きさら「スターダストメドレー」音ゲー映えを意識!「ココロ・クレーター」「LIMITED QUEEN」ら代表曲をご本人が解説【はじめて聴く人のためのインタビュー】
人気ボカロPの定番曲を集めたプレイリストを作り、それを元にインタビューを行うシリーズ。今回はファンタジー色や煌びやかな楽曲に定評のあるボカロP、きさらさんにお話を伺った。
吹奏楽やゲーム、そしてアイドルコンテンツ。自身のルーツをサウンドにも色濃く反映させ、かつボカロたちの「キャラクター性」が垣間見える点も、きさらさんの楽曲の大きな魅力のひとつとなる。
そんなきさらさんの楽曲制作の秘訣とは?あの人気曲の裏話や、譲れないボカロPとしてのこだわりとは。
独自の価値観のバックグラウンドに迫るお話から、意外なエピソードまで。様々な視点から、音楽やボカロ愛にまつわるトークをたっぷりと聞かせてもらうことができた。その詳細もぜひチェックして欲しい。
取材・文/曽我美なつめ
華やかな音楽のルーツには吹奏楽や二次元アイドルも!
──きさらさんは元々、以前から音楽経験もあったんでしょうか。
きさら:
小さい頃からピアノを習っていたのと、中学以降は学生時代ずっと吹奏楽部の打楽器パートに所属していました。ピアノは途中で辞めてしまったんですけど、長年続けた吹奏楽の経験は今の作曲にも大きく生きてますね。合奏中に他の管楽器の演奏もずっと間近で聴いてたので、「こういうジャンルの曲だとこの楽器はこう動くのか」っていうのをそこで自然に学んでいきました。
──作曲を始めたのはいつ頃になりますか?
きさら:
ボカロPデビュー(2018年)の2~3年前かな。当時はゲーム曲の簡単なアレンジや、ぱっと思いついたオリジナルフレーズをちょっとインストで打ち込んでは飽きて止めて…を繰り返してましたね。本当にお遊び程度だったので、DTMを触る頻度が上がったのもデビュー1年前にようやくって感じです。1曲作り上げたいとは思ってたんですけど、最初はとにかく面倒臭さが勝ってしまって…(笑)
──ルーツも吹奏楽ですし、きさらさんの楽曲には管楽器の印象も確かに強いです。音数も増えますし、曲を作るのはかなり大変な作業なのでは?
きさら:
EDM系の曲なら、いろんなWAV音源の素材を中心に組み立てる方も今は多いと思うんですけど、そういう作り方もそもそも知らなくて。なので楽器を選んでMIDIを一個一個打ち込むっていう、原始的な曲の作り方を未だにしていますね(笑)
──その中で、VOCALOIDの存在を知ったのはいつ頃だったんでしょう。
きさら:
2007年頃です。当時ニコニコ動画に入り浸っていた従兄弟がサイトの存在や、初音ミクの「ハジメテノオト」なんかを教えてくれて。その時のミクの声やビジュアルのインパクトが強くて、おかげでその後もずっと印象に残ってたんです。ただ、まだ当時自分の家にはパソコンがなくて。翌年ようやくパソコンが来て、ニコニコ動画やボカロに本格的にのめり込んだ形でした。
その頃から「メルト」や「ブラック☆ロックシューター」を聴いたり、ボカロたちのトーク動画を楽しんでたんですけど、2014~2018年の間は全然別のジャンル──男性アイドルキャラのコンテンツにハマっていて。その作品のMMD動画や手描き系、手描きMAD系などの動画ばかり見てましたね。
──楽曲のアイデアや着想はどんな所から得ることが多いですか。
きさら:
アニソンやキャラソンです。「こんな曲をボカロのこの子にも歌って欲しい」みたいな。例えば「レゾナル」は、デレマス(アイドルマスター シンデレラガールズ)の「O-Ku-Ri-Mo-No Sunday!」みたいな曲を鳴花ヒメ・ミコトに歌って欲しいっていう着想から始まっていて。
──男女問わず、二次元アイドルコンテンツも結構お好きです?
