なぜ百獣の王はトラではなくライオンなのか? 竜と比肩するほどの猛獣がなぜ頂点ではないかについて解説 そこには人間の歴史があった
今回ご紹介するのはジオチャンさんがニコニコ動画に投稿した『トラが百獣の王ではない理由がこちら【解説】』です。
竜虎相搏、竜騰虎闘のように架空の強大な生物とすらその強さを比べられるトラはなぜ百獣の王と呼ばれることがないのでしょうか。
トラの強さは国内にいない日本ですら甲斐の虎武田信玄のように強さを表す象徴として知れ渡っていました。それでもなお百獣の王がライオンである理由をジオチャンさんが解説します。
■なぜトラは『百獣の王』ではないのか?
ジオちゃん:
全ての獣の中で最強のものは百獣の王と呼ばれ、一般に西洋や日本ではライオンを指します。
それではなぜ同じ大型ネコ科動物でライオンよりも大きくなるトラは百獣の王と呼ばれないのでしょう。
今回はトラが百獣の王ではない理由について解説していきたいと思います。
ジオちゃん:
現存するトラの亜種は6種類あり、中でも最も大きいものはアムールトラで、オスの個体では全長3m体重350kgを超えた例も報告されています。
これは野生のネコ科のうちでも最大種です。
ジオちゃん:
一方、19世紀のハンターの主張では、ライオンの一亜種であるバーバリライオンの野生のオスの体重は270kgから300kgの範囲にあったと言われています。
しかしこれは具体的数値の情報に乏しく、バーバリライオンは野生ではすでに絶滅しており、飼育下の個体ではこれほど大きなものはいません。
また剥製の大きさはオスは全長 2.35から2.8m、メスは全長2.5mでこの記録だけ見ると並のライオンと同じくらいです。
ジオちゃん:
一般的な大人のライオンの体重は約250kgでトラの中にはライオンよりも小さい亜種もありますが、アムールトラとベンガルトラの二種はライオンよりも大きくなります。
さらにトラはライオンよりも戦闘能力と狩猟能力に優れています。
トラは獲物の近くまで忍び寄り、突然飛びかかって襲い、肉食獣最大と言われる7cmもの牙で喉に食らいついたり、10cmの鋭い爪を持つ手で叩いて骨を砕いたりします。また、極めて力が強く自分より大きい相手でも倒すことができます。
ジオちゃん:
男性13人がかりで動かせない770kgのカウルの死体を10m以上引きずったという報告もあります。
これに加え、トラは強くて柔軟な後ろ足を持っているため立ち上がるのが非常に得意です。
対照的にライオンの体は立ち上がるために作られておらず、通常は牙を主な武器として使用します。
そのため本質的にトラとライオンが戦った場合、トラの方が勝つ可能性が高いと言われています。
ジオちゃん:
にもかかわらず何千年もの間ライオンは野生で最も強く勇敢で獰猛な動物であるという評判を独占してきました。
ライオンがトラよりも王と見なされる理由はまず歴史的経緯にあると考えられます。
ライオンのイメージは古くから王権と結び付けられてきました。この関連は古代文明にまで遡ることができます。
例えばエジプトではライオンは神聖な動物で権力の象徴と考えられていました。
ジオちゃん:
ファラオはライオンの頭で描かれたりライオンを伴って描かれたりすることが多かったため、これによりライオンによって王としての地位が強調されていました。
ライオンは古代のヨーロッパの人々にとってもより身近な存在でした。
それは、ライオンの一絶滅亜種ヨーロッパライオンがヨーロッパ大陸南部のほぼ全域にかつて生息していたからです。
ジオちゃん:
古代ギリシアの歴史家ヘロドトスの記すところによれば、ライオンは紀元前480年頃にはギリシアでよく知られる動物でした。
また、ペルシア王クセルクセス1世はペルシア戦争でマケドニアを進軍している最中の紀元前480年に数頭のライオンと遭遇したとしており、ライオンがラクダの積荷を襲ったことが記されています。
他にもライオンの亜種インドライオンは10世紀頃まではヨーロッパの辺境であるコーカサス地方にもいたと考えられています。
ライオンは西洋では『ジャングルの王(The King of The Jungle)』と呼ばれています。アフリカに生息するライオンは密林ではなく、主に草原やサバンナに生息しています。
ジオちゃん:
