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『アイドリッシュセブン』アイドル達の衣装はどうつくられている? 担当スタイリストが語る衣装制作の裏側【対談:中原幸子×南圭衣子】

ステージ開幕の直前まで理想の動きを追求する衣装の調整

──想像以上に細かい部分までキャストさんとやりとりしているんだなあと驚いているんですが、衣装の調整時間ってどのくらいあるものなんでしょう?

南:
 キャストさんが衣装を着て実際に踊るのは、ゲネプロ(最終リハーサル)とそのひとつ前の着リハ(衣装を着てのリハーサル)の2回くらいです。

 立ち姿はもちろん、踊っているところを見て衣装を調整したり、着替えにかかる時間を計ったりで、けっこうギリギリまで調整しちゃうんですが、どの現場もそうなんですかね?

中原:
 私も舞台の仕事の時は幕が開いてキャストさんがステージ上に出ていく直前まで調整しますね……! ファンの方が見たいであろう理想の服の動きを出したくて。

南:
 めっちゃわかります!

中原:
 服の流れって振付によって動きかたも全然違いますよね。

 衣装をフィッティング(試着)してから振付を微調整していただくことはできるのですが、大きく動きを変えることは難しいので、衣装側で合わせていくこともあるんです。

──衣装側でどうしても調整できない……みたいなときに振付師さんに相談するみたいな感じですか?

南:
 そうですね。例えば「Treasure!」衣装のパートの中で(八乙女)楽役の羽多野渉さんに、しゃがんで足を上げる振付があったので、危なくないようにマントを短くしたんです。

 そうしたら、マントを後ろに払うような振付が綺麗に見えなくなってしまって。そのときは振付を調整いただきました。

デザイン・中原幸子

──なるほど。

中原:
 ステージに立つと、会場の広さや床の色、照明の当たりかたなどで衣装の印象がガラリと変わるので。本番前に何もすることがなくて余裕があることはあまりないと思います。

南:
 確かに。今のお話を聞いて思い出したんですが、「Treasure!」のとき、楽と龍之介の衣装はクリスタルのスワロ(スワロフスキー)をつけていたので照明の下で綺麗に反射してくれたんですけど、天の衣装につけていた2種類のピンクのスワロは反射が弱くて他の2人と並ぶとキラキラ感が足りなくて……。

 クリスタルやオーロラのスワロをつけ足したりして、ギリギリまで調整していました。

──そういうトラブルというか、その場で予定になかった調整をするというのはけっこうあるんでしょうか?

南:
 そうですね。着リハで天の衣装のスワロがボロボロと落ちてしまったり。

──えっ、それって大変じゃないですか!?

南:
 天の独特なシルエットを出すために、楽と龍之介は違う少し柔らかめで伸びやすい合皮を使っていたんですが、そのせいかスワロの定着が悪かったみたいで……全部とってつけ直させていただきました。

─むしろ本番直前が大仕事なんですね.……!

アイドルのための衣装ではなく舞台衣装として考えた「Last Dimension」

──おふたりのコラボと言えば「Last Dimension」の衣装もそうですよね。もともとの衣装とは違うデザインの衣装がアニメで出てきて驚きましたが、どういったオーダーから始まったのでしょうか。

中原:
 アニメでは実際にLast Dimentionが演じられるシーンのために「舞台上の登場人物(役)としての衣装デザインをお願いします」というオーダーでした。

 舞台では第1部で物語を演じて第2部で歌とダンスのステージという構成がよくありますよね。今回デザインした登場人物用の衣装が第1部に着るもので、楽曲用の衣装は第2部で衣装替えしてライブをしているイメージとお聞きして。

 舞台の衣装からライブの衣装になるということをわかるようにしてほしいとリクエストがありましたね。

©BNOI/アイナナ製作委員会

©アイドリッシュセブン

──すごく難しくないですか!?

中原:
 さすがに難しかったです。なので、3人それぞれ均等にライブ衣装の要素が入っているわけではなく、3人トータルで見たときにライブ衣装の要素が50%くらい入っているようなイメージで作りました。

──なるほど。中原さんは実際の舞台の現場でもご活躍されていますが、そういったお仕事でのノウハウも活かされているのでしょうか。

中原:
 はい。私が実際に舞台衣装としてリアルに手がけるとしたらどうするか考えました。

 「天の衣装はスタイリングと既製品のリメイクで」「羽根はこういう材質で」というようなところまでお伝えして。舞台衣装とライブの衣装って考えかたが全然違うので、『アイドリッシュセブン』でこういう衣装をデザインするのはすごく新鮮でした。

