コミケや二次創作ができなくなる!? 「著作権の非親告罪化」という大問題【山田太郎と考える「表現規制問題」第1回】
文化庁の中の人は、意外とオタク気質だった!?
智恵莉:
赤松先生はそもそも政治家や官僚がちゃんとやってくれると信じていらっしゃったんですか?
赤松:
皆さんのことは知らなかった……というのが正直なところです。山田先生が国会の場で答弁してくれたことをきっかけに議員さんを知っていったという感じ。でも、実際に議論をして肌で感じたことは、最近の文化庁や内閣府の人たちってオタクが多いと思いました(笑)。
山田:
(笑)
赤松:
知っているというか、詳しい! だから、最近は話がスムーズ(笑)。ジャンルを言うのを通り越して、カップリングをいうんですよ! 文化庁の実働部隊の人たちがその世代なんですよね~。
智恵莉:
(笑)
赤松:
「先輩が『ネギま!』見てました!」みたいな。
山田:
それ、どんな年代なんですか(笑)。
赤松:
少し前は「『ラブひな』見てました」みたいな人たちがいたみたいですよ。
智恵莉:
そういった信頼関係も築けたわけですね?
赤松:
昔とは大違いですね~。
山田:
いよいよ文化庁に対するプレッシャー作家が爆誕するわけですね(笑)。
赤松:
恐れ多い! でも、議員さんにしても30代、40代はジャンプやマガジンを読んで育った世代ですから、共通項は持ちやすいかもしれない。
山田:
私は今回、夏の選挙で落選してしまいましたが、29万票を獲得したことで、政権与党界隈でも自由に表現系の話を党内でできるようになったみたいで、「ありがとうございます」なんて言われることもあるくらいです(笑)。マスコミでは公表されていないことですが、私、29万票を獲得した後に、自民党に呼ばれたんですよ。官邸にも(笑)。
赤松:
おお!
山田:
メディア本部、広報本部長の平沢勝栄先生と対峙して……。
赤松:
もう何度もテレビで対決している人じゃないですか!
山田:
3回くらい討論していて、そのたびに話にならなかったのですが、深々と頭を下げられて……。
一同:
(笑)
山田:
平沢先生自身、こういう問題が若者にとって重要な問題だと認識してくださったみたいで「学ぶところがある」と。
赤松:
18歳選挙になりましたし、将来的にはネット選挙というものも視野に入れないといけないでしょうから、オタクとか若者のパワーを無視することはできないんですよ!
山田:
そうなんですよね。そういったものを形にしたというのは大きかった。コメントでは「29万票取ったら、(自民党は)手のひら返しか!?」なんて流れていますけど、それでいいんですよ。そういうものを素直に使っていくというのが政治なんです。
赤松:
そうそう。
山田:
僕はもともと経営者でしたから、“意義”“意味”だけではなかなか動けない。僕自身、意義や意味を感じてこういった活動をしているんだけど、手段の部分に関してはあらゆることをやらないといけない。先輩・後輩関係も使いますし、使えるものは使う。徹底的にやって実績を残せなければ、どんだけ声高に叫んでいても変わらなかったら、それこそ意味がなくなる。知らない間にマンガやアニメが見れなくなるのは嫌だしさ。あらゆる手を使うということが、嫌だとなると政治家も官僚も信用できないということになるのかもしれないですが。でも、今回はいろいろな人たちと作り上げてきた感覚はとてもあると思いますね。
トランプが大統領になっちゃったけどどうなの?
智恵莉:
これまでTPPに関するお話をしてきたのですが、トランプさんが新しい大統領になるということで、そもそもTPPがどうなるか分からなくなってしまいました(苦笑)。そうすると今までの話は何だったんだろう!? という声もあります。
赤松:
オチがついちゃった感は否めませんが、先述したように著作権侵害の非親告罪化の問題はこれまでにも何度もあった話なんですよね。ですから無駄な話だったとは思いませんけど、ズッコケるような感覚はありますよね(笑)。
山田:
いや、かえって良かったと思うんですよ。トランプさんになったことで、いろいろな問題が二国間交渉になるだろうと。著作権の問題に関しては根深いですから、今回議論したことを前提に進めていくと思います。もし、TPP交渉でこのような形を作っていなかったとしたら、時間をかけられずに一気に話が進んじゃった可能性もある。
智恵莉:
なるほど。
山田:
多国間の調整もなく、日本はかなり厳しい状態になっていたように思います。隣国・韓国の米韓FTAの経緯を見てみても、すぐに非親告罪を受け入れている。そういう意味ではTPPがひっくり返ろうと、この話は日米の二国間協議の中で出てくる議論です。経済を中心としたトランプ政権は、この問題をアメリカの権利者からかなり後押しされているだろうから、強く言ってくるところがあるはず。おそらく1~2年後には、「(この議論を)やっていて良かったな」ということになると、私は思います。
赤松:
安心感はありますよね。
山田:
赤松先生が仰られた通り、長年やってきたものに一応ピリオドを打てただろうと。これはこれとして、ここから変わることは多分ないと思います。
赤松:
ないでしょうね。
山田:
法案まで通してますから、これをひっくり返すとなると、また違うもの作らなければならない……それはちょっと考えられない。
赤松:
ひっくり返すための利益もないですもんね。アメリカが日本の二次創作や同人誌を潰してやろうとも思えない。これ以降はもう大丈夫でしょう。
智恵莉:
少し前に韓国の話が出ましたが……。
山田:
その前に! 今回は記録番組ですので、最初の3点がどういう結論になったのかしっかりおさらいしておきましょう。
『蒸気船ウィリー』のミッキーは著作権が切れていた事実が発覚!
