だなということで、特にいじめられている子とかは自殺することが多いそうですが。大人はクリスマスが多いと言われています。

 4年前、クリスマスの早朝にタニシさんと行った富岡八幡宮の近くの物件です。

 この何の変哲もないちょっと良さげなマンションで飛び降り自殺がありました。実はここは電通の寮でして、新入社員の女性が飛び降り自殺した現場です【※】。これに関しては、なぜこれをきょうピックアップしたかというと、いわゆる昔ながらの昭和のイメージの電通の寮である「八星苑」が駒沢公園のほうにあって、何も調べずに、ただ電通の寮があるからというだけの理由で、「事故物件だ」と「大島てる」に繰り返し投稿する方が何人もいたので削除をしていたんですよ。


2015年、広告代理店である電通の新入女性社員が社員寮から飛び降りて自殺した。この社員の1ヶ月の時間外労働は約130時間に達し、過労死ラインといわれる80時間を大幅に越えていた。2016年、三田労働基準監督署は、この社員が自殺したのは長時間労働によりうつ病を発症したのが原因と判断し、労働災害を認定した。

 なぜ「大島てる」は社員寮の自殺の情報も載せているかというと、今は電通だけでなく他の会社も、寮は元々あるマンションをまるごと借りて「社員の皆さん、そこに住んでください」という形式が増えています。昔ながらの「なんとか寮」という看板があって……というタイプは減ってきています。

 会社の寮だったら、住めないですから一般のみなさんには関係ないということではなく、マンションを丸ごと借りて社員に住ませて、老朽化したら別のマンションを借り上げる契約であれば、「以前は某会社の寮だったから自分は住めなかった、でも今はもう誰でも住める」ということがあり得るわけですよ。

 ですから、寮だから社宅だから自分には関係ない、ということではないということで、こういった情報も載せています。若い女性の新入社員が過労自殺ということなので、とても注目されましたが現場は注目されていなかったので、私がこうして公表しているわけです。

不摂生な生活を続けた結果の病死は自殺に含まれるのか?

大島:
 “金ピカ先生”と呼ばれた予備校の先生【※】がいらっしゃって、最近一人暮らしをしていたお宅で孤独死しているのが見つかりました。


佐藤忠志。日本の教育評論家・元予備校講師。元拓殖大学客員教授。筑波大学大学院修士課程を修了後、1977年に代々木ゼミナール講師となり、独特の風貌と教授法で金ピカ先生として一世を風靡した。晩年は生活保護を受けるなどの生活を続けていたが、2019年9月24日朝、デイケアセンターの職員が自宅を訪問したところ、冷たくなって倒れていた人物を発見、死亡が確認された。68歳没。

 これは、死体検案書でいうところの自殺とは違う扱いなんですね。本人はFacebookに「生きる甲斐、目標が無い」というようなことを綴っていまして、ただ積極的に首を吊ったり腹を切ったりなんかしたら痛いですし、そのあと奥さんに迷惑がかかるというような書き込みを自身でされていまして、「睡眠薬服用で街頭で、交通事故の4牧巻き添え死が一番だ」なんてことを書いていたぐらい。

松原:
 ネガティブですね……。

大島:
 推測ですけれど、奥さんに逃げられて家事全部任せていたので生活力がなくて、結局お酒ばかり飲んで病院にもめんどくさいから行かない。「体を大事にしたほうがいいよ」と言ってくれるような友達もいない中で、最終的には孤独死。ひとりで病死していたのが、しばらく経ってから見つかった。晩年はお金がなくなっちゃったということですね。

 確かにお医者さんは自殺じゃないと言っています。もちろん殺人でもない。だからお医者さんは「実態としては病死なんですよ」というふうに言っていますし、不動産屋さんも「もしかしたらこれは自殺じゃない」と。

 だから「告知義務はないじゃないか 」とか、「気にする必要はない、いつかみんな寿命で死ぬよ」とかいろいろなことを言うんですけれども。なかなか微妙ですね。単純にケースワーカーが何日か置きかに家を訪ねてくる中で見つかったわけですから、今回に関してはミイラ化、白骨化した腐乱死体が見つかったわけではないですから。

松原:
 それは事故物件にならない可能性も? 告知義務があるかどうかは微妙なところですか。

大島:
 専門家でも判断が分かれる微妙なケースなんですね。何を言いたいかというと、こういう病死、孤独死はスローモーションな自殺と何も区別ができないし、する意味もないというところなんです。

 練炭自殺や首吊りばかりが自殺ではなく、何年も前から生きる気力を失い、体に悪い生活をして最終的には病気で死んじゃったんだけれども、それはまさしくスローモーションな自殺でしょうということで、いま問題になっているのがセルフネグレクト【※】です。

