『龍が如く2』『無限回廊』を手掛けたゲーム音楽家・坂本英城が下積み時代にプレイしたのは“あのゲーム”「仕事がなくて、ずっと◯◯やってました」
SEへのこだわり
坂本:
作曲以外の活動も少しだけ紹介させてください。ニコニコ生放送で「おとや」というのを企画からプロデュースしていました。
破壊神Dump:
全部見ていました。
坂本:
恥ずかしいですね(笑)。僕が中学生のときにファミコンの音楽が好きだったときに、どんな人が作っているのか調べようがなかったんですよ。どうやって作るのかとか、どうしたらその職につけるのかとか。でも今はそれを伝える生放送という手段があるじゃないですか。有名なゲーム作曲家を集めてどうやって音楽を作っているかというのを、お酒を飲みながら赤裸々に語る番組です。
同じようにUstreamでは「ノイズなやつら。」をプロデュースしました。これは逆にニッチなテーマでやっていました。たとえば初回のテーマがゲームの決定音。あれについて2時間語る番組です。
セピア:
2時間どんな感じの会話になるんですか。
坂本:
途中からくだらなくなっちゃうんですけど(笑)、「決定音ってどこまで許せる?」みたいな感じで、おならをしたりとかいろいろなことをしていました。「お尻が決めているんだから、ケツ定音じゃないか」っていう話とか(笑)。とにかくしょうもない番組でした(笑)。
やみん:
実際にその音が使われたことはありますか。
坂本:
ないですけれど、うちの社員のおしっこの音は使ったことがあります。ポットからお茶をそそぐシーンです。社員で自分でレコーダーを持って行って……。
セピア:
あまり聞きたくなかったですね(笑)。
坂本:
でも結構あるあるなんですよ。
セピア:
たしかに効果音とかSEって、全然違うものから出しているっていうのは聞いたことがあります。心臓のバクバクする音は実はティッシュの箱で出しているというのは聞いたことがあります。
坂本:
あとは野菜がめちゃくちゃ使えます。人を斬ることはできないので、キャベツをザクッとやったりとか。トマトをバシュってやったりとか。そういう音を録ると、それっぽくなります。それがあって、会社では数多の野菜が切られ、晩御飯として出てきていました(笑)。
それから、ちゃんと許可を貰って電車の音を録ったりとか。電車の音を録るのはすごく大変なんです。河川敷で待っていても通過しちゃうじゃないですか。川の音や車の音や鳥が鳴く音が入っちゃったりするので、結構ハードワークなんです。
セピア:
やっぱり生の音を収録するのは大事なんですか。
坂本:
素材から作るよりも一番確実で早いです。拳銃とか実際に映像で見えているものと当てている音が違うと絶対に「違う」と言う人が出てくるんですよ。マニアックな方がいて。バイクとか車もそうです。だから許可を取って、実際にその車とかバイクの音を録っちゃうのが一番いいです。
セピア:
世に出ていくということを考えたときに、そういう人もいるっていうことを想定してやりますからね。
坂本:
やっぱり本物を提供するというのが僕たちの仕事なので。とはいえ、宇宙船などはさすがに難しいですが(笑)。
あとはCDのレーベルの設立ですね。ゲームの世界ではゲームが売れないとサントラが出ないという世の中だったんです。でも音楽は音楽でいいものはたくさんあるんですよ。なので音楽だけ出しても良いんじゃないかということでレーベルを作ったり、闘会議でもお世話になったバンド『TEKARU』とか『騒然のカワズ』など、作曲家自身が演奏するアウトプットが会社にあります。
世界一長いゲーム音楽のギネス記録を樹立
坂本:
ここからは僕の自慢話が続くのですが、ギネス記録を持っているんです。『無限回廊 光と影の箱』で、世界一長いゲーム音楽という記録です。なかなか抜かれないと思います。なぜならこんな面倒くさいことをする人はいないと思います(笑)。
セピア:
ニッチな部分を見つけるのもまた才能じゃないですか。
坂本:
これはプロデューサーの人と一緒に考えました。75分あるんです。ちなみに75分って、ゲーム音楽じゃなくて、もっと広い分野で世界一なんじゃないのかなって思って。それで調べたら、なんと1曲で639年という長さの曲がありまして。
ジョン・ケージさんという方で、無音の『4分33秒』という曲を作った方なのですが、どういうことかと言うと、1曲をすごくゆっくり弾いているんです。最初の1音を弾くのに2年かかるんです。これには太刀打ちできないということで、ゲーム音楽というカテゴリにしました。
そして『タイムトラベラーズ』のエンディング曲が羽生結弦選手の滑走曲に選ばれるという事件がありました。急にTwitterのフォロワーに女性が増えたなと思って調べたら、羽生結弦選手のファンの方々なんです。もちろん事前に話はいただいていたのですが、サラ・オレインさんというボーカリストさんが縁を紡いでくださって。しばらくこの曲で滑っていてくれました。
CEDECというゲームを作る人たちの発表会がありまして、そこで毎年アワードがあって活躍した人を表彰してくれるのですが、そこで運良く2014年にサウンド部門で受賞しました。個人で受賞したのはすごく大きいですね。今はゲームタクトという世界最大級のゲーム音楽フェスをプロデュースしています。
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