ゆくゆくは『劇場版アズールレーン』も作りたい──目指すは「ハイクオリティな劇場版が作れるアニメスタジオ」。Yostar・李社長が語るYostar Picturesの展望
オリジナルアニメ『空色ユーティリティ』を作れたことは大きな一歩
──もう一作、完全オリジナルの短編アニメ『空色ユーティリティ』も2021年の年末に放送&配信されました。こちらはいかがでしたか?
斉藤:
『空色ユーティリティ』を作れたことは、自分にとってはかなり大きいです。去年はそのために、小さなチームを作ってフル稼働していました。
去年の4月にちょうど李社長と話す機会があって、考えていた企画のアイデアを話してみたら、あっさりと「いいよ、やりなよ」と返されて(笑)。
先ほど弊社取締役の斉藤健吾のtwitterで
— 株式会社Yostar Pictures (@YostarPictures) October 25, 2021
情報が公開されました
アニメ「空色ユーティリティ」ですが、
Yostar Picturesで制作を担当致しました。
続報をぜひお待ちください!#YostarPictures#空色ユーティリティ pic.twitter.com/G2BO0jP2kf
李:
去年、ゴルフが超流行ってたじゃないですか。そうした意味で旬っぽい企画ですし、アニメで美少女とゴルフを組み合わせるのはそれまでにないコンセプトだったし、チャレンジしてもいいかなと思ったんです。
あと、それ以上に、ちょっと偉そうな言いかたになってしまいますけど、普段は会社から与えられて仕事をこなしている状況の中で、自分から言いだしてくれた企画なわけですよ。
そういう社員がやりたいことをやれるステージを用意しないと、優秀な人材は離れてしまうんですよね。そうした意味での経営的な視野からも、やったほうがいいと思ったんです。
斉藤:
そうだったんですね。おかげで、育ってきた新人を本番に投入して、試してみるいい機会にもなったんです。新人の子たちの絵に僕が修正を入れて、どういうところに気をつけたらいいのかを直接話したりもできました。
あと、ちょうど新人の中に、ゴルフをする女の子がいたんです。その子に話を聞いて作品の描写に反映したりもして、そういう形で作品に関わる経験ができたことは、これからの仕事にも役立つはず。そうした貴重な勉強できる場になったんじゃないかと。
李:
まだ若い会社ですからね。すぐにアニメ業界内で大きなインパクトのあることをやれるわけではありませんから、まずは若い社員たちの実力を成長させるために、小さなステップを積み重ねることが大事だとも思っていました。将来を見据えて動きたいんですよね。
──人材育成やコンテンツ開発に時間を掛けて投資されているのは、素晴らしいと思います。
李:
やれるうちはやりましょう、みたいな感じですね。昨今のエンタメ業界、とくにゲーム業界は転換が激しいじゃないですか。10年以上、Yostar本体が存続する保証もない。もしかしたら、来年には消えるかもしれない。だからこそ、やれるうちは悔いを残さないようにやりましょう、と。
──『空色ユーティリティ』のお客さんからの反響はどうだったんですか?
斉藤:
放送後、日々、Twitterでタイトルを検索しているんですが(笑)。それを見る限り、評判は割といいのかな? と。普通にうれしいです。
稲垣:
僕はほかのところ……付き合いのあるアニメ業界の人たちからもいい評判をいっぱい聞くので、本当に作れて良かったなと思います。
去年の4月から勢いで企画を始めて、これで完成まで辿り着けなかったら、許可を出してくれた人たちに対してちょっと会社としてカッコ悪いなと思ってたんですけど(笑)、無事にやりきってくれた。それだけじゃなく、完成したものの出来も僕は満足ですし。
斉藤:
完成しないなんてことある? 全然イメージしてなかったけど。
稲垣:
あるよ。この業界、チャンスがあってもできない人はいるじゃない。会社の立ち上げメンバーのひとりである斉藤が、やれるチャンスにちゃんとやれた、やってくれたことが、僕は制作プロデューサーとして、仲間としてすごく誇らしいです。
斉藤:
そうかぁ。僕はもう、制作進行の子に素材を渡すとき、「このキャラ、めっちゃ可愛く描けたから見てよ!」みたいなことをずっと言いながらやってたことしか覚えてないくらいで(笑)。とにかく楽しい仕事でした。
いろんな媒体に取材もしてもらえて、そういう意味でも注目してもらえたのもうれしかったし。
李:
私も完成データをもらってから、繰り返し見てますよ。放送でも見ました。それくらいいい作品だと思っています。
結果的には、欧米のドラマのパイロットフィルム的なものになったように感じているんです。反響を受け止めつつ、ここから次の展開も考えていけたらいいですね。
人も、会社も、どうやったらいいものを作り続けていけるのか
──この2年のあいだには、アニメを取り巻く環境の変化もあったかと思います。中でもコロナ禍の中で有料配信サービスの契約者数が伸び、サービス間の競争が激化する中で、独自コンテンツとしてのオリジナルアニメへの注目度が上がりました。
また、劇場でも『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が歴史的な大ヒットを記録し、今も『呪術廻戦0』が好調だと報じられています。
稲垣:
アニメがさらに世間の注目を集めるようになってきているのは、お付き合いのある同業他社のみなさんのお話を聞いていても感じてはいます。業界全体の傾向として、仕事もどんどん増えていっていると思いますし。
ただ、話題になるようなハイクオリティな作品を送り出せるアニメスタジオはけっこう固定されているのが現状ですよね。実際は、いくつかのスタジオによって、業界が注目されている状況なのだと思います。
──立ち上げからまだ2年ではありますが、そうした状況を横目に考えておられることはありますか?
