コミケや二次創作ができなくなる!? 「著作権の非親告罪化」という大問題【山田太郎と考える「表現規制問題」第1回】
エロパロを好まない作家がいることを忘れるべからず
山田:
『ネギま!』がネギを背負って持ってかれちゃったら大変ですよ。『カモネギ(ま)ガール』なんつって(笑)! ちなみに、赤松先生は真似られることに対しては、どう思っているんですか?
赤松:
レベルがあるからなぁ。ただ、自分の作品のコスプレをね、特に美女がしてくださっていたら……嬉しいに決まってるでしょ!
一同:
(笑)
赤松:
ダメなのは、『ワンピース』ならワンピースのコスプレを販売するとか。
智恵莉:
ですよね。
赤松:
真似てもらう分には全然いいんですが……作家によって分かれますからねぇ。私に関しては自分の作品のかなりドぎついエロパロも歓迎します(笑)。
山田:
それは公式発言でいいんですか!?(笑)
赤松:
ずっと昔から、それこそ1990年くらいから自分の作品を扱っているドエロいサークルを訪れて、「ありがとうございます! 作者です!」ってテレカを配ってました。サークルの皆さんは「すいません(苦笑)」って謙遜してしまうんですけど。
一同:
(爆笑)
山田:
びっくりするでしょうね!
赤松:
「先生のキャラクターにこんなひどいことをさせてすいません!」って(笑)。いやいや、私よりあなたたちは上手いから是非やってください! って言って、テレカやグッズをあげていたんですけど、そういうことすると次はやってくれないんですよ。また作者が来たら怖いからって(苦笑)。
山田:
結果として歯止めにもなるという(笑)。
赤松:
僕はウェルカムだったけど、自分の作品のエロパロが好きじゃない作家さんはいます。だから、作者が「いやだな」って思ったときは、親告罪なのでやっぱダメなんですよ。
智恵莉:
そうですね。
赤松:
たしかに訴えた作者は今までいません! いませんが、訴えられる状態にある人はいる。本当に嫌だったらなんとかできるという状況に作者サイドもいるわけですから、現状のバランスはいいと思っています。
山田:
このままでいいと。
赤松:
うん。現状維持が一番いいですね。
山田:
海賊版を出されたら困るけど、パロられる分には許容範囲内。しかもそこに作者の酌量の余地がある。パロられるといっても、原作の売上が下がることはなかなか考えにくいので、バランスはいいですよね。
赤松:
下がることはないですね。先ほどのTPPの注釈の3つって面白いんですよ。
商業的規模とはどこまでを商業的規模と捉えるのか!?
赤松:
商業規模って難しくて、(コミケの)シャッター前サークルや大手壁サークルはものすごい儲けが出るわけですよ(笑)。私も8000部作ったことがありますが、2万部くらいまでは販売できます。1000円とかで販売するともはや商業的規模と言える。
山田:
僕もビックリしたんだけど、大手は並んでいる列がはけないもんだから、前に箱があってそこに500円を投げて、横で取っていく(笑)。
赤松:
机の下に段ボールを置いて、そこにどんどんどんどん。会場に入場したら、壁サークルのあたりまで全部段ボールの壁……城みたいになってますよね(笑)。それを全部売っていくわけですから、実は商業的規模なんですよ。
山田:
なるほど。
赤松:
あと、「原作物の収益に大きな影響を与えない」というのも、実はコミケの壁サークルは作者より上手かったりする。収益に大きな影響は受けないけど、「こいつの方がうまいよね」って言われることあるんです……(苦笑)。ショックで、若干影響があるかもしれないなって。
智恵莉:
心理的影響が?(笑)
赤松:
そうそう! どう見てもコミケの方がうまいよねって。
山田:
収益がそれじゃ下がっちゃう(笑)。
赤松:
やる気が下がって、「クソーッ! もうダメだ!」みたいな(苦笑)。注釈としてはちょっと甘いところもあるけど、まぁこれはこれで良かったと思います、はい。
『ひぐらしのなく頃に』を議員の先生方に説明してみた
山田:
赤松先生含め、コミケから作家が生まれてくるということが通常のルートになりつつあることを、みんなが知らないといけないと思うんです。私は日本の漫画・アニメ・ゲーム展に、MANGA議連の役員や馳文科大臣、古屋圭司会長などを連れていったことがありました。会場の中で『ひぐらしのなく頃に』や東方プロジェクトの前で止めて説明していったんですよ。
赤松:
古屋先生って元国家公安委員長ですよ!? 大丈夫なんですか、見せて?
山田:
いいのいいの! 『ひぐらしのなく頃に』の前でピタッと止めて。
赤松:
うわぁ~やめて~(笑)。
山田:
コミケ発の作品が、ゲーム経由などをしながら大作品となって、この展示場に出てきたんだ、と。同人経由でこんなにも大きくなるんですよって。昔は、ジャンプやマガジンを筆頭に、パブリックな編集者や出版社が認めた基準というのがルートだったかもしれないけど、今は素人・ノンプロもこういった形で多くの読み手に届けることができ、認められれば新しい文化が生まれてくることにつながるんです、と。
赤松:
もはや日本の主力武器ですよね。庵野さんも後輩だった新海誠くん然り、オタク的なものが日本の顔となって、世界にどんどん発信されている。こういうものを潰してはいけませんよ。でも、本当にこの1~2年でずいぶん雰囲気が変わりましたね~!
