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【朗報】ガンダムみたいな巨大ロボ、乾電池5本あれば動かせるっぽいーー”モバイルバッテリー”や”滑車ハムスター”でも検証してみた【考察:ラムダ技術部】

 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』が話題になっている。

(c)創通・サンライズ (公式サイトはこちら

 ファーストガンダムを愛する人にも響く内容で、多くのファンの間で盛り上がりが続いている。筆者ももちろん観に行った。

 物語については、どこを切り取ってもネタバレになってしまうため詳しく語ることはできないが、非常に見応えがあった。考察の余地が多く、戦闘シーンはよく動き、登場人物も個性が際立っていて魅力的だった。

 そんな余韻に浸りながら帰路についたとき、ふと疑問が浮かんだ。

「巨大ロボって電池でも動くのか?」

 頭頂高18m、本体重量40t超の巨大ロボットを、電池やモバイルバッテリーで動かすことは可能なのか。

 今回、そんな疑問を真正面から掘り下げ、わかりやすく解説してくれるのがラムダ技術部だ。

ラムダ技術部さん。Xのアカウントはこちら

 ラムダ氏は、ニコニコ動画のフォロワー数とYouTubeの登録者数を合わせて85万人超を誇る人気投稿者。『黒電話からSMSを送らないといけないときに見る動画』など、独自の切り口で科学や数学を駆使し、実験や考察を交えながらユニークな動画を発信している。

 「ハムスターなら7万匹いれば巨大ロボを動かせる」など面白い話がたくさん聞けたので、ぜひ本記事を最後まで楽しんでほしい。


■SFアニメの巨大ロボットは現代の技術で動かすことができるのか?

ーー本日はよろしくお願いします! 早速本題に入っていこうかと思うんですけど、もし頭頂高18m、本体重量40t超のSFアニメにでてくるような巨大ロボットを現代の技術、電池やバッテリーで動かすことってできるのでしょうか?

ラムダ技術部:
 そうですね、おっしゃている某SF巨大ロボアニメの世界は宇宙世紀なので、あれを動かすための動力はおそらく熱核融合炉のはずですが……。
 現代の電池やバッテリーでも数や大きさを増やせば計算上は動かすことが可能だと思います。

 ただ、計算するにあたって、ギア駆動効率や摩擦、どのくらい性能がいいベアリングを使用しているかなどの情報が必要になるのですが今回はそれがありません。
 なので、おおよそこのくらいの効率になるだろうという想定で計算しているので、まずは腕を1回1秒かけてゆっくり90度振り上げるときに必要な電力という点に絞ってお話していきます。

動作に必要な計算式は、ラムダ技術部さんお手製のエクセルで導出しました。

ーー動かせるんですか!? てっきり現代の技術ではまだ無理という結論が出てしまうのではないかと内心ヒヤヒヤしていました(笑)

ラムダ技術部:
 はい。1回腕を90度曲げるという動作に限った場合であれば、一般的にお店で売られている単三電池なら20本ほど、単一電池なら5本ほどの電力量あれば、腕を90度振り上げる動作を1回行うことが可能だと考えられます。

アルカリ乾電池、左から単二・三・四・五形、積層型。 (画像はWikipediaより)

ーーえったったそれだけであんなに巨大なロボットの腕を動かせてしまうんですか? 動かせるにしても1000本とか、膨大な本数がいるものだとおもっていました。

ラムダ技術部:
 私も最初はそう思っていたので驚きましたね。
 ただ、今回ご提示いただいたスペックから腕を90度振り上げるのに必要な電力を試算すると、約64Whと予想より小さかったのでこの結果になりましたね。これは、この後でもお話させていただくのですが、重量の軽さも理由ですね。

 ちなみに、乾電池以外だと、コンビニなどでよく見かける「ChargeSPOT」、スマートフォンを充電するためのモバイルバッテリーですが、ChargeSPOTの電力量は18.5Whなので、3、4台あれば腕を90度振り上げるのに必要な電力量と同じになります。

 他のものだと、テスラ社の電気自動車「テスラ・モデル3」に搭載されているリチウムイオン電池。
 モデル3のスタンダードレンジ プラスに搭載されているバッテリー容量が54000Whなので、腕を振り上げる電力量64Whで割れば約840回相当の電力量となります。

Tesla Model 3 。 (画像はWikipediaより)

ーーあれ? 実はもう現代のエネルギー関連技術って創作の世界に追いついてきているんですか?

