「いつまでニコニコに投稿するの?」と言われることも――これからの時代、クリエイターはプラットフォームをどう選ぶべきなのか【歌い手 そらる×ニコニコ代表 対談】
■コンテンツクリエイターと収益について
そらる:
収益についての強化は是非期待したいところですね。
現在は昔と違い、動画投稿を職業にしている方も増えていますよね。なのでコンテンツをネット配信するクリエイターの多くには収益化を目標としている人が多いので、今後niconicoの動画再生での収益化が強化されて「niconicoは稼げるんだよ」という認識が広がれば、少なくとも「YouTubeとniconico両方に上げよう」という人はもっと増えるんじゃないかと思っています。
栗田:
YouTubeは「稼げるんだよ」というプロモーションがすごく成功してますよね。niconicoはまだ「実は稼げる」ということはそんなに知られてないと認識していて、そのあたりのプロモーションは今後の課題です。
そらる:
YouTubeは「好きなことで生きていく」という打ち出しがあり、動画一本で生きていく、生きていこうという方が日本でも大きな流れになっていて、「YouTubeに投稿して人気が出れば食っていけるようになるかもしれない」という認識は出来上がっていると思います。
せっかく動画を投稿するなら再生数が伸びて収益で生活できるようになればいいという思いを持ってる人は多いと思うので。
栗田:
そうして「niconicoは儲からないから出ていった」と言われてる人たちもふらっと帰ってくればいいなとは思いますね。
司会:
収益の話は読者のクリエイターの方々も気になるところだと思いますので、もっと突っ込んで伺いたいのですが、niconicoとYouTubeの収益構造に違いはあるのでしょうか?
そらる:
YouTubeには広告を自由に設定できるという点、広告の種類に関しても自分で設定しやすいという利点があります。また、niconicoとの大きな違いとして世界的な発信力があるので、海外の方が見てくれた際にもその国の方に向けた広告が表示されるというのは収益化に関して大きな利点となっていますよね。
栗田:
そうですね。ユーザーさんが見てくれるだけで収益につながるというのを、YouTube以外で成立させるのは難しいと考えています。
司会:
そうなんですか?
栗田:
今は日本のネット広告(ディスプレイ広告)のかなりの部分をGoogleが占めていて、恐らく今後もさらにその傾向は強まるんじゃないかと考えています。なので日本の企業が独自で広告主から広告出稿を集めて、その広告をコンテンツに貼ってもらって見られた分だけ収益として還元するようなしくみは成立しづらくなっていくのではと思います。
そらる:
YouTubeの収益モデルで言うと良い面ばかりではないと思っていて、レギュレーション違反の問題に関しては今まで許されていたものが、YouTubeの判断で「ダメです」となり、それが機械的な判断で弾かれ収益化できないというシステムになっています。実際に収益化権利を剥奪された方の存在も多く聞いています。
その点に関しては本当に怖いなと思っています。
栗田:
YouTubeのレギュレーションの厳しさ、機械的に行われているレギュレーション違反の判断といった融通の利かなさがniconicoにはありません。なぜかというとほとんど人力でやっているからなんですけど(笑)。
そらる:
そうなんですね(笑)。
栗田:
もちろん最近はAIも導入していますけど、人力とハイブリッドであることはniconicoの強みだと思います。やはり日本だけで頑張るということは、どこまで細かいフォローを提供できるかという点にもあると考えていますので。サポート体制も厚くしていきたいと考えています。
司会:
niconicoのクリエイター収益モデルはどのような構造なのでしょうか?
栗田:
niconicoの場合は月額会員さんが継続的に支えてくれるセーフティーネットとしての側面があります。プレミアム会員さんの月額課金額の一部を「クリエイター奨励プログラム【※】」で投稿者の方々に分配しているほか、ニコニコチャンネルで月額課金をする事が出来ます。今は一部のクリエイターさんのみがチャンネルを使えている状態ですが、これも拡張の必要性、個人が有料チャンネルを簡単に開設できるようにする仕組みが今後必要だと考えています。
また、ニコニコ動画では二次創作の元になった「親作品」に対して、「子作品」の人気が増えた分だけ収益が上がるという仕組みも用意しています。
ここはやはりインディーズとして、二次創作がどれだけ生まれやすいかという点を意識したものになっています。
※クリエイター奨励プログラム
プレミアム会員収入、広告収入の一部を原資に、創作活動の支援および二次創作文化の推進を目的として、niconicoの投稿作品に対して奨励金を支払う制度。算出方法は非公開だが、登録した動画の再生数等で算出されたスコアをニコニコポイントや現金に交換が可能。
そらる:
自分はリスナーさんからよくニコニ広告もしていただいているのですが、ニコニ広告のポイントも分配になっているんですか?
