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koyori(電ポルP)『サイノウサンプラー』歌詞もメロディも一気に出来た曲だった!?代表曲をご本人ががっつり解説【はじめて聴く人のためのインタビュー】

 様々なボカロPの定番曲を集めたプレイリストを元に、ご本人にも様々なお話を聞くこちらのコーナー。今回は電ポルPこと、koyoriさんに登場してもらった。

 「独りんぼエンヴィー」や「スキスキ絶頂症」など、軽快なギターサウンドを大きな魅力としたVOCAROCK曲に定評のあるkoyoriさん。現在はユニット・空白ごっことしても活躍の場を広げているが、そんなkoyoriさんならではのボカロ曲制作におけるメソッドとは?

 多彩な人気曲にまつわる逸話から制作の裏話、そしてご自身のルーツまで。
 ボカロに限らないkoyoriさんの音楽性に迫る様々なエピソードを、本インタビューでは伺うことができた。

取材・文/曽我美なつめ


ルーツは邦ロック!ジミーサムPの曲がきっかけでボカロPへ

──まずはkoyoriさんに、音楽やボカロとの出会いをお伺いできれば。

koyori:
 一番最初の入口は、小学校高学年の頃に触り始めたギターでした。周囲の友達の影響や、あとは元々父親もバンドの経験があったせいかすごく前向きに協力してくれて。とはいえギター少年、みたいな感じではなかったんですけど…仲間内で曲のコピーをして遊んだり、ゆるゆるやってましたね。中学高校の頃に聴いてたHi-STANDARDGO!GO!7188椎名林檎なんかの邦ロックが一応ルーツになります。

 ボカロに関しても、初音ミクに初めて触れたのは大学生の頃で。元々友人がニコニコ動画を勧めてくれたのが入口で、そこで動画をいろいろ見るうちに自然と知った形でした。最初は1年ぐらい聞き専だったのかな。その中で自分がDTMを触れると知っている友人に「お前もなんか作ってみたら?」って言われて。そうやってボカロ曲を作り始めました。

──ボカロ曲を作るきっかけになった曲や、ボカロPさんの存在などはありますか?

koyori:
 それはもう、間違いなくジミーサムPさんのおかげというか。直接お会いしたことはないんですけど、ジミーサムPさんの曲は本当にずっと聴いていましたね。ギターロック畑かつポップサウンドで、僕もこういう音楽をやってみたいって。「自分もボカロを使ってこういう曲が作れるんじゃないか」と思えて、それがボカロPをやろうとしたきっかけでもありました。楽曲だとダントツで「Fake Lover」が大好きです、今も昔も。


 動画の電柱の写真の由来も、元はジミーサムPさんがシンプルな動画で楽曲投稿していたのを見て、一枚絵でもいいんだ、と思って。昔から写真を撮るのはわりと好きで、曲の投稿の際に絵をどうしようか考えていた際、たまたま電柱の写真があったので(笑)それで投稿するうちに、動画のコメントから電ポルPっていう名前も出て来て、ああこれはもう電柱で続けるしかないんだなって。そんな感じでしたね(笑)

──その後ご自身も本当に長年シーンで活躍をされてきて、非常に多数の曲を生み出されていますが。ボカロ曲を作る上で、どのような所から着想を得ることが多いのでしょう。

koyori:
 自分の場合、年々変わっている気がしますね。初期の頃はソフトやシーケンサーを触る中で「面白い音だな」と思ったものを適当に並べて、そこから曲が出来ていくことも多かったんです。ただ、だんだんその作り方だと頭打ちになってきたというか…。鼻歌から作ったり、ギター弾き語ったり、歌詞から作るようになったり。いろいろ変遷していきながら、今はギターの弾き語りや歌詞から作る形で落ち着いた感じです。

──そうなると、初期は歌詞よりサウンド面での着想が多かった形なんですね。

koyori:
 昔は創造力が豊かだった気がします(笑)ソフトで弾いたたった1音から曲ができる、なんてこともあったので。当時はだいぶ自由にやってましたね。音楽を仕事にすると、どうしてもスケジューリングの問題が出てくるので。それへの対応策として曲の作り方が変わった節はあります。もちろん大前提として、自分が作りたいものをちゃんと作るんですけど。

──ボカロPのみならず、近年ではユニット・空白ごっことしての活動も非常に盛んかと思うのですが。その二つで、曲作りにおける意識の違いなどはありますか?

koyori:
 ボカロにしても人にしても、曲を作る時はその人の声を思い浮かべながら作るんです。初音ミクだったからこういう歌い方をして欲しいな、GUMIだったらこういう曲が合うな、とか。ボカロPとユニットの活動形態というより、そういう面での意識の違いですね。

