話題の記事

『けものフレンズ』プロデューサーの夢は大学の設立!? 福原Pが語る日本のアニメ業界に必要なこと

ニコ動の声優バラエティでは、裏テーマとして声優事務所の文化を知りたかった

——ニコニコ生放送でオープンソース関連の声優バラエティ『猫ブース鬼パーセント芋』、『もたせろ!!ワンクール』をやった経緯を教えていただけますか?

福原:
 構成作家の今浪祐介さんという方がいらっしゃって、今浪さんが「福原さん、やりません?」って言ってきてくれて、僕は今浪さんも好きだったので、今浪さんが言うならやろう! と思ったんです。その時、僕は『てさぐれ!部活もの』とかも含め声優さんを軸にしている作品が多く、声優事務所さんには独特な文化があって、その「声優事務所の考え方」を凄く知りたかったんです。皆さんがどういう原理だとか何を大事にして、声優を育てているのか? を凄く知りたかったから、毎週違う声優さんがゲストで来るような番組にしたいと思っていました。

——イベントで福原Pの飲み会をやるとか、凄いことやっていた番組でしたよね。

福原:
 あの頃は全然注目されていなかったので、自由でしたよね(笑)。だから沢山の事務所に沢山怒られました。それで「あ、こういうことすると怒るんだ」というのが分かったんですが、でも僕も16~17年間芸能事務所やっている訳じゃないですか? 当然、自分がマネージャーやってたし、事務所経営している訳ですから、僕がマネージャーだったら怒らないことしかやってないんですよ。でも、声優事務所はルールが違うんだなと思いました。
 ニコ生では、一つ一つの仕事で自分の疑問に思っていることとかを、裏テーマとしては解決していくみたいなことをやっているかもしれないですね。だから、自分で声優事務所も作っておこうと思ってジャストプロの中に声優部門を作りました。

『ラブ米 –WE LOVE RICE–』より
©腹8分目製作委員会

『ラブ米』では5分アニメで製作委員会機能の全てを自分で試している

——『ラブ米 –WE LOVE RICE-』についてもお聞きしたいのですが、コレは企画から手がけられているのでしょうか?

福原:
 友達のゲームディレクターをやっている高林ユーキ君(原案・シリーズ構成)が原案者なんですけど、彼も気が合うなと思ってお喋りしている中で出てきたアイデアが『ラブ米』で、面白いなと思ったので、「オレ、金集めてくるわ!」ってお金を集めて、アニメにしよう! となったんです。

——監督の堀内隆さんを起用した理由は何でしょうか?

福原:
 堀内さんは最初は紹介だったんですけど、堀内さんが「日本アニメ(—ター)見本市」でやった『ヤマデロイド』を見て面白かったので。

——実はこれがハーベストショー【※】の元ネタなんじゃないのか? と思いました。

※ハーベストショー
『ラブ米』劇中に登場する、お米を擬人化したキャラクター達によるライブショー

福原:
 なんか近いですよね。『ヤマデロイド』もシュールさやパロディ的なものも含め、ギャグセンスみたいなものが面白いのと、堀内さんと実際お話した時に凄く良い空気が流れている方というか、大先輩なんですけど普通に楽しい、気が合う人だからそんなに方向性が違うことはやらないだろうと思いました。
 脚本の伊福部崇さんもそうで、ずーっとこの数年お酒を飲んだりはしていましたが仕事は今回が初です。基本的に会議とかもずっとふざけてダジャレを言ってるだけです。

——エンドロールがCookpadとのコラボだったり、農水省とタイアップしたり、プロデューサー色が強いと思ったのですが?

福原:
 この作品のテーマとしてもう一個あるのが、ゆくゆくはたつき君のオリジナル作品を作る時のために会社としての体力やノウハウを溜めておかなきゃと思ったんです。『けものフレンズ』では立派な会社ばかりの委員会に支えられているから、アニメ制作に集中出来たというのがあります。結果的に色々なところでグッズになったりイベントをしたりというのは、本当に皆に支えられているからなんです。
 だけど、いざたつき君が本当に好きなことをやる! という時に、ビジネスと相反することも出てくると思います。それを自社のグループでやることで全部受け止めることが出来るようになる。僕は幸い今レコード会社やっているので、音楽とBlu-ray・DVDの発売も自社で可能です。なので、プロモーションなども含め、まずはアニメを作るのに必要な製作委員会機能を全てノウハウとして社内で持っておきたくて、そのために5分アニメくらいのサイズ感でやってみているんです。
 僕のチャレンジとしては、委員会機能を全部出来る寺井、福原とアニメ制作を全部出来るたつき君が居て、合体させた時にはコミュニケーションを完璧に取りながらアニメを作る事が出来る! と、そういう目的があるんです。

——次のたつき監督のオリジナル作品を見越しての企画という側面もあるんですね!

福原:
 だから声優事務所もグループの中にあるし、音楽の会社もあります。ただ、それでアニメ業界に革命起こしてやる! とかは全然思ってないんです。ただ単に、僕が面白いなって思うものを皆さんに迷惑掛けずに、自分たちで完結したいだけなんです。だから凄いワガママなだけなんですよ。

福原プロデューサーが挫けそうになる時

——アニメ業界で独自の道を行っていると挫けそうになることもあったりしますか?