栗田:
現在はニコニコ生放送(ニコ生)のみなのですが、投稿者さんに「クリエイター奨励スコア」として還元し、そこから現金やニコニコポイントに変えられるようになっています。ニコ生では昨年から「ギフト機能【※】」も追加されていますので、色々な方面から収益が得られるようになっています。
そらる:
だいたいは理解しているんですが……色々あってわかりにくいので、そういう情報がまとまっているサイトなどがあると分かりやすいと思います。
栗田:
複雑ですよね。分かりました。検討させて頂きます。
司会:
さきほど栗田さんのお話で「ピラミッド構造の真ん中ぐらいのひとにはむしろniconicoのほうがチャンスがある」とありましたが収益面でも同じようなことはあるのでしょうか?
栗田:
全く再生されない人が収益を得ることはどちらでも同様に厳しいと思いますが、YouTubeよりniconicoのほうが収益を得やすいという属性を持ったクリエイターさんは多いと思います。
例えばオリジナル楽曲がカヴァーされる人やniconicoで強いジャンルのコンテンツを作っている人、映像、画像素材を作る人、動画制作ツールを作っている人なんかも自分の作ったコンテンツやツールが多くの人に二次創作されることで他にはない収益チャンスが生まれています。
YouTubeでは稼げないけど、niconicoなら月に数万円稼げるよね、少しは食えるよねという方に向けた動きは強くしていきたいですね。
そらる:
話はそれるんですが、YouTubeは海外の人も見てもらえるというところで再生数と収益が伸ばしやすい面もあると思います。niconicoの海外展開ってあり得るんでしょうか?
栗田:
海外からも見ることはできるんですが本格進出は考えてないですね。niconicoの特徴であるコメントについて、例えば英語だとちょっと文章が長くなって読みづらくなるため、あまり向いていないと考えています。
そらる:
中国語とかだと漢字なのでパッと見でなんとなく理解はできそうですよね。中国はbilibili【※】がありますけど。
(画像は哔哩哔哩(゜-゜)つロ干杯~-bilibili公式サイトより)
栗田:
そうなんですよ(笑)。なので基本的には日本語の圏内でしっかりやっていこうとしています。日本に特化したサービスや機能、そして運営はniconicoの強みなのかなという思いもあります。
そらる:
niconicoでは自動翻訳機能は実装できないんですか?
栗田:
機能的には確かに難しいものではないですね。翻訳機能のシステム自体もかなり技術進歩してきたので面白いかもしれません。
海外展開をしない理由はリソース、コストの問題が大きくて、今までのniconicoはどんどん新しい機能やサービスを広げていった結果、動画や生放送の機能強化がゆっくりとしたペースでしか進められなくなり、それでユーザーさんからお叱りを受けたりした事がありました。
なのでひとまずは地に足をつけた強化、改善をしていこうというのが今の流れです。ただ新しいことでも低コストで可能なことはドンドンやっていきたいという思いはあります。
■クリエイターの活動支援
司会:
そらるさんはOPENREC.tv【※】でも配信をされているそうですが、そこでの活動はどのようなスタンスでされているのでしょうか?
(画像はOPENREC.tv公式サイトより)
そらる:
ライブ配信は「OPENREC.tv」を中心に使うことが多いです。自分はゲームも好きなのでゲーム配信をしていますね。元々ゲーム配信もニコ生でやっていたんですが、画質の問題などもあり「OPENREC.tv」での配信が中心になってしまいました。
栗田:
ニコ生の画質についてはちょっと心苦しいのですが、ニコ生もずいぶんと画質は上がりましてここ数年ではかなり改善したとユーザーさんから評価をいただいている部分はあります。
そらる:
ただゲーム配信だとちょっとまだ厳しいかなと感じますね。
栗田:
ゲーム配信でなければ、現在はスマホで見る人が大半ですので、今の画質で満足、ないしはそこまで遜色がないというレベルにまでは持って行けているのかなという思いもありますが、ゲーム配信などの秒間60フレームといったハイエンドに求められる画質となりますと需要と供給のバランス、コストの問題で手がつけられていない状況にあります。課題としての認識はしています。
そらる:
あと、OPENREC.tvはクリエイターがコンテンツを作ることに協力的で、スタジオを使わせてくれたり、企画を立ち上げてくれたり、一緒にコンテンツを作ってくれていると感じられる部分が大きいです。
それが結果的に良いコンテンツを作れることになって視聴者さんに還元できていますし、収益以外にもクリエイターのサポートをしてくれるのは良いところだと思います。niconicoはこのあたりはありますか?
