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松丸亮吾が東大受験の朝に聴いた思い出のボカロ曲。兄に否定されても聴き続けた“人生のターニングポイントとなった10曲”を語る

 近年ではアニメ好きやサブカル好きの間のみに留まらないVOCALOIDの人気。一般の人々はもとより、日頃私たちがメディアで目にする人々の中にも、今やボカロ好きを公言する人は大勢いる。
 そんな有名人の方々に、自身の選んだ楽曲10選と共にVOCALOIDへの愛や魅力を語ってもらうインタビューシリーズ。第3回は謎解きクリエイターの松丸亮吾さんにお話を聞いた。

 インタビューの中では松丸さんらしいボカロの奥深さについてのお話や、超有名なあのボカロPとの意外な裏話も。
 興味深い内容とあわせて、ニコニコ動画やボカコレアプリから視聴できるプレイリストもぜひ一緒に楽しんで欲しい。

文:曽我美なつめ
取材・編集/金沢俊吾


VOCALOIDの入口は歌ってみた動画だった

──まずはボカロとの出会いを聞かせてください。VOCALOIDを聴き始めたのはどれくらい前からなんでしょう。

松丸:
 確か中1の頃で、一番最初に聴いたのがhalyosyさんの「メルト」の歌ってみた動画だったんです。それをいい曲だなーと思って調べてみたら、そこで初めてhalyosyさんご自身が作った曲じゃないことを知って。その時に原曲を聴いて「これってパソコンで作った曲なんだ、すごい!」と思ったのが出会いですね。

──最初の入口は歌ってみた動画だったんですね。

松丸:
 そうですね。それからはニコニコ動画でランキングとかもチェックするようになって、好きなボカロPさんの曲があったらそれを見に行ったりとか。

──なるほど、そうなるとボカロPで曲を聴くようなことも多かったんですか?

松丸:
 はい。なので今回もプレイリスト曲を選ぶ際、10曲というよりは先に10人ボカロPさんを選んだ感じですね。

──VOCALOIDの独特な機械音声に、最初は違和感を持ったりしなかったですか。

松丸:
 僕は全然受け入れられたんですけど、バンドをしている兄には最初ボカロを聴かせた時「もっとメジャーな曲とか、ちゃんと技術のあるボーカルを聴いた方がいいよ」って言われたんです。それがすごい悔しくて、家族を納得させるためにいろんな曲を探したりもしてましたね。
 いい曲があっても当然最初は歌ってみた動画もなかったりするので、まずボカロでお勧めしたくなるんですけど、機械音だから抵抗がある人もいたりとか。これって受け入れられないんだ、っていう悲しさはありましたね。

──今でこそボカロ楽曲はテレビや街中で当たり前に聴くようになりましたが、当時はネットのごく一部の人たちが楽しんでいる音楽でしたもんね。

松丸:
 昔は初音ミクのキャラソン的な曲も多かったですしね。あの文化もすごく素敵なんですけど、僕が最初に聴いた曲が「メルト」だったのでちょっとイメージが違うな、とも思ったんですよ。だからオタク文化って決めつけられたのは悔しかったです。

──そこから、よりボカロを深く知るきっかけは何だったんでしょう。

松丸:
  DECO*27さんの「心壊サミット」でしょうか。最初聴いた時も普通にいい曲だな、と思ったんですけど、その後聴いた「弱虫モンブラン」もいいなと思って。で、作曲者見たらDECO*27さんって書いてあって、あれ、この人見たことあるぞ?「心壊サミット」の人だ!ってなったんです。

──ボカロP名で繋がる、という。

松丸:
 ランキングを見ているうちに、そういったよく見かける常連のPさんを少しずつ認識するようになりましたね。この2曲も全然曲調が違うので、同じ人が作った事がかなり衝撃だったんです。
 実は僕、DECO*27さんとはたまに飲んだり遊んだりするんですけど、そこでもよくこの話をするんですよ。「『心壊サミット』ってマジでDECO*27さんが作ったんですか?」って(笑)。実際この2曲はガラッと雰囲気を変えて作ったので、別の人みたいに聴こえてもおかしくない、とは仰ってました。

──ご本人から裏話を直接お聞きできるのはとてもうらやましいですね。ちなみになんですが、松丸さんはいろんな作品を作り手の目線から楽しむことも多いんでしょうか。

松丸:
 曲自体は普通に聴きますが、「なんでこの曲が流行るんだろう?」って聴きながら思う事は結構ありますね。
 最近僕、ピノキオピーさんの「神っぽいな」はかなりヤバい曲だなと思ってて。あの曲って、SNSで簡単に消費されて「神!」「めっちゃいい!」って流行るものをすごく皮肉ってる曲じゃないですか。めちゃくちゃSNS風刺なのに、それがSNSで流行るっていう。

──ものすごい皮肉ですよね。

松丸:
 きっとピノキオピーさんもそこまで考えて作ったんだろうなって。ピノキオピーさんの曲も初期からよく聴いててすごく好きなんですが、そう考えるとある意味かなり怖い方だな、とも思いますね(笑)。

──お話を聴いていると、非常に幅広い曲を聴かれている印象です。その中でも好きなボカロなんかはいたりしますか?