山田:
著作期間の問題、非親告罪化の問題、損害賠償に関する規定見直しの3点ですね。まず『著作権の保護期間』に関しては、基本的に70年に延長ということでディズニーを……。
智恵莉:
守ったんですね(笑)。
山田:
ははっ、守ったのかな~と。著作権の期間が長くなるということは、一見著作者を守っているように見えます。ですが、“亡くなっちゃった著作者”が、その権利を世の中で使ってもらおうとするなら、逆に長いと厳しいんですよね。というのも、「誰も骨を拾ってくれない」ということもありえるわけで、著作権期間が長いからと言って、ご本人のためになるかどうかは分からない。それからもう一つ。“ネズミ法”と言われていますが、『蒸気船ウィリー』時代のミッキーマウスの著作権は、すでに50年が切れていた!
智恵莉:
ふむふむ。
山田:
『蒸気船ウィリー』のミッキーちゃんと、今のミッキーちゃんって顔や図柄がちょっと違うでしょ? 彼らは原作者から二次創作をしているんですよ! 商標上は、1990年代にいわゆる再更新をしているので商標は守られているけど、『蒸気船ウィリー』は完全に切れている。どういうことかというと、『蒸気船ウィリー』のミッキーちゃんは、今この段階で使ったとしても著作権は問われないんですよ。だから、Tシャツに『蒸気船ウィリー』のミッキーちゃんの顔を描いても大丈夫。
赤松:
なるほど。ちなみに商標権は??
山田:
商標権は取られているので、売ったりすることはNGですね。商標は販売など利益を目的とする場合、いわゆる登記における権利ですからね。それにしてもまさか『蒸気船ウィリー』の頃のミッキーちゃんが切れてるとは思っていなかったからビックリしましたね。そんな裏話もあるのですが、著作権の保護期間は70年に改まった、と。
山田:
そして、『著作権の非親告罪化の問題』に関しては、まずはこちらをご覧ください。
山田:
対価を得る目的または権利者の利益を害する目的があること、有償著作物について原作のまま譲渡・公衆送信又は複製を行うこと、そして権利者の利益が不当に害されること。簡単に言うと、”海賊版”以外は親告罪のままでいいよということになったわけです。逆に海賊版は非親告罪として取り締まりましょうと。それからもう一つ。この資料は文化庁がまとめた法文法案を説明するオモテ紙、一枚紙の中から借用しているのですが、ちょっととんでもないことが書いてある。気付きます?
文化庁のまさかすぎる痛恨のミス!
山田:
「非親告罪となる侵害行為の例」として、販売中の漫画や小説本の海賊版を販売する行為と書いてあるのですが、「親告罪のままとなる行為の例」と書いてある中に、“漫画等の同人誌をコミケで販売する行為”と書いてある。これって親告罪の話なんです。
一同:
(笑)
山田:
漫画などの同人誌をコミケで販売する行為そのものが、罪であるかどうかは裁判も含めて問われたことが無い。コミケなどがそもそも著作権上の親告罪であれ非親告罪であれ罪に問われるかどうかってのは決まって無いにもかかわらず、フライングをしてこんな風に喜んで書いちゃった(笑)。
赤松:
(笑)
山田:
ちょっとやりすぎでしょ(笑)。文化庁のお兄さんが喜んで僕のところに説明に来てくれたのですが、「ちょっと待って、これはおかしいから直してくれ」と伝えたら、真っ青な顔になっちゃった。「漫画のパロディをブログに投稿する行為」もおかしいでしょ!?
赤松:
まさに山田先生による文化庁への親告罪的告発(笑)。
山田:
上記の文言が著作権の親告罪として認められる……そもそも罪なのかどうかも分からないわけですよ!? 親告罪の行為の例って書いてあるわけだから、著作権の非親告罪だって認めたような感じになっているけど、それっておかしくない? そのことを伝えたら、「(文化庁のお兄さんが)すみません、閣議決定をしてしまったので……」って。
一同:
あぁ~(笑)
智恵莉:
やってしまったぁ……。
山田:
「この紙を変えることはできない」と……先に見せてくれよ! 再閣議決定させたとしても、直すべきだと思いますけどねぇ。
山田:
そして『損害賠償に関する規定見直し』。基本的には、(罰則を含め多めの金額が出るんじゃないかと言われていた)使用料規定により算出した額に関しては、あくまで使用料規定により算出した額を請求することができる“請求の根拠式”が決まった。海賊版を出したからといって、懲罰的な側面を含んだ多額の請求をされる形ではなくなりました。とは言え、海賊版でもなんでも真似て売ればいいというものではありません。当然、権利者の権利を守ることはとても大事ですし、そこに対価が入らなければ、日本の著作物や漫画などは滅んでしまいます。赤松先生だって困りますよね?
赤松:
そりゃ困りますよ。