※セルフネグレクト
自己放任。個人の保健、衛生、生活環境などのセルフケアが不足している状況を指す。

 この写真が金ピカ先生の自宅の様子なんですけれども、お気に入りの高級車だけは最後まで手放さなかったみたいなので、泥棒の懸念から立入禁止の張り紙がベタベタ貼ってあったと。

金ピカ先生こと、佐藤忠志氏の自宅。
(画像は大島てる氏のInstagramより)

松原:
 高級車があるのに生活保護なんですね……。

大島:
 シャッターが降りていたので、車自体は確認したわけではありませんが。この方は昔、本当に多額の税金を納めていましたからね。大金を稼いで、それをほとんど税金に取られたことで有名な方でしたから。生活保護を受給していても、国としては得しているぐらいこの方には税金をたくさん払ってもらったわけですから、そこは批判できないわけです。

 というわけで、厳密に自殺とそれ以外を区別することにあまり意味がないのでは? ということでした。

 言ってしまえば、死刑になりたくて無差別殺人した場合、死にたいがゆえにやったということですから、それも広い意味では自殺と言えるかも知れない。自殺というのは本人の心に着目するとあまり意味がないのかなとも思います。セルフネグレクトは社会問題ですから象徴的な事件と言えますがこのケースは金ピカ先生が有名人だから、たまたまニュースになっただけとも言えます。

松原:
 セルフネグレクトというのが世間にちょっと広まったということですかね。

大島:
 間違いなく。私自身もかなり衝撃を受けましたし、なんとかしなければとみんな思ったはずです。いま孤独死と自殺を厳密に分けてもしょうがないという話をしたわけですね。飛び降り自殺をした場合、過労でうつ病になったから飛び降りたすると、遺族の中には「心の病の結果として飛び降り自殺してしまった」という方も出てくるんです。自殺の殺は「殺す」という字ですから、そういう字を使って欲しくない。心の病で死んだのだから病死なんだ、というわけです。大事な人を自殺という形で亡くした方の中にはそういうふうに解釈する人もいます。

 そうすると広い意味では自殺ではなく、病死なんじゃないかという言い方をする人がいるんですよ。そうすると大家さんにとっても実は都合が良かったりするわけですね。「自殺じゃないんだ」と言えちゃうというようなこともあって、先程の電通の場合では飛び降り自殺も、過労自殺も弁護士さんは区別していません。そんなのはどっちも会社や上司が悪いんだということで裁判を起こしますから。

本当に事件性なし? “エクストリーム自殺”事故物件

大島:
 ここからの話は殺人と自殺を区別する方向に着目したいと思います。飛び降り自殺と過労自殺の違いならまだしも、殺人と自殺なんて誰がどう見たって全然違いますよね?

 でも世の中には“エクストリーム自殺”と呼ばれるものがあって、警察は自殺と判断した、でもそんな死に方するか? と思ってしまうような変な死に方が存在します。たとえば事故物件とは直接関係なくても、山や公園で、自分で手を後ろに回して手錠で縛って、そのうえで首を吊って自殺していましたとか、死体に袋が被さっていましたとか……。

 そんなどう考えてもおかしい状況だと言っても、警察は「自殺です」と発表するものがあります。後に何年も経ってから、実はそれは殺人事件だとわかったケースもあるんですよ。

 ですから殺人と自殺は隣り合わせだったり、あるいは逆転してしまうようなケースもあるということですね。たとえばあとになって犯人が間違いなく殺人だと自分で言ったようなものはいいんですけれど、いまだに自殺ということで話がそれ以上進展していないというのもいろいろあります。

松原:
 そういうのは“エクストリーム自殺”というんですね。

大島:
 たとえば東京の新橋でおきたことです。銀座も近い一等地ですよね。オフィス街だったりするところにある一軒家に住む資産家の女性が、一部白骨化した状態で亡くなっているのが発見される事件が2年ぐらい前にありました。

 2年前というと、オリンピックを控えてどんどん土地が値上がりしていた時期ですから、この女性は大地主なんですけれど、坪単価が全然違うわけです。山手線の内側ですから、ちょっと土地を持ってるだけでもお金持ちなわけですね。

 そこのおばあさんが亡くなっているのが、建物と建物の間に挟まっている状態で見つかりました。いまのところ殺人事件ではないということですが、私も含めて続報が知りたいけれどわからないという状態ですね。

松原:
 怪死ということですね。

大島:
 怪死は法律用語じゃないのでとりあえず中立的な表現としては「ご遺体が見つかった」ということしか……。ただ、こういうどう考えてもおかしいだろというのが、少なくとも今のところは殺人じゃないということで片付けられているケースがあって、そのうちのひとつがこれでした。

松原:
 怖いですね。

大島:
 自殺で片付けられているけれど、本当に自殺なのかな、という事件もあるということですね。

松原:
 いろいろな死がありますが、怪死ではなく“幸死”がいいですね。幸せな死で死にたいと思いました。


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