ラムダ技術部:
 仮定が多い検証なので言い切ってしまう事はできませんが、技術がかなり進歩していることは確かですね。

 物体を動かすために必要な電力については「駆動効率」という、電力を物理的に動かす力にどれぐらい変換できるかみたいなものが関わってきています。
 今回の検証では未知の領域なので仮定として、0.5つまり元々のエネルギーの半分を物理的な動かす力に変換しているとして計算しています。
 ですが、ここが仮に0.2とかだと、物を動かすときに電力の8割が熱になって逃げて行ってしまうことになるので、動かすために必要な電力はより必要になります。

 ですが、現在生産工場などで使われている産業用のロボットアームの駆動効率が0.8ほどとされている事を考えると、今回考察しているような、自由自在に頭頂高18mのロボットを動かせるほど科学技術が発展した世界。
 この世界であれば、駆動効率0.5と仮定してしまっても妥当ではないかと考えています。

uArmの金属製のオープンソースのロボットアーム 。(画像はWikipediaより)

ーーだとしても、こんなに少ない電力で腕だけとはいえあれだけ大きいロボットの体が動かせてしまう可能性があることが驚きです。

ラムダ技術部:
 そうですね。この理由については、前述でも少し触れたのですが、想像以上に想定しているロボットの機体重量が軽いというのがありますね。

 たとえば、新幹線のN700系の車体はアルミニウム合金製で、中は乗客が乗るのでスカスカになっているにも関わらず16両編成で715tあります。
 単純計算で、1両あたり平均45tあるわけです。
 対して、今回想定している巨大ロボットは、頭頂高18mで、内部は駆動系とかギアとかいろいろと入っているわけですが、40t超しかありません。

 現実で使用されている兵器と比較すると、自衛隊の90式戦車が全長9.8mで重量52tあります。巨大ロボの軽さがよくわかりますね。

90式戦車。 (画像はWikipediaより)

ラムダ技術部:
 つづいて全身を動かすときにはどれくらいの電力が必要になるのかについてなのですが……、

 ――某巨大ロボのWikipediaを見てみると「ジェネレーター出力」という項目がありますね。
 これは「最大パワーを出す際に必要な消費電力」のようですね。

ラムダ技術部:
 なるほど、ではジェネレーター出力から考察してみようと思います。
 今回想定している巨大ロボのジェネレーター出力は1380kWあるのですが、これは先ほども例に挙げたN700系の車両が1両1220kWなので、1両でかなり近い出力がだせていますね。16両編成17080kWが公称値なので、巨大ロボを軽々と超える出力がありますね。

ーー実はすでに現代にはSFアニメの世界より出力があるものがあるということなのでしょうか。

ラムダ技術部:
 
そうとは言い切れないですかね。もしかしたらこのロボはすごく省エネで動くのでそこまでの出力を必要としていないのかもしれません。
 加えてこれは電動機、ジェネレーターの出力マックスの数字なので、ジェネレーターは常に出力最大というわけではありませんし、レールの上を走行するための電動機と、垂直推進することもできるロボットの出力を単純に比較することは難しいと思います。

 ただ、とりあえずの諸々はおいて、ここからはこの1380kWをフル稼働させるにはどれくら電力が必要なのか逆算してみます。
 単三電池なら0.0007秒くらい。1本では無理ですね。
 現実的には腕を動かす際にも出てきた「テスラ・モデル3」に積載されているリチウムイオン電池で約140秒間最大出力を維持できます。
 EV-E801系電車というフル電動の蓄電池電車に搭載されているバッテリー容量は360000Whなので、ジェネレーター出力は1380000Wとなるので、これで割ると0.26時間。3600をかけて秒に直すと939秒間のフル稼働させることができると求められます。

EV-E801系電車 。(画像はWikipediaより)

ーー現代にある技術だと最大出力で動かす場合15分くらいが限界という事でしょうか。

ラムダ技術部:
 研究用の設備を使えばもっと長時間稼働させることは可能だと思います。
 ただ、量産品を使って動かすならこのあたりが限界なのではないかと思います。

■腕を180度上げて空に銃を撃つみたいなことはできる?

ーーここまでお話を伺ってきて、現代のエネルギー関連技術でも動かすことができるがわかりました。では、「最後のエネルギーを使って空に向けてレーザー銃を撃つ」みたいなことをする時にはどのくらいの電力があれば可能なのでしょうか?