デザイン・中原幸子
デザイン・中原幸子
デザイン・中原幸子

──ありがとうございます! ライブで登場した衣装もそのまま再現というよりは、アレンジが加わっていましたね。

南:
 もともとは舞台衣装ですが、ライブで登場するんだったらもう少しライブ衣装っぽくしたいなと思ってアレンジしました。

 と言うのも、この衣装はライブ2日目に登場するので、ライブ1日目の「ダンスマカブル」とのバランスもとりたかったんです。

 「ダンスマカブル」も人によってはリアル・クローズ寄りの衣装ではあったのですが、生地や装飾にライブ用の衣装感を持たせていて。龍之介の衣装もマントが続いていたので、印象にメリハリをつけたいとも考えて、形を変えさせていただきました。

中原:
 じつはこの衣装が登場することも私は知らなくて。下岡さんから1日目の「Treasure!」の後に「明日もサプライズがありますよ」って連絡があったので、ドキドキしながら配信を見ていたのですが、アレンジが加わっていてもすぐに「Last Dimension」だとわかって嬉しいサプライズでした。

デザイン・中原幸子

スタイリスト同士だからわかる、じつはすごいあの衣装

──おふたりともそれぞれSNSなどでアイドリッシュセブンの衣装について発信されていらっしゃいますが、交流はほとんどなかったんですね。お互いの担当されているお仕事に対してすごいと思う点や好きな衣装はありますか?

中原:
 私は『アイドリッシュセブン』ではデザイン画を描くところまでなので、ライブに関してはキャストさんたちが着ている衣装を見させていただくくらいなんですが、二次元的に衣装デザインされたものをリアルに起こすって絶対大変だろうなっていうのはいつも思っています。

 「2nd LIVE REUNION」の時の2着目の衣装がすごく好きなんですが、種村有菜先生のデザイン画をリアルに起こすのって相当難しかったんだろうなって。

CD:Arina Tanemura

南:
 おっしゃる通りすごく難しくて……。メインカラーの淡い水色ってチープになりやすいんですがチープには見せたくなくて、高級感が出るようにスウェードを使用しました。どの素材を使うかは相当悩みましたね。光り物の生地を使わないという縛りも自分に課していて。

 なにより、種村先生の撮り下ろしがすごく素敵じゃないですか。それをライブ用に起こしたときに、その素敵さは絶対に損ないたくなかったんです。

中原:
 しかもあの時は屋外のメットライフドーム(現ベルーナドーム)での開催で、昼間の公演もあったので、明るくて周りのお客さんの服の色や看板が目に入ってくる環境だったんです。その状況での水色って相当難しいんですよ。

 キラキラした生地というわけでもなくて、それなのに登場した時の印象がすごくしっかりしていて。かつ、種村先生のよさも生きていて、とても感動しました!

南:
 ありがとうございます! デザインをされた種村有菜先生にも喜んでいただけて、自分が『アイドリッシュセブン』で手掛けた衣装のなかで一番のお気に入りかもしれません。

──種村先生の完成された色彩のCDジャケットに出てくるアイドルらしい衣装と、中原さんの作りがリアルでスタイリッシュな衣装。それぞれに再現する際の難しさがあるんですね。

中原:
 そもそも、衣装づくりに何人ものクリエイターの方が関わっているのは『アイドリッシュセブン』ならではだと思います。

 私は、「自分以外にアイドル衣装が得意な方はいらっしゃるし、自分に求められているのはリアリティだろう」と思って作っています。

──ご自身の強みを意識的に表現されていると。

中原:
 各クリエイターごとに持ち味があると思うのですが、どの衣装を見ても曲とマッチしていて違和感がなく、それぞれ合った人を選んでいるんだな……! と驚いています。

 いろいろなクリエイターの方が衣装をデザインすることで、作品の世界観の幅が広がっていって……アイドルたちのさまざまな姿を見られるというのは素敵ですよね。

南:
 それこそ、私にとって中原さんは『アイドリッシュセブン』の衣装の幅を広げてくださる存在です。

 中原さんから、これまでなかったようなデザインがでるおかげで、私の『アイドリッシュセブン』においての衣装づくりにも幅を持たせられるというか。ですので「本当にありがとうございます」という気持ちです。アイドルたちがどんどん大人になっていっている感じもしますし。

中原:
 いえいえ、こちらこそありがとうございます、なので!

「ハツコイリズム」のライブ衣装を作ってみたい

──今後、アイドルたちに着せるこんな衣装を作ってみたいとか、ライブであの衣装を再現してみたい、といったものはありますか?

