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NHKの科学番組は優秀でも、政治ニュースは…公共放送を骨抜きにする“放送免許制度”の異常性を元NHKジャーナリストらが語った

放送免許を政府から直接付与するのは先進国では異常

神保:
 だから、逆に言うと、そういう人たちを日本はもっと作っていかなきゃいけない。政党にすり寄ることによって影響力を持っている人たちではなく、むしろ、市民社会に対して有益なことをやったために社会から尊敬されている人たちがたくさんいないといけないんだけど……。

 そういうコミッショナーになれば偏ったことをすれば「お前、何やっているんだ」ってことになるでしょう。放送免許は、実は日本も戦後直後、これはアメリカの政策展開も関係あるんだけど、一時は独立行政委員会であるところの電波管理委員会っていう第三者機関を作ったんですよ。

 作ったのに、サンフランシスコ講和条約を結んで、施政権が吉田内閣に戻った。一番最初に通した法案の1つが、実は電波法の改正なんです。つまり、そこで政府から直接免許をあげるように変えちゃったの。1952年の7月、施政権が戻ったのは1952年の4月ですよ。要するに、放送免許というものを政府が直接あげる形に変えてしまったわけ。

モーリー:
 なぜですか?

神保:
 やっぱりGHQの下でメディアに独立性を持たせるようなことをしたんだけど、政府がそんなことをされると困る。それから、これはいろいろ指摘されていることの1つだけども、その段階で既にアメリカは逆コースと言われるように、日本の左傾化を、ソ連のほうに行ってしまうかもしれないということでむしろ嫌がるほうに回っていた。

 本当に独立したメディアが自由にやらせるっていうことをアメリカも嫌がっていたっていうようなことで、アメリカの意向も受けて、吉田政権が免許を政府から直に渡す。つまり、政府が電波や放送に対して影響力を持てるわけですよ。

 それが今も続いているわけです。それを変えないと、放送免許を政府から直接付与する制度っていうのは、先進国では異常です。だって、放送局は政権をチェックしなきゃいけないんですよ。チェックするところから「免許をいただきます」ってやっていたら、話にならないじゃないですか。

モーリー:
 癒着が当然生じますよね。要はGHQから解放されて、放送法の揺り戻し改正があった。それからもう60年たっているわけですね。そうするとなぜニュースにおいてNHKはBBCのように政府とガチンコでやり合えないのか。内部からペレストロイカをやろうという気運が起こってもいいと思うんですけど……。

 ちょっと見たところ、みんなじっと順応してしまって「NHKを変えなきゃ」みたいな声って、僕にはあまり聞こえてこないんですけど。

NHKの“政治部の記者”という存在

永田:
 「こんなNHKでいいのか」っていう声がないわけではないんです。特に番組の中では非常にまともなものをやっている人たちっていて、そういう人たちがNHKの政治ニュースと一緒にしてほしくないっていうことがずっとあります。

 僕は『NHKスペシャル』とか『クローズアップ現代』とか、そういうのが長かったんです。例えば『クローズアップ現代』は、私はディレクターでプロデューサーなんですけれども、記者と一緒に日常的に番組を作ることがあるわけです。その中で、政治部の記者とやる場合に、非常にやっぱり不愉快な、屈辱的な体験っていうのはあるわけですよね。

 例えば、九州の諫早湾の干拓なんていうのは今も問題になっていますけれども、その干拓をやめるかやめないのかっていうときに、生態系を壊しているのかどうかっていうことをただ検証する番組を作ろうとしても、それは自民党が得するのか、民主党が得するのかという政局、つまり政党の議席のことにつながってしまいました。

モーリー:
 当然影響しますよね。

永田:
 選挙に影響があるっていうふうに、政治部記者はすぐそっちに持っていくんですよ。そうすると、それはつまり自民党にたてつくような番組になるんじゃないかっていうので、お目付役の政治部記者が我々のところに入ってくるみたいな話に日常的になるわけです。

神保:
 NHKや、あるいは、民放でもそうなんだけど、なんで政治部の記者がそんなに社内で権力を持っているって思います? つまり、NHKは特にそうなんだけど、政治部の記者っていうのは政治家ともういろいろツーカーなわけですよ。

モーリー:
 一緒に食事に行ったり(笑)?

神保:
 食事なんてもんじゃない。

永田:
 例えば、昔で言えば、政治部記者は自民党の派閥事務所にいる時間のほうが長いわけです。

神保:
 例えばNHKの場合は、そういう人が理事にいれば、免許も予算も人事も、自分の政治部時代に培ったコネクションとか、かわいがってもらった関係とかがあれば、そういうところで政治家に無茶なことを言われないで済むとか、無茶なことを言う人がいたら別の人に言ってちょっとやめてもらうとか、いろいろと政治の影響力を行使できる。

 民放はNHKほど予算を握られているわけじゃないから、でも、やはり政治との関係は免許事業で免許を政府からもらっている以上、大事なんです。そうすると、経営陣の中に政治部で政治家に顔が利く人たちっていうのはとても必要な人たちになっちゃう。

 だから、どうしても政治の影響を受けやすいような免許体系とかになっていることが問題だっていうことは明らかなんだけど(笑)。テレビ局はさすがに自分のことはそう言いにくいですよ。「僕らは免許を政府からもらっているから言えないんで、早く免許制度を変えてくれ」って言うと、本当に電波を止められちゃうかもしれない。

一同:
 (笑)

モーリー:
 持ちつ持たれつ。

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