福原:
 滅茶苦茶挫けてますよ。1日、体育座りして終わるみたいな日もあります。でも、やっぱり人によって問題が起こることもあれば、それを解決してくれるのも人だったりするんです。みんなが助けてくれるし、支えてくれるファンの存在も大きいです。ファンにディスられてたら、「もう辞めたい」って思うこともあるでしょうけど、大抵は皆「次を見たいです!」とか、応援してくれている。だから頑張れているのかなと思います。

 僕は承認欲求とかが強い人だと思うので、寂しいとか認められたいとかそういう原始的なモチベーションなんです。僕という人間の器はとても小さくて、凄く人の顔色を気にして生きています。Twitterもエゴサーチするし、会議とかの最中も「この意見言った時に、あの人ちょっと嫌な顔したな……」とか、そういうのを滅茶苦茶気にするんです。
 そういう嫌な顔している人が居たら、後で個別に「さっき何か僕、変な言い方しちゃいましたか?」とか聞きに行くから、結果的に調整が出来ていただけで、基本は何の自信もないし、「お前こんなことも知らないのか!」って言われて恥かきたくないから、一所懸命ガリ勉しているだけなんです。人にわからない事聞くのも恥ずかしいので大体本呼んで何とかしています。基本的にはちっちゃい人間ですし。悪く言えば八方美人だと思います。

——そうなんですか?

福原:
 本当そうなんです。それを如何に悟られないか、取り繕うために隠れて勉強をしたり、相手に嫌われないように何を考えているのか想定して人と話したりしているだけなんです。

——異業種から参入したヤオヨロズにはアニメ業界にはあまりないスタートアップベンチャーのような雰囲気があると思います。

福原:
 手描きのアニメの文化だと暖簾分けというか、業界内の方が独立するパターンしかないですよね。
 確かにアニメを作るという仕事と映像を作るという仕事はちょっと違う仕事なのかなと思っていて、当然CG会社は技術力だけで言えばアニメを作れるはずなんですけど、CG会社さんでCGアニメを作るという作り方と、アニメの会社がCGアニメを作るというのは、「物」としては似ているかもしれないけれど、多分違うことだという気がするんです。
 ウチはツールがCGなのでCGアニメの会社と言われるのはしょうがないなとは思いつつも、普通にアニメ制作会社って言われたいなって思っています。

——それはこれから、『ラブ米』も手掛けられたことで3DCG以外もやるんだという認識になっていくでしょうね。

福原:
 あとは僕も関連の声優事務所とか音響製作周りとかも含め、色々やっていきたいんですね。多角経営をしたい訳でもなんでもなくて、コンパクトに自分たちの表現したい物を、ラグを無く繋げたいというだけなんです。

——それが以前のインタビューで仰っていた「作り手の熱が下がるのを阻止するためのチーム造り」というところなのでしょか?

福原:
 そうです。全く育った境遇が違う人たちが意気投合するのって、確率でいうと低いじゃないですか? だから一回やったことのあるチームでなるべくやりたいと思うのはそこです。一つの仕事をするたびに一歩進むみたいな感じだと思うんですね。それを早めたいというだけですね。負荷をかけすぎると潰れちゃうと思うので、それはバランスですよね。

国際感覚のあるプロデューサーの育成は重要課題

——『けものフレンズ』の台湾での配信が始まりましたが、制作の上で海外配信は視野に入れていたりはするのでしょうか?

福原:
 これからはやらないとダメでしょうね。『けものフレンズ』は、日本での評価は高いのに欧米圏での評価はまだあまり高くはないそうで、かなり評価に乖離がある状況だと受け取っています。
 今の海外のアニメファンと日本のアニメファンの食べてきたアニメの情報量が違うので、ハイコンテクストなモノづくりになってしまうと外国人には楽しむことが難しいというか……言い方が難しいんですけど、オペラとか歌舞伎って富裕層には人気あるけど、僕らみたいな庶民で歌舞伎を子供の頃から見てた人とかいないじゃないですか?
 日本のアニメファンはアニメに関しては「歌舞伎のあの役者のあの芝居がいいね」というところまで分かるけれど、海外の方からするともっとシンプルにして、何なら解説付きでやらないと何が楽しいのか分からないと思います。地域性とか、国民性によって受け入れられ方に差があるので、色んなアプローチがあると思うんですけど、まずは日本人に向けて作ろうと思います。僕が日本人なので日本人に受けるものを考えるのがまだ分かりやすいので。

——しかし、今は海外の配信業者からの資本で作られる日本のアニメが増えていますよね?

福原:
 やっぱりマーケティングというのが日本のコンテンツだとちょっと足りていない気はしています。監督主導型とプロデューサー主導型と作品のアプローチがあると思うのですが、アメリカとかはプロデューサー主導型=マーケティングが出来ているという側面も強く、最近のハリウッド映画だと必ず中国人キャストが居るのも当然アジア対策ということだったりします。
 そうしたマーケティングを重視していくとなるとプロデューサー主導型に成っていかざるを得ないので、強いプロデューサー、優秀なプロデューサーが居ないといけません。
 そうした国際感覚のあるプロデューサーの育成は重要課題ですが、僕自身には国際感覚は特別には無いので、僕の下の世代のプロデューサーたちに期待しています。

 世界のアニメの6~7割以上を日本が作る、一つの国でこんなにアニメを作っているのは他に類を見ないので、日本がちゃんと世界のアニメ制作を担う国としての責任を持たなければいけない。アニメを愛する者として、僕がプロデューサーの立場から出来ることとして、良いプロデューサーを沢山育てておきたいと思っています。

「アニメ」の最新記事

新着ニュース一覧

アクセスランキング