稲垣:
我々もゆくゆくはそこに負けない制作能力と、そこから生まれるブランド力を持てるように、がんばっていかないとな……とは考えています。ただ、すぐにどうこうではなく、あくまでまだまだ先の長い話として、ですけどね。
今の会社を立ち上げる前から、アニメ業界でそれなりにいろいろ経験させていただいてきましたが、この業界は常に荒波なんですよね。そこに浮いているだけで嵐に巻き込まれることもある。船を安定させるのってなかなか難しいんです。それこそ、ほとんど神頼みするしかないときもあります(笑)。
ただ、船員の、仲間の力が、結束があれば乗り越えられる波もある。本当にそれに尽きるんですよね。Yostar Picturesという船はどんどん大きくなっていますし、人も増えています。あとはこの船の勢いを維持して安定させていく。それが僕の仕事だと思っています。
──会社としての「持続可能性」みたいなことを意識しておられるんですね。
稲垣:
クオリティの高いアニメをとにかく1回、何を犠牲にしても作ろうとしたら、作れなくはないんですよ。
人を掻き集めて、無茶をさせて、お金も使って。でもそんなことを続けていたら、やがては誰もついて行けなくなくなる。でも、だからと言って、視聴者の方の期待に添わないものばかり作っていたら、それもダメですよね。
働きかたの問題も含めて、人も、会社も、どうやったらいいものを作り続けていけるのかを考えるのが大事だと思っています。
斉藤:
たしかにうちに限らず、各スタジオでアニメーターへの向き合いかたが、少しずつ変わってきている印象はありますね。
稲垣:
それでいうと、アニメ業界に限らないとは思うのですが、ベテランと若手がどういっしょにアニメを作っていくのかを考えるのも、業界全体における課題ですね。
アニメ『アークナイツ』制作に全力を尽くしている
──2年間の歩みを振り返っていただき、将来の大きなビジョンに繋がるお話もうかがいましたが、直近の未来では、ついに『アークナイツ』のTVアニメ化が動き始めますね。
稲垣:
これも『アズールレーン』と同じぐらい、Yostarにとっては大事なタイトルです。
Yostar Picturesとしても、スタジオの立ち上げからPVを作らせていただいている関わりの深いタイトルで、そのPVそのままのクオリティで、作品の世界観を活かしたTVアニメが作れたら……と考えながら制作に取り組んでいます。
斉藤:
僕的にはこれこそ、まずはちゃんと完成させることが目標のタイトルです。目の前にある仕事をどんどん終わらせる気持ちでいま取り掛かっています。
【TVアニメ化決定】
— アークナイツ公式 (@ArknightsStaff) October 24, 2021
『アークナイツ』の TVアニメシリーズ化が決定!
あわせて、アナウンスPVを公開しました!
シーズン01『黎明前奏』は現在鋭意制作中です。お楽しみに!
▼HD版はこちらからhttps://t.co/E4pMYIt2nB
TVアニメ制作: Yostar Pictures#アークナイツ#黎明前奏 pic.twitter.com/scFenLX57O
──すでに公開されているアニメPVが素晴らしいですから、ファンのみなさんとしては、その延長にあるものとしてTVアニメにも期待されているのかなと。
斉藤:
作品のコアメンバーは、PVを作り続けているスタッフで固められているので、そこはご安心いただきたいですね。
稲垣:
そうですね。『アズールレーン びそくぜんしんっ!』を短期間で作ることができたのは、スタッフィングをきちんと固められたのが理由として大きいんです。
その点『アークナイツ』も、PVと別のチームを作ってやってるわけではなく、作品に慣れたスタッフにお願いできている。だから、あとはそのチームで予定通り、狙い通りに作っていけるように全力を尽くすだけですね。
李:
Yostarという会社は、ゲーム会社として不完全な部分がまだ多過ぎるんです。名前はそこそこ知られていますが、運営しているタイトルは全部、自社開発ではないものです。
現状はあくまで他社が開発したゲームのマーケティングなどをサポートして、世の中の広い人に向けて送り出す手伝いをちょっとしているだけ。私たちがやるべきことのひとつは、ゲームに関連しているけれどもゲームそのものではない部分で、無料で楽しめるコンテンツを提供し続けること。
それによって、魅力的なゲームをより広い人たちに届けるのが会社としての義務であると、少なくとも僕は思っています。『アークナイツ』のTVアニメも、そうした義務を果たすために機能してくれれば、目標は達成だと考えています。
『劇場版アズールレーン』、作りたくない?