中原:
 私は最近はリアル・クローズ寄りの衣装が続いているので、原点に戻ってアイドル系の衣装をデザインしてみたいです。

──おお! 楽しみです!

中原:
 あとは、さきほどお話にもあがった「2nd LIVE REUNION」の時の2着目みたいにメンバーカラーの入っていない衣装にも挑戦したいですね。同じカラーで揃えて、全員お揃いに見るけど、デザインは違っている、みたいな。

南: 
 いいですよね。私もメンバーカラーが入っていない衣装を作ってみたいなと思っていて……あとは「ハツコイリズム」作ってみたいです!

中原:
 わあ! 大変そうですけど、「ハツコイリズム」作ってほしいです!

南:
 絶対「熱さが……」って言われますよね(笑)。

中原:
 ありそうですね(笑)。

南:
 あと、すごく個人的な気持ちとしては、「星巡りの観測者」の環の衣装が本当にかっこいいと思っていて……

──ラズ役の衣装ですね。アイマスクで目が隠れていました。

南:
 そうです、そうです! 目が完全に隠れているので、そのまま再現するのは難しいと思うんですが、もうめちゃくちゃ作りたいですっ!

──「星巡り」はRe:valeのみライブで登場しているので、もし全員が揃った景色が見られたら壮観でしょうね……。

『アイドリッシュセブン』にとって衣装とは?

──『アイドリッシュセブン』は7周年を迎え、ストーリーも一旦大団円となりました。とはいえアニメ「Third BEAT!」第2クールや「Re:vale LIVE GATE “Re:flect U”」を控えていますし、第5部のストーリーでは大きな変化も匂わせられました。

 まだまだ先へ先へと続いていきそうな『アイドリッシュセブン』に対して、衣装のお仕事はどんなことができるとお考えですか?

中原:
 『アイドリッシュセブン』って、ストーリーや登場人物や楽曲などいろんな魅力がある作品じゃないですか。私も経験があるんですが、身近な人におすすめするときは「ストーリーが重厚なんだよ!」「楽曲がすごく良いんだよ!っていろいろな要素を挙げますよね。

 そんなときにおすすめするポイントとして、『アイドリッシュセブン』に興味を持ってくれるきっかけのひとつとして、衣装があるのであればうれしいなと思っています。

──なるほど。『アイドリッシュセブン』のファンが「あの衣装このアイドルにとっても似合ってる!」と喜んでくれるのはもちろん、作品への入り口にもなり得ると。いや、もうすでになってそうです。

中原:
 じつは……「ミライノーツを奏でて」の衣装がきっかけで『アイドリッシュセブン』をインストールしましたというメールをいただいたことがあるんです。とっても嬉しかったです!

──それは嬉しすぎる! 南さんはいかがですか?

南:
 マネージャーの皆さんに喜んでいただくことはもちろん、作った衣装を着てステージに立つキャストの皆さんにとっての鎧のようなものになったらいいなと思ってます。衣装を着たらテンションが上がるような、パフォーマンスをするための一助になれたら、と。

──キャストさんと南さんのアイドルへの想いが込められ、キャストさんが動きやすいように調整された衣装はまさに「戦闘服」ですよね。いろいろとお話が聞けて楽しかったです。本日はありがとうございます!(了)


 アイドルたちのために、数多くの衣装をデザイン・制作してきた中原さんと南さん。

 おふたりが各衣装を作った当時を思い出しながら語るエピソードを聞いていると、こちらもライブや楽曲との思い出がありありと思い浮かんできた。

 「Treasure!」の衣装を見て思い出すのは、ライブビューイングと配信のみの開催ならではの演出や凝ったカメラワーク。わくわくしつつも、また必ず直接パフォーマンスを見たいと強く思った「TRIGGER LIVE CROSS “VALIANT”」。

 第4部の展開に不安と期待を寄せて何度も眺めたPVと「ハツコイリズム」の衣装。バックには「Mr.AFFECTiON」のインストが流れていた。

 MEZZO”らしいカラー……ふたりの衣装なのかな? と思いきや、IDOLiSH7全員がメンバーカラーのないお揃いの衣装で現れ驚いた2nd LIVE「REUNION」の水色の衣装。

 7周年のこの機会にお気に入りの楽曲やライブの思い出を振り返る際は、ぜひ衣装にも想いをはせてみてほしい。

 中原さんと南さんが感じていた当時の大変さ、嬉しさを読みつつ、アイドルたちと自分の思い出を振り返っていただけたら、こんなにうれしいことはない。

 そして筆者も、アニメ「Third Beat!」第2クールや「Re:vale LIVE GATE “Re:flect U”」の衣装にもおおいに期待して待ちたいと思う。

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