──作曲をする上で、こだわりとして置いている部分はありますか。

koyori:
 メロディでしょうか。自分で納得できるメロディが出るまで、曲の完成は粘ることが多いかもしれません。最近はギターの音も自分が納得できるまでこだわることが多いです。そこは本当に、無駄に時間がかかりますよ(笑)それがすごくジレンマだし、もういいんじゃないのってもう一人の自分も言うんですけど…やっぱりこだわっちゃいますよね。

──楽曲制作自体にはどれぐらい時間がかかるものなんでしょう。

koyori:
 平均すると2ヶ月以上はかかる気がします。昔はもっと短かったんですけど…とっかかりを掴むまでが長いんですよ、僕のスタイルとして。曲中に一個絶対に自信のある要素ができるまでがすごく長くて。歌詞やメロディ、あとはギターのリフとか。「絶対に勝てる」「作っててアガる」っていうキラーフレーズができないと、本格的な制作に入れなくて。一度できればそこからは早いんですけど、それまでにかなり右往左往しますね。

──ぜひ後ほど、今回のリスト曲のキラーフレーズについても教えてください。ちなみに楽曲制作の中で、一番楽しい瞬間となるといつになりますか?

koyori:
 さっきのキラーフレーズができた瞬間ですかねえ。あとはアレンジの中でいい音がハマったりした瞬間とか。そういった細々した瞬間で満足感を得つつ作曲していますね。パズルのピースがハマる、みたいな。

「独りんぼエンヴィー」や「未来景イノセンス」…人気曲の裏話も

──それでは、ここからはプレイリストについてのお話もできればと。今回のリストの中で、koyoriさんご自身のナンバーワン曲と言えばどれになりますか。

koyori:
 難しいですね…(笑)一番有名な曲は「独りんぼエンヴィー」でしょうけど、僕の曲ってかなりテイストの幅が広い上、それぞれ全部振り切ってるというか。1曲に絞るのは難しいですけど、koyoriってこういうボカロPだよ、って知ってもらうとしたら「サイノウサンプラー」と「未来景イノセンス」ですかねえ。


 「サイノウサンプラー」はもう10年も前の曲ですが、僕の暗い感情というかどん底の部分、ドロドロした部分を上手く表現できた手応えのあった曲で。「未来景イノセンス」は僕の明るい部分というか、少しネガティブの要素がありつつも前向きな姿勢を描けた曲なのかな、と。それぞれある意味対極的な存在の曲ですね。

──koyori作品の幅が垣間見えるという面でも、おさえておきたい2曲ですね。

koyori:
 あと、ボカロを知らない初心者向けの曲だと「恋空予報」がおすすめかなあ。一番J-POPに近いテイストですし、その中でボカロっぽさも多少交えた音作りになってると思います。「曖昧劣情Lover」もいいかもですね。J-Rock感も強いので聴きやすいんじゃないかな。

──ありがとうございます。重ねて今回のリスト曲で、思い出深いエピソードや逸話がある曲があれば教えて頂けると嬉しいのですが。

koyori:
 全部思い入れはあるんですけど、さっきも出た「未来景イノセンス」は今思い返しても良い歌詞が書けたな、と思っていて。僕の曲って普段感情を乗せたものはわりと少ないんですけど、この曲に関しては自己投影の色も強くて。作詞の時も感傷的になったというか、ぐっと曲に入り込んで歌詞が書けた思い出があります。

──そうしたら、さっきお話があったキラーフレーズもこの曲に関しては歌詞のどこかにあるんですか?

koyori:
 この曲はイントロと歌詞がキラーフレーズだったかな。歌詞は主にCメロの箇所ですね。特に「それで良い それで良い」ってフレーズは我ながらよく出たなと。すごく感情起伏ポイントではあるんです、僕の中で。

 曲の立場に立ったら僕もこういうふうに思うんだろうな、っていう気持ちのリンクが出来た歌詞だったので。自分に対して言い聞かせるけど、言い聞かせるだけで終わっちゃうっていうか。行動にはあまり移せないんだろうな、という。歌詞がどのタイミングで出来たかまでは記憶が定かじゃないんですけど、このフレーズができたことで「間違いないな」って曲になった気はしますね。

──それ“で”いい、っていうのが表現の妙ですよね。肯定の意思ではあるけれど、肯定しきれていない感じというか。絶妙な感情の機微が表れていると思っていて。

koyori:
 仕方ない、みたいな。納得はしてないけどしょうがない、という感じですよね。そういうニュアンスを読み取ってもらえるとやっぱり嬉しいです。大人になる中で、納得はしていないけど納得せざるを得ないというか、そういう場面って少なからずあるじゃないですか。その感覚が上手く表現できた歌詞でしたね。

──当時この曲を聴いていた人たちも、今多くの方が大人になったと思っていて。当時とはまた違った印象を受ける人や、大人になった今こそこの歌詞が響く、という人もきっと多いんじゃないでしょうか。

koyori:
 そうですね、そういう人がいるとすごく嬉しいですね。

koyoriさん渾身の各曲のキラーフレーズとは?