──では、最後に、それよりもさらに先の、今後の野望はありますか? 斉藤さんはオリジナルアニメを作るという夢をひとつかなえられましたが。
斉藤:
僕は『空色ユーティリティ』というオリジナルのコンテンツ自体をもっと大きくしていきたいですね。
あとは自分自身がクリエイターとして、もうちょっといろんなこともできるようになりたい。今考えてるのは、単純に絵を描くことだけじゃなくて、服をつくろうと思ってるんです。ミシンを買って。
たとえば『空色ユーティリティ』のゴルフウェアを自分で作って、そういうアパレルでの展開をしていくのもありかな? とか。
──映像クリエイターにとどまらないことを。
斉藤:
ええ。映像だけにこだわらず、いろんなことを掛け合わせてコンテンツを発展させていくことをやってみたいですね。
──『空色ユーティリティ』絡みでいうと、作品と紐付いたゴルフの大会はやらないんですか?
斉藤:
やりたいですね! ティーチングプロの資格を取って、『空色ユーティリティ』と絡めながら、ゴルフ入門みたいな企画ができても面白いかもしれません。
ファンのみなさんはもちろん、いろいろな方々の期待に応えてこの作品を育てていきたいですね。
稲垣:
野望かぁ……僕はもう、今日は何度も言葉を変えて繰り返している気がしますが、会社の拡大と安定です。……あ、でも、ちょっとだけ個人的な目標をいえば、ゲームを作りたいです。
李:
えっ!? 大変ですよ?(笑)
稲垣:
ああ、いや、Yostar作品のような大規模なものではなくて。僕、アニメ業界に入る前、実はプログラマーになることも考えていたんです。サウンドノベル、美少女ノベルゲームを作りたくて。
──ああ、稲垣さん、葉鍵ブーム前後の美少女ゲームの盛り上がりが直撃している世代ですもんね。
稲垣:
そうそう。絵も描いて、音楽も自分で作って、プログラムも組んで……って、全部ひとりでやるのが夢だったんです。
──「吉里吉里で同人ゲームを作るぜ!」みたいな。
稲垣:
そう! いやー、実は『吸血殲鬼ヴェドゴニア』みたいな作品を作りたくて、某社に企画書を出したこともあるんですよ(笑)。
李:
今はソシャゲがえっち過ぎて、そっちにお客さんが流れているから、エロゲで勝負するのは大変でしょうね。
でも『ブルーアーカイブ』の新しい章は、まるっきり往年のエロゲみたいな演出をやってたんですよ。あれ、おもしろいです。エロゲ好きだった人たちにはプレイして、5回はシナリオを読んでほしい!!
……というのはさておき(笑)、メディアを変えても、作品の根幹にあった文化は消えていない。えっちなキャラ、素晴らしい演出、最高のシナリオをおもしろいと思う人は変わらずいる。
稲垣:
僕はやはり、美少女ゲームへの忠誠心があるんですよ(笑)。だからもっと会社が安定して、自分のことをやる余裕ができたら、人生の目標としてそういう人たちに届くようなゲームを自分で作ってみたいと思いますね。
李:
やはり何はなくとも、生き残りましょう。その意味では、今のところはYostarの仕事を大量にお願いしていますけど、ゆくゆくは他社の案件も受けられる体制をきちんと作っていきたいですね。
外からの仕事だけで普通にランニングコストをまかなえるくらいのアニメスタジオにするのが理想です。そうして体制を作り、時間をかけて成長し、10年後にはハイクオリティな劇場版が作れるスタジオになっていたらいいなぁ。
──素敵なビジョンです。まずはTVアニメの『アークナイツ』に、『空色ユーティリティ』の今後の展開を楽しみにしております。
李:
……それにしても、ホントに『劇場版アズールレーン』、作りたくない?
稲垣:
作りたいです。今でも作るだけなら、無理をすれば作れはします。でも、一発で終わってしまうのはおもしろくないですよね。
そうじゃなくて、継続してしっかりした劇場版クラスの作品を作り続けたい。そういうことができる体制のスタジオにしたい。それができたら、本当にスゴいことですから。
李:
そうなったときには、『アズールレーン』だけじゃなくて、さっき話した『ブルーアーカイブ』の新しい章……エデン条約編も劇場で作りたいなあ。実現したら、熱いですよ……!
約2年で会社の規模が約3倍になり、アニメづくりの体制も整いつつあるYostar Pictures。
『アズールレーン』や『アークナイツ』の自社運営タイトルのアニメPVに限らず、『アズールレーン びそくぜんしんっ』や『空色ユーティリティ』などのTVアニメ制作にも着手。アニメ『アークナイツ』も全力を尽くして制作中だ。
さらに、「ゆくゆくは他社の案件も受けられる体制をきちんと作っていきたい」と李社長が語るように、アニメ制作会社として着実に歩みを進めている。
そして、ゆくゆくは「ハイクオリティな劇場版が作れるアニメスタジオ」を目指したいと。『劇場版アズールレーン』も『劇場版ブルーアーカイブ エデン条約編』も見たすぎるし、李社長のおっしゃる通り実現したら熱い。本当に熱い。