『閃光のハサウェイ』の見どころを生粋のガンダムファンが語る! 富野由悠季の原作が持つ世界観やクスィーガンダムのデザインの秘密、ヒロイン ギギ・アンダルシアの魅力について
3度目の公開延期が発表されていた、ガンダムシリーズ最新作『劇場版 閃光のハサウェイ』が6月11日(木)にいよいよ公開されます。
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— 機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ (@gundam_hathaway) June 1, 2021
📢#閃光のハサウェイ6月11日公開 決定!
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大変お待たせいたしました。
新型コロナウイルス感染症感染拡大の状況を鑑み公開を延期しておりました
『機動戦士ガンダム #閃光のハサウェイ』は、
🎞6月11日(金) 全国ロードショー🎞いたします‼
もう暫くお待ちいただきますようお願い申し上げます。 pic.twitter.com/NcbgTFPYm9
本作は富野由悠季が1989-1990年に発表した小説『閃光のハサウェイ』の映像化・映画化になります。
これに合わせて、サブカルチャーを解説するニコニコ生放送『マクガイヤーチャンネル』では番組パーソナリティーのDr.マクガイヤー氏と、ガンダムファンである虹野ういろう氏の二人が、ガンダムを生んだクリエイターである富野由悠季のイマジネーションの原点と、公開直前の『閃光のハサウェイ』の魅力を徹底的に語りました。
※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。この番組は2021年5月30日に放送されたものです。
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■『機動戦士ガンダム」が日本のロボットアニメをアップデートした
マクガイヤー:
富野由悠季のお父さんは、パイロットが着る与圧服の開発をしている人でした。子供の頃に、お父さんが家に持ち帰ってきた与圧服を見て宇宙に憧れるきっかけを得たようです。
ガンダムでは、主人公である少年アムロの父親がガンダムを開発したことになっていますが、それは、少年時代の富野由悠季に少しシンクロしているとも言えますよね。
虹野:
まさに、与圧服が少年時代の富野由悠季のセンス・オブ・ワンダー【※】だったわけですね。
※センス・オブ・ワンダー
SF小説等を鑑賞した際に生じる、ある種の不思議な感覚のこと。
マクガイヤー:
さらに、ガンダムには富野由悠季が若い頃に読んだSF小説や冒険小説やの要素がたくさん出てきます。
SFの父と呼ばれる作家ジュール・ヴェルヌが書いた『十五少年漂流記』は冒険小説ですが、ガンダムにおける子どもたちだけで宇宙を旅することになる描写は、『十五少年漂流記』のSF版のようですね。
ロボット(モビルスーツ)のモチーフはロバート・A・ハインラインのSF小説『宇宙の戦士』に登場する「パワードスーツ」です。
さらにガンダムにはハインラインのもう一つの代表作『月は無慈悲な夜の女王』で描かれたような「宇宙と地球に分かれた人類が対立する構図」などが描かれています。
それらのSF小説に日本のロボットアニメというカルチャーが加わった結果、ガンダムシリーズの第一作目『機動戦士ガンダム』が出来上がったと考えてもらっていいです。
『機動戦士ガンダム』には、それまでの日本のロボットアニメ作品に存在した「子供でも、ロボットがあれば大人に負けない力を得られる」というテーマも引き継がれています。
主人公である、アムロ君はまだ子供で軍人ではありませんが「ガンダムの操縦が上手い」というだけで「ジオン軍と戦う」という特殊な役割を負わされます。そこには富野さん自身が二十代の頃、大学で映像を学んでいたことがきっかけとなって、制作の現場で絵コンテ千本切りや、CM制作を叩き込まれた人生が象徴されているように見えますね。
■時代を読む富野由悠季の先見性ーーパレスチナ紛争・政治と官僚の腐敗
マクガイヤー:
『機動戦士ガンダム』ではそれまでの日本のロボットアニメ作品になかったような、リアリティを持った兵器としてのロボット(モビルスーツ)の活躍が描かれています。
地球に住む人類である地球連邦軍と、宇宙コロニーに住む人類であるジオン軍が衝突する「一年戦争」というものは、現実世界の第一次・二次世界大戦を象徴しています。モビルスーツは第一次世界大戦における、塹壕戦を突破するために開発された新兵器である戦車のようなものに近いところがあるかもしれません。
これは、日本のロボットアニメが更新された瞬間でもあります。これまでは、作中に登場する「スーパーロボット」は“世界に一体しかない特別なもの”だったのですが、ガンダムに登場するロボット(モビルスーツ)は工場で大量生産されている兵器として描かれた点が当時画期的なことでした。