山田:
一気に変わった気がしますね。自分の29万票もそうだったけど、別に自分がというよりもちょうど時代の分かれ目というか、そのスイッチが入るっていうのかな? 世代も大きく変わってきていることも大きい。僕らの世代って漫画やアニメやゲームをこよなく愛してきたけれど、同人に関しては知っているか知ってないかのギリギリの世代でもある。
赤松:
うんうん。
山田:
今までサブカル扱いだったかもしれないけど、メインカルチャーとは言わないまでもニューカルチャーのような雰囲気がある。新しい時代になっているわけだから、政治がオールドファッションのままではいけないよねって。そういう中で、漫画やアニメをはじめ今のカルチャーに対して、むやみやたらに手を突っ込むような法律を立法させないことは重要です。
赤松:
山田先生がこの時代にガチッとハマった。我々オタクから言わせてもらうと、やっぱり何だかんだ言っても「オタクは票にならない」っていうのが定説だった。
智恵莉:
はい。
今やオタクの力は国内最大のプレッシャー団体なのだ!
赤松:
今回、山田先生が29万票を獲得したというのはオタクにとって……我々は本当はパンチを出そうと思えば出せるわけで、しかもそのパンチには結構な威力があるんだ! って分かったんですよ。山田先生は、それを証明している人なのね。それはすごいことですよ。
山田:
ありがたいです。29万票ってすごく意味があってですね……こんな話になっちゃってすみません(笑)。
智恵莉:
(笑)
山田:
29万票という数字は、JAや自動車総連・医師会よりも多いんですよ。あらゆる政治的利権が絡むプレッシャー団体よりも多いんです。
赤松:
おおぉ! すごい!
山田:
大きなかたまりの力になりえることを、まざまざと見せつけることができた。これはごめんなさい! 僕の実力では全然ありません。自分もびっくりですから。
一同:
(笑)
山田:
自分は正直な話、10万票を超えれば御の字、涙を流して喜ぶくらいだった。ところが、あまりにも票が多すぎて涙も出なかった(笑)
一同:
(笑)
智恵莉:
ところが今や日本最強のプレッシャー団体に躍り出た(笑)。
山田:
そうそうそう。だから官邸や閣議でも話題になる(笑)。各党が分析してるって話もあるくらいです。今まで若い人たちに対して政治がリーチできていない。だけど、10代20代が20年後には経済や政治の主役になっていくわけでしょ?
赤松:
ですね。
山田:
その人たちに対して、今の政治がリーチできなかったとしたら大変なことになる。だけど、リーチの方法がイマイチ分からない政治家が多い。そういう意味でも今回の件は大きかったと思うんですね。
韓国では非親告罪化によって死者が出る事例も
山田:
著作権の非親告罪化という問題ですが、海外の例を見ていきましょう。
智恵莉:
「もし著作権が非親告罪化していたら?」ということで、海外の比較として韓国の事例を紹介していきたいと思います。
山田:
SF物語ではないですけど、著作権が簡単に非親告罪化したことで大変なことになってしまったのがお隣の国・韓国なんですね。
山田:
一昨年、実際に韓国を訪問して状況を調べてきました。韓国は、2006年に営利かつ常習を非親告罪化しました。2007年の米韓FTA(米韓自由貿易協定)、そして2011年の改正でさらに一段と範囲を拡大したことで、漫画、アニメ、ゲームなども非親告罪化の対象となってしまった。米韓FTAを契機としていると言われてるだけに、我々も対岸の火事ではないんですね。では、「韓国では何が起こったか?」というと“著作権トロール(コピーライト・トロール)”という問題が起こりました。
山田:
他社の無断利用を理由に、金銭的保障を得ること自体をもっぱらの活動の目的として、積極的に法的手段を利用する主体と。どういうことか? 第三者、この場合はだいたい弁護士なのですが、この第三者は著作権者ではないわけです。にもかかわらず、刑事告発を警察や検察に対して行い、侵害者(主に未成年と言われている)に示談を持ちかけ謝罪金を請求する行為が行われている、と。
山田:
第三者である弁護士は、謝罪金を著作者に一部戻したり、全部懐に入れちゃったりするみたいなんですけども、非親告罪ではこのようなことが起こりうるということなんですね。著作権とは何の関係もない人間が、外側から勝手に侵害者と言われる人に対して、警察の告訴を取り下げてもらうために示談金を支払わせる。
智恵莉:
恐ろしいですね。
山田:
現実に韓国では以下のような話がありました。高校生からチャットで悪口を言われたことに腹を立てた弁護士が、高校生のブログを調べたところ無断でコピーしてあるものがあった。それをネタに弁護士は先述した手口で高校生に謝罪金を要求した、と。警察への出頭要請を受けた高校生は貧しい家庭だったため、お母さんに謝罪金を支払わせることはできないと飛び降り自殺をした……という痛ましい事件に発展してしまった。これを防ぐには自主規制しかないのですが、それも限界がある。このようにお隣の韓国では、「アチョン法」と言われる児童ポルノ規制法と同時に、著作権トロールの問題によって、漫画、アニメ、ゲームが非常に壊滅的な状態になってしまったわけです。
赤松:
なるほど。
山田:
こんなおっかない状況では作家さんは書いていられないわけですね。韓国の漫画家協会を訪問した際にいろいろ事情を聞いてきましたが、今では自国での活動が怖いから日本に行って描く作家さんもいるくらいだと。また、日本からの発注物、依頼された作品に関しても受けきれないと言っていました。さすがに「やりすぎだ」ということで、野党中心に緩和措置、例えば10万円くらいまでの損害額であれば罪に問わないという枠組みを作るなどの対応策を講じたようですが、それも議会の方では通らなかった。赤松先生は韓国から来た作家さんなどをご存知ですか?