栗田:
制作のコンサルティングという面ではニコニコチャンネルで同様の事を行っていますね。主に生放送なのですがスタジオや制作スタッフを紹介したり、最近ではYouTubeと連動して向こうでお客さんをあつめて、niconicoの番組にも流れてもらうような企画提案の取り組みもしています。
司会:
YouTubeの番組制作もniconicoが行っている、ということですか?
栗田:
ニコニコチャンネルだと実際に無料放送部分をYouTubeで行っていて、課金部分をniconicoでというクリエイターさんが増えているので、そういったサポートのニーズに対応するためですね。
そらる:
メンタリストのDaiGoさんが成功している【※】というのはニュースで見ましたね。
(画像はメンタリストDaiGoの「心理分析してみた!」公式サイトより)
栗田:
もうユーザーさんもどこそこのサイトだけしか見ない、という状況ではないと思いますのでniconicoだからとかYouTubeだから、とかはあまり気にしていません。
司会:
月額会員制のチャンネルが収益の一つとして注目されていますが、そらるさんも検討されたり、提案を受けたことはあるのでしょうか?
そらる:
いくつかお話はされたことがあります。ただコンテンツを作るのって投稿者、クリエイターじゃないですか。例えば有料に値する投稿動画を用意しなきゃいけないのかなという不安なんかがあって、避けていたところがあります。自分が活動をはじめた頃って、例えばライブをやるにしても「ネットクリエイターがお金を取るのはちょっと……」みたいな空気感もありましたし、今もできる限りリスナーさんには直接お財布を痛めない方法を優先的に考えるようにしています。
栗田:
今では運営方法も多様化してきていて、専用の動画や生放送だけではなくプレゼント企画やイベントチケットの優先販売などのファンクラブ的な使い方をされている人も多いんですよ。
他にもコンテンツはniconicoだけで全て無料で見れるようにしながら、場所としてのチャンネルを有料課金にするというチャンネル運営の仕方もありますね。ネットでクリエイターが収益を得る方法がコンテンツ配信以外にも多様化してきています。
そらる:
コンテンツは全部無料で見られて、応援したい人は応援として会員になってくれる、その考え方は良いなと聞いていて思いました。
■最後に、クリエイターに向けたメッセージ
司会:
そらるさんから最後に、これからコンテンツ投稿を新規に始めようとするクリエイターに向けてのメッセージをいただければと思います。
そらる:
最近頂く質問などを見ると、初めからクオリティの高いものでないといけないと思っている方が多いと感じています。
自分はそうではなく、まずは楽しむことが一番大事で、大切にして欲しいことだと思っています。楽しければ自然に続けていけるし、例え数字が付いてこなくても自分が楽しいならプラスだなと。
好きで続けることが上達への近道ですし、まずはクオリティにこだわりすぎず、楽しいと感じることを始めてみて欲しいですね。
プラットフォームに関しては、自分のスタイルに合った配信サイトを見つけることも大事だと思います。それは今日の対談の中でも出てきましたが、自分のフォロワー数であったり再生数であったりといったステータスによっても変わるんですが、ひとつの配信サイトにこだわらず、やりたいコンテンツに応じてサイトを使い分ける事は重要だと思います。
司会:
ありがとうございます。栗田さんからはこれからniconicoで投稿を始めようかな、と思うクリエイターの方に対して何かありますか?
栗田:
niconicoは年内にバージョンアップも予定しています。そこでは今まで以上にユーザー同士が繋がれる面白さを打ち出していければと考えていますし、演者とユーザーと放送を巻き込んで一体感が感じられる機能の用意、もちろんクリエイターさんのモチベーションに繋がることもやっていきたいと考えています。
そらるさん、本日は本当に貴重なご意見ありがとうございました。
そらる:
niconicoには、ユーザーとの距離が近いという部分を大事にしていって欲しいなという思いを持っています。
一時期のドンドン人が増えていく感じ、勢いを感じられるようになると嬉しく思います。そして、ここ最近のniconicoに対する厳しい評価の声を払拭していって欲しいです。
niconicoの一ファンとして“常に新しいサイトであり続けてほしい”と願っています。
栗田:
ありがとうございます。
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