画期的だったのは、モビルスーツの設定だけではありませんでした。『機動戦士ガンダム』で描かれた主人公アムロの活躍は、続編である『機動戦士Zガンダム』を経て『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で一区切りしますが、『Zガンダム』で描かれる戦いは「イスラエル・パレスチナ問題」を象徴しています。
虹野:
俺も思ってたことだけど、ガンダムのファンは「一年戦争のような大戦争を見たい」と思っていたみたいだけど……。
マクガイヤー:
でも『Zガンダム』以降の宇宙世紀を舞台としたガンダム(UCガンダム)世界では、局地戦のような規模の小さな戦闘やテロが描かれるばかりでした。
富野由悠季には一年戦争のような大規模な戦争を描く気はそもそもなかったのではと思います。
なぜなら、「同じこと繰り返したくない」ということもあるでしょうし、「大国同士の戦争ではなく、紛争や内戦やテロで大勢の人が死んでいるという現実を、アニメというメディアに反映させなければならない」というクリエイターとしての矜持があったからではないでしょうか。
『Zガンダム』以降のUCガンダムでは、中東をモチーフにしたモビルスーツや人物が多く登場します。
制作直前に、第五次中東戦争(レバノン侵攻)が勃発していて、ニュースで「ガザ市で自爆テロが~」という言葉が現れるようになると、なんと作中に「ガザC(ガザシー)」というモビルスーツが登場しました。さすがにこのネーミングには「富野さんはおかしくなってしまったのか!?」と思いましたが……。
『逆襲のシャア』には、「ハマーン・カーン」や「パプテマス・シロッコ」といった中東を思わせるネーミングのキャラクターが登場します。
ハマーンが属するアクシズはジオン公国残党による組織ですが、「ジオニズム」を英語で書くと「Zeonism」になります。これは、「イスラエルに故郷を建国しよう」という思想「シオニズム(Zionism)」と綴りが似ていますよね。一方で、「カーン」という姓はアジアにおいて遊牧民の君主や有力者が名乗る称号「ハーン」に由来しますが、ムスリムに多い姓でもあります。
また、「ハマーン・カーン」の名前はアメリカの未来学者・軍事理論家であるハーマン・カーンのアナグラムですが、ハーマンはユダヤ系アメリカ人でもあります。ジオン公国残党がアクシズという小惑星で宇宙を放浪するという構図は、国を喪ったユダヤ人のようでもあり、パレスチナ難民のようでもあります。SFとしての普遍性を高めるために、わざとイスラエルとパレスチナの諸要素を混交しているのです。
シロッコという名前が「初夏にサハラ砂漠から地中海を越えてイタリアに吹く暑い南風」からとられていることは有名ですが、そのサハラ砂漠には4度の戦争でイスラエルと争ってきたエジプトがあります。また、シロッコが手掛けるヘリウム3の運搬は石油を象徴していますが、イスラエルは歴史的経緯から産油国であるアラブ諸国と対立しています。『Zガンダム』の終盤で、シロッコがハマーンと対立する展開は、現実の中東問題の諸要素が反映されているわけです。
こういった先見性を持った物語の作り方は、これから劇場で公開される『閃光のハサウェイ』にも現れています。
『逆襲のシャア』の後の宇宙が舞台になった物語である『閃光のハサウェイ』は今から30年前に富野由悠季によって書かれた小説の3部作が原作ですが、そこで描かれる世界観は現代に通じる話なんですよ。
物語は、地球が世襲政治家と官僚によって腐敗しているところから話が始まります。
一年戦争の頃は「ジオンとの戦争」があったけれど、地球の人類がジオンを倒したことで敵がいなくなってしまって、まったく新陳代謝しない政治権力組織がどんどん腐敗して世襲の政治家と官僚ばかりになってしまった結果、地球に住む宇宙コロニー出身の人間は排斥されるようになります。
富野由悠季が『閃光のハサウェイ』の原作を書いたのは、今から30年前ですが現代の日本やアメリカで問題になっている不法移民や入管に関する問題が既に描かれていたわけですね。『閃光のハサウェイ』の物語の舞台が東南アジアに設定されているのも、内戦とクーデターが頻発した歴史的な背景や、富野由悠季が執筆した当時のバブル時代には日本人が東南アジアに団体で旅行して豪遊するようなことが結構あったので、そのへんを考慮した結果かもしれません。
そんな貧富の差が激しい世界観で、主人公のハサウェイは、父親が高名な軍人であるブライト・ノアなので“良いところの子”として描かれます。
■『閃光のハサウェイ』の注目ポイントは「主人公とヒロインの会話シーン」
マクガイヤー:
『閃光のハサウェイ』の主人公である青年、ハサウェイはシリーズ第一作『機動戦士ガンダム』から『逆襲のシャア』に至るまで活躍した登場人物である、軍人のブライト・ノアとミライ・ヤシマの子供です。『逆襲のシャア』からガンダムを見てきたファンはみんな幼少期のハサウェイを知っているし、ブライト・ノアとミライ・ヤシマの結婚はまるで仲の良い大学の先輩同士が結婚したかのような感覚で受け止めています。
