クラウドファンディングは疲弊するアニメ業界を救うウルトラCになるのか?
日本のアニメの危機をMANGA議員連盟と考える11月23日のニコ生『みんなで考えよう 日本のマンガ・アニメ・ゲームの未来 ~第1回 クリエーターはこの先生き残れるのか?~』。第1回目のゲストに「アニメーション制作者実態調査報告書2015」を発行した、日本アニメーター演出協会事務局長の大坪英之氏を迎え、司会にニッポン放送アナウンサー吉田尚記氏、MANGA議連の会長で自民党衆議院議員古屋圭司氏、幹事の自民党参議院議員赤池誠章氏が参加し、「PLANETS」編集長の宇野常寛氏がネットの声、アニメファンの声を議員にぶつける機会となった。
ニコ生での議論はアニオタが関連団体を作り国会議員へのロビー活動をすれば良いという話から、やがてアニメ業界のクリエイターの人材育成へと移った。
ヤマト世代のスーパーアニメーターが年齢で現場を離れざるを得ない事態
吉田:
次は、育てる話ですね。
大坪:
アニメの制作は、クレジット見てらっしゃる方は分かると思うんですけれども、一作品あたり大体200〜300人くらい関わっています。
実際のアニメーションの制作者としての経験年数をちょっと見ていただきたいんですけども、男性と女性でちょっとグラフが変わるんですが、経験年数30年程度、年齢にして50歳くらい。あと30歳くらいのところに2つ大きい山があります。現在の状況があるが故に、若い方の世代はやはり離職率も高い。
上の世代の方々っていうのはスーパーな方々ばかりですので、本当に画面を支えている監督とか演出とか原画とかですね。ヤマト世代と言ってしまって良いのか、『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)に関わった方々が要衝を抑えているというような状況になっています。現場では、そういったスーパーな方々が年齢を重ねることで、現場を離れざるをえないということがやっぱりあるんです。特に目ですね。
吉田:
どうしても霞んできたりとか、細かいところが若い頃に比べると見えづらいってことは起きちゃいますよね。
中長期に渡って、人を育てるにはゆとりのある制作環境が必要
大坪:
そういったこともありますし、描くスピードが上がることはないものですから、落ちてしまったりとか、あるいは制作本数があまりにも多いが故に、各制作、自分が受け持つ作業が悪化したりとか、ということがあります。
そういったこともあって、本来、テレビで放送に穴が開くってことはありえないんですけれども、最近では落ちてしまったり総集編になってしまったりという作品もちらほら出てきているという状況です。そういったところで人が居ないとはよく言われるんですけれども、結局、何が居ないか?というと、使える人、高技能な人たちが不足してる。キーアニメーターとかと呼ばれる方が少ないということです。やっぱり総作監とか作監が数人居たりというのはちょっと異常な状況ではあると思うんです。
そういった経験を積んだ人材っていうのを育てるっていうことは一朝一夕には不可能なんです。その人を育てるにはゆとりのある制作環境、だから仕事をしながら後輩の面倒を見れるみたいなそういった状況がやっぱり必要だということ。で、それっていうのは1話、1シリーズじゃなくて、中長期に渡ってそういった場を作れるということが大事だということですね。ただ制作現場というのはまああの話が表裏になってしまうんですけれども、放送日が決まってるわけですから、まあそこに対してその今は現状はこなすのが精一杯、人を育てるのはちょっと難しいっていうのが現状かなと思います。
吉田:
特にみんなが言われていて、僕も見る側としても思うんですけど本数多すぎるなっていうのは確かにあるんですよね。
大坪:
そうですね。多いのが悪いわけではなく、やっぱりアニメーターの立場から見るとやっぱり上手くなりたい、色んな作品に関わりたい、色んなもの、ありとあらゆることを描きたいっていう要望があって、すごく難しいんですけれども、アニメーターはこのカットお願いって言われた時に描けないのが心情的に嫌みたいです。
吉田:
職人さんの気持ちですよね。
大坪:
なんでもこなしたい。そういうようなスペシャルな方々ばかりが自負、プライドというか、そういった方々が現場を支えてるということです。
吉田:
でも本当は支えるっていうのは意地で支えるではなくて、ちゃんとした、まっとうな努力をする人たちの努力で、余裕がある形で支えていけば人が育つはずだということですよね。
大坪:
そういうことです。
吉田:
で、今見た感じで言うと余裕はどうやらないぞこれっていう。
今、民間企業にはお金を投じてクリエイターを育てる体力がない
大坪:
そうですね。そういった形になるかと思います。
こういった調査を元に、現状の課題というものを分類してまとめてみたものがこちらの図になります。大きくは4つ、まあ3つと2つというか、そういう形になります。アニメーション制作者を取り巻く環境、アニメーション業界の問題。組織的問題、これは制作の現場、制作ラインの話。個人の話、個人が上手くなるには?というところ。一番下に書いてあるのは社会的なところの受容ですかね。人材育成とかもっと大きいところでのそのサポート、というところで大きくは4つに分かれるのかなと思います。
吉田:
宇野さんがこれを見て、周りの人たちが支援できそうだなって思う問題ってあります?