──重ねてよければ「未来景イノセンス」以外にも、何曲か先述したキラーフレーズについて伺えれば。

koyori:
 先ほども出た「サイノウサンプラー」は、もうイントロのシンセ一発ですね。あの音がパソコンから出た瞬間に曲ができ始めたというか。この曲は歌詞もメロディも一気に出来た曲だったんです。制作時間もかなり短かったかな。そういう意味でもやっぱり、純度の高いkoyori楽曲だなって感じます。当時の僕、よくやったな、って思いますね(笑)

 あと、「独りんぼエンヴィー」はやっぱり歌詞の「あんよあんよ」の箇所。このフレーズが出た瞬間に、「これサビに使ったらやべえ曲ができるぞ」って確信したんです。インパクトの強さとか、言葉遊び感というか。言葉遊びを面白いなって感じ始めて、曲の中にいろいろ取り入れ始めたのも「独りんぼエンヴィー」の頃でしたね、確か。

──koyoriさん楽曲の人気の理由のひとつに、そういった歌詞の言葉遊び感はポイントとして確かにあるように感じます。

koyori:
 楽曲を作る時はメロディ先行のことも多かったので。メロディとリズムを重視して、ただそこに言葉を当てはめていく、みたいな。歌詞を音として嵌めていく、みたいな手法は多く用いているかもしれません。

──ありがとうございます。そうしましたら質問も残りわずかですが、ここからはkoyoriさんの趣味嗜好の部分も少し覗けたらと。ボカロ内外を問わず、最近注目しているクリエイターさんやコンテンツなどはありますか?

koyori:
 申し訳ないことに、実は最近ボカロをあまり聴けてなくて…空白ごっこの活動機会が多いのもあるんですが。ボカロ以外の音楽だと、最近はすごく藤井風さんが大好きでよく聴いてます。声も好きだし曲も好きだし…具体的にここが好き、っていうのがなかなか上手く言語化できないんですけど。楽曲を聴いていると、なんだか落ち着くというか、自分に合ってる音楽だなと感じる事が多いですね。

──最初は少し意外な気もしましたが、言われてみれば確かに、と思う部分もあります。先ほどもお話にあった「肯定しきらない肯定」というか、どこか諦めながらも前向きさを携えている部分というか。音楽性のルーツとしても、昔藤井風さんは椎名林檎さんのピアノカバーなんかもよくされていましたもんね。

koyori:
 音楽以外だと、最近はよく昔人気だったいわゆる名作マンガを読み直したりしてます。「NARUTO」とか、「進撃の巨人」とかも改めて全巻読んで「うわ、こんな展開になってたんだ」「めちゃくちゃ面白いな!」ってなったりして。今自分もクリエイターの端くれとして、ゼロからイチを生み出す仕事をずっとやらせてもらってるんですが、その目線で改めて名作を読むとマンガ家さんやクリエイターの方々のすごさを実感するんです。「なんでこんな話思いつくんだろう」「なんでこんな設定が出てくるんだろう」って圧倒されっぱなしですね。

──昔とは少し違った見方で、改めて素晴らしい作品に出会い直しているんですね。ありがとうございました。最後に、昔に比べるとボカロ曲の制作機会自体は減ってしまったかもしれませんが…今後ボカロPとして、挑戦したい事ややってみたい事などはありますか。

koyori:
 わりといろんな曲の制作に挑戦はしてきたんですが、これからだとストレートな曲を作りたいというか、あまり奇を衒った制作はやりたくないと思っていて。シンプルにギターをかき鳴らして作ったり、気軽に作るというと少し違うんですが…ギターロック全開!みたいな。そういう方向性で、いい曲がつくっていけたらな、とも考えています。

──直近のボカロシーンですと、かなり手の込んだ作り込み曲が多い印象も受けますが。その一方で「もっと気楽に作ってもいいんだよ」と。

koyori:
 僕個人はやっぱり性格上、コチョコチョした造り込みってやっぱり合わないのかなあ、って今更思ったりしていて(笑)一回大雑把にやってみて、それでどう?ってリスナーさんに問いかけたい気持ちも少しありますよね。気軽なものでもいいんだよ、という提示をある意味でするというか。昔からのバンドサウンドも、やっぱり今後も大事にしながらやれたらいいな、と思います。

Information

koyori(電ポルP) プレイリスト 詳細はこちら

「The VOCALOID Collection」 公式サイト

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