そんな、“金持ちのお坊ちゃん”であるハサウェイ君が、今作ではテロリストになってしまうというワクワク展開なんですよ(笑)。
『逆襲のシャア』の頃は、クェス・パラヤという「ちょっと変わった女の子」に惹かれてしまうような「世間を知らない真面目な少年」だったハサウェイ君でしたが、今作では冒頭ハイジャックシーンで、何のためらいもなく人殺しをするところが描かれています。
さらに今作のヒロインであるギギ・アンダルシアは、ガンダムヒロインとして完璧です。キャラクターデザインでは「イイ女感」を出しているのですが……。
虹野:
ちょっと口を開くと言っていることはエキセントリックでバラバラになりますからね。
マクガイヤー:
ガンダムシリーズには「ニュータイプ」と呼ばれる、超人的な直感力と洞察力を持ったテレパシーのようなものが使える人類が登場します。ハサウェイとギギの会話は文章だと全然頭に入ってきません。まるで「ニュータイプ同士の会話」を文字にしたかのようです。しかし、これが映像として演出されれれば良いシーンになるはずです。少なくとも、原作者の富野由悠季はそう考えていて、脳内での映像シーンを基にして小説を書いたのでしょう。
虹野:
冷静なヒロインに見えて、土壇場で怯えたりしていて……新しいキャラクターだという感じなんですよね。
マクガイヤー:
『機動戦士ΖガンダムII A New Translation -恋人たち-』で描かれたような、主人公カミーユ・ビダンとフォウ・ムラサメのやり取りみたいになったら、『閃光のハサウェイ』は映画として成功だと思うんですよね。
台本だけを読むとよく分からないけど、映像化されると声優の芝居と演出によって、すごく伝わってくるみたいな。
■『閃光のハサウェイ』メカニックの魅力について
マクガイヤー:
『閃光のハサウェイ』では、メカニックにも魅力があると思います。クスィーガンダムとぺーネロペー……こんなモビルスーツは、現在のガンダムシリーズでは誰もデザインしないんじゃないですか?
これは『閃光のハサウェイ』の原作小説が執筆された、90年代に突然変異的に発生したこの時期にだけ通じるメカニックデザインだと思います。2000年以降に作られた『機動戦士ガンダムSEED』にこんなモビルスーツが登場したら、絶対に主役の機体じゃないですよね。
虹野:
たしかに『閃光のハサウェイ』に登場するクスィーガンダムとぺーネロペーはどっちも悪役っぽいデザインですよ。
マクガイヤー:
初期のガンダムに登場していたモビルスーツは今の目でみると意外と地味なんですよ。かっこいいメカは、設定では存在するけれど、本編ではあまり活躍しなかったり……。
派手な戦闘シーンは物語の最初と最後しかなかったり……。
虹野:
俺が『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』を見てて、「かっこいい!」と思ったゲルググイェーガーはあっという間にやられて、そのときは「何だこりゃ……」と思いましたよ。
マクガイヤー:
個人的に『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』は、富野由悠季が監督していないガンダム作品では1、2を争う名作だと思っています。けれど、みんなかっこいいと思ったジム・スナイパーIIは2カットぐらいしか出てこない……。
ガンダムって元々そういう作品なんですよね。かっこいいメカたちは、設定として存在するけど劇中ではあまり活躍しない(笑)。
虹野:
『閃光のハサウェイ』のクスィーガンダムとぺーネロペーが持つ、固太りしているような形は、歴代のガンダムの中でも忘れられない形であるというのは間違いないでしょうね。
主人公とライバル、どちらも乗り込むモビルスーツは「白いガンダム」というのは画としては分かりにくいけど、意味的には深いと思う。
マクガイヤー:
『閃光のハサウェイ』の劇場版は原作小説のように3部作で作られる予定ですが、おそらく今後、ハサウェイのライバルとして登場するケネス・スレッグが乗り込むぺーネロペーが正統派のかっこいいガンダムになり、ハサウェイが乗り込むクスィーガンダムが悪役みたいに分離していくんだと思います。
どちらかがシャアの機体のように赤く塗られても俺はまったく驚かないですね。
虹野:
今作のガンダムは武器が、無線操作された小型ミサイルの「ファンネル」だから、ちょっと画として弱いよねって思うけど……。
マクガイヤー:
いや、ファンネルミサイルって暴力的だと思いますよ。
現代では、ドローン兵器で暗殺するやり方が戦法としてあるわけですから、そんな感じでファンネルミサイルが演出されたら、ものすごく怖い兵器として映ると思うんですよね。
虹野:
『閃光のハサウェイ』の監督である村瀬修功監督は、『虐殺器官』の監督だからどこまで凶悪にやるかな……と期待してます。
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