しかし、当時のヨーロッパではヘラジカなどのシカ科およびオーロックスやヨーロッパバイソンなどといったウシ科をはじめとする多様な有蹄動物を含む大型と中型の草食獣が数多く生息したとみられ、ヨーロッパライオンはそれらを捕食する大型肉食獣の市場を担ってヨーロッパ側の地中海沿岸地域および温暖な森林地帯に暮らしていたと考えられています。
それがサバンナの王ではなく、『ジャングルの王』と呼ばれる理由ではないかと推測されます。
ライオンが王として描かれることは大衆文化にも深く根付いています。
ジオちゃん:
民間伝承や寓話から文学や映画までライオンは一貫して雄大で力強い生き物として描かれ支配者としての地位を得ています。
また、ライオンのその見た目は百獣の王であるというイメージを固める上で重要な役割を果たしてきました。
ライオンの見事なたてがみ、筋肉質の体格、恐ろしい表情などの身体的特徴は権威と権力のイメージを呼び起こします。
ライオンが百獣の王と呼ばれるのは最も強いからではなくトラにはない、『王としての能力』を持っているからです。
ジオちゃん:
王にはリーダーシップが必須です。ライオンは群れを形成し、メスライオンは狩りをし、群れに餌を与える役割を担います。
一方、オスライオンの役割は群れを他のオスライオンや捕食動物から守ることです。
ライオンは最大30頭の群れで生活できます。しかし、群れの中には明確な社会階層があり、1頭の支配的なライオンが群れの王となります。
このようにオスライオンは群れの長であり、この群れの構造が動物界におけるライオンが持つリーダーシップのイメージを強化しています。
ジオちゃん:
ライオンの咆哮はネコ科動物の中で最も大きく114dbに達することもあり、これは至近距離での車のクラクションに匹敵します。
また、最大8km離れた場所にいてライオンの咆哮が聞こえると言われています。
これがライオンが他の動物や人間に恐怖心を植え付ける一員となっています。
ライオンの咆哮がこれほど大きいのは、ライオンが独特の喉頭と舌骨を持っているからです。
ジオちゃん:
この咆哮は遠く離れた他のライオンとのコミュニケーションにも役立ちます。
そのため、群れで狩りをしている時にメンバーの一頭が迷子になった場合、その咆哮を辿って仲間を見つけることができます。
また、この咆哮は自分の縄張りに侵入するものに対する警告の手段として使います。
オスのライオンは秩序維持し群れの安全を確保します。
彼らは王座を維持し自分たちの王国の平和を保つために侵入者に対して命がけで戦うのです。
このようなライオンのリーダーシップは強い国家のイメージとして結びつけられました。
ジオちゃん:
多くの政府では国章や紋章にライオンが描かれています。また、現在ライオンはアルメニア、ベルギー、ブルガリア、イギリス、オランダなど多くの国の国獣とされています。
オランダの国獣がライオンなのはオランダ王室オラニエ=ナッサウ家の紋章にライオンが入っており、王家紋章にライオンのマークがあることから来ているようです。
ジオちゃん:
シンガポールではマーライオンが国獣とされています。11世紀にマレーシアの王族が対岸に見える大地を目指して航海の旅に出た際、途中で海が激しく荒れたので王族がかぶっている王冠を海に投げたところ、海は静まり無事にその大地にたどり着くことができました。
ジオちゃん:
その時ライオンが現れて、王族にその大地を納めることを許して立ち去ったと言います。 マーライオンの頭部はこの時のライオンを表しています。
一方で中国ではトラが百獣の王と呼ばれています。
これはトラは古来より中国人と深い関わりがあったためで、力強さと大胆さ、そして畏怖の対象という大きな象徴を持ち、その美しさと威厳が珍重、崇拝され中国文化に大きく取り上げられています。
ジオちゃん:
しかしこれまで見てきたように、西洋とその影響を受けた日本では生物としての特徴と歴史的な理由からライオンが百獣の王と呼ばれるようになったと考えられます。
ライオンが『百獣の王』と呼ばれ、力でいえば上のトラがそう呼ばれない理由は人との関係性にありました。
こういった背景を知ると、甲斐の虎武田信玄、越後の竜上杉謙信と異名がついた時代は中国からの影響を強く受けていたことを感じられます。こうした価値観の変遷はとても興味深く感じますね。
フルバージョンでの解説をご覧になりたい方はぜひニコニコ動画でご視聴ください!
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