Grimes×さたぱんPが描く電脳世界『Miku-Maxxing』――クワイア、ギターソロ、ドラムンベースが交錯する高密度エレクトロ・ポップ
今回は、GrimesさんとさたぱんPさんによるコライティング楽曲「Miku-Maxxing」を紹介する。ドワンゴが推進する、国内外のトップクリエイターによるボカロ楽曲共同制作プロジェクト「BEYOND BORDERs」から、9月25日にリリースされた初のコラボレーションEP『EMERGE M♡DE MIKU』のオープニングナンバーだ。
前提として、「BEYOND BORDERs」は、国内ボカロPと米国の音楽シーンで活躍するプロデューサー/ソングライターが共にEP制作に取り組み、国内クリエイターの海外進出を支援する楽曲共同制作プロジェクト。ドワンゴが「クリエイター支援基金」の助成のもと推進する「ニコニコ動画主催企画を介した若手クリエイター発掘および海外進出プロジェクト」の一環として実施されている。
Grimesさんは、カナダ・バンクーバー出身のシンガーソングライター。かつてイーロン・マスク氏とパートナー関係にあったことでも知られ、近年ではAIガールズグループ『NPC』を展開するほか、自身のデジタルアバター・WarNymphを生み出すなど、最新テクノロジーを自身のクリエーションに取り入れてきた。さらには、サイバーパンクやSFを思わせるアヴァンギャルドなファッションでも注目を集めている。
一方、共同制作の相手となったのは、ハードコアテクノをはじめとする激しくハイパーな楽曲を手がけ、ボカロシーンでもひときわ異彩を放つ異端児、さたぱんPさん。両者のクリエイティビティを考えれば、非常に親和性の高い組み合わせといえる。
クワイアの歌声が響き渡る「Miku-Maxxing」は、ギターソロ、ドラムンベースを含め、多様なジャンルの要素を混在させたエレクトロニック・ポップ。現代のインターネットは、あらゆる可能性に満ちた世界であると同時に、様々な危険が潜む場所。その流れはAIの進化によって、ますます加速していくことだろう。

エフェクトに歪む歌声に呼応するように、MVではグリッチ表現が多用され、崩壊していくデジタル世界へひとりの少女が迷い込んでいく。<Alice in Cyberland>というフレーズが象徴するとおり、『Alice in Wonderland(不思議の国のアリス)』を現代のインターネット世界へと置き換えた作品とも受け取れる。リフレインする<Faster and faster and faster and faster and faster>や高密度なサウンドもまた、情報やコンテンツが大量に投下され、目まぐるしく加速していく現実、あるいは近未来を想起させる。

そんな世界で、少女の前に現れるのが、創造主のような存在として据えた初音ミク。生成AIが急速に浸透する今、デジタルカルチャーの先駆者である初音ミクの存在価値を改めて見つめ直す展開だ。思えば、初音ミクが生まれたかつてと、情報が過剰なまでにあふれる今とでは、私たちを取り巻く景色もずいぶんと異なる。加速していくその先にどんな世界が待っているのか。

あらゆるものが生成・加工され、加速していくなか、人間には到底追いつけない高速リリックさえ歌いこなせる初音ミクには、新たな表現の“可能性”がさらに広がっているようにも思えた。AIの台頭によって創作のあり方そのものが揺らぐ中で初音ミクの存在意義を問い直した、さたぱんPさんの楽曲「シンギュラリラリ」とどこか通じる世界観であることにも触れておきたい。
少なくとも言えるのは、世界中のクリエイターたちが託した言葉や思いを約19年にわたって繋いできた初音ミクは、この先も色褪せることはない、ということ。彼女の可能性がさらなる発展期を迎えることを予感させるプロローグとして、これ以上ない1曲だろう。
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