『アイドル#2i2、十味(とーみ)』現在の十味を形作る「夜明けと蛍」「空奏列車」など思い出の詰まったボカロ曲10選
ニコニコ動画発祥のアングラな文化から始まり、今や私たちの周囲のあちこちでポップかつ普遍的なサウンドを響かせるVOCALOID楽曲。テレビやネットで活躍する大勢の著名人にも、今やそんなボカロのファンであることを公言する人々も多い。
様々なシーンで活躍するVOCALOID好きの著名人に楽曲プレイリストを作成してもらい、それを元にインタビューを行う本企画。今回は元踊り手としての活動経歴も持つ、アイドルグループ#2i2の赤色担当・十味さんが登場。ご自身の思い出と密接に関わる曲を中心に、ボカロとの出会いや思い出深いエピソードなどを語ってもらった。現在はアイドルとしてジャンルを超え今なお活躍を続ける彼女の、価値観の本質にも迫るインタビュー内容をぜひ楽曲と共に楽しんで欲しい。
片道2時間の通学時間…ニコニコ漬けの日々が今に繋がる
──十味さんは元々“踊ってみた”が現在の活動に繋がる原点でもあるかと思います。ニコニコ動画やVOCALOIDとの最初の出会いは、どういったものだったのでしょう。
十味:
一番始めの出会いは小学校高学年の頃に、当時通っていたダンス教室の友人からおすすめ曲として「ローリンガール」を教えてもらったことでした。それをきっかけにニコニコ動画やボカロ曲を聴き始めて、サジェストされる動画を見ていくうちにずぶずぶ沼にハマった感じでしたね。最初は本家ボカロ曲や歌ってみたを見ていたんですが、元々ダンスが好きだったのもあって、徐々に踊ってみたも好きになっていって。愛川こずえさんの動画なんかを見て、“自分もいつかこういうふうになってみたい!”と思ってたんです。でも動画のあげ方がわからなかったり、周囲の人にバレたら恥ずかしいな、と思ってなかなか挑戦できなくて。高校に進学したのをきっかけに、ようやく踊ってみたを初投稿できた、という感じでした。
──踊ってみたではなくボカロ本家がきっかけだったのは少し意外なお話でした。この頃お好きだった曲で印象的なものはありますか?
十味:
「ロミオとシンデレラ」は、ちょっぴり刺激的な大人の恋を思わせる歌詞にドキドキしたことをよく覚えてます。あとは「ワールズエンド・ダンスホール」の合唱動画を見て、歌ってみたも面白いな~って思うようになりました。中でも当時はclearさんやりぶさんみたいな、爽やかなお兄さんボイスの魅力的な歌い手さんが好きでしたね。
──踊ってみた関連ではどんな曲が思い出に残っているんでしょう。
十味:
やっぱり踊ってみたの初投稿曲になる「GIFT」です。ダンマス(ニコニコダンスマスター)の中で開催された企画の課題曲でした。今まで踊ってみたに挑戦したことのない人でも参加できる企画だったので、勇気を出してこの曲で初動画をアップしたんです。それと当時はHoneyWorksさんの楽曲も好きで、「┗|∵|┓告白予行練習」も動画を投稿してみた曲のひとつですね。今思うと高校生の頃しか踊れない楽曲だったなと(笑)当時私はどちらかと言えば他者とコミュニケーションをとることが苦手で根暗な学生だったんですが、 HoneyWorksさんの曲で描かれる青春のキラキラした情景にはずっと憧れていたので、「せめて動画の中ではキラキラしたいな」という思いで踊ってました。
──こうしてお話を聴いていると、学生時代にボカロ曲やニコニコ動画の文化にはかなり幅広く触れていたんですね。
十味:
実は私、当時片道2時間かけて電車で高校に通っていたんです。そうなると放課後に友達と遊びに行くのもなかなか難しくて、学生らしい過ごし方がほとんどできなくて。代わりにその通学時間でたくさんニコニコ動画を見ていろんな曲を聴いてましたね、通信制限と戦いながら…(笑)ただその経験が間違いなく今の私に繋がっているので、あの頃の時間はすごく大事なものだったんだな、と思います。