きさら:
そうですね。なのでそういう部分も楽曲には反映されてると思います。ボカロでも基本的にキャラの魅力が出るような曲を作りたいと思うので、アイドル作品の曲みたいな華やかなムードが色濃く出るのかな、と。
──きさらさんは楽曲以外にも、ボカロたちとのトーク動画も定期的にアップしていますよね。彼女たちをキャラクター的な、パーソナリティを持った存在としている印象も強く受けます。ボカロの声もかなりこだわって調声されているのでは?
きさら:
それぞれの子の声が映えるメロディ作りもそうですし、他では聴けない声というか、唯一無二性みたいな部分は特に大事にしていて。ボカロらしい機械的な声や上手な歌唱というより、ボカロたちがキャラクターとして魅力的な、イキイキした声に聴こえるようこだわってるというか。それこそアイドルのキャラソンだと、声優さんは演じているキャラクターとして歌うじゃないですか。普段の声優さんのアーティスト名義とは違う歌い方になりますよね。そういう意識で調声する部分は確かにあると思います。
──彼女たちに一人格を吹き込むような感覚ですね。
きさら:
あとは、まず自分自身の心が動くメロディを作ることも音楽面のこだわりです。ゲームのBGMや吹奏楽みたいにドラマティックな展開が好きなので、そういった雰囲気のものが多いですね。最近はラップ調のものなんかがトレンドだとは思うんですけど、それ以上に自分が本当に作りたいものをきちんと作る点を心がけてます。
自分の場合、ボカロ曲をリファレンスとして作曲する事ってあんまりなくて。ボカロでいい曲がすでにあるなら、もうそれでいいやんって思うんです。自分がわざわざ作る必要がないというか。なのでむしろボカロであまり聴いたことのない曲や、他にないものを聴きたくて曲を作ってますね。
人気曲の裏話からヒメミコ、flowerへの愛を語る
──今回、そんなきさらさんの楽曲を10曲ピックアップしてみました。個人的には、やはり「スターダストメドレー」のイメージが強くて。
きさら:
一番たくさん聴いてもらってますし、プロセカへの採用もあってこの曲はやっぱり気に入ってますね。楽曲を作る時にも音ゲー映えは意識しましたし、もしプロセカ採用が決まれば自分の看板作品になると思ったので、編曲やメロディ含めて自分のルーツをしっかり詰めようと思って。これまで好きだったゲーム楽曲や吹奏楽のコンクール課題曲的な要素を盛り込んで、自分の触れて来た音楽の集大成を作る気持ちで制作したので。すごく自分らしい曲だな、と今でも思います。
──確かに、きさらさんのルーツが詰まっているのがとてもよく伝わります。
きさら:
一方で「LIMITED QUEEN」と「ココロ・クレーター」なんかは、「スターダストメドレー」とはまた少し違った面が見えるかなと。最近は結構明るい曲も多いですけど、元々こういうマイナー調のダークメルヘンな雰囲気も好きなんですよ。
「LIMITED QUEEN」は鳴花ミコトの感情的な調声にも力を入れたんですが、そこがたぶんボカコレでも評価頂けて。ボーカルのインパクトの大事さを改めて感じましたね。「ココロ・クレーター」もかなり好きな要素を詰めた曲です。鍵盤打楽器とか、ピコピコしたゲーム音楽的なサウンドとか。メロディがダイナミックに動く所や、歌詞にファンタジー要素…普段も月や星のモチーフがよく出るんですけど。そういう所も自分らしい曲だと思います。
──重ねて、「きさらさん家のボカロたち」のお話も先ほど少しありましたが。中でも「シィちゃんクライシス」などからflowerへの愛を特に強く感じる事も多くて。
きさら:
この曲は音MADを意識して作った曲で。先にflowerのセリフを全部作って並べてからオケを作る、という普段とちょっと違う作り方が特徴ですね。音MADってゲームのBGMが使われがちだと思うんですけど、そういう部分も意識しました。サウンドもオケのみで充分成立するものをしっかり作ったので、インスト版もぜひ聴いて欲しいです。