宇野:
さっきも言ったようにちゃんと作った人にお金が回るシステムっていうのは、僕は行政にできることはあると思います。そして個人に対してはさっきも言いましたけど、とにかく税金と保険ですね。
あと意外と大事なのが人材育成だと思います。これは出版業界もそうだし映像業界もそうだと思うんですけれど、今まで民間の企業が、例えば映画の配給会社だったりとか出版社とかテレビ局というのがお金を投じてクリエイターを育てていたんです。ところが今、産業構造の転換機で、オールドメディアにはそういった体力はおそらくほとんどないんですよ。なので、今まで出版社の経費とかで勉強できていた人が全然できなくなってしまっている。
また、一生懸命お金掛けてスタークリエイターというのを育てたとしても、育ったところで大資本とかにポンって持っていかれちゃうんですよ。例えば東宝さんとかね。そういった時に、そのインディーズアニメーションの頃から投資していた人は俺たちの努力は何だったの?って思っちゃう。そうするとますますクリエイターにお金を使って育てようという人いなくなっちゃうんですよ。ここに対してやはりもう少し産業構造の方が僕は変わる必要があると思う。例えばクリエイターのエージェント会社があって、そこはお金を出して支援したらちゃんとそこにお金が落ちるような仕組みに持っていかないと民間から人を育てていくっていうことが難しくなってしまうんじゃないかなと思うんですよね。
文科省はアニメ業界などと産学連携での職業特化の大学改革を準備している
赤池:
あと一つ、わたくし今、文教科学委員長なので大学制度を三年後に変えるということを実は文部科学省で来年法律かけるのです。大学というのは大学短大専門学校で、クリエイターは専門学校でやる場合が多くて大学は少ないんですが、この中に職業に特化した、つまりアニメ界、漫画界、ゲーム界も含めて、大学と産学連携で、きちんとその分野に特化した専門職大学、高等教育機関を作る新たな制度を文部科学省としては3年後スタートするために準備していて、何かそういうところで上手く大学と、もしくは業界がコラボできないかなと、今ふと聞いてて思いました。
吉田:
今、その話を赤池さんお持ちのところに、あのアニメ業界の現況っていうのは届いていなかったわけですよね。それで今届いたから、この話ももしかしたら一緒に処理できる、対応できるんじゃないかなと今考えることができたのはこういう動きがあるからなんですよね。
古屋:
例えば具体的に大学名挙げると明治大学、これはメディア学部もあって凄く進んでます。
吉田:
米沢さんのね。コレクションを今集めているという……。
古屋:
そうそれです。それから京都精華大学、ここもすごく進んでいます。こういうところと連携をしていくというプログラムも実は私たちMANGA議連の構想の一つに入っています。
世に出たクリエイターにあまりお金が落ちない仕組みに今なってる
吉田:
宇野さん何かちょっと言いたげでしたけど。
宇野:
学生の育成もそうなんですけど、世に出たクリエイターですね。やはり駆け出しの頃からシネコンで何百館という館数で掛かれるような大作映画の監督をするまで、ずっと一生懸命小さなスタジオだったりとか、小さなプロダクションが育てていくんだけれど、彼らのところにあまりお金が落ちない仕組みに今なってると思うんですよ。そこをどうするか?って話なんですよね。
吉田:
そうですね。どうやらお金はそこそこ儲かっている。このそこそこには儲かっているのと、人を育てるという問題は上手くマッチングが今、放っとくとできないんですよね。
大坪:
今までができてないでしょ。これからも放っておいたら何もできないと思います。具体的な道筋というのが、これをこうすれば良いというような単純な話であればもう直ってるはずなんですよ。それが今まで直っていないのですから、そこには複雑な何かが絡まっている。でもそれってまだ解明されてないんです。だからこのアニメーター、アニメの現場の方々を調査するというのがまず端緒であって、ここから順繰りに調査をしていって、直すところは直すというのが良いのかなと思います。
吉田:
今、アニメが余命宣告中みたいなこと言っていましたけど、本当にこのまま何の無策でいってしまったらダメになってしまう可能性がある。ただもう一回ちゃんとした産業に戻すチャンスは全然まだありそうだぞと。じゃあ、手をこまねいている場合じゃないよという話ですよね。
でも宇野さんが何度も指摘している通り、間に入って中抜きしてる人がいるのだとすると、その人達にご退場頂くことを考えないといけないと思うんですけど、今この話見てると、そういう人達出てこなかったですよね?
大坪:
そうですね。じゃあ誰かが何か大きく儲けているのかという話になると、ちょっと見当たらないというのが。
吉田:
見当たらない。
大坪:
今のところはですね。
ファンクラブとか、ファンがクリエイターを応援していくシステムが必要
宇野:
僕はもっとクラウドファンドみたいなものがあって良いと思うんですよね。
吉田:
まあ実際にそういう動きも起きていますからね。
宇野:
直接、自分たちが支えたいクリエイターにユーザーが直接お金を渡していく。クリエイター自身がクラウドファンドを主催するとあれはあれで結構大変なので、やはりエージェントが1人挟まっているということが大事だと思うんです。ただそのエージェントが中でぶくぶく肥え太ってしまったら意味がないんだけど、それはユーザーと直接繋がっているからちゃんと監視対象になると思うんですよね。だからそこに関しては、アニメ業界自体がいかにお客さんを囲っていくのかという問題だと思います。ファンクラブにして、例えばサンライズならサンライズクラブ、ジブリならジブリクラブっていうのを作って、年会費1万円とか取ってやっていくことを僕はそろそろ考えた方が良いと思う。これは極端な例ですけど。
吉田:
でもエンターテイメントで考えるんだったら、宝塚とか歌舞伎みたいなちゃんと経済システムが、100年くらいは回ってそうなところって、ファンクラブシステムというか、ちゃんとファンの人達がどう行動してどこでどうお金を使うと自分が楽しいものを享受できるかどうかって割とはっきりしてますよね。
宇野:
人間の脳の構造として、自分が応援したい人のためにお金を使うことっていうのは気持ちが良いんですよ。そこにもうちょっとつけ込んだビジネスモデルっていうのをやっぱ作ってく必要があると思う。そのことは決してファンは嫌がらないと僕は思いますけどね。
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