大好きなボカロ曲で聴いていた当時の空気の匂いまで思い出す
──そんな今の十味さんを形作るボカロ曲の中から、今回は10曲を厳選して頂きました。やはり“踊ってみた”を原点とする十味さんらしい、ポップでダンサブルな曲が揃っています。
十味:
当初はがっつり“踊りたくなる曲”で10曲選ぼうとしたんですが、いろんな曲を掘るうちに「わ、懐かしいこれ!」みたいな曲がたくさん出てきて、気づいたら30曲ぐらいになっちゃって…(笑)どうにか絞らなきゃと思って試行錯誤しているうちに、最終的に中毒性の塊みたいなリストになっちゃいました。深夜12時ぐらいに作業を始めたんですけど、気づいたら夜中の4時になってて「ウソでしょ!?」って(笑)
──ボカロ曲を聴く時あるあるですね。懐かしさにひたりすぎて時間が溶けるという…(笑)
十味:
悩みましたが、やっぱりずっと好きなボカロPさんの楽曲は外せませんでした。王道のハチさんやDECO*27さんも聴いていたんですが、音に中毒性やクセがあるというか…曲を聴いていて、自分も強くなったような気持ちになれるボカロPさんの曲は今でも大好きです。今回のリストだとNeruさんの「再教育」やピノキオピーさんの「腐れ外道とチョコレゐト」、あとはトーマさんの「骸骨楽団とリリア」とかでしょうか。
──名曲ぞろいですね。ただその中で個人的には、n-bunaさんの「夜明けと蛍」だけが1曲異質な曲のようにも思えます。
十味:
そうですね。今回の10曲は全曲お気に入りなのですが、ナンバーワンを訊かれたら「夜明けと蛍」かもしれません。私高校時代は長野に住んでいたんですが、平日学校に通いながら、週末は東京のイベントに出演させて頂くこともたまにあって。都心部まで出てくるのに片道4時間かかってたんですけど、その早朝の移動の際によく聴いていた曲だったんです。大変だと思う事もありましたが、やっぱりそれ以上に当時はすごく楽しくて。今でもこの曲を聴くと、その時のワクワクした気持ちや夜明けのエモい景色とか、あの頃の空気の匂いまで思い出せるような気がします。
──現在の十味さんに繋がる思い出と、とても強く結びついた曲なんですね。
十味:
今回リストを作る中で、曲を聴きながらハマっていた当時の気持ちをとても鮮明に思い出していました。「走れ」を聴いて資格勉強を頑張っていた時のことだったり、「Baby Maniacs」を聴いて女の子としての自信をもらえた時のことだったり…。Orangestarさんの「空奏列車」も初めて聴いた時に「見つけた!」っていう強い衝撃を感じたんですが、実は以前お仕事でOrangestarさんとお話させて頂く機会があったんです。その時に「空奏列車」が大好きなんですってお伝えしたり、楽曲の制作秘話も聴かせて頂いたりして、より一層この曲が好きになりました。そんなたくさんの思い出が、今回のリストには曲と一緒に詰まっていますね。
今も昔もニコニコ動画やVOCALOIDは大切な居場所
──ここまでのお話で、「自分を○○な気分にさせてくれる」という内容が十味さんから度々出てきたのが大変印象的で。ご自身のマインドを変えてくれる曲に惹かれるのは、やはり“踊ってみた”が原点である所以でしょうか。
十味:
そうですね…昔から私は「こうなりたい」「ああなりたい」っていう主張が実は苦手で。楽曲の力を借りてそれを代弁している所はあるかもしれません。今もアイドルとして活動していますが上手く理想になれないというか、「私なんかが…」って思っちゃうこともいっぱいあって。PVの撮影中に号泣したり泣きかけるぐらい、自分に自信がないんですよ、私。
──今日のお話の中ではあまりそんな一面が想像できませんが…。
十味:
外見というよりは、自分の中身にすごく自信がないんです。昔小学校の頃まだ自分を隠すことを知らなくて、周囲に「変な子」っていうレッテルを貼られた時期があって。そういう経験から、自分を出すことが怖くなってしまったんですよね。模範的なことは言えるので、「しっかりしてるね」「優等生っぽいね」って言われることは多いんですけど。学生時代、クラスの皆の前での自己紹介なんかはものすごく嫌でした。
──自分のことを喋るのは不得意でも、歌やダンスでの表現なら苦手意識がない、と。
十味:
曲の歌詞や役を演じる時の台詞だと、その中に自分の経験や伝えたいことを詰めても、周りから「えっ、この発言おかしくない?」って思われないというか。だからこそパフォーマンスであれば、自分を出すことはあまり怖くないのかな、と思います。今は同じグループのメンバーやファンの皆さんが空気を作ってくれたり、私が発する言葉を「十味ちゃんのものだ」ってまっすぐ受け取ってくださる方に恵まれているおかげもありますし。
──その中で“踊り手”十味から“アイドル”十味への変化もあったと思うのですが、十味さんご自身の心情としてもやはり変化は感じましたか?
十味:
最初はニコニコ動画のカルチャー内に密接に関わる存在だったので、皆さんとも動画サイト内の共通言語や内輪ネタで盛り上がることも多かったんですが、さっきみたいにそれを知らない人とは話ができない、っていう思いもあったんです。でも#2i2っていうアイドルとして活動し始めてからは、そういう私の一面も個性として捉えられるようになったというか。ネットのノリが出ても「それってどういう意味?面白い!」「知りたい!教えて!」って言ってくださる人たちと出会えたり、「俺もニコニコ動画好きなんだよね!」って知らない人とぐっと距離が近づくこともあって。本当の自分でみんなと接する事って楽しいんだな、って少しずつ思うようになりましたね。
──十味さんにとって、それはすごく大きな変化だったんじゃないかと思います。
十味:
あとそうだ!今日これをずっと言いたかったんですけど、この間ニコニコ超会議にお仕事のPRで行った時、誰でも自由に参加できる歌ってみたブースで1曲歌わせて頂いたんですよ。私の事を知らない人が大半な中でも、皆さんめちゃくちゃ盛り上げてくださって。みんな優しい…心があったけえ…ってすごく思いましたね。昔だと動画コメントっていうオンライン上の交流でしたし、ニコニコが好きな人って実際に会うとシャイで内気な人も多いと思ってたんですが。皆さんものすごくフレンドリーで、やっぱりニコニコ動画いいな、ってその日は改めて強く感じました。本当にありがとうございます(笑)
──今も昔も、十味さんにとってニコニコ動画がとても大事な居場所であることが強く伝わって来ました。こちらこそありがとうございました(笑)
最後に、そんな十味さんにとってVOCALOIDの魅力とはなんでしょう。
十味:
一番の魅力はやっぱり、楽曲を聴くだけで当時の記憶を鮮明に思い出せるところだと思います。今の私の職業って、これまでの自分の経験がすべて出汁になってると勝手に思っているんですが、その気持ちも改めて今回ボカロ曲を掘ることで実感した気がしています。
それと私の場合は、VOCALOIDを通してこれまでお友達が本当にたくさん増えたんですよね。最初にボカロを教えてくれた子はもちろん、中学の時にボカロが共通項で仲良くなった友達や、踊り手として活動する中で応援して下さった方々もそうですし。今の十味という存在に欠かせない大事なものをいっぱいくれた、それが大好きなボカロだと思っています。
Information
「The VOCALOID Collection」 公式サイト
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