──きさらさんのボカロはflowerや鳴花ヒメ・ミコトと、王道の初音ミク以外は直近の人気傾向と比べても、やや特殊な顔ぶれと言える気もします。彼女たちの魅力はどういった所でしょう。
きさら:
ヒメミコとflowerはとにかくビジュアルと声がめっちゃ好みでした。最初のボカロを誰にするか考えていた際、当時好きだった二次元の男の子系を中心に探していたらv4 flowerに出会って、「めっちゃ好みの子だ!」って。koyoriさんの「magic city」を聴いて声もすごく好きだと思ったんですが、自分の作る曲には合わないと思い一旦断念して、後にお迎えした形でした。
ヒメミコもまずビジュアルがすごく好みで。元々v4 flowerのデザインも担当していた△○□×(みわしいば)さんのイラストも以前から好きでしたし、声も個性的でいいな、と思いお迎えしました。ヒメミコはトーク動画の印象も強いですが、歌声と喋り声どちらも自分は好きで。今後も両方の声を活かせる作品を作っていきたいと思っていますね。
ボカロP以前にオタクとしての“好き”やルーツが一貫したまま
──話が少し前後しますが、先ほどのダークメルヘンな雰囲気が好きという件から、ボカロ以外のお好きな音楽も少し伺えればと。
きさら:
結構大きいのはゲーム音楽でしょうか。戦闘BGMや疾走感のある曲、マイナー調の曲なんかを好んで聴いていた部分はあります。アイドルのアプリゲーもそうですけど、幼少期からゲームはずっと好きで。「風のクロノア」シリーズや「星のカービィ」シリーズ、あとマイナー調のメロディは「テイルズ」シリーズの戦闘BGMが好きなので、その辺の影響だと思います。
──ちなみに、最近お好きなゲームはあったりします?
きさら:
最近はあまりゲームできてなくて…どちらかというと、作業中にVtuberさんの雑談配信をよく見たりしてますね。剣持刀也さんや周央サンゴさんの雑談配信を見ながら、絵を描いたり曲を作ったりしてます。サンゴさんは歌ってみたの曲のチョイスも個人的にすごく好きなんですよ。
──そういえば、動画イラストもご自身で手がけることが多いですよね。
きさら:
絵も元々幼稚園のお絵描きぐらいから延長線でずっと描いていて。ネットでの活動は、実は音楽より絵の方が先ですね。SNSの過去の履歴を遡ると、ボカロPになる前の1オタクとしてアニメ見ながらたまにイラスト載せてる、みたいなログが出てきますね(笑)
──お話を聞いていると、きさらさんのお好きなものには一貫性を強く感じます。ゲームであったり、キャラクター性のある二次元的な存在ですとか。
きさら:
そうですね。昔から好きなものの傾向は変わらないかもしれません。ボカロもアイドルも、かわいい系の男の子やボーイッシュな女の子、中性的な子がずっと好きですしね。ボカロPというより、オタクとしての部分が根底にあるんだと思います(笑)
──ありがとうございました。最後に、今後の抱負などを伺えれば。
きさら:
これからも引き続き、うちのボカロたちにいろんな曲を歌って欲しいと思ってて。今まではずっと一人で制作してきたんですが、他の人の手も借りてみようかな、と。実はちょうど今、続々とアレンジの演奏依頼を外部の方にお願いしてるんです。あとは編曲を他の方にお願いしたり、一人では作れない曲にいろいろ挑戦してみたいですね。
それと、以前Vtuberの柚子花さんとボカロのコラボ曲を作ったり、少し前にあまねももさんへの提供曲も作詞作曲したんですが。そういった楽曲提供なども、機会があればぜひお手伝いしたいです。ボカロ曲だと歌唱の仕方も自分でエディットできますが、楽曲提供だとその方がどんなふうに自分の曲を受け取って歌ってくれるかで、曲の印象がかなり変わるので。そういう点にも興味がありますし、ぜひ積極的に取り組んでみたいですね。
■Information
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「The VOCALOID Collection」 公式サイト
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