『進撃の巨人』“壁に閉じ込められた世界観”を解説&考察──序盤の略式図に騙されるな、壁の中は本州が半分以上収まる広さ。壁が1枚破られただけで食料が半分に
絶滅の危機に立たされた人類と巨人との戦いを描いた作品である『進撃の巨人』が、今年の4月9日に発売された別冊マガジン5月号にて約11年半の連載の最終回を迎えました。
本稿では、アニメ・映画の評論や考察などで人気を博しているニコニコ生放送『岡田斗司夫ゼミ』で過去に実施された『進撃の巨人』の放送回をピックアップ。
岡田氏によると本作の面白い要素の一つに「壁に閉じ込められてる世界」が挙げられるといい、読者が勘違いしがちな「壁の中の世界の広さ」を実世界で例えるほか、壁1枚が破られることで生じる農業の問題などを考察した場面を紹介します。
※『進撃の巨人』の22巻までのネタバレを含みます。また、本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。
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壁の中にある世界の大きさを理解していないと作品の面白さが分かりにくい
岡田:
『進撃の巨人』の何がそんなに面白いのか。それは「巨人が人を食う」「壁に閉じ込められてる」という二つです。
今回は、ストーリーを簡単に振り返った後に、「壁に閉じ込められている」ということについて解説していきます。
■単行本・1巻
壁の中に閉じ込められていた人類。壁の外には巨人が沢山いる。その壁が破られてしまった■単行本・2~22巻
ようやく壁を取り戻した。しかし、壁の外にも人類がいたんだ。実は、俺たちは閉じ込められていた
『進撃の巨人』というのは、1巻から22巻のほとんどが、「人類は閉じ込められていたが、実は外にも人類がいたんだ」で占められていて、この部分がやたら長いと思ってください。
僕としては『進撃の巨人』の面白い箇所は地理的な部分だと思います。
確か1巻に出てきた図の地理で状況を簡単に説明すると、人類というのはこの三重の壁の中に住んでいます。
一番外側の壁、二番目の内側の壁、最後の一番内側の壁。この真ん中の辺りに王様が住んでいる王都と呼ばれる大都市があるけども、壁のサイズがとにかくめちゃくちゃデカいです。
アニメ版の『進撃の巨人』で設定が色々な場所に出てきますが、一番中央の都市から一番内側の第3の壁のウォール・シーナまで半径250kmです。
3番目の壁から2番目の壁のウォール・ローゼまでが130kmとかなりあります。一番外側の壁まで100km。一番中心の街から一番外側の壁まで半径で480km、直径でいうと960kmなんですよ。かなりデカいですね。
皆、この図の印象で考えるんですよ。
この図がちゃんとした模式図だという風に書いていますが、なんとなくこれぐらいで考えてしまう。中には作者が、いわゆる概念図として描いてくれるわけですね。
このままのサイズという風に思っている人はかなりいますが、実際は違います。
実際の地図上に置いたらどれぐらいのサイズなのかというと、例えばアメリカ合衆国に『進撃の巨人』の壁があったとしたら一番広い壁が、ほぼインディアナポリスからダラスまで。
アメリカの中央平原をまるまる飲み込んでしまうような巨大な円だと思ってください。
ヨーロッパに置いたらどれくらいのサイズかというと、フランスのだいたい東部からポーランドの果てまでです。
これが全部入ってしまうような円です。完全な円形では無理なので、僕はこのスペインから大体これぐらいの壁だと考えた方がいいんじゃないかなと思っています。
これはどれくらいかというと、ほぼ古代ローマ帝国と同様のサイズぐらいだという風に思ってください。
日本で例えると、中心を東京に置いた場合、一番内側の壁のウォール・シーナが西の果ての名古屋です。北に行くと新潟ぐらいまであります。
東京を中心とした場合、第一の壁は赤円、第二の壁は橙円、第三の壁は緑円くらいの大きさになる(図は編集部作成)
その外のウォール・ローゼの2番目の壁が大阪から仙台まで。すごいデカいですね。
一番外側のウォール・マリアに至っては、西だと半径で鳥取まで、北だと秋田まであって、日本がほぼすっぽり入ってしまいます。
先ほどのアメリカの地図で分かるとおり、これは島と言っていますがほぼ大陸なんですよ。
オーストラリア大陸ぐらいでないとこんなに巨大な壁ができないですね。この壁のデカさをよく分かっていないと『進撃の巨人』の面白さが中々分かりにくいんですよ。
先ほども話したように、僕らはなんとなくこの模式図で考えちゃうんですよ。
頭の中にこの模式図が入っていると、東京都のサイズぐらいに考えちゃうんですね。一番内側のウォール・シーナは山手線の内側ぐらいかなという風に考えている人が絶対に多いんですね。
この端っこの出っ張りが、吉祥寺や荻窪、新宿の公園ぐらいと思ってる人がすごく多いと思うんです。
壁のてっぺんに登ったとしても、奥の壁は見えない
岡田:
この壁の上からどのくらい遠くが見えるのかというと、簡単な計算方法があります。
Google等で「高さ・見える範囲」といったワードで検索したら、こういうのが出てくるんですね。
仮に壁の高さを50mに設定すると約27km先まで見通せるわけです。
一番狭い間隔のウォール・マリアからウォール・ローゼまで100kmだから、この世界でかなり高い50mの壁のてっぺんに立っても地平線の向こうにまったく壁が見えないわけですね。それぐらい広いんですよ。