松丸:
 最近だと可不ちゃんがすごく好きです。技術が進んで、繊細な表現も幅広くできるようになったんだ、って感じますね。
 キャラクターのビジュアルで言うと、鏡音レンくんも好きですよ。実は僕、学生の時にレンくんのコスプレしたこともあるんです(笑)。

──えっ、そうなんですね!ものすごく似合いそうです。

松丸:
 僕のレンくん好きが学校で知られてて、文化祭でレンくんのコスプレしたら?って言われて、そのままノリでやったっていう(笑)。

──学校でも話題になったんじゃないですか?

松丸:
 まあ、ほどほどに(笑)。

人生のターニングポイントで気付きをくれるボカロ

──さて、ここからは選ばれた10曲について伺いたいと思います。今回まず10人ボカロPを選ぶ所から始まったそうですが、最初に「絶対この方は入れたい!」となったのはどなたでしょう。

松丸:
 sasakure.UKさんは絶対でしたね。sasakure.UKさんの曲ってEDMっぽい曲と、寓話的な曲の2種類があると思ってて。なので本当は2曲入れようか迷ったぐらいです。
 僕、実は受験期にsasakure.UKさんの「幻実アイソーポス」をずっと聴いてたんですよ。全体的にすごく落ち着くというか、温かみのある曲が多いので、勉強中も邪魔にならずに聴けたんですよね。それと、sasakure.UKさんの寓話的な曲って歌詞が音楽に溶け込んでいる感じがあって。全然集中力が削がれないというか、安心感がありましたね。

──受験のお供のようなアルバムだったんですね。

松丸:
 あと、同じく受験の時に救われた曲が「ハロ/ハワユ」かな。大学受験の当日、僕「今日失敗したら2年間の勉強が全部無駄になる」と思って、電車で吊革に掴まりながら震えるぐらい精神的に参っちゃってて。そんな中で音楽聴いて少しでも落ち着こう、と思ってランダム再生した時に流れてきたのがこの曲だったんです。
 この曲の歌詞って一部「休んでしまおうかな」みたいな少し厭世的なフレーズがあるんですけど、それを聴いて受験も「どうにでもなれ」という風にちょっと思えたというか。曲調もすごく落ち着く雰囲気なので、そこから会場までの道中や試験の休憩時間も、この曲だけをずっとリピートしてました。

──松丸さんにそういった一面があるのも意外です。華やかでエリートな印象でしたが、裏ではそんな苦しみを抱えることもあったんですね。

松丸:
 受験の時期は特にボカロに支えられていましたね。KEIさんの「走れ」も伊東歌詞太郎さんが歌っている動画を見て力をもらって、「受験頑張ろう!」って思った曲です。
 今思えば、受験だけでなくいろんな人生のターニングポイントでボカロを聴いて、ハッとした経験が多いかもしれません。気づきを与えてくれるというか。BuzzGさんの「しわ」もそうなんですよね。理想の結婚観というか、「あんな結婚をしたいし、あんな人生を送りたいな」って思ったりして。普段そういう事ってあまり考える機会がないと思うんですけど、すごくしっくりきたというか。

──自分の人生や価値観とシンクロする曲、という感じでしょうか。

松丸:
 シンクロというより、何かに気づかせてくれる曲が好きなのかもしれません。ボカロ曲のストレートな表現や言葉で、自分の考えの輪郭がはっきりするというか。そういう感覚が得られるのも、僕がボカロを好きな理由のひとつですね。

直球で投げかけられる作り手の葛藤や価値観が魅力

──最近の曲もチェックされたりしているんですか?

松丸:
 最近だとTeary Planetさんの「アンダンテ」って曲がすごくよかったです。僕、食器や電話の音なんかの生活音のある曲が好きなんですよね。生活音からしか得られないリラックス効果ってあると思ってて、この曲はそれがすごく魅力です。爽やかな雰囲気ですし、目覚めてから一番最初に聴きたい曲ですね。

──そんな新曲や新しいボカロPの情報はどうアンテナを張って調べているんでしょう。

松丸:
 Twitterで流れて来たりすることが多いでしょうか。ボカロPさんをフォローしてることも多いので、「○○さんがいいねしました」とか、そういう所から見つけていますね。

──なるほど、ありがとうございました。最後に、松丸さんが考えるボカロの魅力はどういったものでしょう。

松丸:
 難しいですけど……売れるよね、っていう感じがない所でしょうか。メジャーな曲ってどうしてもいろんな人の声やしがらみがあって作られるので、尖った部分が削られた結果丸いな、と感じることがあるというか。
 その点、ボカロ曲は作る人一人の考え方や葛藤が直球で来るじゃないですか。その中で歌詞を見たい、この曲をもっと知りたい、と思う事が多かったんですよね。

──作り手の感情が乗るというか。

松丸:
 そうですね、癖があるというか。でもそのストレートさで、今まで考えたことのなかった気づきを得られることも多いので。それがボカロの大きな魅力だと僕は思いますね。


Information

「The VOCALOID Collection」 公式サイト

ボカコレアプリから聴く方はコチラ

松丸亮吾さんが選ぶボカロプレイリスト

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