ラムダ技術部:
 腕を伸ばしたまま肩を回して空に向かって引き金を引く。ということであればぜんぜん行けると思います。

 というのも、人間みたいに肘を曲げて、肩を回して上へ手をあげるっていうのは関節が一個増えるのでその分電力消費も増えてします。
 しかし、腕を伸ばしたまま肩を回して腕をあげるのであれば、腕を90度に曲げたときのおおよそ2倍の電力を用意すれば腕を上げられるためです。
 撃つ銃は現実にあるレーザー兵器『AN/SEQ-3 レーザー兵器システム』を参考に計算してみます。

AN/SEQ-3 レーザー兵器システム。 (画像はWikipediaより)

 このレーザー兵器の使用電力は30000W。先ほどお話しした「ChargeSPOT」が18Wh、つまり18Wで1時間動かせるという事なんですが、「ChargeSPOT」を使えば抵抗とかを無視すれば大体2.2秒くらいレーザー兵器を撃つことができるようですね。
 なので、腕を180度上げて引き金を引いてレーザーを撃つという動作をするなら、容量だけの話であれば「ChargeSPOT」が5台もあればできてしまいますね。

ーーなんというか、すごいですね。こんな軍事利用されているものですら動かせてしまうモバイルバッテリーって。

ラムダ技術部:
 そうなんですよね。安全に作られているので普段使えているのですが、これだけのエネルギーがコンパクトなサイズの中に詰まっている。だから飛行機に持ち込めるモバイルバッテリーのサイズにも容量が設けられているんですよね。

 そして、日本の企業って電池業界でもすごい高い技術力を持っていて、世界にも張り合える領域なんですよ。

■【番外編】ハムスターが何匹いれば巨大ロボットは動かせるのか?

ーー現代の電池だとか、モバイルバッテリーの性能が想像以上にすごいという事はわかったのですが、では番外編として、ハムスターが滑車を回して生み出す電力で計算した時、ハムスターが何匹いれば巨大ロボットを動かすことができるのでしょうか。

ラムダ技術部:
 そうですね……まずはハムスターの回す滑車のサイズがどのくらいかという事を探ってみる必要がありますね。
 調べてみると、ハムスターの滑車は直系21cmくらいなんですね。これを手回し発電機につなげば発電ができますね。

 参考になる数値はゼンマイ式手回し発電機の発電量でしょうか?

 これが21cmの滑車につないだ時に近いのではないかと思います。1回転で生み出すエネルギーが3.3ジュール。これをもとに計算すればいいので……ハムスター約7万匹ですね。

 ハムスターが約7万匹いて滑車を回して発電してくれれば、巨大ロボットが腕を180度上げて、レーザー銃を撃つことができますね(笑)

ーー地球上からあらゆる資源がなくなってもハムスター7万匹集めたらなんとかなるかもしれませんね(笑)。より現代の電池やバッテリーのすごさがわかりました。

ラムダ技術部:
 ハムスター7万匹分のエネルギーがコンビニでは当たり前に置かれているわけですからね。しかもそれがストックされている。これってすごいことですよね。

■最後に

ーー今回突拍子もない考察にお付き合いいただきありがとうございました。実際に考察してみて、大体こういう結果になるだろうなっていう範囲を逸脱したのか、してなかったのか。そういったご感想をいただきたいです。

ラムダ技術部:
 考察元としてお出しいただいたスペックを見たとき、軽いなって思ったんですよね。もっと重いのではないか、という風に思っていましたから。
 この軽さであれば電池でも行けそうだと思いましたね。それが一番の予想外でした。
 なによりこれだけ軽いと別のことが気になり始めてしまって、使っている金属の強度とかが気になってしまいましたね(笑)

 携帯電話やスマートフォンの普及によって、リチウムイオン電池の技術革新は進み、創作の世界に追いついてきています。しかし、材料加工の技術革新については、まだ創作の世界に追いついていないということなのかもしれません。

ーー私も電池やバッテリーに対する見方が大きく変わるインタビューになりました。

ラムダ技術部:
 私も電子工学科出身として、日本の電池技術というのを広めていけるとうれしいなと思っているところなので、そういうとこお役に立てると幸いですね。

ーースマートエネルギーweekでもぜひよろしくお願いいたします!

ラムダ技術部:
 
レポーターは初挑戦ですが、全力は尽くさせていただこうと思います。

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