なので壁のてっぺんに登っても壁の向こうは見えないし、おそらく壁の丸みも分かるかどうかはギリギリだと思います。一番外側の壁は、ほぼ直線で地平線の端っこがちょっと内側に曲がってる感じじゃないかなと思います。
日本の本州がほぼ入ってしまうぐらいの巨大な壁の中に125万人、江戸時代の人口よりは少ないぐらいの人間が住んでるわけです。
広すぎる壁の中ゆえに、壁崩壊まで幸せだった人類
岡田:
これだけ広大な世界だからこそ、壁の中の人たちは外に世界がないという風に思っていたんですね。
外には人類がいないと言われて信じれたのか、エレンとアルミン以外が外の世界に興味を持たずに生きてこれたのかと言うと、実は壁の中がもの凄くデカいからなんです。
壁の中には湖もあるし、生態系も一通り揃っているんですね。外側に行かなくても十分幸せに暮らしていけたわけです。
この内部だけで生きていくにも十分以上の面積があった。中央のウォール・シーナの中には王様が住んでる大都市や工業都市もあるし、天然資源を採掘する鉱山や加工プラントもあったでのしょう。
なので第一次産業の農業は、一番外側と真ん中の壁の中で賄われたと考えるのが、地図的に見るには正しいと思います。
シガンシナ区は大阪城の「真田丸」のようなもの
岡田:
主人公の3人が住んでいるのが先ほど話したシガンシナ区という壁の外についている出っ張りです。この出っ張りのことを中国語で「甕城(おうじょう)」と言い、バービカンという風に言われます。
この写真に写っているのが、実際の中国にある「甕城」なんですが、城塞都市の周りに攻められる時に防衛しやすいように作ってる出丸みたいなものです。
写真に写っている自動車のサイズがこれくらいですから、この甕城はそこまで大きくありません。
しかし、甕城の特別デカいやつがシガンシナ区、主人公たちが住んでいたような街だと思ってください。
防衛用の出丸ですから、大阪城の真田丸のようなものだと考えてください。しかし、この進撃の世界の甕城のバービカンはとてつもなくデカいです。
トロスト区の壁に登った時に向こうを見ている風景ですが、登場人物たちが厚み10メートルの壁の向こうに、この甕城部分を遥か彼方に見ている。
その向こうには山があって地平線の更に向こう側にはウォール・マリアがあるはずなんですが、ウォール・マリアなんて完全に見えていません。
おそらくこの幅が2、3km。長さが5kmから下手したら7kmぐらいあるのがこの突出部分の甕城だと思ってください。
単行本で言えば多分20巻ちょい手前ぐらいの絵だと思いますが、この頃になると作者もようやく書き慣れてきて正しい縮尺で書けるようになってるんですね。
ウォール・ローゼから見ていますが、一番外側のウォール・マリアは地平線の遥か向こうにあって全く見えないというところに注意してください。この中で先ほど話したようにシガンシナ区が破られますね。
この突出した一番外側の部分の甕城の門が破られます。この一番外側の部分は、超大型巨人のキック一発で穴が開いちゃったんですが、さらにその穴から入ってきた鎧の巨人がウォール・マリアの壁の入り口を破壊してしまいます。
つまり二つのエアロックの内側扉と外側扉両方を開けられたようなものですね。エアロックの両側の扉が破壊されたら、中の空気が全部漏れる。
これと同様に、外にいた巨人たちがこの穴からドンドン入ってきて、結局それまで人類が持っていた土地の1/3を失うことになってしまいました。
農地を半分失うという「地獄」
岡田:
領土の1/3を失うと言っていますが、農業面積で言うと半分なんですよ。
最初に説明した通り、もともと真ん中の部分というのは工業プラントや鉱物資源、王様の都市があったりと、色々なものがあるから多分農地としては使えません。
外側の部分で農業をやっていたから、巨人が入ってきたことでおそらく食料生産能力の半分を失ったわけです。人口の125万人がこの面積の農業で暮らしてたわけなんですよ。
食料の生産能力が半分になっちゃったので、人減らし戦争とのちに言われることになる、人口の25万人である総人口の20%を投入した戦いをすることになる。
この辺が1巻2巻の流れですね。ただ125万人のうち25万人を投入して人減らしのための戦いをやったとしても、たとえ100万人に減ったとしてもして慢性的な食糧不足なんですよ。
あくまでこの図のイメージで話していますが、食料を作れる土地がいきなり半分になった時に、果たしてどれぐらいの人口を食わせていけるのか。これが地理的な要因で見た『進撃の巨人』です。
『進撃の巨人』というのは、色々な見方ができるんですけども、案外この正確な縮尺で考えたらどんな話なのか。
実はすごいデカい所に囲まれているから、あまり中の人が壁に囲われてる意識がなくても当たり前であって、ところが外側の壁が破られただけで一気に食料が半分になってしまうというのが、おそらく誰も予想してなかったことだと思っています。
なので徐々に中の人たちが生きていくだけで地獄のようなことになっていく。そういうものがこの地理的なところで押さえたら分かると思います。
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「【UG #290】『進撃の巨人』〜「壁のある世界」を考察&実在した巨人都市伝説(2019/7/14)」
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